第6話 雪女
その日も僕とケウケはビールで乾杯していた。今夜も酒がうまいっ!
「……それにしても、暑いなあ」
そうぼやくのはケウケだ。彼は長袖長ズボンで見るからに暑そうに見える。そんなに暑いなら、僕のように半袖半ズボンにすれば良いのに。それでも暑いものは暑いが。
「こんな暑い日は涼しい妖怪の話でもするとしようか」
「そいつは良いね。ぜひ聞かせてくれ」
ケウケは「うむ」と頷き、姿勢を正した。今日はどんな話が聞けるかと思って、わくわくしている僕が居る。
「そうさなあ。ここはやはり、雪女かな」
「おー、有名な妖怪だね」
「その名が表すように、雪女は雪の妖怪だ。ユキムスメとか、ユキジョロウなんて呼ばれることもある」
「へえ、そういえば雪女について、僕はあまり詳しくは知らないなあ。この妖怪って怖い妖怪なのかい?」
僕の問に対してケウケはにやりと笑う。お、なんだなんだ? 怖いのか? 怖いんだな? 怖い話だとしてもどんと来い。訊いたのは僕だからね。
「雪女はよく白い装束を着ている。あれは死に装束に似ていて、雪女が出てくる話では人が死ぬことも多い。雪女に殺されてしまうわけだ」
「そいつは怖い」
「思うに、雪女は冬の寒さ、冬の厳しさを擬人化したものなんだ。自然への恐れをそのまま人という形に納めたものなんだな。だから、怖い存在になるのは当然と言える」
「なるほどねえ」
雪女という妖怪にあまり怖いイメージはなかった。それは僕がその妖怪について詳しくなかったからなんだけど、自然への恐れが形になったものだというケウケの話は新鮮なものに思える。
「また、美しい妖怪でもあるな。たいてい、雪女という妖怪は、美人として書かれることが多い」
「そうだね。そういうイメージは、妖怪に詳しくはない僕にもあるよ」
「だろう。雪女と晩酌ができたら素敵だろうな」
「でも、雪女は君を殺そうとするんじゃないか?」
「雪女に殺されるなら本望さ」
たぶんケウケは本気で言っているんだろうな。そこが彼の面白いところであり、心配になるところでもある。彼はいつか好きなもののために、ふっと消えてなくなるんじゃないだろうか?
「ま、雪女が出てくる話で全ての人が殺されるわけではない。雪女の方が人から去っていく話もある」
「そうなんだ?」
「ああ、そういう話は、なんだか寂しい雰囲気がある気がするよ。愛した男を殺してしまわないために、男の元を去る雪女とかな」
ケウケは寂しそうに笑う。なんというか、その笑みには悲しさのようなものが含まれているようにも感じられた。たぶん、僕には共感のできない類いのものだ。直感的にそう思う。
「ま、雪女に限らず妖怪が、我々の元を訪れることはないんだよな」
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