第5話 のっぺらぼう
その日も僕とケウケはビールで乾杯していた。
「今日はどんな妖怪の話をしてくれるんだい?」
そう僕が訊くと、ケウケは「そうだなあ」としばらく考えたあと。
「今日は、のっぺらぼうについて語ってみようか」
そう言った。
「のっぺらぼうなら僕も知ってる。顔の無い妖怪だろう?」
「性格には目、鼻、口の無い妖怪だ」
「ああ、そういう妖怪だった」
のっぺらぼうという妖怪の姿をイメージしながら、でも詳しくは知らないなと思う。
「ケウケ、のっぺらぼうについて教えてくれよ」
「うむ、教えてしんぜよう」
ケウケは缶ビールを一口飲み「ふぅ」と息を吐いてから話を始める。
「のっぺらぼうという妖怪は、その何もない顔で人を驚かす妖怪だ」
「そうだろうね」
「人を驚かせるが、とくにそれ以外の悪さはしない。いたずらの気はあっても、それほど根の悪い妖怪ではないんだろうな」
「驚かせれるほうはたまったものじゃないけどね」
ケウケはうむ、と頷いてから「ところで」と言う。
「君は再度の怪というものを知っているかな?」
「再度の怪? それはなんだい? のっぺらぼうと関係あるのか?」
「あるとも。では、再度の怪についても話すとするか」
また知らないことを聞けそうだと、僕は期待をしながらケウケの話を聞く。
「怪談にもいくつかのパターンってやつが存在するんだが、再度の怪ってのは、そのパターンの一つなんだ」
「話のお約束ってやつだね」
「ああ」
ケウケは「こんな話がある」と前置きしてから一つの怪談を語る。
「ある男が、夜道で顔のない女と出会った。男は驚いて逃げ出す。逃げた先で屋台を見つけた男は、その屋台の主人に、さっき見た顔のない女の話をした。すると」
「すると」
「屋台の主人は言うんだ。それは、こんな顔ではなかったですか」
ケウケ両手で隠した顔を僕に見せた。どうやら、のっぺらぼうを表現しているらしい。
「そうして、男は再び逃げ出した。このあとまた、出会った相手がのっぺらぼうだなんて話しもある」
「三度目だと男はどうなるんだい?」
「私が聞いた話だと男は気絶していたな。そうして朝までぐっすりだ」
「つまり、天丼で夢オチ?」
「そう、天丼で夢オチ」
ケウケは楽しそうに笑い「再度の怪ってのは天丼なんだな」と言った。
「天丼の話をしていたら天丼が食べたくなってきた。君、今から天丼は用意できないか?」
「あいにく、うちには天かすしかないよ。うどんくらいなら用意できるけど」
「じゃあ、うどんを作ってほしい」
「分かった。二人前のうどんを用意しよう」
ケウケが咲けと妖怪話を用意して、僕が肴を用意する。そんな関係がその日も続いていた。
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