第117話
「さて、ユウカよ、準備は良いな?」
「バッチリです!」
「うむ。ではこれより冥槍流の最終試験を行う。これまでの集大成といこう」
ちなみに最後のはルミちゃんの提案だ。師匠の鍛錬だけならばまだ良かったのだが、ルミちゃんが嬉々としてトラップを作り出しており、師匠がそれに許可を出した形となる。おのれ、あの鬼軍曹美少女め。
お陰で槍術の腕は格段に上達したし、感謝もしているのだが、なんか釈然としないのは何故だろう。
「では、儂を越えてみせよ」
「ハイ!」
最終試験は師匠との一騎討ちだ。もちろん、武器は槍のみ、身体強化を含む魔法はなしだ。純粋に槍の戦いとなる。
互いに構える。審判役はルミちゃん。
「では、始め!」
ルミちゃんの合図で同時に地面を蹴る。接近と共に刺突を繰り出す。師匠も同様に刺突を繰り出した。穂先がぶつかり手に衝撃が伝わる。鍔迫り合いとなり、一時的に膠着状態、瞬時に距離を取る。高速で槍を連続で放つが、師匠も同じ技を使う。あえて同じ技を使用しているのだろう。このままでは押し切られる。ならば
「フッ!ハッ!ヤッ!」
「む、この技を捌き切るか!面白い!」
槍を繰り出す速度にわざと緩急をつけ、師匠の攻撃のリズムを崩す。その上で私のリズムに無理矢理乗せる。相手の土台で戦わない。自分の土台で戦う。これも師匠からの教えだ。どうやら私は相手の攻撃をいなし、捌くのが得意だ。師匠相手に手加減出来るほど私は強くない。ならば使える物は全て使う。幸いにも冥槍流は私によく合った武術だ。回避からの攻撃手段が豊富なのである。
穂先でずらし、石突で逸らし、柄で受け流しながら、ただ一撃一撃に力を込める。刺突こそが基本であり、奥義。何度も教えられた事だ。だからこそ、私は刺突で師匠を超える。超えてみせる!
全身をバネのように使いながらただ前に進む。後ろに下がった所で勝てる見込みは無い。師匠の槍が私を貫く恐怖もある。使用している槍は鍛錬用の木製だが、師匠ならば容易だろう。だけど蛮勇と言われようが、傷だらけになる覚悟なくして師匠を超える事は出来ないのだ。
師匠の刺突を紙一重で躱しながら、全身を使い、槍を押し込む。師匠が柄で防ぎ、再び鍔迫り合いとなる。
「たった1年でここまで達したか、ユウカよ!」
「師匠を超える。その目標でここまで来ましたから!」
「素晴らしい!やはり儂の目に狂いは無かった!」
「まだ終わっていません!必ず勝ちます!」
繰り出される連続の突きを捌きながら負けずとこちらも刺突を繰り出す。師匠の穂先が僅かに頬に当たり、軽い痛みが生まれるが、無視して槍を突き出す。師匠の服の裾を破り、左腕に線のような切り傷が生まれるが、ダメージになっていない。
石突で穂先を弾き、下から上に半円を描くように、振り上げる。師匠が受け流した際に僅かな隙を作り出すが、受け流される。半歩師匠から見て右にズレ、師匠の槍の柄にこちらの槍を滑らせ、追撃を行う。
三度の鍔迫り合い。槍が間近に迫る。致命傷となる攻撃だけは避けて、それ以外の傷は無視する。相手の弱点に攻撃を叩き込む。ただ前に進め!
パキィン!私の攻撃を受けた師匠の槍が柄の半分ほどで折れた。硬い木で作られた槍だが、戦いの中で限界を迎えてしまったようだ。体勢を立て直される前に師匠の首筋に穂先を当てた。これはどうなるんだろうか。槍が折れたから再戦だろうか。
「うむ。見事じゃな」
「師匠、槍が折れたのなら再戦ですか?」
「その必要は無いのう。これは儂の負けじゃ。ユウカよ、良く頑張ったの。これでユウカは冥槍流免許皆伝じゃ。おめでとう」
「師匠…、本当にありがとうございます!」
師匠に勝てた訳では無いが、それでも認めて貰えた嬉しさが込み上げる。思わず師匠に抱き着いてしまった。そんな私を優しく抱きしめ返す師匠。少しの間、抱き合った。
◆◇◆
「おめでとうございます、ユウカさん」
「こっちこそ鍛錬に付き合ってくれてありがとう。ルミちゃんのお陰で強くなれたよ」
「そう言って貰えるならトラップを作った甲斐がありますわね」
「うん、何度か川が見えたけどね。両親にまた来たのか!って怒られたし」
「結果良ければヨシ!ですわ」
「そういう事にしておく。グラーゼルさんもありがとうございました」
現場猫みたいな事を言っているがルミちゃんのお陰と言うのは嘘ではない。実際、身体の正しい動かし方が身を持って知れた。ポジティブに考えよう。次にグラーゼルさんにお礼を言う。グラーゼルさんは練習相手としてよく付き合ってくれた。
「主の頑張りに応えたまでです。こちらこそ練習相手にしかなれず申し訳ない」
「有り難かったですよ。お陰で対人戦にちょっと自信が付きました」
「主のお役に立てて光栄です」
グラーゼルさんが恭しく頭を下げる。長身で筋骨隆々の強面だが、執事のようである。
「うむ、ユウカよ。分かっておるだろうが、免許皆伝はゴールではなく、新たなスタートじゃ。これからも鍛錬に励むようにの」
「もちろんです、師匠。武の高みを目指して精進します」
「共に目指そうかの、高みへと」
「ハイ!ありがとうございました」
皆にお礼を言い終わり、これからの事を考える。魔神教の企みについては、アルバート様たちと相談しよう。だが、まずは今週の土日の事だ。スカーレット様の悩みが少しでも軽くなれば良いが、なるようにしかならないだろう。やれるだけの事をやるだけだ。
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