第57話
「(犬化が進んでますわね。犬種は何かしら)」
何の事かと言うと飼い主に構ってもらえずしょんぼりした飼い犬のようなユウカさんの事である。全身から寂しいという感情が伝わってくる。数分前まで大好きな飼い主が帰宅した時の飼い犬だったというのに。
「(何と言うか、あざといですわね、
狙ってやっている訳では無いのは分かるので、何も言えないのが余計に腹立つ。おのれ、このワン娘め…。
何故こんな事になっているのか、それは数分前に遡る。
ユウカさんがキョロキョロしています。誰を探しているかなんて無粋な事は言いませんわ。
おっと。ユウカさんの瞳がキラキラと輝きだしましたわね。気の所為か透明な尻尾をブンブンと振っているように見えますわ。あるはずのない犬耳と尻尾を幻視しつつ内心溜息をつく。ユウカさんがなんだか精神的に幼くなっているのは気の所為ではなく実際幼くなっている。
TS、性別変換と転生が原因である。魂の器、つまり肉体の変化に伴って生じる精神への影響。いくつか症状はあるがユウカさんの場合、一時的な精神年齢の逆行。精神の若返りである。
「アルバート様〜!ただいま戻りました〜!」
満面の笑みでアルバート様に手を振るユウカさん。今のユウカさんの精神年齢おいくつなんでしょうか。転生した事で肉体は若返っており、人間の年齢で18歳〜20歳ぐらいの身体になっています。それに比べて、精神年齢は更に若返ったような?10代前半ぐらい?もっと幼い?微妙なラインですわね。
アルバート様がこちらに気が付き軽く手を挙げたかと思いきや何故か顔を赤くして気まずそうに顔を背けましたわね。ユウカさんは小首を傾げてアルバート様に駆け寄りますが
「…!す、すまないユウカ!も、もう少し待ってくれ!後で二人で話そう!」
なんとアルバート様が走り去ってしまいました。
取り残されたユウカさんはというと
「え、え…何で…?私何かした…?」
落ち込んでいます。めちゃくちゃ落ち込んでいます。さっきまでブンブン振ってた尻尾は元気なさげにダランとたれているのが分かります。目ではなく心で見ましたから。
そして冒頭に戻ります。現在ユウカさんが周囲に振り撒くのは寂しいという感情が詰まった負のオーラである。仕方ない。背中を押してやりましょう。
「さっさとアルバート様に会いに行きますわよ」
「でも…私…」
「あーもう!うるさいですわね!ほらキビキビ歩く!アルバート様の所に向かいますよ!」
「うぅ…分かりましたよ…」
渋るユウカさんの手を引っ張り連れて行く。全く世話が焼ける娘ですわね。ここでウジウジしていても何も変わらないでしょうに。
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