第56話
「…グダグダ言いながらも覚悟を決めれば行動に迷いがありませんわね。まさか黒龍とここまで戦えるとは…」
先程まで幼子の様に泣きじゃくっていたユウカさんは、打って変わって凛とした態度で黒龍と対峙していた。手には魔獣の素材で作られた槍が握られており、実力は拮抗か、僅かながら上回っている。龍種の最上位である黒龍相手にだ。
流石に罰として失敗するたびに指数関数的に数を増やすのは(また泣かれそうだから)止めた。とりあえず、黒龍の討伐を目標としたが
「ここまで実力を付けていたとは気付きませんでしたわ」
正直言えば苦戦するだろうと思っていた。死にはしないだろうが、少し厳しい戦いになるだろうと。だが、蓋を開けてしまえば予想以上に善戦している。
「驚かされますね。成長速度が速い。いや、速すぎる」
おそらくユウカさんの性格によるものだ。
教えれば全て吸収し、そこから自分がやりやすいように工夫改善する。必要に応じて今までのやり方を全て分解し、一から組み立て直す。
言うだけなら簡単だが、実際は難しい。だが、ユウカさんはそれを平然と行う。
「天性の才能なのか、努力の賜物なのか。あるいは両方か」
適応力や順応力がかなり高い。思えば前職から屋敷の管理に変わった際に、さほど戸惑っている様子は無かった。人間界には存在しない動植物や人間界とは違うルールには驚いていたようだが、それ以外は早々に屋敷の皆と打ち解け、仕事に慣れるのも早かった。むしろ楽しんでいたように思う。
「となると、あの伯父と上司は足枷でしか無かったと、そう言う事ですわね」
ユウカさんの記憶を読み取り、出した結論があの二人は百害あって一利なし。邪魔でしか無かった。消して良かったと思う。あのまま居られてもユウカさんの成長の妨げにしかならない。
戦場に目を向ける。どうやらユウカさんと黒龍の戦いは佳境に入っていた。ユウカさんの槍が黒龍の鱗の隙間に突き刺さり、血が噴き出す。怒りから振り回された前脚を足場に跳躍。回し蹴りが黒龍の顔面を強打し、体勢が崩れた。
「終わりですね」
予想通り、次の瞬間ユウカさんの雷撃が炸裂し、黒龍が煙を上げながら倒れた。既に息絶えたようでピクリとも動かない。ユウカさんは槍で突いて死んだのを確認していた。
「ウラーー!!ヤーハー!!」
謎の勝鬨を上げるユウカさんを横目に
「こんなに早く終わるならペナルティ付きで良かったですわね」
戦いに掛かった時間は約五分。制限時間内に終わった。ユウカさんの様子を見るにまだまだ余裕がありそうだ。なら次は次元龍にしよう。少し休ませた後に戦わせるか。どこまで戦えるのか楽しみである。うふふ。
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