第55話

「ではユウカさん。訓練の集大成として黒龍を討伐しますわよ」


「へあ!?」


 虚ろの庭ホロウ・ガーデンの訓練が一年経過したこの日、ルミエールさんから中々イカれた命令が出された。


 今黒龍って言った?言ったよね?黒龍って言うと龍種の中でも最強の一角って聞いたんですけど?やっぱり鬼軍曹でしょこの人。


 ちなみに龍種は魔獣の中でも最上位に位置する存在であり、小国ならば一日で破壊出来ると言われている。文字通り格が違う。その最強となると…ガクガクブルブル…


「黒龍…私に勝てますかね?」


「勝てなければ死ぬだけですわね」


「チクショウ!他人事だと思いやがって!あっけらかんと言わないでくれる!?」


「最初は『次元龍』か『呪毒龍』、もしくは『古龍』のいずれかにしようかと思いましたが、それは次の機会にしましたわ。うふふ、戦う日が待ち遠しいですわね」


「妥協なんだ。これで妥協なんだ。その三匹名前からして絶対ヤバい奴だろ!」


「まぁ、ユウカさんが死ねばわたくしも死ぬだけですから。一蓮托生ですわね」


「重いよ!そんな軽さで流していい重さじゃないよ!」


「大丈夫ですわよ。いざとなればわたくしがめっ!しますわ。それにリルも居ますから、手足の一本や二本無くなった所で問題ありませんわ。今のユウカさんなら首が無くなっても簡単に死にません。切断面から生えますから」


「ツッコミ所が満載なんだよ!アンタの場合滅っ!の間違いだろ。そんなトカゲの尻尾みたいに手足がブチブチ千切れてたまるか!最後にとんでもない事実を突きつけられて既にお腹一杯なんだよ!」


 そんな会話をしている俺達。随分打ち解けたものだ。


◆◇◆

「では、行きますわよ。黒龍討伐ですわ!」


「イエッサー!」


 半ばやけくそ気味に叫ぶ。もう、どうにでもなれ!


「う〜ん。ただ戦うだけではつまらないですわね。そうだ!制限時間を設けましょう!緊張感が生まれますし、ダラダラ戦うのは見てて退屈ですから。名案ですわ!」


「えぇ、そんなぁ…。ちなみにミスるとどうなるんです…?」


「出来るまで黒龍討伐継続ですわ!罰として失敗する毎に数を増やしますわね。一度失敗すれば二匹に、二度失敗すれば四匹ですわ!指数関数的に増加致しますわよ!」


「うわぁぁ~ん!アルバート様〜!助けて〜!アルバート様〜〜!!」


 元アラサー社畜男の号泣!もはや、元の面影など皆無である。性別だけでは無く精神年齢まで変わると言うのか。成人しているはずが、もはや幼子であり、駄々っ子である!


「ほら、ユウカさん。泣いている暇はありませんわ。シャキッとしなさいな。アルバート様を守るのでしょう?そんな事では何も成せないままですわよ」


「うぅ…グスグス、ヒッグ…わかって、ますよ。…グス…やりますよ…守る。私がアルバート様を守るんだから!」


「その意気ですわ!ちなみに黒龍を討伐した後は最上位魔獣の連続百匹狩りが待っていますから。皆大好き『ボスラッシュ』ですわ!」


「わああああ〜〜ん!ルミエールさんの鬼!悪魔!オタンコナス!」


「か、完全に幼児退行してしまいましたわ…。追い詰め過ぎたのかしら…?」


 完全に心が折れた私は立ち直るまで数分は掛かった。ルミエールさんが珍しくアワアワしていた。リルちゃんに頭を撫でて慰められた。恥ずかしい…穴があったら入りたい…。




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