第41話
「相葉さんが、あいつらを…?」
柳さんは信じられないようだ。それはそうだろうな。いきなり殺したと言って信じられる事ではないだろう。
「今から話すよ。信じられないかもしれないけど」
それから柳さんに復讐の事を伝えた。全てを信じる事は難しいだろう。実際、柳さんは混乱している。俺自身があの復讐で混乱していた訳で、正確に伝えられるか怪しい。それでも、伝えると決めたから。
話し終えると柳さんは
「…相葉さんは、どうして…」
罵倒か軽蔑か。どうしての後の言葉を待つ。
「どうして…!どうして私に何も言ってくれないんですか!?そんなに、そんなに私は頼りないですか!?私だって相葉さんの力になりたかったのに…」
続きの言葉は予想外の言葉だった。
「柳さんは、俺が怖くないの?人殺しだよ?」
「怖くない、と言えば嘘になります…。でも、それ以上に何も言ってくれなかった事がショックなんです!相葉さんが私をどう思っているかは分かりませんが、私にとって相葉さんは、とても、とても大事な人です!復讐であいつらを殺すならもっと協力したのに…共犯者でもいいから、少しでも相葉さんと、一緒に…」
「…ごめん。そんなに大事に思ってくれているとは知らなかったんだ。言い訳になるかもしれないけど、俺自身の復讐だから柳さんを巻き込もうとは考えていなかった」
「巻き込んでくださいよ!復讐でも何でも相葉さんに巻き込まれるなら嬉しいですから…。だから、何処か遠くへ行かないで…」
「…柳さん」
「…ごめんなさい。おかしな事を言っているのは分かっているんです。でも、何もしない、分からないのは嫌だから…」
「…ごめん。じゃあ、今度こんな機会があれば、頼っていいかな?変な事に巻き込んじゃうかもしれないけど」
「どんと来いです!一緒にやっちゃいましょう!」
「頼もしいな」
気がつけば、笑い合っていた。柳さんを助けたのは間違いじゃなかった。そんな事を思った。
◆◇◆
私、柳美優には好きな人がいる。
元同僚で、鬱気味になっていた私をいつも助けてくれた人だ。
掃き溜めに鶴というとあれだが、セクハラ、パワハラ何でもありの劣悪な労働環境の中で、唯一私の支えになってくれた。
元々気になっている人だった。一目惚れだと気付いたのは、後になってからだった。
黒の短髪、タレ目がちの瞳、柔らかい雰囲気の整った容姿。細身に見えて、意外とたくましい身体。彼自身が気付いているかどうか分からないけど、お世辞抜きに凄くカッコいいんだ。実際、二人で撮った写真を気の置けない友人に見せると手放しに褒めていた。普段の穏やかな所も、いざって時の頼りになる所も、私を守ってくれる時の真剣な表情も、全て好きだ。
そんな私の好きな人は、私の知らない所で色々あったらしい。突然TSしたり、メイドになったり、次期魔王の婚約者になったり。驚いたけど、それを語る彼はとても楽しそうだった。彼の笑顔は久しぶりだ。あの会社にいた頃は、中々見ることが出来なかった。二人きりの時に漸く見ることが出来たぐらいでそれ以外だと笑う事は無かったから。
復讐の事は驚いた。穏やかな彼がそこまでやるなんて思わなかったから驚いた。でもそれ以上に悲しかった。何も言ってくれなかった事が。私が頼りないのかと理不尽に彼を責めてしまった。彼が私を大切にしてくれていると良く分かっていたはずなのに。
それに加えて謝らせてしまった。こっちのわがままでしかないのに。彼は何も悪くないのに。でも彼は言ってくれた。次に似たような事があれば頼りにしてもいいかと。心の中で嬉しさの余り、踊りたい気持ちを必死に抑えて、彼の力になるって約束した。次は絶対彼の為になると誓う。
「(失恋、なんだなぁ…)」
胸が痛い。張り裂けそうだ。私の好きな人には婚約者が出来てしまった。私が彼の隣に居たかった。彼と共に歩みたかった。でも私は弱虫だから、何も伝えてない。人の事を言える立場ではないのだ。ちゃんと伝えておけば良かった。今はもう、後の祭りである。
「(相葉さん。これからは友人として貴方の力になります。だからお幸せに)」
今まで貰ったものを少しでも返せるように。貴方の支えになれるように頑張ります。だって
貴方の笑顔が、幸せが私にとってなによりだから。
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