第42話

「それじゃあ、柳さん。そろそろ帰るね」


「世話になったな」


柳さんに別れを告げて、屋敷に戻ろうとすると


「あの、お願いがあるんです」


「お願い?何かな」


「私の事、名前で呼んでもらえませんか?」


「柳さんの名前?」


「はい。せっかく再会して、今までよりも仲良くなったのですから、名字ではなく、名前で呼び合いたいなって。…ダメですか?」


柳さんは上目遣いでこちらを見る。女性の下の名前を呼ぶのは慣れていない。単純に恥ずかしいのだ。


え?リルちゃんとミル先輩はどうなのかって?いや、まぁ、実年齢が幾つなのか知らないけど、多分というか絶対俺なんかより長く生きてそうだけど、なんか年下感があるんだ、あの二人。それに比べて柳さんは(見た目は)大人な女性な為、恥ずかしさが上回る。でも、拒否するのは違うと思う。勇気を出してくれたんだから、俺もそれに応えるべきだ。


「あ、ああ、うん。いいよ?じゃあ呼ぶよ?」


「…!本当ですか!?では、お願いします!」


「み、美優さん…」


「さん付けは結構です!呼び捨てでお願いします!」


「…み、美優」


「…!はい!裕也さん!いや、ユウカさん!」


柳さん、いや、美優はパァッと明るい笑顔を見せる。まるで大輪の花のようだ。喜んでくれて俺も嬉しい。ただ、やっぱり気恥ずかしい…。これから慣れて行くしかないかな。


「うん。それじゃあ、美優、またね」


「はい!またお会いしましょう!次もお二人のラブコメを楽しみに待ってます!お二人のイチャイチャラブラブ本を作りますね!期待して待っていてください!」


「あ、うん。じゃあ待ってる。それじゃあ、また連絡するよ」


「はい。ユウカさん達ならいつでもOKですよ。大歓迎ですから」


「うん。落ち着いたらまた来るよ」


そうして俺達は帰路についた。


◆◇◆

「…ユウカは何と言うか、モテるんだな?」


「ふぇ?」


アルバート様からの言葉を噛み砕くのに時間がかかった。もてる?何を?何が?


「ヤナギと良い雰囲気だったではないか」


「?良い雰囲気ですか?美優に圧倒されていただけの様な気がしますが…。それに友人として普通の距離感だと思うんですけど」


首を傾げる俺を呆れたようにジト目で見るアルバート様。えぇ、何でだよ。友達なら普通の距離感だろ。


アルバート様はため息をつきながら、首をゆっくりと横に振る。分かってねぇなコイツといった感じに。


「あれが、ユウカにとって普通なのか。…どう見てもヤナギはお前を意識していただろ。なんなら、恋している表情だったじゃないか」


「え?え?嘘、本当に?そうなんですか?」


美優が俺を?アルバート様の言う通りだとしたら、鈍感にも程がある。ハーレム系のラノベ主人公か俺は。



「ヤレヤレ。どうやら、ボクの婚約者は恋愛に関しては鈍感のようだ。さて、どう親睦を深めたものかな」

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