第40話
衝撃的な事実に慄いていると
「ユウカさん、いや、相葉さん」
柳さんが今までの暴走気味の態度とは打って変わって真剣な表情で見つめてくる。
「ありがとうございました。そして、ごめんなさい」
「え?」
「いきなりで驚きましたよね。でも伝えたかったんです。あの会社で私を助けてくれたこと。私を支えてくれたこと。それなのに、何も返せていないこと。ずっと心残りでした」
柳さんは俯いてしまう。
「相葉さんがこの世界にもういないと聞いて目の前が真っ暗になりました。感情がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなって。落ち着いていくと次第に怒りが湧いてきました。会社への怒り、上司や社長への怒り、相葉さんを傷つけて死なせてしまった社会への怒り、そしてなにより自分自身への怒りが溢れていました」
「アルバートさんに復讐の為に会社の事実を拡散してほしいと頼まれた時は正直、嬉しかった。これであいつらに復讐が出来る。やっと相葉さんの敵討ちが出来る。相葉さんに顔向けできるって。今まで貰ったものを少しでも返せるならと喜んで全部ぶち撒けてやりました」
「結果としてネットではクレームの嵐、会社の評判は地の底。SNSでは今でも炎上が続いています。取引先から次々に打ち切られ、このまま続けばやがて会社は倒産すると言われています。ざまあみろって思いました。社長が失踪したと聞いて、本音を言えばもっと苦しませてやりたかった!今までの苦痛を全部叩きつけてやりたかった!何でこんな奴らの為に相葉さんが死ななければいけないんだってずっと思っていました」
「だから、だから相葉さんが、生きていてくれて、本当に、良かった…」
柳さんは漸く顔を上げた。その目には涙が浮かんでいた。頬を濡らす雫がカーペットに落ちて染みになっていく。
「柳さん…」
「ごめんなさい…また、会えるなんて思わなくて」
「柳さんが無事で良かったよ」
「相葉さんのお陰です。相葉さんがいなかったらと考えるとゾッとします。最悪自殺していたかもしれません。こうして私が生きているのは相葉さんがいてくれたからです。本当にありがとうございました…」
泣きながらも笑顔を見せる柳さん。そんな柳さんに、事実を伝えるのは心苦しいが、自分なりのケジメだ。
「柳さん、君に伝えなきゃいけないことがもう一つあるんだ」
「はい。何でしょう」
「社長だった進藤清治と葛谷大輔を殺したのは俺なんだ」
「え…」
驚く柳さんに、もう一度告げる。
「あの二人を殺したのは、俺なんだ」
今日ここに来たのは、柳さんに伝えることが二つあったからだ。一つは、俺が生きているということ。そしてもう一つは、あいつらを殺したということである。
たとえ、これが柳さんとの最後の会話になろうとも、きちんと伝えようと思った。だからここにいる。
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