第39話
「素晴らしい!素晴らしいですよアルバートさん、ユウカさん!めちゃくちゃ捗ります!」
「あ、うん」
柳さんに根掘り葉掘り聞かれて精神的に疲れた。アルバート様に至ってはもはや魂が抜けたような表情である。
「あ、ユウカ」
「アルバート様?」
そんな状態だったアルバート様が何かに気付いたように声を上げて近づいて来る。ふむ、これは
「すまない。来る」
「あ、分かりました」
やはり呪いが来たようだ。
「え?え?何がですか?」
状況が読み込めていない柳さんが首を傾げる。柳さんの前で抱きしめるのは恥ずかしいが、そうも言ってられない。
「では、失礼します」
「うん」
ギュッと正面から抱きしめる。アルバート様は脱力して身体を預けてくる。
「ファァ!?いきなりの熱い抱擁!あ、待って!今写真を撮りますから!」
柳さんは更に興奮し始める。どこから取り出したのか、高級そうな一眼レフを構える。
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!
怒濤の連写である。柳さんは目が血走り、ハァ、ハァ、ハァと息が荒い。所業が変態のそれである。
「アルバートさん!こっち向いてください!ユウカさんは抱きしめたままでお願いします!表紙にしますから!」
「…?こうか?」
アルバート様が腕の中でモゾモゾと動き、正面からのハグからバックハグに移行する。というか、アルバート様も柳さんのお願いを律儀に叶えているな。真面目というか、お願いに弱いというか。
「アアアア!!素晴らしい!カメラ目線でお願いします!ギャー!眼福!尊い!」
そのまま撮影会に移行した。
◆◇◆
「ぐふ、ぐふふ、ぐふふふ…!」
撮影会を終え、撮った写真を見ながら怪しげな笑みを浮かべる柳さん。変質者という言葉をギリギリ飲み込む。
「ああ!素晴らしい!完成したらお渡ししますね!」
「あ、ハイ」
キラキラの笑顔を見せる柳さん。疲れて返事が適当な俺。アルバート様は腕の中でうつらうつらしている。
「んぅ〜。ゆうか…」
「どうしましたか?」
「ねむい…」
「寝てていいですよ。終わったら起こしますから」
「うん。おやすみ…スゥ…スゥ…」
すぐに眠りにつくアルバート様。相変わらず寝るのが早い。何と言うか無防備なんだよな。普段よりもあどけない表情をしている。リラックス出来ているみたいだし、しかめっ面よりはいいかな。
「これが、これがバブみ…!言葉ではなく、心で理解しました…!これが母性なのだと…!」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「男の子に甘えられるのって何か良いですよね、ね?ね?」
凄く念押ししてくる。どうだろうな。女の子に甘えられるのは男時代の夢でもあった。それも年上の子に。今はというと、男の子に甘えられるというか、少なくともアルバート様に甘えられるのは嫌ではない。柳さんの言う通りかも知れない。
『大分女性に近づいているね』
『あらあら、一人の女性となるのも時間の問題かもしれませんわね』
ユウカとルミエールさんの声が聞こえる。え?嘘、マジで?
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