第38話

「TS美少女キター!!」


「えぇ…?」


柳さんの元に向かった俺達を待っていたのはキラキラと満面の笑みを浮かべた彼女である。対照的にアルバート様が困惑しているのは初めて見た。中々レア度が高いな。


どうしてこうなったのかは数分前に遡る。


アルバート様の転移魔法で柳さんの家の近くに飛んだ俺達は意を決して柳さん宅のチャイムを鳴らす。


ピンポーン

待つこと1秒、2秒。家の中から誰かが近づいてくる音が聞こえる。

「はーい。どちら様でしょうか?」


柳さんの声だ。久しぶりに聞いたな。


「アルバートだ。貴方に会わせたい人物がいる」


「あれ、アルバートさん?お待ち下さい」


柳さんが扉を開けてくれた。今更ながら緊張している。


黒髪ミディアムヘア。ツリ目がちの瞳。女性としては長身でスレンダーな体型。今日は休日らしく全身スウェットというラフな格好だ。社内でも美人と噂されるほどの美貌は今も変わらない。いや、会社に勤めていた時に比べて顔色と肌艶が良くなったな。今勤めている会社が彼女に合っているんだろう。元気そうで良かった。


「お久しぶりですアルバートさん」


「久しぶりだな。今いいか?」


「はい。会わせたい方というのは」


そこで柳さんは俺を見る。今俺はいつもの露出過多のメイド姿ではなく、Tシャツにジーンズ、スニーカーである。息を整え、柳さんに話しかける。


「お久しぶりです。柳さん。相葉裕也です」


「え?え?相葉さん?え、でも相葉さんは…あ、もしかして相葉さんの妹さんでしょうか?」


まぁ、そうなるわな。性別が異なり、彼女が知っている俺より明らかに若く見えるのだから。


「いや、俺ですよ。相葉裕也本人です」


「え、でも貴方女性じゃ…それに相葉さんは死んだって…」


「信じられないのは無理ありません。これから説明します。俺がこうなった理由を」


そこからかいつまんで柳さんに説明した。アルバート様との出会いとそれからの日々を。魔法や魔族の事はどう説明しようかと頭を悩ませているとアルバート様が


「魔族と魔法は実在する。これが証拠だ」


柳さんの目の前で簡単な魔法を行使した。アルバート様を中心に赤、青、黃、緑、紫の様々な光の蝶が舞い踊る。柳さんは目を丸くしていた。


「良かったんですか?柳さんに教えて」


「ヤナギミユなら信用出来ると判断した。ダメなら記憶を消すさ」


地味に怖い事を言ってる。まぁ、致し方ない。


説明を終えると柳さんはフルフルと震え始める。俯いているため表情は分からない。


「騙してすまない。だが、ユウカにとって必要な事なんだ」


「黙っててごめん」

アルバート様が頭を下げる。俺も頭を下げた。柳さんの言葉を待つ。


「…つまり、ユウカさんは、相葉さん…それって」


柳さんが震え声で呟く。そうして頭を上げると


「TS美少女キター!!」


「えぇ…?」


そして冒頭へ戻る。



そこからは怒濤の勢いだった。テンション爆上がりの柳さんに圧倒される俺達。


「ヤッバイです!ユウカさんマジ美少女!相葉さんイケメンだと思っていましたが、ここまでとは!読めなかった!この美優の目を持ってしても!不覚!え、というか、婚約者?婚約者って言いましたよね!ギャー!銀髪美少年魔王とTS美少女メイドのカプですって?どストライク!スリーアウト!尊い!尊いですよユウカさん!薄い本が厚くなるぜ!夏コミで出していいですか?いいですよね!ありがとうございます!産まれてきてくれたことにマジ感謝!こうしちゃいられない!すぐに制作に取り掛からねば!でもお二人のラブコメを聞きたい!どうすれば…。ハッ!そうだ!二人の話を聞きながら作業すればいいんだ!という訳で私の部屋に来てください!お二人の話をバッチリ聴かせてもらいますからね!」


実を言うと柳さんはオタクである。仲良くなった際にカミングアウトされた。コミケにも毎回出ているらしく、こういう話が大好物である。特技はラブコメであり、NL、BL、GL、TSモノ何でもイケるらしい。特技とは。


「…なぁ、ユウカ。ヤナギミユは何か毒物でも摂取したのか?瞳孔が開ききって明らかに言動がおかしいのだが」


「残念ながら柳さんにとって絶好調ですよ」


「えぇ…」



それから数十分はこんな感じで、柳さんの独壇場だった事は言うまでもない。

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