第35話

さて、約束通りユウヤさんの伯父を殺しましょうか。聞いている限り、生きている価値もなさそうです。せっかくの機会ですし、大きめの魔法を使うとしましょう。勿論ユウヤさん達に掛かる負担を最小限にして。今のユウヤさん達なら気絶程度で済むんじゃないかしら。こっちの男は既に死に体ですが、永遠に苦しませるとしましょう。そっちの方が面白そうですから。


光栄に思いなさい。人間で喰らうのは貴方が初めてなのだから。


「明けぬ夜に踊り続けなさいな。『地獄の扉ヘルズゲート』」


ユウヤさんの伯父を闇が捉える。彼の足元にくらき扉が開かれる。何やら藻掻いているようだが、人間が抗えるような物ではない。そのまま暗闇に飲み込まれていった。


◆◇◆

何だここは。一面暗闇だ。どうしてこんな所に。確か裕也を名乗る女から雷を打たれ続けて、暗闇に飲み込まれたのは覚えている。俺は死んだのか?


「Grrrrr…」


「Gurrr…」


「Guuu…」


「ヒッ!な、何だ!?コイツ等は!?」


暗闇に無数の獣が見えた。狼のように見えるが、サイズがおかしい。人間の3倍はある。


「た、助けて!誰か助けてくれ!」


逃げようと藻掻くが、木が絡みついて逃げる事は、おろか、動く事すら出来ない。


獣達がゆっくりと近づいてくる。嫌だ。止めろ。死にたくない。


「嫌だ、嫌だぁ!誰か、誰かぁ!!」


「グガアアアアアア!!」


獣達が一瞬姿が消えた。次の瞬間右腕に激痛が走る。肘から下が無くなっていた。食い千切られたと気付く。絶叫が闇に響き渡る。


「アアアアアアア!!腕がぁ!俺の腕がぁ!!」


獣達は俺の絶叫を無かった事のように次々に喰らいついてくる。腕を。肩を。足を。腹を。頭を。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


ふと気付く。何で死なない。何で俺はまだ生きてる。この地獄はいつまで続くんだ。いつ終わるんだ。もしかして終わらないのか。このまま永遠に?ずっと喰われ続ける?嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて助けて助けて助けて助けて…


誰か俺を殺してくれ…!


◆◇◆

闇に飲み込まれていった彼を見届けてからふと考える。どうして、ユウヤさんとユウカさんの二人と約束したのか。わたくしならば身体を乗っ取る事も容易だ。なのに何故?


「(アルバート様に嫌悪感を抱いていたり、悪意や敵意があれば迷わず乗っ取ったのですが)」


最初の出会いはともかく、今は、アルバート様に感謝と敬意しか抱いていない二人を考える。あの二人が居なくなればアルバート様を独占出来るではないか。


わたくしにとってノワール様、そしてノワール様の転生体であるアルバート様以外どうなろうと知った事では無い。そう思っていたのだが。


「(…あの二人がいなくなればアルバート様は悲しみますわ)」


まだ出会って間もないが、アルバート様と絆を深めている事はよく分かっている。居なくなれば、きっと悲しむだろう。それにアルバート様が呪いで倒れた時、ユウヤさんはアルバート様を助ける事に迷いはなかった。助けるか助けないかで迷う事無く、どう助けるかを考えていた。


単純で楽観的でお人好し。そんな彼だからアルバート様の助けになっているのかも知れない。


「(あの二人は単純でお人好しですから、乗っ取ろうと思えば何時でも出来ますわ。だから今でなくともいいんじゃないかしら)」


誰に対しての言い訳なんだろうか。自分の考えに首を傾げる。


「(まぁ、時間の問題でしょうが)」


いずれ、魂は一つになる。完全に融合するかどうかは分からないが、繋がった状態にはなるだろう。その時彼らがどうなるのか。


「(わたくしに貴方達を殺させないで)」


儚い願い事。だがそれでも――


◆◇◆

ルミエールが魔法を行使する少し前に時は遡る。裕也とユウカは


「ほら、早く引きなよ裕也」


「だったら指の力を緩めてくれませんかね」


「どのカードを選ばせるかは私に選択権があるんだよ」


「どのカードを引くか選択権は俺にあるんだよ」


「ぐぬぬ」


「ぐぬぬ」


暇なので二人でババ抜きをしていた。

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