第30話

「……」


廃人になってしまった葛谷。目は何も映さず、地面に座り込んでいる。大切にしていた人からの絶縁は流石に心が折れるだろう。自業自得だが哀れな奴だな。同情はしないし、復讐を辞める気もさらさら無いが。


「さて、ユウカ。そろそろどうだ?」


「そうですね。頃合いかと」


「うむ。ではトドメといこう。準備は出来ているか?」


「バッチリです」


「そうか。ではユウカ。お前の手でこのクズに決着をつけろ」


「はい!」



身体の内側を意識する。血液とは違う、体内を循環する熱を感じる。


心の内側に目を向ける。相棒である『ユウカ』が微笑んだ気がした。


あの日知った。もう一人の俺こと『ユウカ』が居た事を。


あの日誓った。『ユウカ』と共に過去を乗り越える事を。


荒れ狂う魔力を一点に集中。断続的にバチバチと音がする。最初は目に見えぬ静電気。徐々に目に見えると同時に音が大きくなる。アルバート様のように一瞬で魔法を使えたらいいのだが。いずれ使えるようになるのだろうか。鍛錬が必要かな。


魔力を限界まで溜めた掌を葛谷に向ける。これで終わらせる。


「(行くぞ、ユウカ)」


『(行こうか、裕也)』


「『落ちろ!』」


強く念じた瞬間、葛谷に極太の雷が落ちた。


視界の全てが光に遮られる。空気を震わせる轟音が響く。全てを焼き尽くす熱を感じる。思わず目を瞑る。


閉じた瞼を開けると、葛谷は黒焦げになっていた。地面に倒れピクリとも動かず、生きているのかどうかも分からない。


アルバート様は労うように、肩を軽く叩く。


「よくやった。訓練以外で初めての魔法だが、何か問題は無いか?」


「はい!何だか絶好調です!…コイツは死んだんですか?」


「まだ息はあるが、既に虫の息だ。後は放おっておいてもくたばるだろう。後処理はこちらでやっておく。ユウカもそれでいいか?」


「すみません。お手数をかけます」


「気にするな。ユウカが復讐を遂げて、過去から抜け出すのが優先事項だ」


「ありがとうございます」


「どういたしましてだな。さて、次は」


アルバート様は清治を見る。


「んー!!んーー!!」


清治はエルくんの土魔法と木魔法で拘束されている。巻き付いた木で口は塞がれており、涙目で何かを喚く。どうやら失禁したようで、ズボンの染みと足元の水溜りがそれを示している。滑稽な姿に愉悦を感じてしまう。これが俗に言うざまぁか。…我ながら嫌な性格しているな。


「本命と行こうか。…ユウカ、確認するがコイツを殺して構わないんだな?」


アルバート様は俺に確認してきた。俺が身内を殺す事に思う所があるようだ。気に病まないか心配しているのだろうか。本当に優しい人だな。


「はい。今更迷いません」


「ん。分かった。では、終わらせよう」

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