第10話

「ユウカさま、あさですよ。おきてください」


リルちゃんにゆさゆさと身体を揺さぶられ、起きたのは9時。寝たのが2時ぐらいだから7時間ぐらい寝れた。休日以外だと、こんなに眠れたのは本当に久しぶりだ。そのせいか、身体の調子も良い。絶好調だ。


「おはようリルちゃん」


「おはようございます。ユウカさま」


朝の挨拶を交わしながら、カーテンを開き、窓を開ける。朝の爽やかな風が室内に吹き抜ける。柔らかい日差しが室内を優しく照らし出す。平日の憂鬱さも休日の気だるさも無い。生まれ変わったみたいだ。実際転生しているんだが。


「あぁ、凄くいいな。生き返るよ」


「え!?ユウカさまは『あんでっど』だったのですか!?」


「違う。そうじゃない」


そんなやり取りをしつつ、朝食を食べに行くため、準備する。


◆◇◆

リルちゃんに案内されて辿り着いた食堂はこれまた広い。レストランなんて目じゃないぐらい。白いテーブルクロスにシミや汚れ一つ無く、シャンデリアの灯りが、室内を煌々と照らす。食堂内には数人がいる程度で静かだ。


「今の時間って何があるの?」


「いまのじかんだと、『あさていしょく』や、『たまごかけごはんていしょく』なんかが、ありますよ」


卵かけご飯ってこの世界にもあるんだ。何の卵なんだろうか?期待半分、怖さ半分といった所。とりあえず無難そうな朝定食にしてみようかな。


「すみません。朝定食一つお願いします」


「わたしも、『あさていしょく』おねがいします」


シーーーン


「あれ、誰もいないのかな」


「いえ、いますよ」


「え、どこ?」


「ユウカさまのうしろに」


「…え?ヒャアァァァァァァ!!?」


リルちゃんに言われて後ろを振り向くと、『彼』はそこにいた。


どうやらこの食堂のコック?のようだ。コック帽にコックコートを着用している。問題はその出で立ちだ。性別は不明。烏のように黒い髪が、顔を覆い隠して、表情が見えない。両手はだらんと力なく下ろしており、やや猫背気味なのも相まって、言っては何だが、某呪いのビデオに出てくる怨霊みたいだ。


「お、お、おは、おはようございます!昨日この屋敷に来たユウカと申します!よろしくお願いします!」


「おはようございます。カルさん」


吃りまくる俺とは対照的に、リルちゃんは平然と挨拶している。どうやらカルさんと呼ばれているらしい。


カルさんは、何やら俺の事をジッと見ている。表情が見えないのに、視線は感じる。正直怖い。


「カルさんは、ユウカさまがきにいったみたいです」


「え、マジ?」


リルちゃんがそう言う。何かしたか俺?


「『しょたいめんで、ちゃんとあいさつしてくれるひとは、ひさしぶりだ。よろしくな、ユウカさま』っていっています」


「待って。俺には何も聞こえない」


「そのうちなれますよ。それよりもあさごはんです。カルさん『あさていしょく』2つおねがいします」


「……(コクッ)」


カルさんは無言で頷き厨房に消えて行った。


「『とびっきりうまいちょうしょくをつくってやるから、すわってまってな』だそうです」


「えぇ…」


色々と大丈夫なのか。今から不安になってきたんだが。


「(慣れるしか、ないよなぁ)」


悩んでいても仕方ない。この生活に少しずつ順応して行こうと思う。


ちなみに朝定食はめちゃくちゃ美味かった。









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