第9話

とりあえず、夫婦とはなんぞやという疑問は後日考えるとして、夜も遅いから寝ることになった。そういえば、二徹の後だった。不思議と体力が有り余っていたから忘れていた。アークデーモン?になった影響だろうか。


寝る前に、1分程抱きしめてくれとアルバート様に頼まれたので抱きしめる。


「あぁ、やはりユウカと触れ合うのは、いいな」


「左様でございますか」


自分だとよく分からないが、どうやら俺が抱きしめると、呪いが緩和されるようだ。どういう仕組みなんだろうか。


「あぁ…。こんなに…、穏やかな、気分は…久しぶり…だ…」


「アルバート様?」


「スゥ…スゥ…」


「寝た」


さて、どうしよう。アルバート様の寝室ってあの奥の部屋か?


アルバート様を背負って扉に近づく。見た目は華奢な俺だが、かなり力があるようで、アルバート様も軽々と持ち上げられる。男だった頃より遥かに力が強い。…男だった頃が貧弱モヤシなのは否定しない。


扉を3回ノックし、中に人がいるか、確かめる。1秒、2秒、3秒。どうやら無人のようだ。


「失礼します」


そう言ってドアノブを回し、入室する。そこにあったのは、やはり寝室だった。キングサイズのベッドに天蓋が付いており、やはり部屋は広い。それより気になるのは


「(ベッド以外何も無いんだが…)」


部屋にはベッド以外だとクローゼットや折りたたみ式の机、椅子、鏡、床にはカーペットが敷いてあるのだが、それだけだ。なんとも殺風景な気がしたが、とりあえず、アルバート様をベッドに下ろす。アルバート様は、穏やかな寝息を立てており、起きる気配がない。


「おやすみなさい。アルバート様」


「ゆう、か…。スゥ…」


寝言で俺の名前を呼んだ。どんな夢を見ているのやら。


◆◇◆

さて、どうしようか。今更になって気付いたことがある。


「(俺の部屋どこ?)」


俺の部屋が分からないのだ。屋敷が広すぎて分からない。そもそも、来たばかりで知るわけがない。


まいったな。アルバート様に聞けば良かった。とはいえ、寝ているのに、今更起こすのはなぁ…。


途方に暮れているとリルちゃんがトテトテ近づいてきた。


「ユウカさま。おはなしは、おわりましたか?」


「リルちゃん。うん。一応ね。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?」


「なんでしょうか?」


「私の部屋って分かる?」


「バッチリです。アルバートさまに、おへやにあんないするように、おおせつかっています。こちらですよ」


「流石アルバート様」


そこに痺れる。憧れる〜。


2階の広間を右手に進んで行くと、黒い扉があった。リルちゃんは立ち止まり、扉を指差す。


「ユウカさまのおへやです」


「ありがとうリルちゃん。失礼します」


「しつれいします」


ノックして、入室する。一緒にリルちゃんも入って来た。


アルバート様の寝室程ではないが、大きめなベッドに、クローゼット、折りたたみ式の机、椅子、カーペット、全身が映る鏡と一通りの家具は揃っているようだ。これはありがたい。


「お〜。すごい部屋だ」


「もともとは、きゃくまだったそうです」


リルちゃんが解説してくれた。なるほど、客間か。ゴミはおろか、塵一つ無い。手入れが行き届いている。


「それじゃあ、寝ようかな。ここまで、ありがとうリルちゃん。おやすみ」


「はい、それじゃあ、ねましょう」


「リルちゃん?」


「どうしましたか?」


「リルちゃんもここで寝るの?」


「はい!」


いいお返事だ。そっか〜。一緒に寝るのか。まぁいっか。ベッドには余裕があるし、リルちゃん小さいからな。普通に寝れそうだ。


「ユウカさま!はやく、はやく!」


「ハイハイ。行きますよ」


リルちゃんがベッドをポンポン叩く。ベッドに歩み寄り、リルちゃんと横になった。


「おやすみ、リルちゃん」


「おやすみなさい。ユウカさま」


部屋の電気を消して俺とリルちゃんは眠りについた。






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