第7話

アルバート様の部屋に入る。最初に感じたのは、花のような香り。お香か何か焚いているんだろうか。次に感じたのは、部屋がこざっぱりしていること。


かつてのアパートは掃除する暇もなく、休日は寝ることしかしていなかったので、少し、いや、かなりの汚部屋だった。ゴミ袋に入れることすら嫌になり、コンビニの弁当やらカップラーメンやらががそのまま床に捨ててあった。寝る場所は流石にあるが、それ以外足の踏み場がない状況だった。それに比べて、アルバート様の部屋は大分片付いている。というより、物が少ないように見えた。


入って周りを見渡すと白い壁紙に木で出来た執務机と椅子。机の上には書類が重なっている。本棚には見たこともない文字で書かれた本が並んでおり、どれも難しそうな本ばかりだ。ラノベとかはなさそうだな。頭上には異国感満載であるペンダントライトの灯りが部屋を柔らかく染める。手前には高級感溢れる赤色のソファーがある。奥にはまた扉があり、あれがアルバート様の寝室なのだろうか?


「そこに座れ」


「はい」


アルバート様がソファーを指差してきたので座らせて貰った。ヤバイふかふかだ。


「さて、どこから話せばいいものかな」


アルバート様は執務の椅子に腰掛け、悩むように顎に手を当てる。


「まずは、ボクの事を知ってもらう。ボクの体質についてだ」


「体質、ですか」


「あぁ。ボクは魔力循環失調症、お前にわかりやすく言うと貧血みたいなものが起きやすい体質なんだ。普段は魔力が身体を循環しているんだが、ふとした拍子に魔力が上手く身体に回らなくなる。魔族にとって魔力は血液のような物、魔力が回らないと、目眩や立ち眩み、倦怠感、酷い時は気を失ってしまう。お前と出会ったのは、そんな時だった」


「なるほど」


貧血か、確か体内の鉄分が不足した時になる症状だったかな。同僚で貧血持ちの女性をよく介法していた。


「それに加えボクは、一日に一度、魔力が奪われる呪いがかかっている。奪われている最中は魔法が使えない上、全身に激痛が走る。奪われる魔力は自然に回復出来る量だが、問題は時間だ。数分間、長い時で数十分間、激痛に苛まれ続ける。この呪いとボクの体質が合わさり、倒れていたということだ。この呪いをかけた相手はまだ言うことが出来ない。言えばお前まで呪いがかかる」


「の、呪い、ですか。大丈夫なんですか?何だかヤバそうな呪いですけど。命も危ないんじゃ…」


「そこまで心配ないだろう。この呪いをかけた奴は陰湿でな、一気に殺すよりもジワジワと追い詰めた方がボクが苦しむことを知っている。だから、命まで取ることは無い。少なくとも今はな」


「そう、ですか」


随分と陰湿なやり方だな。よほどの恨みでも買ったんだろうか。しかし、抱きしめる理由がまだ分からない。体質と呪い、どちらも俺にはどうしようもないのでは?とりあえず話の続きに耳を傾ける。


「ユウカにボクを抱きしめろといったのは、この呪いを和らげる力がお前にあるからだ」


「呪いを、和らげる?どういうことですか?」


「この呪いはな、ボク一人では決して解くことは出来ない。パートナーが必要なんだ。そのパートナーとして必要なのが、ボクの魔力に適合出来る者。そして、『宿縁すくえん』が結ばれている者。つまりユウカだ」


「『宿縁』?あの、どういう…」


聞き慣れない言葉だった為、聞き返す。するとアルバート様はこちらをジッと見つめてくる。何だ?


「宿縁は前世からの繋がりのこと。この場合、前世からの夫婦といった深い繋がりだ。…呪いを解く条件は、ボクの魔力に適合出来ること。前世の伴侶であること。その2つを満たした者と今世で結ばれること。つまり」


そこで一泊置いて


「ユウカ、お前に求めるのは2つ。この屋敷でメイドとして働くこと。そしてボクの妻になってくれ」


そんな事を告げた。












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