第2話 あなたはだれ?

 目を覚ますと、私はベッドで寝ていた。


「どこ? ここ……」


 部屋の中はベッドの他に、鏡台が置かれていた。起き上がり、鏡台の方に近づく。そこで、自分が服を着替えている事に気づいた。ボロボロの灰色の服から、絹のような手触りのいい白いワードロープを身につけている。腕には包帯が巻かれていた。


 誰かが、手当してくれた?


 思えば、意識が遠のく中で見た人は、追手ではなかった気がする。いったい誰が、助けてくれたのか。


 鏡台から離れ、窓の外を見る。ここは2階で、まわりは木々で囲まれている。森の中のようだ。


「あの、すみません……」


 部屋を出ようとすると、ドサドサっと何かが落ちた。本だった。平積みにされてたようで、廊下の至る所に本が平積みにされている。何語かもわからない、とても難しそうなものばかりだ。


「すみません、誰かいませんか……」


 本の山を避けながら、廊下を渡っていく。階段が見えたので、1階に降りる。1階も、本が山のように積まれていた。キッチンが見えたので人がいるかと顔を出したが、誰もいない。シンクには皿が山のように積まれていて、鍋やフライパンが乱雑に置かれている。どうやらこの家の主は、片付けが苦手のようだ。


「あの、すみません、誰かいませんか……」


 そこで、奥の部屋から明かりが漏れているのが見えた。本を避けながら、その明かりを目指して向かっていく。


「あの、すみません」


 扉を開けると、部屋の中は薬品や植物が乱雑に棚に置かれていた。初めて見るような綺麗な花もある。見惚れていると、目の前が真っ暗になった。


「わっ!!」


 何かが顔に引っ付いた。慌ててはがそうとするが、ビクともしない。


「ルル。離れてあげなさい」


 男の声がした。そう思っていると、目の前が明るくなった。飛びついてきた物体が、私を睨んでいる。

 丸くふっくらとした黒猫だった。


「ごめんね、びっくりしただろう」


 猫ではない、喋ったのは人だ。慌ててその姿を見る。長い黒髪を後ろで一つに縛り、黒いワードローブを身に着けている。青い瞳が、こちらを真っ直ぐに見つめていた。


「目覚めたんだね、良かった」

「助けてくれてありがとうございました。あの、貴方はいったい……」

 

 私が尋ねると、彼はにこりと微笑んだ。


「私の名前はトキ。君の名前は?」

「……セイラ……」

「そう、いい名前だ」


 彼はにこやかに微笑んだ。まるで月のような、包み込むような優しい目だった。




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