五、二分される国

 新王の政治が幕を開けると、攞新国は次第に大きく二分されていった。


 新王に近しい貴族や役人は優遇され、富を築き上げる。しかし新王から「いらない」と判断された国民達は不遇を受ける様になったのだ。


 貧富の差が激しくなり、民への負担が大きくなる。不満を募らせ、新王に刃を向けようと立ち上がる者達が現れ始めたが……。新王は、憎い程に賢しかった。


 彼は領土拡大の為と徴兵制を始め、武を持って立ち上がる男達を国の軍として使う事にしたのである。

これは勿論、自身に刃向かう勢力を外へと追いやり、内に残された者達から武力を取り上げ、疲弊と圧迫を与える為であった。


 怜悧な者達は、この政策の裏を悟っていたが。抗う力を大きく削られていた為に、煮え湯を飲み込み続けた。


 攞新国から、伝統の様に紡ぎ続けられていた平和がガツガツと削られていく。国土全域で広がっていた笑顔が、次々と消えていく。


 しかし秀光は、そんな事を歯牙にも掛けずに圧政を敷き続けた。それと同時に、反乱の芽を素早く摘み取り、自身が玉座に収まり続ける事に精力を注ぐ。


 ……そう、彼は自身が収まる玉座を脅かす者の存在。乃ち「香凜」を危惧し、捜索していたのだ。


 彼にとって、香凜は自身の光に差し込む一筋の「影」。いつまでも玉座を脅かし続ける忌々しい存在である。


 だからこそ反抗勢力を潰す事に注力していたのだ……が。秀光は、いつまで経ってもその影を掴めずにいた。


 ただ時だけが、滾々と非情に流れていく。


 そうして十六年。

 秀光が立派な暴君と化し、その玉座を脅かす存在が何処へ消えたまま、十六年の歳月が経ってしまった。

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