三、新王、立つ

 逝去の悲しみから一転、城内は混沌に陥っていた。


 何と、怒りの化身となった秀光が兵をあげ、雷煆の神殿・麒麟殿きりんでんに押しかけたのだ。


「雷煆殿。私を王に取り立て、輔弼ほひつとして支えてくれるのならば……封じ込めると言う蛮行には及ばぬぞ。其方次第だ、よくよく考えよ」

「……お前は我の名を呼ぶ資格がないし、我の主たる資格も持ち合わせていない。秀光、我はお前を愚鈍で醜い男としか見ておらぬ」

「それが答えか」

 残念だ。と、忌々しげに告げると同時に、彼に命を受けた腕利きの陰陽師達がサッと動く。


 雷煆は眉一つ動かさず、その場に佇んだ。


 そして彼は、陰陽師達により、麒麟殿に奉納されている宝玉の一つに封じ込められてしまった。


 あまりにも呆気なかったが。何はともあれ、これで一番の邪魔が消えたのだ。大いに喜ぶべき事だが、あまり長く喜んではいられまい。奴の配下である四神の朱雀、玄武、青龍、白虎がまだ残っている。

 麒麟・雷煆を抑えた秀光は、四神と事を構える覚悟をしていた。


 しかし驚くべき事に、彼が予想していた事は一つも起きなかった。


 四神達は不条理に封じられた頭目を解放しようと動くでもなく、秀光の一派を抑えつけるでもなく、事が荒立つ前に自ら城を出て、四方へ散り散りとなったのだ。


 国を護り、支え続けていた存在が、王の逝去と同時に消え失せる。

 そんな陰りを迎えた攞新国に、新たな王が即位した。


「我が国は、今まで間違っていた! 麒麟も四神も、本来我々人間には不必要な存在だ! この国は人の国だ! 人の力だけで、我々の力だけで国を成していこうではないか!」

 人の力だけの世。

 それを掲げた男、前王の長男・秀光が即位し、空いていた玉座に収まった。


 それから数日後の事。新王の前で、ある者の最期が迎えられようとしていた。

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