第4話 今、光の中で
「その後ゼロの開発はどうだ?」
「申し訳ありません陛下―――ゼロ、第25世代目の開発は中止させてもらえませんか?」
「なぜだ?」
「たとえ、ルナタイトの欠片とはいえあんなものを使うのは人道に反しています。あれを使えば、それまでのゼロを一蹴できるほどの力が手に入るでしょう。ですが、それはかつて恐れられた核や化学毒など比にならないものになります」
「そうか―――アイデアとしては画期的だと思ったが、やはり欠片でもダメか。わかった、シュートベル。そなたの意見を受け入れよう。同時に、カプリチオも破棄でいいな?」
「はい―――ありがとうございます」
こうして私の研究は、終わった。はずだった。
この後に陛下が死に、研究を再開しなければならなくなるのだが、まだこの時はそのことは想定していなかった。
今私は王城にて、研究の成果を陛下に報告している段階だった。
ただ、もう私はその研究を行うつもりはない。ただの平民でしかなかった私を拾ってくれた音は忘れないが、今回ばかりは認められなかった。
国が勝つためとはいえ、いたずらに戦火を広げるようなまねをしたくなかった。
ただ、陛下の考えも似ていて、とにかく終戦に尽力しているお方だ。ただ、我が国がルナタイトを保有しているせいか、それは中々難しいことだった。だからと言って、ルナタイトを他国に渡すわけにもいかない。どうなるかは目に見えている。
ゆえに陛下は苦しい立場におられる。なのに、私にも気を使ってくれる。本当にいいお方だ。
そんな聖人のような王の子供―――つまり、王女殿下も聡明な方である。
王女殿下には、報告を終えて玉座の間から出たところで邂逅する。
「ベル様―――研究の報告ですか?」
「殿下―――私のような平民を様付けで、その上に愛称で呼ぶのはおやめください」
「いいでしょう?私はあなたを慕っているのですから。でなければ、あの時、私はあなたにこの身を許したりしません」
貴族が聞けば発狂ものの恐ろしい話だが、彼女の言うことに間違いはない。
王女殿下が私に好意を向けていることも。王女殿下と一介の平民でしかない私との間に肉体関係があることも。恐ろしいことに、それらすべて本当のことである。
彼女は王族でありながら、私の研究に興味を持ち、その道の知識を以て私に協力してくれていた。その延長線上で、私たちは親交を深めた。そんなタイミングで起きたある出来事がきっかけで、彼女は私を慰めるためにその身を私に委ねられた。
決して、私に打算的な思惑はなかった。しかし、このことが貴族に知られれば、王女を誑かしただのなんだの言って、殺そうとしてくるだろう。
だから、私も彼女と愛し合う事はやぶさかではないが、外でそういうことは避けてほしい。彼女にとって大したことではなくても、私にとっては命にかかわることなのだ。
「殿下、せめて誰もいないところで―――」
「ならば今夜、私の部屋に来ますか?人払いはしておきます」
そんな王女らしからぬ誘いに、今日も私は抗うことなどできなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ズガッ!
私の加速が乗り切った状態での蹴りを受けて、魔物は妹から離れた場所に飛んでいく。
飛んできた私は魔物の目の前に立ち、妹を守るように塞ぐ。
「にぃ……?」
「安心しろ―――こうなった以上は、必ず守る」
そう言いながらスーツから排気を噴出させる。やはり、まだ第1世代の再現しかできないうえに、不完全な部分が多い。
先ほどのブーストの影響で、スーツの温度も制御できないレベルに上昇してしまっている。
所詮初期型か……
だが、相手の魔物は私を脅威と認識したのか下手に近づいてこない。
しかし、相手の情報は私の頭の中にある。
魔物名前は、ファーウルフ―――群れを成し、リーダーの統率をもとに行動をする魔物。獰猛で、今回のように小規模の村を襲うことがあるとのこと。
攻撃手段は、基本的に神着によるもの。骨を砕くレベルではあるが―――
「私の予想が正しいのなら、この魔物がさほど危険視されない理由。魔術などの中遠距離攻撃がないから、かなっ!」
そう言いながら距離を一気に詰めて攻撃を仕掛ける。魔物もそれは想定していなかったのか、一瞬ひるむ様子を見せた。しかし、野生の勘というのは素晴らしく、すぐさま身をよじってよけようとしてくる。
確かに加速直線状から消えられるのは少々分が悪い。
身体能力の補助程度のシステムしかない第1世代では、速報部への迎撃が困難。
それを知らぬはずだが、魔物は攻撃を仕掛けてくる。
合理的はある。だが―――
「今の私は物理攻撃しか能がないわけではない!」
「ギシャアアアアア!!」
あまり強い出力は出せないが、私をその手のひらから炎を出す。
せいぜい、毛が焦げる程度の威力だが、相手は魔物―――野生の生き物だ。
「ギャン!?」
火には怯む。
少々無理な態勢だが、魔物が怯んだところに蹴りを入れる。そこに追撃の一発をぶち込んで―――
(さすがに勝ったろ!)
その慢心がいけなかった。魔物の脅威を私は一つも理解していなかった。
「グギャアアアアアアアアア!!!」
「なっ!?」
突然、カッと魔物の目が開いたかと思った瞬間、オオカミの顔が3つに割れた。その3つに割れた顎だろうか?それが、私を包み込もうとしてくる。
さすがに身の危険を感じた私はブーストを発動し、相手の射程から緊急離脱する。
と、自分の不用意な行為に辟易する。
「にぃ……」
「……っ!?」
まずった。ただその一言に尽きる。
後ろに視界をずらしたのもだめだった。
目を離したすきに、魔物は私と妹を食らおうと迫っている最中だった。
一つのミスが原因で、すべての行動が裏目に出る。よくあることだろうが!
「こんなことで!」
私はどうにか2つの顎を捕まえ、どうにかかみ砕かれるのは回避する。しかし、強化された腕でも防ぐことは厳しそうだった。
「にぃ……頑張って……!」
「わかってる。こんな、俺みたいなまがい物より生きなきゃいけない人がいる!こんなところで―――負けられるかぁ!!」
どうにか押し切らなければならない。妹を守らなければ―――両親の一番大事なものを、この手で守らなければ。その思いが通じたのだろうか。
私は、ゼロとともに光に包まれた。
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