第2話 わからぬ家族愛

 ちなみに5歳のころに私が生まれ変わっていたことは両親に明かしている。


 最初二人はどうすればいいのかわからなかったが、どうにかして絞り出した質問はこうだった。


 「結局、お前は俺たちの子供なのか?」


 その質問に対して、私は端的に答えるしかなかった。


 「わからない。私がこの体の魂を殺したのかもしれない。もしかしたら死産でそこに滑り込んだのかもしれない。なんなら、最初から私が入り込むことは確定していたのかもしれない」

 「そうか……」


 私の答えに疑問は晴れないのだと、両親はうつむいた。

 まあ、そんなことは少し考えればわかること。腹を痛めて生んだ我が子が自分の子かどうかもわからないのだ。


 その日はそれだけで話は終わった。年齢にそぐわない言語能力に、教えてもいないのに両親以上の計算能力―――疑いはずっと前からあったのだろう。

 それでも我が子だと育ててきた。


 そう考えると、私の胸もさすがに痛む。


 だが、それから2週間も経てば両親も整理をつけ、普通に接してくれるようになった。だからというかなんというか、私が彼らより年上だということは口が裂けても言えなくなった。


 「アッシュ!それをこっちに運んでおいてくれ!」

 「わかった!」


 そして現在、私は実家の農業の手伝いをしている。私の住む村は常に人手不足だ。

 前の世界と違って、税金の徴収が目立って行われていない影響で、貧困ということはないようだった。


 だから、子供にそういった才能があると判断されたときは、村から学園に入学させられることもある。

 人手不足ではあるが、将来への投資ともいえるだろう。学園に行った者が多くのC級程度の魔術を扱えるようになれば、今の作業が格段に楽になる。

 ちなみにC級の魔術というのは、一般常用魔術とされるE級のものより高性能高精度の魔術だ。簡単な例を挙げるなら、E級は水やり、C級は特定の範囲内に雨を降らせると言ったものだ。


 それはほかの属性においても同じとなる。


 と、そんなことを話していると、今日の農作業は終わってしまった。正確には、俺が担当している分だけ、だが。


 この後は、私一人だけの時間だ。


 家に戻り、私に与えられた部屋に入ると、すぐに楽な姿勢をとって体内の魔術をの放出を始める。


 この世界で魔術と呼ばれるものは、扱うだけなら才能もいらない。

 先ほど話したE級程度なら、3日練習すれば扱えるようになるほど簡単なものらしい。


 ゆえに、この世界は私のいた世界のコンロや水道をそれで代用している。つまるところ、ガスや電気はすべて魔力によって代用されている。

 それを現すかのように、この世界の家具は箱が多い。


 氷系の魔術を使った冷蔵庫、冷凍庫。火系の魔術を使用し、引火を防ぐための疑似的なコンロ。果てには、2種以上の魔術を混合して扱う食洗器まである。

 意外とこの世界はうまく発展している。私たちの世界と違うのは、それが魔術によるものか科学によるものかだ。


 そんな世界というわけなので、自身が保有する魔力が多いことに越したことはない。その考えのもと、私は魔力について調べ、実践的に多くのことを試した。

 すると、いくつかのことが分かったのだ。


 まず、魔術を扱うための魔力というものは、血管のように全身にめぐるような線ができていること。これは本で見た既出の知識だ。

 そして、魔力は増減させることが可能。これも本で見た。しかし、その原理は解明されておらず、特異的に増えるともいわれている。

 本で知ることのできた最後の項目は、魔力を増やせる限界年齢がある。どれだけ特異的に魔力が急上昇するとしても、10歳までの話だ。つまり、10歳で魔力が確定。それから長い年月をかけて衰えていくのだろう。


 そして、自分で見つけたことは二つ。

 魔力を増やすカギは、極限まで魔力を絞り出すこと。それを一度やるだけで魔力量が増える。

 二つ目は、魔術を使用しなくても魔力を体外に放出できるということだ。


 私はこれらの情報を統合して、魔力を増やす手段を編み出した。


 それがいま行っている方法だ。

 一人になり、部屋の中で集中し、自身の魔力を絞り出す。


 感覚的には、寒天を押し出すような感覚でやるとよい。一度雑巾を絞るような感覚でやってみたら放出がぴたりと止まった。原理がよくわからない。


 ちなみに私がここまで魔力の増強に力を注いでいるのはなにも魔術を使いたいばかりではない。

 まあ、その話は追々だ。


 放出を始めてから50分ほど経過しただろうか?最初は10分も持たなかったから大きな進歩を得た状態に到達した。しかし、同時に限界にも到達してしまった。


 ドン!


 私は勢いよく床に倒れこんだ。


 「ああ、そういえば本に書いてないこともう一つあったな……」


 体内から魔力がなくなる―――または極端に欠乏すると、体に力が入らなくなる。

 おそらくこの世界で魔力が生命維持―――とまではいかなくても、それに近い働きをしているのだろう。


 まあ、それに関しては戦闘中に起きては致命的だが、今はそれを目的としている。

 魔力は筋肉のように傷つけたり酷使すれば強くなる。つまり、総量が増える。人体のメカニズムと考えればある程度は説得力があった。


 魔力が増える通説として、死地を乗り越えた者に現れると言われている。

 おそらく、そういうことなのだろう。


 そんなこんなで私は魔力強化の課程を終えて、そろそろ農作業を終わらせたであろう両親のもとへと向かう。


 「アッシュ―――顔色悪いけど。また、いつもの?」

 「はい、今の私には必要なことなので」

 「そう……でも、あんまり無理はしないでよ。あなたは正真正銘私のお腹から産まれてるんだもの」

 「わかってますよ。命を危険にさらすようなことはしません」


 母は私の親でいてくれている。

 いくら前の人生の知識があるとはいえ、魔術のせいもあって、生活の勝手も違うし、常識も違う。それを教えてくれる大事な人。


 逆に父は―――


 「母さん、とりあえず農作業は―――あ、アシュレイか……」

 「はい、アシュレイですよ」

 「あー、魔術の練習はしてるのか?」

 「いえ……私はなぜかうまくいかないみたいなので」

 「そうか。だが、なぜお前は魔力ばっかり増やしているのに、魔術の発動が一般よりも遅いんだ?あ、ああ、お前のスピードでやればいいんだからな」


 このようにそっけない。


 今の家族は少し歪だ。だが、父親とってもそれは大して気にすることではないのかもしれない。

 私は15になれば王立の学園に行くと方針が決まっている。それまでには、妹か弟ができるだろう。私のようなまがい物ではない家族が、だ。


 少しだけ私は寂しい。そんな気持ちすら打ち明けられる相手がいない。本当に生まれ変わったことに何の意味もない。

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