第三話 「既視」
いやぁ、どうもどうも、俺です。
何か無事に壁の内側に入ることが出来ました。
一時はどうなるかと思いましたよ。眼前で厳つい大男二人に詰められるのは中々どうして怖かったものです。
腕を掴まれた時なんか、冷や汗ものでしたからね。直射日光が凄かったのに、妙に背中は涼しかったです。
いやぁ、それにしても──
「ここ異世界かよ⋯⋯」
ここまで情報が揃えば、流石の俺でも気が付く。鈍感系主人公として名を馳せようとしていた時期があった俺でも気が付く。
まぁ最初から妙だとは思っていたよ?
気がついたら原っぱに突っ立ってるし。
闘志ありまくりの馬鹿でけぇ犬に噛まれるし。ていうか、狂犬病感染してないだろうな。ワクチンも無いこの世界じゃ一発アウトなんですけど。
まぁ、それ以前にこの流血止めなきゃ死ぬんだけど。
「あのぅ、この腕治りますかね?」
「
うーんこの。
相も変わらず言葉が分かりません。
勘弁してくださいよ、神様。異世界に連れてくるならせめて言語だけでも何とかして欲しかったですよ。
欲を言えば、聖剣エクスカリバーとか持って勇者ごっこして、魔王ぶっ殺して、魅了スキルで女奴隷をぐへへへへへへへへ。
こんな事考えてるから神様も見かねたのか⋯⋯
大男二人に連れられて歩いていると、急に二人が立ち止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
眼前には真っ白い建物がある。
如何にも病院っぽいな。
「優男っすね、お兄さん方。この御恩は一生忘れないっす」
はい無視ー。
もう慣れてきましたよ。いやまぁ、言葉通じないから結局なに言われても返答出来ないんだけどね。
俺がそんな事を考えている間に、大男たちは勝手知ったるとばかりにノックもせず、ズカズカと建物の中へと入っていった。
勿論、俺も連れて。
勘弁しとくれよ。これでも礼節を弁えるジャパニーズなんだよ? これじゃまるで、田中の家に入る時の吉田みたいじゃないか。
「
「
うるせえ野郎共だな。ちょいと静かにしとくれ。こっちゃさっきからの流血で気分悪いし、頭も痛いんじゃ。
てかほんと何でこれ流血止まんないの? 俺の体の中に血小板ちゃんたち居ないの?
まぁ、そんなクソどうでもいい事は置いておいて、どうもこの病院、見覚えが⋯⋯
「──っぅ⋯⋯くっ⋯⋯ぐ、く⋯⋯うう」
な、何だ、これ? 痛てぇ。マジできつ。⋯⋯頭痛、が、さっき、まで、の、比じゃ──。
その瞬間、俺は幻視した。
見た事も無い、当然関わった事なんて一度もない、そんな相手を。
だが俺は知っている。
自然と涙が込み上げてくる。
──おかしい。記憶に無いぞ。
何て懐かしい顔だ。
生きておったのか。
──やめろ。やめろやめろ。俺はそんなヤツ知らねぇ!
いや、確かにお前は私を庇って⋯⋯
──誰だ。お前は誰なんだ!
⋯⋯良い。そんな些事どうでも良い。今宵は宴ぞ。
──⋯⋯誰、なんだ。
我が騎士フェルシュナインの生還祭だ⋯⋯!
──これは⋯⋯誰の、記憶なんだ⋯⋯
⋯⋯俺は知っている。
銀縁丸眼鏡と笑った時の
俺は確かに、知っているんだ。
意識は暗闇へと沈んだ。
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