26 深夜二時

「あ、みちるちゃん」

「あ、ころくん」

 夜中、目が覚めたのでふらふらお庭に出てみたら、みちるちゃんも外でころころ転がっていた。

「ころくん、どうしたの?眠くない?」

「丑三つ時だもん、何となく目が覚めちゃった。みちるちゃんは?」

「月が出てないから夜のお散歩」

 みちるちゃんはそう言ってころころ転がる。ぼくはそんなみちるちゃんをひょいと抱え上げた。自分の体が久しぶりすぎて、まだ手の感覚がちょっと変。

「みちるちゃんはさ、首だけで生きるのってどんな感じ?」

 ぼくは首だけになれるけど、別にずーっと首だけで生きてるわけじゃない、それに首だけのときもふわふわ浮いたりできるしね。それに比べて、みちるちゃんは人魚を食べたのだとしてもただの人間だから、ぼくたちより出来ないことも多いだろう。

「うーん」

 みちるちゃんはぼくの腕の中でくるくる回る。

「もう体があったときのことをほとんど忘れちゃったから良く分かんないけど、困ったなぁとか不便だなぁとか思うことはあんまりないよ」

「そうなの?」

「そうなの。ぬふふ」

 みちるちゃんは笑い声がちょっぴり変だ。

「それに結構色んな人が助けてくれるんだよ」

「あおくんとか?」

「あおくんとか。ふへへ」

 そういうものなのかー。

 ぼくは抱えたみちるちゃんの目を見つめる。にこにこふわふわと、みちるちゃんは笑っている。きっとずっとこうやって、何かあっても笑ってどうにかして生きてきたんだろうな。

「みちるちゃんは何か、すごいね」

「すごいの?」

「すごいよ」

 きょとんとするみちるちゃんは、全然自分のすごさを分かってないな。

 だけどみちるちゃんはきっと、これでいいんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る