みちるさん 万事(よろずごと)

1 夕涼み

 よし子さんの家の縁側で、僕はぼんやりとしていた。僕の隣にはみちるさんがいて、ころころと遠ざかって戻ってきてを繰り返している。

 みちるさんは、生首の女性だ。ぱっちりとした目が可愛くて、顔の半分程は消えない青いあざのようなもので覆われていて少し痛々しい。特に痛みはないらしいけれど。遥か昔には体もあって、普通の人として生きていたらしいのだけど、何かがあって首だけになってしまって、それでも生きているのでその事実をそのまま受け入れて、ただシンプルに生きている。そんな人だ。

 僕が小学生の頃、よし子さんの所有している山の中でクラブ活動をしている時に出会って、それからずっと、交流を続けている。

「あらあら、楽しそうね、みちるさん」

 冷茶を持ってきたよし子さんが、のんびりとした声を上げる。みちるさんが何だか変な笑い声を上げてこちらに転がってくる。そんないつも通りの光景が、何だかとても尊いものに思えて、僕は嬉しくなって笑う。

 もう夏が終わる。この夏は、何というか、こう、盛りだくさんの夏だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る