第24話 春がきた

 春、というにはまだ肌寒いけれど春になった。

 あれから何が変わったという事もなく、相変わらず変わり映えのない日が続いている。

 それはそうと春、山に囲まれたこの地ならではの春。

 私は昨夜から準備を整え普段は履かないパンツスタイルに長袖のシャツ、そして作業用の手袋を嵌めて背負える編み籠を手に颯爽と屋敷を出た。

 「たくさん獲りましょうね」

 意気揚々と手伝いのため着いてきたのはルカと通いの庭師であるベン、護衛としてエルシドとギース。

 この面子で向かうは一番近い屋敷の裏手にある山。

 お目当ては春先に相見えることが出来る山菜たち。

 夕飯は天麩羅にするわよと山へ向かった。


 人が入らない場所まで登るつもりもなく、薬草取りに入る者が居る程度の辺りで周囲を警戒してもらいながら、私とルカにベンの三人で山菜を採っていく。

 この辺りには強い魔物や獣はおらず、たまに出てきたとしても人の姿を見れば直ぐに逃げ出すような小物ばかり、夏場などは子どもだけでも入ることがある場所ながら警戒は必要。

 時折現れる蛇などを払いながら籠いっぱいに春の味覚を摘んでいく。

 一時間ほどで目標の量を摘み終えて山を降りる。

 苔で滑る足元に注意していればエルシドがさっと手を引いてくれた、こういう動作の自然さが育ちの良さを感じさせてドキッとすると同時に無性に腹が立つ。

 

 山を降りて籠をアンとベスに任せて私は汗を流し着替えを済ませる。

 ラフなワンピースにエプロンという凡そ令嬢らしくない服装で厨房へ向かう、既に料理人と手伝いに入ったルカが山菜の下拵えを始めていた。

 私も直ぐに手を動かして料理に取り掛かる。

 下拵えを済ませたものから順に油で

揚げていけば香ばしい香りが厨房を包んだ。

 ひょいっと顔を出したエルシドを手招きして揚げたてに軽く塩を振って口に放り込むと「あつっ」と慌てる声の後目を見張った。

 「美味いな?これ、さっきの?」

 「そう、朝から摘んできたあれ」

 サクッと良い音を響かせ暫く味わったエルシドは、揚げあがったものを乗せた皿を食堂へと運び出した。


 暖かくなればダンジョンが活性化を始める、理由はわからないけれど動物と同じく活動的になる。

 数が多ければはっちゃける魔物もいる訳で、今年も父主導の元視察が組まれた。

 今回も意気揚々と視察隊に手を挙げたエルシドはジーバ隊とは別に父とエルシドにギース、普段はダンジョン入りしない団長のガレスという布陣にヘルマンドが加わった隊にて突入するらしい。

 尚、戦闘職でもない私は留守番だしきび畑の作業があるため、携帯食となるお弁当をエルシドに持たせて見送った。

 自分の分がないと喚くギースは実家が村にあるのだから実家に言えばいいと思う、エルシドにヘルマンドの分も持たせて見送った後コニーを連れて畑に向かった。


 畑は例年と変わりなく、今年も順調に作業が進んでいる。

 畑を広げるかと父から提案があったがそれは断った。

 山に囲まれているから開墾すれば木を斬り倒す必要がある、前世の記憶から対策もなしに山を開墾し過ぎるのは良くない程度の認識もあるし。

 作業をしている村人に困ったことや問題はないかを聞き取りしながらのんびりと畑を回り屋敷に戻る頃には夕方になっていた。

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