第11話 私の収入源
もう直ぐ秋になります。
領地を囲む周囲の山が赤や黄に色付き始めると、私が所有する畑では植付けが始まるのだけど。
「これ、全部植えるのか?」
「そうよ」
山の一部を畑に改良し、ここで栽培したこの作物は村の工場で精製した後王都に向けて出荷される。
まだ私が幼い頃、お父さまが魔物討伐の応援でずっと南にある島に行った際に持ち帰った苗を見た瞬間、歓喜した。
お父さまが持ち帰ったのはまさかまさかのサトウキビ、王都から南東に位置する我が領地で栽培が可能な筈と、幼い私が張り切って指示してお父さまから奪ったサトウキビの苗で畑を村人と作った。
この畑から採れるサトウキビの収入は丸々私のものとしたお父さまは潔かった。
「やってみる?」
そう斜め後ろに立つエルシドに揶揄い半分に聞いてみるとシャツの袖を捲りながら畑に向かって行った。
「無理はしないようにね」
そう背中に声をかける、エルシドは近くに居た農夫に声をかけてやり方を教わっている。
その後ろ姿は半年前まで月夜の王子と呼ばれた優男の面影はすっかりなくなり、厚みを増し大きくなった後ろ姿に青銀の髪がたなびいている。
踏ん反り返っていた背筋を屈めて畑で泥だらけになっている姿など、あの頃には想像も付かなかった。
完璧な王子と呼ぶには些か直情気味で他人の話を聞かない部分があったものの、あんなことをやらなければもう少しマシな生き方が出来たのではないかしら、少なくともこんなドが付く山奥の田舎ではなく華やかな王都で生きれたのにと思わなくもない。
私は人の多すぎる王都より領地が好きだから苦ではないけれど。
「広いな、ここは何の畑なんだ?」
作業がひと段落ついたらしいエルシドが汚れを拭いながら近づいて来た。
「サトウキビ」
「サトウ……なんだ?」
「砂糖の原材料よ」
不思議そうな顔をしたエルシドに説明しながら村へ戻る。
「砂糖の原材料といえばテンサイではないのか?」
「そうねえ、王都も以前まではそうだったんじゃないかしら」
「今は違うのか?」
「ここで精製した砂糖は大半を王都に卸してるのよ」
へえ、と感心したように相槌を打つ。
砂糖は貴重でなかなか庶民には手が届きにくい、たまたま気候が合ったことで栽培が上手くいったため、私の収入の大半をこの畑な担っている。
山奥の田舎男爵家だけど存外お金持ちなのは、使うところもないせいだけど。
秋が深まり冬になる前に、新しい家が完成した。
引っ越しはスムーズに進み、新居の披露目には本邸の皆が集まった。
賑やかにスタートした新生活は和やかにすすみ、冬支度を始める頃、王都から来客がやって来た。
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