第10話 新居へGO

 あの日、エルシドの様子を見ていたお母さまに呼ばれてお父さまと三人で話した。

 「依存でしょうねえ」

 「厄介なことだが、それで今は前を向けるなら仕方ないか」

 「そうですね、陛下にも定期的に報告をしていますが、よろしく頼むとしか言われませんし」

 そう告げた私にお父さまとお母さまがギョッと目を見張りました。

 「は?お前陛下に連絡したのか?」

 「当たり前ですよ、拾った日に馬車から伝書魔術でお知らせして私が引き取る許可も貰ってます」

 お母さまは俯いてしまいお父さまは額に手を当て上を向きました。

 「無断で連れ帰るわけないじゃないですか、庇ってクレッセン家が王家の不況を買うより、保護したからクレッセンで引き取ると連絡しておくほうがまだ安心でしょう」

 はあとわざとらしい溜息を吐きながら言えばガックリと肩を落としたお父さまがぽそりと「そういう問題じゃない」と言ってましたが、私からしたらそれだけの問題なんですよ。

 

 家を建てるまではかなりの慌ただしさだった。

 エルシドは騎士団での体力作りに加えて執事業の勉強に改めてマナーを学び直し、暇があれば素振りやクレッセン邸の書庫に通っている。

 元々王家筋だけあって優秀な頭を持っていて学園入学までは国で最高峰の家庭教師陣から最高の教育を受けていたエルシドが、やる気を出せば当然結果となり身についていく。

 代々我が家で執事をしている家令のアンドリューから執事としての手解きを厳しく受けているが、根を上げるでもなく真面目に取り組んでいる。

 地頭は流石特別クラス出身だけあって充分良い、弱点である応用力はアンドリューの指導と騎士団での訓練で補い出していた。

 問題があるとすれば、私が一人で出かけることを極端に嫌がりだしたことぐらいで。

 

 「何処に行く?」

 「え?村にだけど?」

 「俺も行く」

 何をしていても私が一人で出かけようとすると必ず着いてきたがる。

 「コニーもいるから大丈夫よ」

 「俺を置いていくのか?」

 前に一度黙って出かけたことがあった。

 その時は雨の降る中門の前で私が帰った夜遅くまで立ち尽くしていた。

 当然風邪を引いたのだけど、それでも私の服を掴んで離さないため、最近は面倒を避けて連れて行ってるのだが。

 

 「もう直ぐ完成だな」

 「そうね、家具の手配も終わってるし」

 村での用を済ませたあと、私はエルシドと共に新居の進捗を身に郊外に足を伸ばした。

 村からは歩いて十五分程の距離にある赤い屋根の二階建てに白い壁が可愛らしい屋敷は、あまり大きくはないが広めの庭が着いている。

 部屋数は二十、一階のサロンは裏庭に続いていて二階には別の小さなサロンがある。

 一階には使用人部屋や食堂、応接室や厨房があり二階に主寝室と私の部屋、執務室に書庫などがある。

 客間も二階にあるけれど、泊まるような客ならクレッセン邸に泊まってもらったほうが良いだろう。

 エルシドの部屋も二階にしてある。

 いつかエルシドが本当の意味で自分の生き方を決めた時に、この屋敷を出て行けば彼の部屋は私の夫になる誰かの部屋になる予定だ。

 「あの辺りが執務室か?」

 「そうね」

 外側からあれこれと指をさしては確認作業のあと、またあれこれと色々な相談をする。

 本邸から連れて行くマリアたち使用人以外の使用人もほとんど決まっている。

 元よりこじんまりとした屋敷のため雇う使用人は数も必要ではない、ただ村の少ない雇用口でもあるので使用人を雇わない理由はない。

 間近に迫った引越しにエルシドも少し浮かれて見える。

 環境が変わることが彼にとって良い結果になればいいと思いながら、帰路についた。

 

 

 

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