第8話 お父さまといっしょ
クレッセン領は山間部の盆地に位置している。
王都から南東にある領地は温暖な気候に恵まれ周りの山も豊かに緑が溢れていて、魔物も溢れている。
「竜馬みたいな草食の魔物なら飼い慣らすことも出来るんだけど、肉食の魔物はそうはいかないから時々ダンジョンに掃除に行くのよ」
魔物のうちダンジョンから生まれるものは知性もなく破壊衝動が強い。
定期的な数減らしが必要で、その際に採れる魔物の素材やダンジョンにある鉱石は収入源のひとつ。
そんな説明をエルシドにしていると、エルシドが私をチラチラと盗み見しているのに気付いた。
「アベリアも行くのか?」
「どうかしら、お父さまがエルを連れて今回は潜りたいって言ってるのよね」
あれから二ヶ月、エルシドの体力作りは思った以上に捗ってここに来た頃より体付きもかなりしっかりしてきた。
バンっと大きな音を立てて扉が開かれた。
「はぁぁぁぁ?」
「エルシド君!準備は出来ているかい?さぁ、ダンジョンに行くぞ!」
景気良く部屋に飛び込んできたお父さまを助走を付けてから丸めたニュースペーパーではたいた。
「え?ええ?」
「アベリア、痛いぞ?」
「まず!私の部屋に!入るなら!ノックを!しなさい!」
キッと睨みつけてお父さまに声を張り上げる。
「そして!エルにダンジョンへ!連れて行くなら!まず!私に!許可を!取れ!」
「そこはエルシド君じゃないのかい?」
「エルの所有権は私にありますからね?」
そう言いながらエルシドを見ればうんうんと頷きながら私の後ろにぴたりとくっついている。
「ほら、エルが怖がってるでしょう」
「なんでだよ」
お父さまはご自分の身体が人より大きいと自覚なさってください。
「それにダンジョンに行くなら装備品は買ってあげたいからお父さまは準備が終わるまで、待機!」
「わ、わかったよ」
強引にお父さまを部屋から追い出してエルシドと顔を合わせる。
「じゃあ商会に行きましょうか」
「装備を買うのか?いつもの騎士服じゃあダメなのか?」
出かける準備を始めた私の背中にエルシドが問いかける。
「だってエルはクレッセンの騎士ではないもの」
「そ、う、だな」
ちょっと肩を落としてるけど、騎士になりたかったの?
「とりあえず行きましょうか」
私はエルシドを連れ商会に向かいます、その後ろを歩くエルシドにすれ違った村人が挨拶をする。
「エルシド君、この間はありがとうね」
「いや、気にしなくていい」
「エルシドさん!この前はありがとう!」
「ああ」
いつの間にかすっかり村人と打ち解けている姿に思わず笑みが漏れる。
商会で鋼で出来た剣と革を使った軽鎧をサイズに合わせて購入し、私はもう一つの用向きを済ませるため店長に話しかけた。
買ったばかりの装備品を抱えて屋敷に戻ると、既に準備を終えたお父さまが出迎えてくれた。
「お、良い剣じゃないか、よしよし今日は軽い偵察だから、あまり気負わなくていいぞ」
エルシドの手にあった剣を見ながらお父さまがエルシドの肩に手を回し引き摺りながら連れて行かれる。
エルシドは何度か私を振り返っていたけれど、口に手を添えて「いってらっしゃい、頑張って」と言えば、うんと頷き集合場所へ向かって行った。
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