第7話 何が出来るの
村の商会に行きサイズの合う服と日用品を買ってのんびりと村を歩く。
歩幅を合わせる程度の気遣いは出来るらしいレイアード改めエルシドは、田舎が珍しいのかキョロキョロと周囲を見回している。
「随分と大きな家が多いな?」
「土地だけはあるからねえ」
そう、土地だけはある。
だから一軒ずつは王都の平民が暮らす家に比べればかなり広く大きい。
「あれは、魔物ではないのか?」
びくりと身体をこわばらせたエルシドの視線の先に竜馬が見えた。
「竜馬ね、王都では馴染みがないから見たことがなかったのね」
「あれが竜馬か、話には聞いたことがあるが大きいな」
一応竜種だからねと笑う。
前世的に言えば恐竜に近い見た目の竜馬は普通の馬の三倍はある体躯をしている。
「王都から離れた土地では定番なのよ、馬より多いんじゃないかしら」
「あれは騎乗したり出来るのか?」
「出来るわよ?私にも愛馬は居るし」
そう言えばキラキラとした目を向けられた。
「じゃあ取りあえず、馬房の手伝いでもしてみる?」
冗談混じりに聞けば、暫く考えてエルシドはこくんと首を縦に振った。
「ルカ!」
馬房近くで呼べば厩から走って来た少年が私の前に立った。
「お嬢さま、如何しました?」
チラッと私の斜め後ろにいるエルシドに目を向けてルカが用向きを尋ねる。
「彼に馬房の仕事を少しやらせてみてくれないかしら」
十歳になったばかりの弟より二つ年上のルカは一瞬眉を顰めた後、ため息を吐いた。
「お嬢さま、お貴族さまにこの仕事は出来ませんよ?」
「彼は貴族ではないわ」
「エルシドだ、すまないがよろしく頼む」
ルカに頭を下げたエルシドをルカだけではなく私も目を丸くして見るとエルシドがジロリと私を睨んだ。
「じゃあ馬の方の掃除から手伝って貰っていいかな」
ルカはやれやれと肩を上下してからエルシドを連れて厩の方へ向かった。
私は二人の背を見送り、邸に向かうとお父さまの執務室を訪ねた。
「お父さま、領民の登録についてなのですが」
そう告げると私と同じ透明感のある緑の瞳を私に向けました。
「本人は了承したのか?」
「はい、名前の方は私が付けました」
「そうか」
お父さまは執務机の上に並んだ書類から一枚を探し出して私に差し出した。
私はそれにエルシドの名前を書き入れ後見人の欄に私の名前を書き込んだ。
「これで飼い主はお前だ、好きにすればいい」
「犬や猫じゃないのだから」
「犬や猫の方がまだマジだ」
大層な謂れようである。
お父さまはまだエルシドの保護を受け入れ切れては居ない。
王都での醜聞もだが、元より貴族間でのレイアード殿下の評判が悪すぎた。
「彼方には伝えたのか?」
「はい、任せると」
「わかった」
短い親子の会話を終えてお父さまの執務室を出ると、私の部屋の隣にある部屋をエルシドの新しい部屋として準備させた。
本来であればマリアが使う筈の私付き侍女のための部屋だが、エルシドをいつまでも客間においては置けないし仕方ない。
マリアは納得いかないようであの日からずっと膨れっ面をしている、ごめんね。
階下で大きな音が聞こえて階段を降りると泥だらけのエルシドが所在なさげに立ち竦んでいた。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……お嬢さま、コイツ全然使えないっすよ!」
なるほど、失敗したのかと頷いて私はエルシドを湯浴みに送り出した。
「そんなにダメだったの?」
「全くダメっす」
あらぁ、まあこの間まで王子やってましたしねえ。
さて、どうしようかしらね。
身綺麗になってサッパリした顔をしたエルシドの頬に大きなガーゼがあててあった。
「どうしたの?顔」
「蹴られた」
「まぁ、唯一の取り柄が台無しね」
ムスッとしたまま私の部屋の執務机の前に置いてあるソファに座ったエルシドが大きなため息を吐いた。
「身体を動かすのは慣れん」
そう言ったエルシドを見れば少し落ち込んで見える。
そう言えば治療のために脱がした時は随分とヒョロっとしていたなと思い出す。
「先ず身体を鍛えましょうか」
「わかった」
言われたことは素直に頷くので、暫くは基礎体力をあげさせるしかない。
ここはクレッセン領だ、中規模ダンジョンもあり魔物が近くに存在する。
せめて逃げれる力がないと生きるのに不便だろう。
「我が家の騎士たちに連絡しておくから明日から午前中は鍛えてもろて、午後からは私の執務を手伝って貰うわ」
「うん」
「あと給料のことだけど」
そう言った私を不思議そうにエルシドが見る。
「給料?世話になっている礼がしたいだけなんだが」
まさかのタダ働き希望でした。
そんなわけにいかないので、当面は見習いとして我が家の規定の給与を支払うことで書類を作った。
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