第4話 目覚め
学園時代、一般の生徒とは違う華美な校舎にあった特別クラスに通う生徒は全て侯爵以上の子息女となっていて、一般校舎の生徒とは生活圏が違っていた。
そんな中でも入学当時から注目を集めていたのは第一王子殿下であるレイアードとその婚約者候補たち五人の令嬢。
行事なんかで壇上にあがる姿からは威厳というより高圧的な印象があった。
時々見かけても、婚約者候補筆頭である筆頭公爵家の令嬢にキツく当たっている姿だったし、正直下位貴族からはあまり人気はなかった。
我儘、横暴、そんな言葉が密かに蔓延するくらいには良い印象はなかった。
王家を象徴する艶やかな黒髪を長く伸ばして後ろで纏めた姿こそ、遠目で見れば王子然としていたけれど。
三年になり元平民という男爵令嬢が編入してきてからは、さらに酷くなった。
高位貴族の子息にばかり擦り寄る彼女は一般校舎の生徒から距離を置かれていた、そりゃあそうよね。
婚約者が居ようがお構いなしに身体を物理的に擦り寄せて寒気がする猫撫で声で話す姿は、娼婦のようだと下位貴族の子息たちからも遠巻きにされていたけど。
そんな男爵令嬢を侍らせて公爵令嬢に声を荒げる姿が散見され出した頃にはレイアードの評判は取り返しのつかないことになっていた。
屋敷に連れ帰って三日目の夜、レイアードが目を覚ました。
表情に意思が表れ、長い睫毛の瞼がゆっくり開くとアクアマリンのような空色の瞳が私を見た。
「こ、こは?」
「あら、起きたの?まだ痛いだろうから急に動いちゃダメよ、すぐ薬師の爺さまを呼ぶから大人しくしていてね」
私は手にしていた今日届いたニュースペーパーをサイドテーブルに置いてまだぼんやりとしているレイアードを置いて客間を出た。
「意識もあるしもう大丈夫じゃろ、塗り薬は継続、食事は消化に良い物から慣らしてやりなさいな」
爺さまがレイアードの診察を終えて客間を出ると、沈黙が部屋を包んだ。
ぼうっと天井を見るレイアードに私も特に何か言うわけでもなくいつものようにベッドサイドに置いた椅子に座る。
「ここは、何処だ?」
「クレッセン男爵領」
低い掠れた声で天井を見ながらレイアードが私に問いかけた。
「俺は……街に出た所で後ろから殴られたまでは覚えている、が、何故クレッセンのような田舎に居る?」
「落ちてたから私が拾ったのよ」
「は?」
「だから、路地裏でボロボロになって捨てられて落ちてたから、私が拾って持って帰ったんだってば」
はぁとため息混じりに答えるが、レイアードは理解出来ていない様子。
「あのまま放っておいたら、多分殴られるより酷いことになったと思うわよ」
それこそ、どんな目にあったかわからない。
そう伝えているけれど、わかって無さそうだなとまた私はため息を吐いた。
何かを考えているのかまた黙り込んだレイアードに合わせて私も黙る。
「放っておけば良かっただろう」
沈黙を破って口にした言葉にまたまた私の口からため息が出た。
「それで、ピンク頭はどうしたの?」
「ピンク頭?ああアリサのことか」
ピンク頭の名前ってアリサだったのね、興味なさすぎて知らなかったわ。
「王子ではない俺は要らなくなったらしい」
「でしょうね、特別クラスでどう扱われていたのか知らないけど、一般クラスでは彼女は危険人物として知られていたし」
そう伝えるとレイアードは空色の瞳を見開いた。
「そうなのか?」
「冷静になれば、彼女のおかしさはわかるでしょう?一応貴族なら教育の過程でハニートラップについても学んだ筈でしょ」
「そ、う、だな……そうか、何故忘れていたんだろう」
「馬鹿だからじゃない?」
身も蓋もないけど、そうとしか思えない。
「お前はクレッセン男爵家の娘か?随分な口の利き方をするもんだな」
レイアードは苦い笑いを浮かべて私に空色の瞳を向けた。
「だって、拾ったから私のものだし」
「そうか?まあいい、好きにしろ、どうせ王子でもない俺に価値なんぞないんだしな」
はんっと笑ってそう言うレイアードの瞳が潤んでいるのが見えた。
重たい空気が客間を包んでいた。
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