第2話 落とし物を拾いました
学園に通う間お世話になった子爵夫人にご挨拶をして、領地で待つ両親や弟のためのお土産を物色していると、路地裏にボロ切れのような物体を見つけました。
ピクリとも動かない物体に近づく私に一緒に来ていた侍女のマリアが止めに入りました。
まあどう見ても人ですし、ぼろぼろながらも身につけた服に見覚えがありますし。
「う、う……た…て」
何となく助けを求めている気がしますしね。
仕方ないので面倒事はごめんだと私を恨めしげに見るマリアに御者を呼びに行かせて、私はぼろぼろの人を観察します。
白のフロッグコートには金糸で細かな刺繍が施され、揃いのベストにも同じく刺繍がしてあります。
装飾品の類は見当たりませんが見事な上質のシルクのブラウスは見る影もなくボロボロに破かれて薄汚れています。
それに赤茶色の染みがあちこちに見えますが、恐らく血でしょう。
顔は原型こそ留めていますが、かなり殴られたのでしょうか、腕のあたりの汚れ具合から顔や頭は庇ったのかも知れませんね。
何より目を引いたのは血筋を証明する黒曜石のような黒く艶のあった長い髪は残バラに切られ灰色になっています。
え、一夜で白髪になるとかどんな怖い思いをしちゃったんでしょう。
「殿下?元でーんか!聞こえますかぁ?」
「……う……ぁ……」
意識はないみたいですね。
よく見れば背中に『不良品』『拾ってください』『ゴミ』なんて書かれています、酷いことをしますね。
しかも魔法ペンで書いてあるからこれ洗っても落ちませんよ。
うーん、でもそうかぁ捨ててあるのなら私が拾っても問題ないのかしら。
どうせこのまま捨て置けば儚くなるでしょうしロクな目に会わないでしょうから。
それに捨てられて落ちてるんだから拾った私がどうしようと私の勝手ですよね。
私は一人うんうんと頷いて、駆けてきた御者に命じ帰路に着くために用意した馬車に拾得物を乗せました。
我が男爵領は王都から通常の馬車で一カ月、南東の山間にあります。
物凄く暑い土地柄農作物があまり育たない人口も少ない領地です。
そんな我が領地まで素直に普通の馬車は使いません。
王都を出て暫く行くと停車場があります。
引馬を馬から竜馬に変えます、そうこの世界なんと魔物が存在するんです。
領地の中には中規模ダンジョンもあります、収益の軸ですよ。
まあそれはいいとして、竜馬に馬車を引いて貰えば三日で領地に着きます。
目の前の座席に転がした拾得物の手当てをしながら馬車を走らせて領地を目指しますが、同乗している侍女のマリアの機嫌がすごく悪い。
「お嬢さま、如何されるおつもりですか」
「だって放っておけないでしょう?」
「衛兵に引き渡せば良かったではないですか!」
マリアが言うのもわかります。
「目の前で命の危機にあるものを放って置くわけにはいかないのよ、私だって貴族ですからね」
ノブレスオブリージュ、貴族の義務です。
まあこの世界にノブレスオブリージュなんて言葉はありませんが。
マリアはまだ納得できないのか、ぶつぶつと文句を言いながら私の拾得物のガーゼを取り替えています。
打ち身にきく軟膏を持って来ていて良かったわ。
しかし、骨こそ折れていませんが殴られたり蹴られたりした跡を見る限り、衛兵に引き渡せばそこで人生終了しそうだったんですよね。
複数の靴の跡も見えます、元が白い服だから目立ちますよね。
恐らく、放逐されたばかりで暴行を実行した者たちは何処までが許されるかわからなかったんでしょう。
だから刺したり切り落としたり残る傷を付けるのを戸惑った。
けれど手当もされずそのままにされているのを見て、本当に大丈夫だと実感したら?
見た目だけはそれらしく良いですから、攫ってしまうこともあり得るでしょう。
利用価値は放逐されたってありますから。
私ですらそこまでであれば想像がつきます、実際に何処まで悲惨な目に遭うかなんてきっと私の想像の域を出てしまうことでしょう。
「まあ起きて暴れたら、馬車から放り出せば良いでしょ」
私は先触れのための伝書用の魔法を使い、蜻蛉を手から生み出して手紙を預け窓から飛ばしました。
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