第8話 滝先生から見た真由への評価
・滝先生が本心では久美子より真由を技術的に上だと評価していた可能性
以下、この可能性について考えてみる。
滝先生は関西大会で真由をソリに選んでいる。しかもその関西大会で真由の演奏について他校から(だったか)の評判が良かったというのを聞いたと北宇治部員同士が話すシーンは確かあった。
そういう中で滝先生の内心として真由の演奏技術が久美子より上だと判定済であり、それを偽って久美子に甲乙付け難いと伝えた可能性はあるだろうか。仮にそうだった場合に3期以前からこの3期にかけて整合性が保たれていると言えるだろうか?
私個人としては、彼は技術評価に関しては生徒の内面を気遣って偽りの評価を口にするキャラだという印象は無い。久美子が1年の時はあすかと共に吹く筈のパートで久美子が出来ていないと判断するとあっさり外していた。それに毎年行っているオーディション自体が残酷な選別の連続なわけで、それを散々やってきておきながら久美子の場合に限り、偽りの評価を伝えて再度チャンスを与える、というのもイメージしづらい。その様な目先の感情に流され易いキャラが関西大会オーディション後の部内の動揺に遭ってコミュニケーションを取る程度の対応すらしなかったというのは矛盾でしかない。一応そこは抑えておくべきだと思う。
もう1点。判断自体の合理性の話をする前に、「貴方が部長である以上、部員を納得させなくてはいけません」という台詞に着目したい。私は違和感がある。後述するが3期の投票は1期のそれと内実が異なる。彼自身が放棄した責任を部員達に負わせるというのが実情なのに(最もその負担が大きい久美子に対して)、『貴方の義務』という表現をとるのはどうにも頂けない。滝先生とは、こんな風に客観的事実を把握できない人ではなかったろう。(自身を取り繕っての台詞なら論外だがそれは流石に無いか)。少なくともここはおかしい。ましてやこの直後に久美子と話した『正しい』の概念から見てもちぐはぐである。自分の過ちを認める気が全く無いではないか。
投票を提案した滝先生の心理がどういうものだったのか、もう少し考えてみる。
関西大会のオーディションで自身の判断が元で部員達が揉めた事を彼が悩み、それでも気にしていないかの様に振る舞って(これといった対応をせず)、その後ようやく対応する為に、投票オーディションを部員の総意をまとめる手段として選ぶというパターンは有るだろうか。その判断に合理性はあるだろうか。
久美子・真由の実力差が香織・麗奈と同じ位有ったならば、投票オーディションをとなるのはまだ頷けなくもない。その場合のメリットは5話で記したが、更に付け加えるなら、投票自体には行う意味が大して無く、あれは聞き比べをさせて耳で理解・納得させる、という意味合いが強かったのだと思う。そもそも指導者が存在している状況なのに投票で決めましょうなんていうのはナンセンスに思える。指導者が自身の聞き分ける能力を投票に参加する生徒達と同レベルに置いているからである。加えて聞き分ける能力等にも個人差があるわけで、どれも同じ重みをもった一票、とはいかないだろう(つまりそれによって行われる人選は実力主義から離れていく)。
話を戻すが、まず久美子・真由の実力差が香織・麗奈と同じ位有ったというのは肯定し難い。それこそ久美子自身についての描写を見るだけでも、そこまでの高い壁として彼女が真由を意識していたというのは有り得ないと思う(もう一度見返した方が良いかもしれないが)。何より滝先生が、真由を選び出す結末へ部員を誘導したかったのであれば、久美子に甲乙付け難いなどという表現で伝える筈が無い。彼が迷っていたという事だけは少なくとも真実だったと見て良さそうだ。
となると『微妙だけど真由の方が気持ち若干上かな』程度の実力差だと彼が判定し、投票オーディションを実施したというパターンが有り得るだろうか。それでも彼が無責任なキャラに成り下がるという点が残るので、やはり不整合という結論になるのだが、一応もう少し考えてみたい。
彼自身は真由を選びたいがそれで部内が再び動揺し演奏に響くぐらいなら部員達の判断に委ねた方が返って良い結果に繋がる、という考えだったとする。久美子に「甲乙付け難い」と言った発言は嘘だったという事になるが、対決前に余計な先入観を与えたくないと思い、その様に伝えるにとどめたという辺りか。
しかし、である。部内の動揺で覆ってしまう程度の実力差なら、そもそも彼が部の合奏調和か真由のソリ能力かどちらか片方を選び、説明責任を果たせば良かっただけの話である。「部員による投票に委ねよう」は無責任である。それとも私が知らないだけで高校の吹奏楽部では公式大会でのソリを部員の投票によって決めるという事が普通に行われるのだろうか?
まあ5話で記した通りこの時の北宇治は投票自体が分断を再び生むリスクを孕んでいたし、上述の理由(ナンセンスのくだり)からも、デメリットが大きいと私は思う。一見久美子の主張する実力主義に向かっているようでその実向かってないことは上で述べた。指導者としての責任を放り出してまで採るべき方法だとは思えない。結局のところ不整合さは残るという印象だ。
よくよく考えてみれば、である。部員全員で判断するという敢えて1期と同じ状況を使っているのでともすれば勘違いしてしまうが、1期と3期の投票オーディションは実情が全く異なっている。1期の場合は部員に選ばせる体を取っているだけでその実やっているのは指導者による誘導である。3期の場合は指導者が責任放棄で静観して選択権を部員が持つ、名実共に投票行為である。後者は高校の部活動という場においてデメリットが大きく意義が薄い。つまり滝先生が今回の状況で投票オーディションを行った判断は不合理だったと認識する。
ともあれ、投票オーディション前の段階で滝先生が久美子と真由のいずれが上と判定していたのか、同等と判定していたのかという描写が無いのは(つまり甲乙付け難いと久美子に伝えた言葉が偽りだった場合の話)、ちょっとずるい気がしなくもない。キャラが何を考えているのか敢えてあやふやにすることで、キャラを壊す不整合な判断をしたという事実を覆い隠しているように見えてしまうからだ。どうだろう……穿ち過ぎだろうか。
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