第6話 リアリティ、ご都合主義

SNSで見かけた意見に『現実として今回の様にぽっと出の転校生によってレギュラーの座が奪われるのはよくあることで、むしろリアルだ』というのがあった。そういう事が実際に起こるのは分かる。別に転校生じゃなくても才能の差だってそうだろう。


しかしリアルという点を言うなら、そもそも新任でやってきて指導経験の無い若手が率いる事になっただけで昨年府大会銅賞止まりで新入生歓迎の演奏もその新入生にダメだこりゃと思われるような集団が一月かそこらでマーチングバンドで注目を集める程に上達し、しかも数か月の間に全国大会出場出来てしまう程にまで生まれ変わる事自体、随分なご都合主義である。


それでもご都合主義に視聴者(私)が目を瞑れるのは、それなりに久美子や部員達が努力するシーンを見せつけられ、その動機の清々しさに敬意を表し、部員それぞれの葛藤に共感し、音楽的な知識も少し教えられつつ、等々といった演出がしっかりしてるからこそである。要するに引き込んでくれるからそこの嘘は気にしないよ、となる。


その様に積み上げられてきた納得あるいは共感(要するに本作品を見続けてきた根源)を打ち砕いてしまえるだけの、最低でも匹敵する、出来れば『以上』の納得・共感できる動機によって振る舞うキャラでなければ、登場方法だけいくらリアリアリティがあっても、引き込まれないのである。【ここは黒江真由への印象が少し改まり改稿した】


また、3期はとりわけ練習シーンの描写が少なかった。音楽そのものには重きを置いていない印象だった。舵を切ってしまったという事なのだろうが、そういう意味でも違う色合いの物語になってしまったようで残念だった。


久美子達が中心となって新しくなった部をどの様に作り上げていくのかという期待はあったが、その状況はとりわけ物語後半で久美子を苦しめる装置にしかなっていなかった(前半の描き方に不満が無いということはで全く無い)。喜びとか楽しさとかの感情よりも苦しさとかつらさといった負の感情ばかり描かれていたという感じはする。そしてその回収というか報酬への変換が不十分であったと。

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