第3話 進路選択過程・今と将来というテーマ

書いているうちに少し冷静になってきたと思う。難しい話ではある。


前話で思うまま述べたが結局のところ、投票オーディションの末に久美子が得たものが視聴者にどう映ったか次第でアニメ3期に対する評価は大きく変わってしまうのかもしれない。


久美子の成長 > 最後の大会で久美子が麗奈とソリを吹ける権利


ならば前話で私がした主張も成立しない(久美子は踏み台と称される程の損害を被っておらず大きなものを取得した。真由を踏み台にできた)。……いや、私がそう思ってないからこその前話での主張である。


ただその根拠(既に他の人があちこちで語っている)の話をする前に、私自身の思考整理として思った事を書き連ねる。


・進路選択について

今回投票オーディションで久美子が真由に負けた要因の一つとして、久美子が事前の進路決定において音大進学を選ばなかった(これを書いている時点で最終話は見ていない)事が挙げられると思っている。音大へ進むか否かは久美子と音楽との距離に関わってくるわけで、現役3年生である久美子の演奏心理にも当然影響しただろう(12話大吉山で久美子自身が言及)。言ってしまえば負ける為の自然な流れを作る上で、久美子が音大進学を選ばない(12話の時点ではどうもそうなりそうに思う)という要素はアクセルになったわけだ(それが不自然だった、とまでは言わない)。


私は、この選択過程の心情描写がどうも分かりづらく、久美子の消極的な姿勢ばかり伝わってきた。本来物語を始めさせ動かしてきた久美子の音楽への情熱と密接に関わる筈のこの進路選択は、言わばモチベの射程範囲を久美子が決定する場面なわけだから、姉麻美子や麗奈に言った『何となく』とか『覚悟が持てない』程度の意志表示だけで済ませてほしくなかった。麗奈を知って目覚めた時の様な何か特別な場面を用意してあげてほしかった。


あるいは真由が久美子に音大進学を決定的に諦めさせる程の技術の持ち主として描かれていたなら、真由との一連の対決にもう少し意味を見出せたのだろうけれど少なくともそうではなかった。


ここまで書いていて思ったが、今回の負けを負けで終わらせない為に結局久美子は音大進学を選ぶのであり、今迄の消極的なだけの煮え切らない(好ましくない)態度も、そこへの前置きだったのではないかと思えてきた。どうも松本先生の分かるに決まってるだろは、そこへ繋がるとしか思えなくなってきた。

そうであったら、そこだけは今回の脚本を評価したい。


もう少し音大を選択しない理由に関して考えてみる。


滝先生に甲乙付け難いと評されているので久美子と真由の技術差は言葉通りに解する他ない。であれば関西大会で一度ソリの座を奪われたからといって、真由との比較においては音大を諦める要因にはカウントしづらい。実際(私の記憶の限りだが)、久美子は麻美子との会話で負けた事を悔し気に伝えているが、だからといってそれが音大を選ばない理由だとは描写されていない。そういう発言はさせていない。


・久美子の気質について

久美子には冷静、客観的、物事から一歩引いた視線を持てるという一面がある。中学入学時に『響け!ユーフォニアム』が始まらなかった一因だろう。それは高校に入って麗奈と改めて出会い、あまり前面には出なくなってくるのだが、所々(特に麗奈と接する場面)では顔を覗かせていたようには思う。あの消極的態度にはどうもこの気質がまた現れていたようには思う。


まあいずれにしてもなのだが。

これもSNSだかで見かけた意見だが、進路の話の重要度を高く扱い過ぎたと私も思う。というかそう扱うことで主題を1期2期とはずらしていったのだろうが。


1期2期で先の事よりも『今』を見て一途にとやってきた久美子に魅力を感じていたのだが、1期2期では物語が是としてきた『今』が、思ったよりも早くに優先度を低下させ、『将来(の進路)』がメインテーマに置かれてしまった感じがする。見たかったのは『今』を積み重ねてきた末に辿り着く(@tnt69氏も書かれているところの)『総括』だったわけで、久美子が負けへ向かうという流れにおいては、やはり久美子の今迄が何だか軽く扱われてしまっているという印象で私的には受け入れづらかった。


また大学説明会のシーンも取り立てて久美子が何か影響を受けるというわけでもなく思考を進展させるというわけでもなく、話的にも絵的にも退屈なものだった事も付け加えておく。雰囲気を描いただけだったとでも言うべきか。


将来が久美子にとって重要なのは勿論なのでこの時期でのリアルな優先度設定としてはその通りなのだが、後述するようにご都合主義は1期から存在しており、ご都合主義をどうやって視聴者に受け容れさせるかが問題なのであって、3期以前では重視されてきた音楽への情熱、練習の質、麗奈への憧れ、繋がり、先輩から託された思いとかを鑑みれば、やはり優先すべきテーマは『久美子の将来』ではなく『今』だったのでは、と思う。

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