但馬ツーリング
生野を過ぎたら朝が来る町、朝来町と言いたいところだけど、今は朝来市だし、生野だって朝来市なんだよね。この朝来市ってのも広くて、和田山まで朝来市なんだよ。ホント、そこまでして市になりたいもんなのかな。
生野から三十分ほどで和田山に到着。ここは市街地っぽいな。問題はここからでナビなら県道十号が最短とはなってるけど、
「かなりの峠道みたいですから避けよう」
うん、賛成。そういう道が大好きなバイク乗りは山ほどいると思うけど、殴っても蹴ってもモンキーは非力だもの。そこでじゃないけど円山川リバーサードラインを北上だ。道の駅やぶで休憩と生理現象の解消を済ませたのだけど、瞬さんはナビを見ながら悩んでた。
「ここからなら県道二五五号でも行けるのですが・・・」
どんな道かって聞いたら一宮から神河町に走った道ぐらいだって。走れるのは走れるけど、今日だってまだ先は長いじゃない。
「そうですよね。疲れてるところに峠道は危険ですからね」
そんなに疲れてはいないけど、こういうものは疲れていると自覚した頃には危ないって言うものね。そのまま円山川リバーサイドラインを北上した。これはこれで空いてるし、信号も少ないから快適だ。やがて突き当りの信号になったけど、
「右に行きます」
この道は県道二号なのか。こんなところに県道の二号があるとはおもしろいな。ちなみに県道一号は、
「今が豊岡の日高から竹野を結ぶ道ですが、もともとは豊岡から福知山を結ぶ道でした。これが国道四二六号に昇格したので、ナンバー変更でそっちになってます」
へぇ、どっちにしても県道の一号と二号は但馬にあったのか。ちなみに県道三号は、
「円山川リバーサイドラインの一部です」
これも但馬なのか。つうか瞬さん、そんな事まで良く知ってるものだ。
「いえいえ、ここで県道四号まで突っ込まれたらどうしようかとドキドキしてましたから」
全部覚えてる訳ないものね。県道二号は二号だからどうかはわかんないけど快走路として良いのじゃないのかな。途中で浅間トンネルもあったけど、なかなか立派なトンネルじゃない。ここも峠道みたいでトンネルを抜けると下り道になってる。
出石って地名の入った看板があるし、ここは団地と言うかニュータウンみたいなところかな。なんか新しそうな家が建ってるし、公団みたいなビルもあるぞ。うん! 前方に街みたいなものも見えてきた。モンキーよ、あれが出石の街・・・だと思う。
道路案内にも出石市街が出て来たし、出たぁ、出石蕎麦の店だ。田んぼが左右に広がって気持ち良いぞ。道路案内には橋を渡って突き当たって右か。ここだ、ここで間違いない。ついに出石に到着したぞ。ところでどの店に行くの?
「出石には美味しい店がたくさんありますが、今日は昔馴染みの店にさせてもらいます」
手慣れた感じで瞬さんは出石市街の道を走って、蕎麦屋の前でバイクを停めさせてもらった。ここみたいだ。中に入ると、
「秋野さん、お久しぶりです。どうぞこちらに」
小上がりの座敷にご案内された。どうも予約を入れてたみたいだな。さぁ、食べるぞ、腹減ってたもの。そしたら瞬さんが、
「二十枚で良いですか?」
出石の皿蕎麦は五枚で一人前なんだ。二十皿なら四人前になるけど、出石まで来たなら二十枚ぐらい食べたいよ。待つことしばしでお蕎麦が到着。瞬さんと合わせて四十枚だから壮観だ。
うん、これが出石の皿蕎麦だ、ここまで来ただけの事はあったよ。美味しい、美味しい、いくらでも食べれそう。出石蕎麦は出石の殿様が信州から国替えで来た時に、信州の蕎麦職人を連れて来たのが始まりらしいけど、お殿様もお蕎麦食べてたのかな?
「食べたいから職人まで連れて来ていたはずです」
だよな。お殿様への献上蕎麦なんてのもあったはずだ。お殿様も食べたのならお姫様だって食べてたはず。そしたら瞬さんが真面目くさって、
「マナミ姫様、本日の蕎麦は如何でございましょうか」
そんなもの『美味である、大儀じゃ』が答えでしょうが。皿蕎麦を堪能したら、出石の街の探索のはずだったけど、
「マナミ姫様、こちらにお乗り物を用意いたしましたので、ささ、どうぞお乗り遊ばせませ」
えぇぇぇ、人力車に乗るの。前に来た時に見かけたから乗りたかったんだ。瞬さんと並んで座って、いざ出石観光だ。お蕎麦と人力車を堪能したら出発だ。来た道を引き返したら円山川リバーサイドラインになり、五条大橋東詰の信号を、
「右に曲がります」
えっ、道路案内は直進になってると思ったけど、案内してるのは瞬さんだ。妻になるかもしれないマナミが、夫にしたくてたまらない人の言葉を信用しないでどうするのよ。こっちは広域農道みたいだけど、
「次の信号を左です」
なんにも案内が無いのが不安だな。まさか、いや夫になるかもしれない人、いや押し倒してでも夫にしたい瞬さんの案内を疑うなど許されざる大罪だ。まあ、間違ってたら引き返したら良いだけだよ。それぐらいの迷子は慣れっこだし、それもツーリングの楽しみだもの。
こっちも広域農道だと思うけど、ひよぇぇぇってぐらい真っすぐだな。左右はこれまた田んぼが広がってるから気持ち良い道じゃないの。かなり走ったら久しぶりにカーブがあり橋を渡るのか。
橋を渡ると住宅街と言うか、集落と言うかみたいなのがあって、道は突き当たるみたいだけど、あったぞ、道路案内にコウノトリの郷って出てるじゃないの。信じる者は救われるって昔から言うじゃない。途中で疑いかけたのは神棚に上げて柏手を打っておこう。
そろそろのはずだけど、あったあった、ここを右に入れってなってる。曲がったら正面にそれらしいのが見えてきた。駐車場はこっちみたいだな。停めさせてもらって、いざコウノトリと御対面だ。
と言う間もなく、あそこにいるのはコウノトリだよね。しかも飛んでるじゃない。てっきりゲージの中にいると思ってたけど、自由にしてるのもいるじゃないの。それにしても近くで見ると大きいよ。サギとかカラスとは違うもの。うんと、うんと、鶴とか白鳥クラスじゃないかな。
「日本ではコウノトリと鶴が混同される事もあったようで、日本画でも描かれることがある松上の鶴ってご存じですか」
なんか見たことある気がする。鶴が松の上に止まってるやつだろ。
「そうなのですが鶴は木の上に止まれませんから、あれはコウノトリなのです」
へぇ、へぇ、そうなのか。どっちも白くて大きいものな。ここは来る価値があるよ。コウノトリを繁殖させ、さらに野生に戻す経過は着々と進んでいるみたいだけど、また日本の空にコウノトリが優雅に飛ぶ時代が来て欲しいな。こんな大きな鳥が身近で見られたら嬉しいに決まってる。
コウノトリを堪能したら、来た道を少し引き返し、今度は右に曲がり、さらに左に曲がると国道百七十八号なのか、豊岡大橋を渡ったところで右に曲がれば、またまたまた円山川リバーサイドラインだ。
円山川は但馬の大河だし、母なる川になるのだろうけど、水害も多いらしいのよね。そのせいかリバーサイドラインなのにこの辺から高い堤防で川が見えないのが残念だ。走って行くとJRの駅みたいなものが見えるけど、その手前で右に入るみたいだ。
「この辺に停めさせてもらいましょう」
クルマだったら迷惑駐車になるだろうけど、そこはバイク、しかもモンキーだから許してくれ。そこから歩きだけど、なんか堤防を越える足場みたいな階段を上ると、
「あそこみたいです」
あれに乗るの? あれって遊覧船じゃなくて大型のボートじゃない。でも楽しそうだ。乗り込んで出発だ。対岸に見えるのが玄武洞かな。対岸の船着き場で下りたらここが玄武洞なのか。あれっ、あっちに駐車場があるからクルマでも来れるのか。
「ここもだいぶ変わりまして、かつては対岸に駐車場もあり、流しそうめんの店もあったりして、船で渡るのがメインでした」
そうだったのか。それが水害で高い堤防が作られて無くなり、その代わりに陸路でクルマでも行けるように整備されたのかも。それでも営業してるのは、
「電車で来られる人もいますからね」
だからあんな無理やりみたいな船着き場を作ったのか。それでも船で来る方が楽しいし、嬉しいよ。短くても船旅があれば、テンション上がるし、なんか特別感があるじゃないの。
「喜んでもらえて幸いです」
玄武洞は火山のマグマが冷えて固まった柱状節理なんだけど、ホントに六角形でまるで人工物みたいだ。この玄武洞の柱状節理だけで石材として切り出されていたそうなんだ。その質が良いから産地にちなんで玄武岩って呼ばれるようになりって・・・それって玄武岩の元祖がここなの?
「正式は東大の小藤文次郎博士が玄武洞の名を用いて玄武岩と名付けたとなっていますが、それ以前から呼ばれていたで良さそうです」
そういう元祖的なものが見られるのは嬉しいし、感動する。それにしても見事なものだ。このスケールにも圧倒される気がする。それとこれも驚いたのだけど、玄武洞って綺麗に整備されてるけど入場無料なのよね。
玄武洞の他にも青龍洞、白虎洞、南朱雀洞、北朱雀洞と見て回り、ついでに玄武洞ミュージアムも見学して渡し船で戻らせてもらった。ここも来てみて本当に良かったと思った。もっとショボイものかと思ってたけど但馬を舐めたらアカンと思ったもの。
バイクに乗り込んで出発。さて今日のラストの城崎温泉に向かってGOだ。なんか旅館みたいなものが見えて来たぞ。左に見えているのは城崎駅のはず。どこかで山陰本線を渡るはずだけど、あそこを左に入るみたいだ。
ここは見覚えあるぞ。川があって、両岸に柳並木があるもの。川の堤防みたいなのも石造りみたいだし、石の橋や、クルマが渡れる橋の欄干だって石造りのはず。この風景って城崎温泉の紹介の定番で使われるところのはずだ。
これぞまさしく温泉街だ。宿だって軒を並べてずらりじゃないか。他にもお土産物屋さんとか、食べ物屋さんとか、まさに街って感じがする。見てるだけでザ温泉街でテンション爆上がりだ。ところで今日はどこに泊まるのだろう。瞬さんにも聞いたのだけど、
「お楽しみにしておきます」
サプライズって事だろうけど、この橋を渡るのか。この橋の欄干とか灯篭みたいなものも温泉情緒ばっちりなんだよな。橋を渡ったところに一の湯ってあるけど、これってかの有名な外湯だよね。立派な造りだ、走って行くとまた外湯みたいなのがある。御所の湯って書いてあるけど、まるで神社みたいじゃないか。
それにしても何軒あるのだろ。有馬も大きいけど、あそこって谷の中にあって、旅館とかホテルは崖に点在してるって感じなのよね。それに対して城崎は川の両岸にビッシリ並んでる。マナミはこっちの方が温泉街っぽくて好きだ。
瞬さんが左側の旅館に入るみたいだけど、なんじゃ、これは。シックもシック、ウルトラシックで見ただけで高級感のオーラがビンビンする旅館じゃない。ホントにここなの。瞬さんは玄関に入って、
「バイクはこの辺で良いって」
バイクを停めさせてもらったけど、木造の三階建てだよこれ。とりあえず荷物を抱えて玄関に入ったけど、年代を経た重厚感に気押されそう。あれっ、出てきたのは女将ってやつじゃないのかな、
「秋野先生、ようこそいらっしゃいました。どうぞっごゆっくりお寛ぎ下さい」
女将も貫禄あるけど、応える瞬さんも慣れてると言うか、久しぶりに帰った感があるような。平たく言えば常連ってことになるんだろうけど。どのぐらいの常連なんだろ。
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