零式戦記
零式戦記
作者 まくつ
https://kakuyomu.jp/works/16818093079359949567
二〇九八年、宇宙人「フェイク」の侵略により人類は危機に瀕する。電子機器を無力化する敵に対し、旧式の零式艦上戦闘機が人類の希望となる。六道睦は零戦パイロットとして戦い、AIのエリスと共に任務をこなす。睦は自身がフェイクであることを知るが、人類のために戦い続ける。北京上空のフェイクのコアを破壊する作戦で、睦は自らの能力を駆使して敵を撃破。人類は勝利を収め、二年後、平和な日々を取り戻し、睦は零戦を操縦して希望の象徴として空を舞う話。
文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。
SF。
ミステリー要素あり。
独創的な設定と魅力的なキャラクター描写が光る作品。
SF要素と人間ドラマのバランスがいい。
未来を舞台に、宇宙人と旧式兵器の戦闘機零式が活躍する物語は興味深い。主人公にも秘密があるのも意外性があって、非常に楽しめる。
主人公は六道睦(元フェイク)。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。途中、三人称で少女視点、六道睦視点、神視点で書かれた文体。現在過去未来の順に書かれている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
高度一万メートルの空で、三機の戦闘機が飛行している。一年前、地球人口が百億人に迫ろうとしていた二〇九八年九月九日、突如として宇宙人「フェイク」が中東に出現した。フェイクは最新鋭戦闘機F-45Bコズミックに化け、電子機器を無力化する能力で人類の兵器を無効化し、わずか三日でユーラシアを焦土と化した。人類滅亡が危ぶまれる中、パリ砲による攻撃が成功。電子機器を使わない攻撃が有効と判明し、旧式の内燃機関エンジンの開発が始まった。そして、第二次世界大戦時の日本海軍の主力戦闘機「零式艦上戦闘機」が再び脚光を浴び、人類の希望となった。
未来の日本。六道睦は零戦パイロットとして「フェイク」と呼ばれる敵と戦う。AIの相棒エリスと共に出撃し、九六式陸上攻撃機に化けた敵を撃墜する。任務を終え、空母加賀に帰還。整備班主任の津田や同僚の橘、七瀬と会話を交わす。
日本海での哨戒任務中、六道睦は第七世代戦闘機の存在を察知する。翌日、敵基地への攻撃作戦が発令され、睦は直掩任務を担当することになる。出撃後、予想外に早く敵機と遭遇。睦は零戦の機動性を活かし、高度な技術で第七世代機を撃墜する。しかし、仲間の機体が撃墜されるのを目撃し、怒りに任せて敵機を撃破する。作戦は成功したものの、多くの仲間を失う結果となった。
六道睦が戦友の橘の死を悼む。その後、加賀の艦長室で六道と七瀬は昇進と新たな配属先を告げられる。二人は第八艦隊の旗艦「赤城」へ異動となり、そこで國生慈提督と出会う。赤城は超弩級超長距離砲撃戦艦「富士」を擁する特殊な艦隊であり、フェイクを根絶やしにすることを目的としている。六道は新たな機体「烈風聖華」を与えられ、エースパイロットとしての役割を担うことになる。六道は自身がフェイクであることをエリスに告白し、自らの過去を語り始める。
無色透明の存在「セイム」が少女・六道睦に出会い、彼女を模倣して生活を始める。しかし、謎の敵「フェイク」の攻撃により睦が死亡。セイムは睦を模倣し、彼女として生き、六道睦を殺したフェイクを殺す決意をする。AIのエリスとの対話を経て、睦(元セイム)は自身のアイデンティティを受け入れる。その後、國生提督から「フェイク」のコアを攻撃する作戦を聞かされる。作戦は危険を伴うが、世界を救うため、睦と仲間の七瀬は任務を受諾する。
零番隊の六道睦は、新型戦闘機「烈風」で赤城空母を飛び立つ。北京上空のフェイクのコアを目指し、仲間の七瀬と共に出撃する。途中、先発の攻撃機隊と合流し、大陸に到達。海岸線の砲台を「弐式彗星」爆撃機が攻撃する中、睦たちは突入。超兵器「富士」の攻撃でコアが破壊され、睦は分裂したフェイクを引き付ける作戦を実行。七瀬を離脱させた後、睦は単身で限界を超える速度で飛行。右腕を切断し、その能力を利用してフェイクを撃破する。任務完遂後、失血で気を失うが、医務室で目覚める。エリスとの再会を果たし、新たな人生の決意をする。
北京奪還作戦から二年後、人類は地球外生命体「フェイク」との戦いに勝利した。六道睦は、人型ロボットのエリスと共に平和な日常を送っている。ある日、睦は元同僚の七瀬と共に戦没者慰霊碑を訪れ、戦友たちを偲ぶ。その後、平和記念式典に参加するため、睦は零戦を操縦し、希望の象徴として空を舞う。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場 状況の説明、はじまり
二〇九八年九月九日、地球人口が百億人に迫ろうとしていた時、宇宙人「フェイク」が中東に出現。最新鋭戦闘機F-45Bコズミックに化け、電子機器を無力化する能力で人類の兵器を無効化し、わずか三日でユーラシアを焦土と化した。人類滅亡が危ぶまれる中、パリ砲による攻撃が成功し、電子機器を使わない攻撃が有効と判明。旧式の内燃機関エンジンの開発が始まり、第二次世界大戦時の日本海軍の主力戦闘機「零式艦上戦闘機」が再び脚光を浴び、人類の希望となった。
二場 目的の説明
未来の日本。主人公の六道睦は零戦パイロットとして「フェイク」と呼ばれる敵と戦う。AIの相棒エリスと共に出撃し、九六式陸上攻撃機に化けた敵を撃墜する。任務を終え、空母加賀に帰還し、整備班主任の津田や同僚の橘、七瀬と会話を交わす。
二幕三場 最初の課題
日本海での哨戒任務中、六道睦は第七世代戦闘機の存在を察知。翌日、敵基地への攻撃作戦が発令され、睦は直掩任務を担当。出撃後、予想外に早く敵機と遭遇し、零戦の機動性を活かして第七世代機を撃墜する。しかし、仲間の機体が撃墜されるのを目撃し、怒りに任せて敵機を撃破。作戦は成功したものの、多くの仲間を失う結果となった。
四場 重い課題
六道睦が戦友の橘の死を悼む。その後、加賀の艦長室で六道と七瀬は昇進と新たな配属先を告げられる。二人は第八艦隊の旗艦「赤城」へ異動となり、國生慈提督と出会う。赤城は超弩級超長距離砲撃戦艦「富士」を擁する特殊な艦隊で、フェイクを根絶やしにすることを目的としている。
五場 状況の再整備、転換点
無色透明の存在「セイム」が少女・六道睦に出会い、彼女を模倣して生活を始める。しかし、謎の敵「フェイク」の攻撃により睦が死亡。セイムは睦を模倣し、彼女としてフェイクを殺す決意をする。AIのエリスとの対話を経て、睦(元セイム)は自身のアイデンティティを受け入れる。
六場 最大の課題
國生提督から「フェイク」のコアを攻撃する作戦を聞かされる。作戦は危険を伴うが、世界を救うため、睦と仲間の七瀬は任務を受諾する。
三幕七場 最後の課題、ドンデン返し
零番隊の六道睦は、新型戦闘機「烈風」で赤城空母を飛び立ち、北京上空のフェイクのコアを目指す。超兵器「富士」の攻撃でコアが破壊され、睦は分裂したフェイクを引き付ける作戦を実行。七瀬を離脱させた後、睦は単身で限界を超える速度で飛行。右腕を切断し、その能力を利用してフェイクを撃破する。
八場 結末、エピローグ
北京奪還作戦から二年後、人類は地球外生命体「フェイク」との戦いに勝利。六道睦は、人型ロボットのエリスと共に平和な日常を送っている。ある日、睦は元同僚の七瀬と共に戦没者慰霊碑を訪れ、戦友たちを偲ぶ。その後、平和記念式典に参加するため、睦は零戦を操縦し、希望の象徴として空を舞う。
フェイクの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
本作はSFである。
SFは本当に無理そうなことをありそうに見せ、知能指数を下げずに判断力を下げる遊びである。作者の出したお題に乗らなければ楽しめないし、読者側にもある程度、知識を持っていることを前提にして話を進めるもの。
だから、戦闘機や軍艦、兵器等の知識や歴史などにくわしいことが前提としているため、戦闘機等の描写を最小限に留め、省かれているのだろう。
プロローグからはじまる。その中でも、現在過去未来の順になっている。
冒頭の導入部分は、客観的状況が描かれている。
遠景で、「高度一万メートル。雲を越えた風と光だけの世界」と示し、近景で「風防キャノピーに風が当たり、カタカタと振動する音だけが聞こえる」と説明。心情で「三機の戦闘機は大空を切り裂く」と語っていく。
三機の戦闘機をみせ、なんだろうと思わせてから、世界観の説明がはじまる流れ。
二〇九八年九月九日、中東の紛争地帯に敵性侵略地球外生命体は見たものを真似をし、アメリカ合衆国が中華帝国との技術戦争の果てに英知の粋を集めて完成させた戦闘機F-45Bコズミックに化け、中東諸国は蹂躙、ユーラシアが焦土となるまで三日。
フェイクと呼ばれた地球外生命体は電気を拒絶し、電子機器を無効化したため、最新鋭の無人攻撃機ドローン、ミサイル、指向性エネルギーレーザー兵器などが使えない。そのため、反撃できず、滅亡を待つだけに思われたとき、パリ砲が宇宙人を撃破する。
「十九世紀の第一次世界大戦時、ドイツ帝国軍がフランスの首都パリを攻撃するために建造した超弩級砲だ。射程は実に百三十キロメートル」に「世界最高レベルのスーパーコンピュータ『オーディン』の演算に基づいた砲撃の射程距離は二千キロメートル。着弾の誤差は三百メートル以内」で砲弾をぶっ放し、『電子機器を使わなければ、攻撃は通る』と気付いた人類は、『戦闘機自体も、過去の技術を使えばいい』と思い至り、『零式艦上戦闘機』が選ばれた。
プロローグの世界設定、話の流れは説得力があり、本編は人類の反撃がはじまることを予感させている。読んでいてわくわくさせる導入は実に上手い。
言葉が大きいかもしれない。既存にあるものを使うのは、描写を省くためかもしれないが、知識のない人が読んでも想像できるよう、描写があると、より物語に深く入り込めると考える。
本編の一話では、遠景は「ねえエリス、敵はどこにいるのかな?」会話から始まり、近景で「ここは零戦の操縦席」と説明。心情で「私は戦術支援AI、通称AIRISのエリスに話しかける」と語る。
旧式の技術に、AIを使っている。
電気を拒絶する敵を相手に電子機器はどうなのだろうという疑問が沸く。敵宇宙人に接近する場合は危険なのかもしれない。どれくらい近づいたら、使えなくなるのだろう。
AIが搭載されているのか、無線なのかがわからない。
主人公の名前と所属が説明される。
「私は六道睦。日本防衛団小松基地所属の『零戦』パイロットだ」
「技術革新によって男女の身体能力の差は今では問題視されていない。素人でも高速学習装置を使用することによって一週間足らずでパイロット教育を終えられる時代だ」「今は遺伝子検査で零戦を動かす資質がある奴を選んで案内が来る」「勿論前世紀の赤紙みたいな効力は無い。あくまで個人の任意だ」
藤子・F・不二雄の『T・Pぼん』に出てきた圧縮学習みたいなものかしらん。便利だ。
「私の大切な人は、奴らに殺されたから。だから私は戦う」
家族や友人、恋人かしらん。
可哀想だと共感する。
零式に投資されているエンジンは、物語の中の世界では型落ちで性能は劣るものの、オリジナルに搭載されていたものよりも数倍性能が高いらしい。
「『フェイク』から半径五十キロ以内ではあらゆる電子機器が無力化される。つまり敵まではあと五分ほど。そう思うと少し手が震える」
上下左右三百六十度で半径五十キロ以内にあるものが影響を受けるのなら、上空を通過するだけで地上の電子機器が使えなくなってしまう。
「フェイク」の詳細な描写や背景を追加すると、よりわかりやすくなる。
フェイクも、なぜか過去の大戦時の戦闘機『九六式陸上攻撃機』で登場している。最新機を人類が使わなくなったためかもしれない。
「そもそも『フェイク』が『模倣』に優れている以上、九六式のスペックを上回ることはない。オリジナルの零戦でやれるような九六式に私が遅れをとることはない」
戦闘機以外にも、戦艦に模倣はしないのかしらん。
主人公たちが乗る零式に模倣したら大変だろう。
「奴らを倒したことで電子機器の無力化も解けエリスが戻って来た」『分かりました。本部に送信しておきますわ。それにしても、睦』から考えて、AIは零式に搭載されているのだろう。
「かつて『太平洋の防波堤』と呼ばれていた日本は現在『ユーラシアの防波堤』と言われているいる。理由は単純。『フェイク』をユーラシアから出さないためだ。太平洋に出られたら制海権をとられることになって大惨事になりかねない」
つまり、フェイクはユーラシア大陸上空を行ったりきたりしている、ということらしい。まだ海には出ていないのだろう。戦艦を模倣していない、ということになる。
「機体を叩きつけるように接地し、甲板に張られたアレスティングワイヤーに機体後部のフックをひっかける。こうして無理やり減速しないと空母の甲板の長さでは止まれないのだ。『制御された墜落』とも呼ばれる荒っぽい技術だが今回はスムーズに完了した」こういうところから現実味を感じる。
「レーダーが聞かない『フェイク』に対しては低軌道リアルタイム監視衛星の『ひまわり』シリーズなどによる監視で対応するしかないのだが夜間となると目は使えない。だからこうやって原始的な手法をとっているというわけだ」
フェイクの影響は、地上には現れないのかしらん。
「『フェイク』の半径五十キロ以内で電子機器が使えないのならそれを逆手にとって境界を見つけだす。理論上は境界上の四点さえわかれば中心は割り出せる」
同じことを地上の電子機器を使って境界を見つけることは可能だと思われる。
敵宇宙人は、そのまま宇宙まで上がってからユーラシア大陸以外へ進出することはしないのだろうか。
敵フェイクが「第七世代ステルス戦闘機。二十一世紀後半の標準モデルスタンダード」で登場している。物語の世界にとっての戦闘機も登場している。それだと刃が立たないらしい。
「モニターが輝きエリスが現れた。彼女は自分の後ろに日本海の地図が映し出す」
「私は自室のベッドに寝転がってスマホの中のエリスに話しかける」
どこにいても誰でも、AIのエリスとコンタクトできるような状況にあるらしい。
「ねえエリス。この戦いが終わったらさ、話したいことがあるんだよね」
『睦、それは二十一世紀初頭の言葉でフラグというらしいですわ。控えた方がよろしいかと』
ちょっと笑ってしまう。
でも、主人公には意味がわかっていない。
たしか、出撃前に「この戦いが終わったら結婚するんだ」みたいな、女性絡みの話をすると生きて帰れないことがあった。その後、ネタにされ、死亡フラグと言われるようになったとか。
本作の時代には、そんな考えも廃れているのだろう。
空中戦のドッグファイトの描写はわかりやすく、それでいて白熱しているのがよく分かる。
「ダメだ。後ろにつけても速力で振り切られる。マッハ三を誇る第七世代機は時速換算で四千キロ。こっちの四倍。フェイクがその半分しか出せないとしても二倍の差!『でもさァ、二倍までなら覆せるって、マンガで読んだのよ!』」
マンガかよ、とツッコんでしまう。ここは笑うところかもしれない。
倒したと思ったら、味方がやられる。
「生命体であるフェイクは戦闘機の見た目で倒されても爆発しない」飛散するのかしらん。
勝っても、「第一戦闘小隊、第二戦闘小隊は全滅。第三戦闘小隊二番機、その操縦士である橘霞三等海尉。第四攻撃隊、弐式陸攻三機、内一機の乗員二名」被害は甚大である。
「橘は、死んだ。十七歳。私の一つ下だ。まだあどけなさが残る顔でよく笑う、可愛い少女だった」
若い命が散っていくのは辛い。
長い文は数行で改行。句読点を用いた一文は長くない。短文と長文を使ってテンポよくし、感情を揺さぶってくるところもある。ときに口語的。登場人物の性格がわかる会話文。短い文章を多用し、テンポの良い文体。会話文と地の文のバランスを取り、物語の流れをスムーズにしている。「◇◆◇」などの記号で場面転換を示しているのが特徴。
一人称視点が主流だが、三人称視点も混在させている。 主人公の内面描写を通じて読者との距離感を縮めている。
会話と内面描写を交えながら物語を進行されている。戦闘シーンでは細かい技術的描写とスピード感のある文体を使用。現在形での描写により臨場感を演出している。
感情描写と事実描写のバランスを保っているのがいい。
SF要素と歴史的事実を融合させた独特の世界観を構築している。技術的な説明と物語の展開をバランス良く配置、軍事用語や航空機の専門用語を適度に使用している。
宇宙人と旧式戦闘機の対決や、歴史的事実と未来技術の融合が斬新、特に過去の兵器と未来技術の対比が興味深い。
物語の展開はテンポが良く、緊迫感あふれる描写が際立っている。戦闘機の性能や戦術の詳細な描写が物語の臨場感を高めており、これらの要素が相まって独特で魅力的な作品世界を創り上げている。空中戦のシーンは臨場感に満ちており、読者を引き込む。また、適度に散りばめられた伏線や謎が、興味を持続させる。
主人公の内面描写が丁寧であり、心情が読者に伝わりやすい。特にAIとの会話を通じて主人公の心情が巧みに表現されており、共感を得やすい構成となっている。
SF要素と人間ドラマのバランスが良く取れている。戦後の平和な日常と戦争の記憶を対比させることで物語に深みを与え、エリスとの温かな関係性描写など、人間味のある要素も適切に盛り込まれている。
キャラクターの外見描写を増やすと、想像しやすくなる。
五感の描写について。
視覚は、深い緑色のカラーリング、真っ赤な日の丸、妖しく輝く飛行甲板の誘導灯、真っ青に澄み渡っている空、煌めく海面、透明な何かは集まり分かれ形を作っていく、深紅の零戦、大空へと舞い上がるなど。
聴覚は、風防キャノピーに風が当たりカタカタと振動する音だけが聞こえる、二十ミリ機関銃が火を噴く、四千馬力の発動機が唸り、からからと笑い、声を上げる暇もなく、ドッ!ドガガガッ!、プロペラが回るなど。
触覚は、潮風が流れ込んでくる、歯を食いしばってめいっぱいに操縦桿を引く、潮風になびかせる長い黒髪、少女はそれの手を引いていく、私は足で操縦桿を抑え左腕でスロットルを前回にする、エリスの用意した朝食を食べるなど。
味覚と嗅覚はなし。
五感の描写をさらに増やと臨場感が増すと考える。主人公はファイクであり、模倣する宇宙生命体だから、味覚や嗅覚を避けているのかしらん。AIのエリスに似た存在でもあるためかもしれない。でも人間に模倣しているので、嗅覚や味覚感覚も同じなのでは。そもそも、フェイクは食事をするのだろうか。
主人公の弱みは、精神的感情的な脆弱性があること。
感情的になりやすく、仲間を失った際の動揺が大きい。また、自己犠牲的な傾向があり、過去の喪失体験から大切な人を失うことを極度に恐れている。
自身のアイデンティティに対する不安と葛藤もあり、フェイクとしての正体に悩んでいる。記憶の不完全さによる混乱も抱えており、人間としての脆弱性を感じている。
過去の喪失体験から戦いに執着する傾向。また、戦友の死に対する自責の念や、戦争での自身の行動に対する後ろめたさや葛藤を抱えている。
人間関係の構築に対する不安もある。
これらの弱みは、主人公の複雑な内面と成長の可能性を示しており、命を軽んじる傾向も見られるが、他の弱みと関連しているといえる。
二階級昇進に対して、「これはきっと先の戦闘のことだけじゃない。一番隊と二番隊の全滅の埋め合わせなんだろう」とある。
その後、「続いて辞令を発表する。六道三佐、七瀬一尉は本日付けで新たに編成される『第八艦隊』の旗艦、赤城へと配属となる」人員整理しかしらん。
地球防衛戦線第八艦隊旗艦『赤城』には「誘導灯に従って着艦する。アレスティングワイヤーは必要ない。何故なら大きすぎるから」とある。見た目が描写されないので、本作を楽しむには、ある程度の知識が必要である。
赤城の隣には第八艦隊零番艦『富士』、超弩級超長距離砲撃戦艦が浮かぶ。「長さは五百メートル級の四隻の超弩級戦艦が連結して超弩級の主砲を支えている。主砲の口径は一メートルくらいか? 伝説の超弩級戦艦大和の二倍はある」
かなり大きい、ということがわかる。
日本海に運んでくる際、「ちなみにここ日本海には津軽海峡を吹き飛ばして入って来たぞ。人類の危機なのだからこの程度の些事は気にするな!」といっている。
戦艦のサイズ感がいまいちわからないのだけれども、海峡の幅を広くする以外に日本海に入る方法はなかったのだろうか。
中国や韓国、ロシア、他の国の協力は得られないのかしらん。
主人公に烈風が与えられる。零戦の正統な後継機として開発されたが終戦に間に合わず試作に終わった幻の戦闘機。
「烈風聖華。君の機体だ。二十世紀の時代から紅はエース機の色と決まっている。一説によると紅に染められた機体は通常の三倍速いと言われているぞ。どうだ? 気に入ったか?」
ここは、ツッコミを入れて笑って良いところ。
アニメ『機動戦士ガンダム』に登場する、シャア少佐が搭乗したモビルスーツは赤く、通常の三倍の速さで移動したことから「赤い彗星」と呼ばれた。
赤く塗れば三倍速くなるわけではないし、目立つ色なので、撃ち落としてくださいといっているようなものに思えるのだが。
そこは「カッコいいから」というロマンを感じる人が、赤くカラーリングしたに違いない。
主人公がエリスに、自分がフェイクだと語り、フェイクについて話し出す。ようやく、戦っている敵宇宙人がどういうものなかが語られる。
それ以前に、主人公が敵側だったということが、あっさり明かされる。疑うものは誰もいなかったからだ。
エリスはAIで感情的ではないため、驚いた感じがしない場面でもある。だから、物事を淡々と語って進められるのだろう。
「君達の言う『フェイク』って生き物は、群として個。模倣し、切り離し、存在する。そんな生き物なんだ。私は同種の生命体。それで、数年前にこの地球に堕ちて来たの。フェイクは、私の鼓動を追って地球にやってきたのかもしれない」
主人公は、少女の六道睦と出会い、模倣して、セイムと名前をつけられる。模倣するための数か月後、『謎の戦闘機群 中東を爆撃』が起き、やがて日本にも戦禍が広まり、『福岡の悪夢』と呼ばれる事件で六道睦は死んでしまい、セイムは、死の直前の六道睦を模倣し「奴らを、殺す。私六道睦を殺した、私セイムと同種の生命体。『フェイク』を」と、決意したという。
AIのエリスに話した、というのは良かったのだろう。
『そうですね、、、怖くはありませんわよ。私たちAIRISも同じようなものですから。自我が確かでもコピーされた存在、という点で見れば変わりません』
理解が早い。人間に話すと、自分たちと違うといっては恐怖を抱き、揉め事が起きるだろう。
『貴方が何であろうと貴方は六道睦ですわよ。貴方がどう思っていようと、私から見ればね。私が入っているサーバーが変わっても私は私でしょう? 私たちAIRISにとっては肉体とは所詮器でしかありませんの』
『自我を持ったAIというのは魂に近い存在かもしれませんわね』 AIの考えを人間のものと置き換えて、フェイクである主人公のセイムに当てはめることで、類似点を見出し、理解していく三段論法的なやり方は、読み手も納得しやすい。
デバイスが肉体なら、自我を持ったAIが魂である。
模倣する形が肉体なら、セイムにはセイムの魂がある。
六道睦を殺されたから、仇を打つために戦う。
共に戦い散った橘の思いを受け継ぎ、戦う。
フェイクとの戦いを主人公とエリスで終わらすために。
零式から烈風に変わったところがすでに伏線だったのだろう。機体が変わっても乗り手は変わらない。だから、共に戦えるのだ。
フェイクにはコアがあり、「一つのコアは同時に一つしか模倣できず、一つの模倣には十秒かかる。つまり巨大なコアは一分で六回、一時間で三六〇回、模倣した物を生み出せるというわけだ」という。
作戦は『コアを叩く。それだけですわ。『富士』による超長距離狙撃を軸に『烈風』で支援を行います』
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の使徒か、『ストライクウィッチーズ』のネウロイかしらん。
『それは初期にパリ砲改弐で試されました。しかし効果はありませんでしたの。破壊したコアは崩れて、分裂して、それぞれが模倣した。被害は増大するだけでした。そこで、『烈風』の出番ですわ。『烈風』には構造上の大きな欠陥がありますの。それは一定以上の速度を出すと空中分解する、という点ですわ。これを利用します』
「『富士』で破壊したコアに『烈風』を模倣させる。後は速度を上げさせて空中分解させるだけだ。模倣してから壊せば二度と模倣できない。つまり殺せる、というのは分かっているからな」
なるほど、だから赤く塗ったのだ。目立つために。
速度を上げなければ、空中分解は起きない。どうやって速度超過させるのだろう。
七瀬が「特攻じゃないですか! 私達に死ねってことですか!」と息巻くのは、彼女が人間だから。至極真っ当な反応だと思われる。AIはもちろん、主人公はちがうので、こういう反応はできない。人間味らしい反応をするために、この場に七瀬がいるのだろう。
「國生提督は席を立ち、頭を下げた。ただのパイロットに将官が頭を下げる。階級の違いからしてありえないことだ」
命令を受けて、二人は敬礼し、出撃する。主人公たちは軍人なのだ。
「見えて来た。ユーラシア大陸本土。フェイクの完全な支配領域」
「情報にはあったが実際に見ると恐ろしい。海岸線にずらりと並んだ砲。それらが一斉に火を噴こうとするところに絨毯爆撃が襲い掛かる」
とにかく、フェイクは兵器を模倣することを選んだらしい。
北京にあるファイクのコアは剥き出しに存在するのかしらん。また、どれほどの大きさなのか。その辺りは良くわからない。
初撃で砕き、破片が模倣し、それを攻撃して撃ち落とし、「『富士』は細かい破片を掃討する炸裂弾に砲弾を変更」してさらに数を減らし、残った模倣の敵を空中分解させるために、世界最悪の鬼ごっこをするのが主人公の務めらしい。
「『私は、模倣する!』私は躊躇いなく右腕を切り落とす。無色透明の何かになった元右腕は、操縦席の後ろに吸い込まれていく」主人公はなにかをやっている。なんだろう。
「限界を超えると空中分解する機体。普通に考えれば欠陥機だ。本来はそれを補う術はあったのだが今回の作戦のために見送られた。右腕で分解を防ぐために考案されたパーツを模倣する。『フェイク』と同種の私だからこそできる芸当」
そんなことができるらしい。
作戦が終了し、気づくと 医務室で目覚めている。
どうやって助かったのだろう。パラシュートで脱出したのかしらん。それとも墜落した機体を回収されたとか。海にでも落ちて不時着したのだろうか。
「横を見れば人型の作業ロボットの頭のモニターにエリスが映っている。モニターの中でエリスは涙を流す。機械の体で、私の胸の飛び込んで泣き崩れる」
エリスは実に人間味がある。人間ではないので感情的ではなかったのに、ここでは感情面が描かれている。ちょっと意外だけど、いい場面。機械、AIが涙するところが作品を象徴している。主人公は人間ではなくセイムという宇宙生命体なので、人外だから。
人外のものと人間の交流を描いているわけでもないので、よりそって泣くのはエリスでなければいけないのだ。
死んでおくのが、後顧の憂いも断てたと思う。エリスとのやり取りは、データとして残っているかもしれない。いらぬ揉め事が起きる可能性もあるから。
エピローグは二年後。
「各国軍は超長距離砲を開発、同様の作戦を展開。多大な犠牲を払いながらも地球に存在していた五体のコアは全てが撃破された」とある。パリ砲で破壊したのも入れて、全部で七体のコアがあったらしい。
最初、七つのフェイクが地球に飛来したのかしらん。
「北京奪還作戦から一年後、ドイツ解放戦線第三師団によって最後の『フェイク』が討伐された」
それから一年した世界。
「人間型ロボットの『エリス』は寝転がる六道睦を揺さぶる」
メイドロボ的な存在になっている。
「エリスはその右腕を切り離し、睦に接続する。神経接続式の自在可動義手だ」
義手も進化したものである。
非常に便利。
戦争の影響や社会の変化についても、もう少し紡車されていると良かったかもしれない。
エピローグが三人称で書かれているのは、結末としては客観的状況の説明、カメラワークでいうズームアウトして描いているからだと思われる。
戦没者の慰霊碑に仲間と訪れた後の主人公とエリスのやり取りが面白い。
「『私は結局、私怨をぶつけて殺しただけだからさ……ってちょっと、エリス!』神経接続されていた右の義手エリスが突然制御を失い睦の頭を撫でだす」
自分の手ではないとはいえ、急に意思に反することをしたら驚く。
記念飛行の場面はどこの会場なのかはよくわからない。
記念飛行の際に、
「ねえ、エリス。こんなの戦いの象徴を飛ばすってのはホントにいいのかな?」こういう考え方をするものなのだろうか。主人公はセイムで人間ではないから、と考えれば問題ないかもしれない。
『前世紀にはブルーインパルスという曲芸飛行隊があったそうです。破壊ではなく、人々に勇気を与えるための戦闘機だったと。これは兵器ではなく希望の象徴ですわよ。零から一へ、人類が踏み出すための』
エリスのこの言葉は実に良かった。
最後の、「零戦は再び、何度でも。その翼に希望を広げて、大空へと舞い上がる」は平和になり、希望を感じさせる。読後感も良かった。
読後。読み物として面白かった。
未来と過去の兵器を登場させたSF要素は、斬新さがあった。どこかのアニメ作品などを彷彿させられるも、それはそれ。世にたくさん作品が存在するのだから似通ってしまうのは無理からぬこと。それよりも、主人公と AIの関係性は興味深かったし、スリリングな空中戦の臨場感と主人公の決意、覚悟が印象的だった。葛藤や秘密が徐々に明かされていく過程も魅力的だった。
一部の専門用語や設定説明が難しく感じられたり、もう少し背景がくわしく知りたいと思えたりするところはあったけれど、エリスとの再会シーンは感動的で戦後の二人の関係は温かく、心地よい読後感。素直に楽しめた。
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