好きな子(オタク陰キャメガネっ娘)が喧嘩最強だったんだが…

好きな子(オタク陰キャメガネっ娘)が喧嘩最強だったんだが…

作者 草野蓮

https://kakuyomu.jp/works/16818093082640612892


 神村純一郎は同級生の御厨明日香に恋心を抱くが、告白する勇気がない。御厨は実は厨二病を患い、異星人「宵夜」としての設定を持っている。ある日、神村がチンピラに襲われると御厨が宵夜として彼を助ける。宵夜は地球外生命体の脅威を語り、神村は彼女への想いを告白。御厨は自分の秘密がバレることを恐れつつも、二人の関係を深めようと奮闘。しかし恋路は複雑化してしまい、互いの想いは行き詰まり、二人して助けを求める話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。

 現代ドラマ。

 アクションと心情描写をバランスよく組み合わせた青春ラブコメ作品。

 日常生活と非日常的な出来事をうまく織り交ぜて、キャラクターたちの魅力も際立っている。

 御厨明日香は非常に興味深く、厨二病設定が実に面白い。

 本作をネームにして、漫画にするとより楽しめると思う。むしろ漫画にしやすいのでは、と考える。


 主人公は、男子高校生の神村純一郎の一人称、俺で書かれた文体。途中、女子高生の御厨明日香の一人称、私で書かれた文体と、三人称の御厨明日香視点と神視点の文体が混在している。

 恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の順に書かれている。ライバルは宵夜、結末はまだでていない。むしろ継続。


 それぞれの人物の想いを知りながらも結ばれないことにもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 神村純一郎が高校生活を送る中で、同級生の御厨明日香に恋心を抱くところから始まる。御厨は丸メガネをかけた黒髪ボブカットの女子で、彼女の知的な雰囲気と可愛らしい童顔が印象的である。彼は教室での軽やかな会話を通じて、彼女との距離を縮めようとするが、自身の気持ちを告白する勇気が持てずにいる。二人は特撮番組『覆面バイカー』を共通の趣味として楽しみ、その話題で盛り上がる日々が続く。

 放課後、母から頼まれた卵を買いに出かけた純一郎は、近道をしようとした際にチンピラに遭遇し、危険な状況に陥る。彼は恐怖を感じながらも、持っていた500円しか持っておらず、チンピラたちに金を要求される。絶望的な状況の中、彼は逃げられないことを悟り、意を決して彼らに立ち向かう。しかし、その瞬間、御厨が現れ、彼を助けるという予想外の展開が待っていた。

 御厨明日香の様子は普段とは異なり、冷静でキリッとした口調で話しかけてくる。御厨は、自身が二重人格であり、今は異なる人格「宵夜」が宿っていることを説明する。神村は驚きつつも、宵夜の言葉に耳を傾ける。

「実は、この地球には危険な地球外生命体が潜んでいるんだ」と宵夜は告げる。彼女は、ワームという宇宙人が人間に取りつくことで凶暴化することを説明し、その危険性を訴える。神村はその話に戸惑いながらも、「それが本当なら、どうして御厨さんの身体を使って戦うの?」と疑問を投げかける。

 宵夜は、「私の種族はこの地球で生活するには適していない。だから、この女の体を借りて戦っている」と冷静に答える。「もし私の活動が周囲に知られるようなことがあれば、お前もこの女も殺して別の身体に乗り移る」と警告する宵夜に、神村は緊張感を覚える。

「俺が秘密を漏らさない限り、その御厨さんの身体を傷つけることはしないんだな?」と神村は確認、思い切って告白する。「俺はその体の子が、御厨さんが好きだからだよ。」この言葉に対し、宵夜は驚きながらも笑い出す。「恋愛としての好きか?それとも友愛的なものか?」と問い返す。神村は恥ずかしさから小声で「前者のほう」と答える。

 宵夜は少し考えた後、「安心しろ。この体を喰おうとは思っていない。この女は私にとってライフラインだから」と答え去っていく。

 神村は宇宙人との関わりや恋愛感情について悩みながらも、御厨への想いを抱き続ける決意を固める。「思ってたのとは違う形で御厨さんに告白しちゃったな…」と心の中で呟きながら、彼はスーパーへ急ぐ。

 ある住宅街で、御厨明日香という少女が「御厨」と書かれた家の前で立ち止まる。彼女は軽やかな動きで塀や屋根を使い、二階のベランダに降り立つ。実は、明日香は異星人「宵夜」に取り憑かれており、地球で狂暴化するワームと戦うためにこの姿を借りている。

 宵夜は、地球の空気の汚さにより力を制限され、明日香に憑依し、横暴な人間を制裁してワームを引きずり出す活動を行っている。しかし、この設定は明日香自身が創り出したものであり、彼女は厨二病を患う高校一年生である。

 神村純一郎と遭遇し、彼から告白され「すきってどういうこと!?」と驚く明日香。彼女は自分の秘密がバレることを恐れ、「宵夜」の存在が露見することへの不安に駆られる。

「どんな顔してこれから神村君と話したらいいの!? ちゃんと顔隠しとけば良かったぁ! 私ぃ! 痛恨のミスが過ぎるぅ!!」悩んでいると弟の聡が部屋に入ってきて、「姉ちゃんうるっさい!!!!」と怒鳴る。「ごめん…」と縮こまる明日香。「恋愛小説かなんかを見るのもほどほどにしとけよ?」と言われ、「え? あ!うん!もう寝るね!」と返事する明日香。

 明日の漢字の小テストに備えて勉強があるから静かに過ごすように、と不満を漏らす弟は自分の部屋へ戻っていった。明日香は一人になった部屋でため息をつく。神村くんに自分が宇宙人「宵夜」に乗っ取られているという設定を信じ込ませる必要があると考え、設定を練ることに決める。勉強机に向かい、黒い箱からノートを取り出し、そこには宵夜についての杜撰な内容が書かれている。神村くんとの会話で矛盾が生じないよう、新たな設定を確認しながら埋めていく。

 時計を見ると十二時近くになっており、彼女は神村くんとの楽しい思い出を振り返る。自分のことを好きな人の秘密が明らかになることへの不安を抱えつつ、彼女は覆面バイカーに助けを求めるように星空を見上げる。この夜は、彼女にとって変わった悩みと向き合う特別な時間となった。

 神村は帝采高校バスケットボール部に所属している。体育館の中でフローリングにシューズが擦れる音、バスケットボールが跳ねる音、そして部員たちの声が響く中、主人公はバスケ部の一員として声を出すが、他の部員の声にかき消されていることに気づく。普段なら朝練後に御厨さんと話せることを楽しみにしているが、今日はその気持ちが薄れている。なぜなら、昨日彼女が宇宙人に意識を乗っ取られ、地球を救うために戦っていることを知ってしまったからだ。

 その状況に困惑しつつも、御厨さんへの想いは変わらない。しかし、どう接すれば良いのか分からず悩む。友人の深山翔吾から心配され、相談に乗ると言われるが、自分の悩みを詳しく話すことはできない。彼は「大事なものが壊れたけど、大事にしたい思いもある」と抽象的に表現するが、深山には理解されず、「大事にしたいなら、それが答えだと思う」と言われる。主人公はその言葉に勇気をもらう。

 一方、御厨さんは教室でラノベを読みながらも、昨日の出来事が頭から離れず緊張している。彼女は普通の女子高生として振る舞おうとするが、その裏では自分の好きな相手に対して秘密を抱えるという難しい状況に置かれている。幼馴染の古瀬友美との会話によって、自分の心情を探りながらも、彼女との関係性について考え直す。

 放課後、バスケ部の活動を終えた神村は、一人で帰りながら今日の出来事を振り返る。特に、同級生の御厨との接し方に焦点を当て、朝練で感じた緊張感が嘘のように、自然体で会話できたことに安堵する。周囲の目を気にしながらも、彼女との会話を楽しむ神村は、少しずつ自信を取り戻していく。

 帰り道で見かけた御厨に驚きつつも、彼女との偶然の再会に心が躍る。神村は明るく話しかけ、御厨もそれに応じるが、内心では緊張と焦りが交錯する。御厨が自分のことをどう思っているのか気になりながらも、会話を続ける中で少しずつリラックスしていく。

 会話の中で、彼女の家庭や運動能力について触れ、不安と恥ずかしさを感じる。御厨は運動音痴であることを知られることを恐れるが、彼は無頓着であり彼女との会話を楽しむ。二人はお互いの気持ちを探り合いながら一緒に帰っていく。

 神村と御厨は、突然後ろから声をかけられる。「おうおう、そこのカップルさんよぉ?ちょっといいかぁ?」振り返ると、昨日のチンピラたちが立っていた。神村は照れくさそうに否定しながらも、彼らの挑発に対抗しようとする。

「昨日の体を求めたチンピラたち!?」と御厨が叫ぶと、チンピラは怒りを露わにし、「俺らに楯突いたらどうなるのか、これでわかったろう!?」と神村に殴りかかる。神村は痛みを感じながらも、「こいつには絶対に手を出すな」と立ち塞がる。その姿に御厨は心を打たれ、決意を固める。

「じゃあ、私に二発目を譲ってくれるか?」と御厨が言い放つと、彼女は宵夜としての力を発揮し、チンピラたちに立ち向かう。華麗な技でチンピラを倒し、「もう、私やこの男に喧嘩売るなよ?」と脅す。チンピラたちは恐れおののき、謝罪する。彼女は神村の元へ戻り、感謝の意を示す。

 しかし、その後の会話で神村は「責任取ってくれ」という言葉が特別な意味を持つことに気づき、戸惑う。これに対して宵夜は恥ずかしさから逃げ出してしまう。神村は彼女の反応に困惑しながらも、一人残された道路で呟く。「なんだったんだ?」

 日が経ち、学校へ向かう神村はあの日の出来事について考え続ける。御厨もまた、そのことについて悩んでおり、お互いにどう説明するか思案している。教室で再会した二人は、不安な表情で互いを見つめ合う。

 友人の古瀬が会話に割り込むことで状況はさらに複雑化する。神村と御厨はお互いの心情や出来事について言葉を交わすことができず、二人はヒーローを呼ぶかのように心の中で助けを求めるが、だれの耳にも届かなかった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 神村純一郎が高校生活を送りながら、同級生の御厨明日香に恋心を抱くところから始まる。御厨は知的な雰囲気を持ち、丸メガネをかけた黒髪ボブカットの女子であり、その可愛らしい童顔が印象的である。彼は教室での軽やかな会話を通じて彼女との距離を縮めようとするが、自身の気持ちを告白する勇気が持てずにいる。

 二場の目的の説明

 神村は御厨との関係を深めたいと考え、共通の趣味である特撮番組『覆面バイカー』を通じて彼女との会話を楽しむ。しかし、彼は彼女に対する恋心をどう表現すべきか悩んでいる。

 二幕三場の最初の課題

 放課後、純一郎は母から頼まれた卵を買いに出かけるが、近道をしようとした際にチンピラに遭遇し、危険な状況に陥る。500円しか持っていない彼は金を要求され、絶望的な状況に直面する。

 四場の重い課題

 純一郎が逃げられないことを悟り、意を決してチンピラたちに立ち向かう瞬間、御厨が現れ彼を助ける。御厨は冷静な口調で、自身が二重人格であることと異なる人格「宵夜」が宿っていることを説明する。

 五場の状況の再整備、転換点

 宵夜は地球には危険な地球外生命体が潜んでいると告げ、ワームという宇宙人が人間に取りつくことで凶暴化することを説明する。神村はその話に戸惑いながらも、自身の気持ちを告白する決意を固める。

 六場の最大の課題

 神村は「俺はその体の子が、御厨さんが好きだからだよ」と告白し、宵夜との会話が恋愛感情へと発展していく。しかし、宵夜から「私の活動が周囲に知られるようなことがあれば、お前もこの女も殺して別の身体に乗り移る」と警告され、緊張感が高まる。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 日常生活へ戻った神村と御厨だが、お互いに秘密を抱えたまま再会する。神村は御厨への想いを抱き続けるものの、その複雑な状況に悩む。一方で、御厨も自分の秘密がバレることへの不安に駆られる。再びチンピラたちが現れ、神村と御厨は協力して立ち向かうことになる。

 八場の結末、エピローグ

 チンピラとの戦いを経て、お互いへの理解が深まった神村と御厨。しかし、その後も互いに心情や出来事について言葉を交わすことなく、不安な表情で見つめ合う。二人はヒーローを呼ぶかのように心の中で助けを求めるが、その声は誰にも届かないままである。


 御厨明日香の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 遠景で、「空が青く晴れ渡るある月曜日のこと、俺は軽やかな足取りで教室のドアを開け、自分の席に座り、すぐに体を後ろの席の丸メガネ、黒髪ボブカットの女子の方へ体を向け、手を軽く上げて挨拶をする」と状況を説明する。

「……あ、神村くんおはよう」会話を挟み、近景で「メガネ少女こと、御厨明日香は俺が声をかけると、読んでいたラノベをぱたんと閉じて、丁寧にもペコっと会釈して挨拶を返してくれた」と説明。

 会話のやりとりをして、心情で「御厨がおすすめする本をやんわりと断った事に若干の罪悪感を覚えながら、話題を変える」と進む。

 早いうちから、いつ、どこで、誰が、なにを、どうしたのかということを伝えている。相手の少女の容姿の特徴や動きからどんな子なのかをイメージしやすくして、早々に物語が展開している。


 彼女も『覆面バイカー』が好きらしい。

「彼女とは日曜朝にやっている『覆面バイカー』という特撮が好きという共通点がある。俺もそうだが、御厨も結構マニアで覆面バイカーのことで彼女と話が尽きることはない」

「覆面バイカーのコンセプトは魔法使いや探偵など毎年変わっていくのだが、今年の覆面バイカーのコンセプトは宇宙から来た宇宙人が覆面バイカーになるというもので、昨日の物語は主人公の星から送られた支援物資がようやく届いて一号バイカーが一段階パワーアップした、いわゆる物語の転換点だったから、余計話は盛り上がった」

 最近の仮面ライダーを参考にしていると思われる。

 むかしはバッタだったけれど、長寿番組のスーパー戦隊にあやかってコンセプトを寄せたので、最近のライダーはバラエティー豊か過ぎる。


 宇宙人が覆面バイカーという正義のヒーローになり、なにかと戦う話なのだろう。

 女子が特撮作品を楽しむのは多くないけれども、イケメン俳優をみるためという目的で視聴する大きな女子友達を含めれば、いまも人気はあるジャンル。

 

 主人公の神村純一郎は、御厨明日香に恋をしているところに、人間味を感じて共感する。

「惚れた理由は至って単純なものだった。高校生なのに子供っぽいと嘲笑われ続けてきた趣味を否定するどころか一緒に推してくれ、話も面白い。さらに、メガネで隠れてしまっているが、よく見ると童顔で可愛らしい顔だちをしている」

 趣味も興味も合ったのだ。


「それよりも告白をして断られた時、今までのこの楽しい思い出が一気に悲しい思い出に染まってしまうのが怖くて怖くてしょうがない。だから俺はこのままの関係でいい。この心地良い関係が続けばそれでいいのだ」

 こういう気持ちは、共感できるところなのではと考える。


 帰宅してオムライスの卵がないからと買いに出かける。

 展開が早くていい。読みやすい。

 チンピラに絡まれる主人公。

「たばこ、バイク、改造学ラン、派手な髪色に、体の至る所についているピアス、さらに下卑た笑い」わかりやすい見た目。わかり易すぎる。マイルドヤンキーが多い印象がある。

 二つ三つ揃えたくらいが、現実的かもしれない。

 でも本作はラノベ的で、ラブコメなので、現実の一・五割くらい盛ったほうがわかりやすい。

「路地裏にはチンピラの役満をそろえた三人組」の表現もよかった。

 チンピラとの遭遇シーンでの緊迫感をさらに強化して、よりドラマチックな展開を加えてもいいのではと考える。


「まったく、母さんから卵を買ってこいと言われただけなのに」

 最近の治安も悪くなったものである。


「とはいっても、卵代しかないですよ?ほら、五百円」

「なんだよ! ガキの小遣いかよ! 今時小学生のほうがもっともってるぞ!?」

 そうなのかしらん。最近の物価高で卵も高いし、税金も高い。お小遣いにも世相は反映されているのではと邪推したくなる。


 主人公が立ち向かおうとしたとき、「チンピラが威勢のいい言葉を放ったその刹那。鈍い打撃音と共に目の前の三人組は背を向けた一人の少女に変わっていた」展開が早い。


「こいつでもなかったか。あぁ、そこの者。夜道を歩くのは危険だ。こんなことがあるからな。ほら、とっとと行った行った」

 見知った声。御厨明日香だった。

 声をかけられたときに、

「ギギギ、と効果音がつきそうな程恐る恐るこっちを振り向いたその姿はトレードマークの丸メガネこそしていないが、間違いなく御厨さんだった」漫画的な表現は、雰囲気が出てていい。


「説明しよう。まず、私は確かに御厨明日香である。しかし、今、中に宿る人格は全くの別物だ。そう。二重人格といえばわかってもらえるかな?」「実はこの地球は危険な地球外生命体、いわゆる宇宙人が潜んでいるんだ」「その宇宙人、ワームという個体なのだが、そのワームと私の種族は宇宙で敵対しているんだ。そして、ワームを追ってこの地球にたどり着いたのが御厨明日香の中にいる私なのだ」「私の種族はこの地球で生活するには適していなかったようで、この星の生物に取りつかないと生きられないのだ。そして、それはワームも同じらしくてな。しかも、そのワームを取り入れた人間は凶暴化するんだ。これを食い止めるためにこの女の体を使って、かたっぱしから凶暴化している人間を倒しているのだ」

 そんな説明されても、主人公はついていけないのは無理からぬこと。

 ウルトラマンと仮面ライダーが合わさっている感じかもしれない。憑依なら仮面ライダー電王という作品があった。

 昔、『ヒドゥン』という映画があったなと思い出す。他者の体に寄生する能力を持ち、次々と宿主を変えながら逃げ続けるエイリアンを追っている人は、家族を殺された復讐をするために宇宙から追いかけてきたエイリアンだったと記憶している。


「仕方ないだろう? そういうものなのだから。その証拠にこの女の運動能力は並み以下だったはずだが、ほら、このチンピラを倒すのに数秒もかからなかっただろう?これは私の力をこの女に貸しているからだ」

 普段の彼女の運動能力がいかほどかわからないが、たしかに三人のチンピラを一人で倒したのは凄い。


「私はこの女の記憶は持っているが、逆はそうではない。つまり、この女に私のことを言っても何のことか分からないだろう。あと、お前ではない。宵に夜とかいて宵夜という。そちらの性でいうなら男だ」 

「もう、私は彼女の家に帰るが、その前にお前に言うべきことがある。もし、私の活動が周囲にバレるようなことがあるなら……お前も、この女も殺して別の身体に乗り移る」

 展開がすごい。

 それに対して主人公は、御厨さんの身体を傷つけるようなことをしたら「お前をどうにかして殺す。もちろん御厨さんを救ったうえで」「俺はその体の子が、御厨さんが好きだからだよ」と告白。

 このときの宵夜の反応が面白い。

「盛大に吹き出され、そのまま片手で顔を覆い下を向き、肩を振るわせる御厨さん、もとい宵夜」

 恋愛として好きと聞くと、

「私の星でも、愛には秘められたパワーがあると言われたもの」と顔を背けている。

 去っていく宵夜と、卵を買いに急ぐ主人公。


 締めの「ただ、この恋路はスーパーへの道筋のように単純ではなく、えらく複雑なのだろうと思わずため息をついてしまった。この恋は諦めるべきなんだろうか? 今夜は得体の知れない宇宙人の存在を知ってしまってこのまま御厨に恋し続けることは無謀なことなんじゃないかと躊躇ってしまう自分も嫌になってしまう、そんな憂鬱な夜だった」モノローグは、これから主人公にどんなことが待ち受けているのだろうかとワクワクしてくる。


「御厨が軽く膝を曲げたかと思ったら、猫のような身軽さで塀や屋根、その他足場になりそうな物を使って、その家の二階のベランダに降り立った。その動きは人外じみているが、すました顔でそれをこなす」

 実にすばらしい身のこなし。

 常人とは思えない。

 パルクール選手かしらん。


「地球からはるか遠く離れたコルぺニオン星に住んでいる宵夜は一度取り憑かれてしまえば狂暴化するワームという生命体と長年戦争を繰り広げている。ワームの戦略として、宵夜の星との戦争に勝つために地球人を戦争の兵器にしようとする。そのワームの計画を知って、それを阻止するために地球へ降り立ったが、地球のあまりの空気の汚さに思うように力が出せない。普段の力を出すために偶然通りかかった一人の少女、御厨明日香に取り憑き、毎晩横暴な人間をかたっぱしからぼこぼこにして、その中にいるであろうワームを引き摺り出す……やっていることはチンピラ狩りだが、その仕事を終えて、部屋に戻り、ベッドに寝転がれば、元の御厨明日香の人格に戻る……という設定である」

 読んで、笑ってしまった。

 

「すべて、御厨明日香の茶番。あの人外じみた身体能力も御厨が自ら身につけたもの。やけに長かった設定も宇宙から来た生命が地球を救うという覆面バイカーに憧れてそれを元に御厨が考えたもの。その設定を元にチンピラをボコしているのも御厨。御厨明日香は高校一年にして厨二病を患っている」

 痛い子だったのね。

 とはいえ、チンピラを倒し、軽々と二階のベランダに上がるなどの身体能力は本物だということ。そこは素直に凄い。


 告白されたことで意識してしまう。

「彼、神村純一郎は普通にかっこいいのだ。学校全体がウワサになる超イケメンというわけではないのだが、狙ってる女子が数人はいるというウワサを聞いたことがある」

 主人公の容姿を他人からの指摘で表現するところはいい。

 

 「今の私にとって学校の誰かに厨二の私が広められることが何十倍も恐ろしい。そんな私の姿を完璧に学校の人に見られた。幸運なのは見られたのが私が創った設定ウソを純粋にも信じる神村くんであったこと。不幸なのは宵夜を見られたのが自分に好意を寄せてくれる神村くんであること!!」

「いつも話す男友達が私のことが好きだと発覚&そのことは絶対に口外できない&その人に私の黒歴史を握られる。うそみたいだろ。今日一日で起こったアクシデントだぜ。これで……」

 ジョジョのジャン=ピエール・ポルナレフかしらん。


「どんな顔してこれから神村君と話したらいいの!? ちゃんと顔隠しとけば良かったぁ! 私ぃ! 痛恨のミスが過ぎるぅ!!」 たしかに顔を隠しておかないと、やられた相手からの報復が考えられる。どこでご近所さんがみているのかもわからない。

 ちなみに、いつからこのような活動をしているのだろう。


 弟にもバレることはなかった御厨は引き出しから設定ノートを取り出している。

「中学の授業中に書いたポエムや学校にテロリストが来る小説に紛れて隅っこに書いた宵夜に関すること。今見たらあまりにも三十秒クオリティの杜撰な物である」

 こういうことを書いたことがある人は、共感できるだろう。

「神村君に言われても矛盾せずに対処できるように新しい真っ新なページを開いて設定を確認しながら書いていったらあっという間に見開き一ページが埋まった」

 非常に真面目な一面。

 厨二病が広まるのを恐れての行動だろう。


「神村君と距離を取った方がいいのかなぁ? 今夜は自分のこと好きな人のことを知って、その人に恥ずかしい秘密を知られたりしてしまった。どうか、その悩みをすべて倒してくれと覆面バイカーに助けを求めるように窓越しに暗い夜に浮かぶ星を見つめる、そんな変な夜だった」

 彼女の締めも、モノローグが語られている。

 つまり、神村と御厨は対の存在であり、二人の基軸に物語が展開されることを示しているのだろう。


 長い文は五行くらいで改行。句読点を用いた一文は長過ぎるところがある。読点を使わない一文は、落ち着きや重々しさ、説明や弱さなどを表している。短文と長文と組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶってくるところもある。

 一人称視点で進行し、主人公の内面や感情が詳細に描写されている。主人公の心情や思考過程が豊かに表現され、読者はその内面的な葛藤に共感しやすいスタイルが特徴的である。

 現代的な口語体、登場人物の心情や状況に応じて文体が変化することで、緊迫感や感情の起伏を効果的に伝えている。会話部分では口語体を使用し、キャラクターの感情をリアルに表現している点も特徴的。

 軽快で親しみやすい言葉遣いを用いており、日常的な会話がリアルに描かれている。若者特有の言葉や表現が多用され、キャラクター同士の会話部分は自然でリズミカル。

 甘酸っぱい恋心と緊張感が交互に表現され、恋愛要素が強調されている。特撮文化への愛情もリアルに描かれ、特に二重人格というテーマが扱われることで、ユーモアとシリアスさが交互に挟まれている。

 主人公の不安や期待感など、細やかな心理描写が施されており、キャラクターの個性が際立つ。明日香の心情や反応が詳細に描かれ、共感を呼び起こす効果があるのがいい。


 主人公の恋心や日常生活が共感を呼び起こし、読者が感情移入しやすい。特撮番組という要素を取り入れ、キャラクター間の絆を強調している。

 キャラクター同士の対話が生き生きとしており、特に神村と宵夜のやり取りには緊張感とユーモアがあり、読者を引き込む力がある。異なる人格との関わりを通じて、人間関係の複雑さや恋愛感情の葛藤が巧みに描かれている。

 キャラクターの内面描写が豊かであり、特に明日香の厨二病とその葛藤がリアルに表現されている。また、ユーモアを交えた描写が読者を引き込みやすくしているのも特徴。

 主人公の独特な思考や創造力が際立ち、読者は彼女の視点から物語を楽しむことができる。ユーモアと切実さが交錯する描写が魅力的であり、キャラクターの個性も際立っている。

 キャラクター間の対話が自然であり、リアリティを感じさせる。主人公の内面的な成長や気づきが描かれており、共感を呼ぶ。

 神村の内面的な葛藤や成長過程が丁寧に描かれており、読者は彼に感情移入しやすい。日常的な会話が自然で、キャラクター同士の関係性がリアルに感じられるところがいい。

 神村と御厨、それぞれのキャラクターが明確であり、特に神村の優しさと御厨の強さが際立つ。チンピラとの対立シーンでは緊張感が高まり、読者を引き込む力がある。

 愛や友情、自己犠牲など深いテーマが織り込まれており、単なるアクションだけでなく感情的な深みも提供しているのが特徴。


 視覚は、御厨のメガネの光り方や教室の明るさ、御厨の顔や声から感じ取る異なる人格の表情や口調、明日香がベッドに横たわる姿や部屋の様子、部屋のヒーローグッズや星空、知っている背中や周囲の景色、チンピラたちの威圧的な姿や神村の表情変化、体育館内での動きや表情など。

 聴覚は、チャイムや会話の音、宵夜の冷たい声と御厨の普段の声との対比、聡の怒鳴り声や周囲の音、弟の不満や静けさ、バスケットボールの音や部員たちの声、生々しいキャラクター同士の会話やチンピラたちの嘲笑など。

 触覚は、恋心によるドキドキ感や緊張感、緊張した空気感や威圧感による身体的反応、ベッドの感触や身体的な緊張感、ノートや黒い箱を開ける感触、ボールや床との接触感、緊張による心臓の鼓動や体温など。

 嗅覚・味覚は少ないが、スーパーへの急ぎ足から生活感が伝わり、学校生活や家庭環境から想像できる日常的な匂いや味わいが感じられる。


 神村の弱みには感情の不安定さがある。

 神村は御厨との関係に対して不安を抱えており、自分の気持ちに正直になれない。告白することへの恐怖から、関係を進展させることができない。

 また、異なる人格「宵夜」との接触によって、自身の行動や選択が影響されやすい脆さが見える。優しさゆえに他者を守ろうとするあまり、自分自身を犠牲にしてしまう傾向もある。

 御厨明日香の弱みは自己偽装。自分自身を偽り続けているため、本当の自分を受け入れられず、他者との関係において不安や恐れを抱えている。特に、運動能力へのコンプレックスから運動音痴であることを隠そうとする気持ちが強い。

 神村との関係に対する不安や、自分の秘密が知られることへの恐怖が、物語全体に影響を与えている。また、自身の厨二病によって周囲から誤解されることへの恐怖も大きい。

 二人に共通する弱みとして、コミュニケーションのジレンマがある。両者ともに、自分の本音を隠さざるを得ない状況にあり、それが対人関係における緊張感や不安を引き起こしている。特に異性とのコミュニケーションに対する緊張感が際立っている。

 このような主人公たちの弱みは、恋愛に対する臆病さと自己認識の葛藤に深く根ざしており、成長や関係性の進展に大きな影響を及ぼしていく。


 主人公が、バスケ部での朝練風景がはじまる。

 端的な状況描写の理由は、昨夜の出来事があるから。モノローグで語られており、頭の中では「どう接すれば良いのか分からないというのが本音である」と考えてばかりで、行動にキレがないことをチームメイトから指摘されている。

 

「なにより秘密をバラしたら殺すと脅されている以上、御厨さんとのこの心地良い関係も終わるどころか人生そのものが終わる」

 実にシビアな縛り。

「えーと。うーん……大事なものが壊れたけどまだ大事にしたい思いもあるし、諦めなきゃっていう気持ちもある……的な?」

 相談したくてもうまく言えない。

 実に可哀想で、ますます共感する。

 そんな抽象的な質問にも、考えて答える深山はイイやつだ。


 神村の一人称で書かれていた場面から、教室ラノベを書いている三人称、御厨視点に変わる。

 書き方を統一したほうがいいのではと考える。

 前半では、一人称の神村視点の後、御厨視点になっている。

 同じように、一人称の御厨視点で書いても良かったかもしれない。

 本当は、章立てて三人称で描くのが理想である。


 御厨にも古瀬という親友がいる。

 神村と対になって描かれていくのは、展開がわかりやすい。


「ぷっ! なぁに? どしたん?そんなビビっちゃってぇ? 可愛い声出しちゃってぇ? 男狙い?」

「び、びびってねぇし……男狙いじゃねぇし……」

「ぁぁぁぁあああ!!! 照れちゃってぇ! かわいいいい!!!」 かなり砕けた喋り方。親友との親密度が伺えるところが良い。


「あはは、ほんと、分かりやすいよね。確信はなかったけどその反応で察しちゃった。で? 何を困っているんだい? 迷える子羊ちゃん?」

 見抜いたらしい。さすがは幼馴染の同性。

 

「えーと、ちょっと人との付き合い方が迷子というか……どうやって接したらいいのかわからないんだよね……」

 神村同様、抽象的にしか相談できない。

 相手も教えてもらえなくとも、「月並みなことしか言えないんだが、私から言わせてもらえば、人なんて出会っては別れるを繰り返すもんだからその人との関係性に困るくらいなら離れればいいと思うんだが……私の個人的な意見を言わせてもらうと明日香は多分その人とは離れない方が良いと思う」

「明日香がそこまで人間関係について悩んでいるのってすごく新鮮に感じるんだよ。ほら、だって明日香、結構こだわりは強いよね? その分興味ないことはすっぱりやめるじゃん? ……単刀直入に言うとさ、いまの明日香、いつもよりこだわりがあってめんどくさいなって思った」

「でもさ、めんどくさいってその人との人間関係を本気で考えないとめんどくさくなれないんだよ。多分明日香がそう感じる人ってレアだからさ、幼なじみ的にはそういう人がいてもいいんじゃないか……って思った次第です」

 実にいいことをいう。

 面倒くさいはいつも大事、と宮崎駿もいっていた。


 古瀬は去り際に「ごゆっくり」と言い残し、神村がやってくる。

 さすがは幼馴染の女子、といったところ。察しが良い。


「今日は古瀬さんと何の話してたの?」

「……世界情勢について有意義な意見交換を……」

 返事がベタとはいえ、面白い。

 その後の、御厨の心の声が面白くて笑ってしまう。

 いい加減な返事を信用する神村を心配しつつ、「それに神村君はなんでそんな平常心で入れるの!? てかいつもよりすっきりした顔に見えるんだけど!? 自分で言うのもあれだが、夜な夜なチンピラをボコしているクラスメイトと普通に喋れるのすごくない!?」

 このとき、神村はどんなことを思っているのか覗いてみたい。


「もちろん、人が大勢いる中なので、『昨日のあのチンピラを瞬殺したやつどうやったのー?』なんてことを口走ってしまえば最後、周りの人だけでなく、御厨さんにもドン引きされ、さらには御厨さんの中にいる宵夜に口止めで殺されるので、それは大いに気を付けたがあまり憂うことなく御厨さんとの会話を楽しむことができた」

 神村は神村で、大変なことになっている。

 御厨の厨二病設定のおかげで、二人して、しなくてもいい気苦労に振り回されている。


「一発で察した古瀬には幼馴染パワーってことで納得できるし、朝、顔を合わせた瞬間に違和感に気づいた弟にも弟パワーってことで納得できるのだが、今日の家庭科の授業で家庭科のおばあちゃん先生にも気づかれたのは何で??」

 弟にも、男絡みで悩んでいると思われたらしい。

 家庭科のおばちゃんの場面は描かれていないが、恋愛で悩んでいると思われたらしい。

 

 ストレス発散から宵夜になって外へ出ていく。

 いつからこんなことをしてきているのかしらん。きっかけはなんだろう。覆面バイカーをみた影響なのだろうか。


 神村に声をかけられて、「……あ、あぁ!神村くん、奇遇だね!」と答えている。宵夜になって出かけたはずなのに。すでに設定が崩れている。


「……白々しすぎる二人の会話にツッコミたい気持ちもわからなく無いが、お互いが自分のことにいっぱいいっぱいでお互いの違和感に気づかない」

 ここは三人称の神視点で書かれている。

 一人称と三人称が混在しているので、本作は三人称で書くべきだろう。


「今度の悲鳴は純粋すぎる神村の返答と、そんな人に嘘をついているという罪悪感のダブルアタックを食らった時の悲鳴である」

 半角文字のカタカナで表現している。

 カタコトの日本語的な言い回し。

 この辺りは、漫画的な表現。

 こだわりを感じる。


「本当なら一緒に帰るなどというリスキーな選択肢は取りたくはない。ないのだが、即興で誤魔化すのが下手だと自覚している御厨はここで不自然に離れるか、自然に一緒に行くかという二択を突きつけられ、結果、後者を選んだ。表面上は笑顔だが、よく見るとその顔は引きつっており、心臓に至っては神村にもその心音が聞こえるのではないかというレベルでバクバクいっている」

 この辺も三人称。


(私はただのJKの御厨明日香! 私はただのJKの御厨明日香!)

(御厨さんと一緒に帰れるなんて! どうしよう! なに話そう?)

 二人の内面が面白い。

 御厨はJKだといい続けているということは、宵夜ではないということをいい続けているのだろう。

 思うに、このままずっと御厨明日香として過ごしていったら、二人は付き合えると思う。


 御厨の運動能力について書かれている。

「長座体前屈、上体起こし、二十メートルシャトルラン、ハンドボール投げは、普通の運動できない女子が叩きだす記録としてふさわしい物だった」

「問題は握力、反復横跳び、五十メートル走だ。中学からここまで成長すると思ってなくてつい運動部女子と並べても遜色ない記録を叩きだしてしまった。そして立ち幅跳びに至っては着地する寸前に真下に見えた数字は三メートルだった。後で調べてみると女子の中ではトップレベルの記録だと知った」

 部活は帰宅部とある。中学時代はなにかやっていたのかしらん。それとも小さいころから、野山を駆け回り、木登りなど日常的にこなすような生活をしてきたのかしらん。


「丸メガネのラノベを読む少女といういつもの姿からして普通の人はそう判断するし、体育も目立った活躍はしていない。そして、それは神村も決して例外ではない」

 ひょっとすると、ずば抜けた身体能力を隠すために丸メガネの陰キャを装い、とはいえジッとしていられないから日頃のストレス発散のために宵夜となってチンピラたちをボコってきたのかもしれない。


 神村の父親が元プロバスケ選手だという。

 彼のほうが凄い。

「ママはパートで、パパは警察官。いまは確か警備部って所にいるんじゃなかったかな?」

 明日香が宵夜になったルーツが語られる。

 オタクになったばかりの中一女子の御厨は、覆面バイカーのアクションに心奪われ、警察官だった父親が教えた護身術を磨いて、「夜な夜なチンピラを瞬殺している化け物ファイターが誕生」したらしい。

 元々体を動かすのが好きな子だったのかもしれない。

 二人の会話の部分は、説明的過ぎるところもあるので、スピーディーにテンポ良くすると緊張感が維持できると思う。


 チンピラに再び遭遇する二人。

「おうおう、そこのカップルさんよぉ? ちょっといいかぁ?」

「え、えへへ。俺らはそんなんじゃ……」

 照れくさそうな顔で振り返る神村。まんざらでもないという顔をしていたに違いない。

「昨日の体を求めたチンピラたち!?」

「何もかもちげぇ! チンピラでもねぇし、体求めてもねぇし! ってか、そんなことはどうでもいい!」

 笑ってしまう。

 特徴的な台詞を使っておくと再会したときに使えるし、記憶にも残りやすい。しかも笑える。うまい使い方だ。


 宵夜になるとき、御厨の一人称に切り替わっている。

 三人称と一人称をコロコロを切り替えているのは、キャラクターの内面を描きたいため。三人称はカメラワークのズームアウトのように客観的状況が描ける。対して一人称はズームインしてキャラの心情をより深く描ける。

 そのために変えているのだろう。


「私は周りにどう思われようと構わない。しかし、私が取り憑いたことにより、この女の評判が落ちるのを恐れて夜にしか行動をしなかっただけ。そして、神村。お前はこの女の事が好きなんだろう? この女はお前に対して悪印象を持っていない。むしろ逆、心の中で神に魂を売ってでも助ける気概だった。だから、私が躊躇いなく出てこれた」

 あとで、家に帰って思い返したら、悶絶してしまうだろう。

 

「宵夜はまるで覆面バイカーの如く華麗なキックとパンチでチンピラを三十秒も掛からず倒すとチンピラのうちの一人の髪をつかんだ」

 読者は覆面バイカーのアクションを見ていないので想像できないが、きっと仮面ライダーみたいなものだろうと思うことで、それなりに想像できる。仮面ライダーを良く知らない人でも、正義の味方のアクションを思い浮かべるだろう。

 できるなら、どの様な動きをしたのかを示すといいと考える。


「い、いやぁ、その、こんな時に思うことじゃないんだが、『責任取ってくれ』って言葉が御厨さんの声で言われたのがクるものがあるというか……お前は他所の星から来たから知らないだろうが、その言葉は……えーと……この星の物語ではそういうことをする前の男女が言うテンプレの言葉なんだが……」

 責任取るというのは、結婚するという意味合いなのだけれども。「この星の物語ではそういうことをする前の男女が言うテンプレの言葉なんだが」は、わかりにくい。

 神村としては恥ずかしい中、いいにくいところをなんとかしていったのだろう。そのへんの動作や所作も描いていると想像しやすいかなと思う。

 でも、宵夜は男という設定なので、更にややこしい。

 

「あれから日が経ち、翌日」

 とにかく次の日、という意味かしらん。

 あれから日が経ちというと、数日が過ぎ去った感じがある。


「ただでさえ水曜日と折り返しで休みが遠く感じる日だというのに神村は頭を搔きむしりながら登校するほどストレスを感じていた」ストレスで禿げてしまいそう。

 

 古瀬が話に入ってきたことで、昨日の話をしなくてはならないけれど、神村は宵夜のことが話せないし、彼がそんな事を話したら、御厨は厨二病だと幼馴染に知られてしまう。

 二人を助ける人は誰もいないという、自分たちのルールで縛って動けなくなって困っている姿は、面白いけれども、困った二人だなと一緒になって頭を抱えてしまう。

 ここは嘘をついて、神村がチンピラを追い払ったとするのがいいと思う。


 読後。喧嘩最強だったが、厨二病でもあったという。二人の恋路は前途多難である。

 学校を舞台にして非常に親しみやすく、恋愛とアクション要素の組み合わせがよかった。ストーリー展開は予想外で興味深く、二人の独特な発想や葛藤には共感でき、青春特有の悩みがリアルに描かれており、読者層の十代の若者も親近感を抱くだろう。

 もう少しアクションシーンを描いてもいい気がする。でも、二人の関係にはドキドキワクワクした。

 本作はラブコメなので、二人の悩みが解消され、結ばれてしまったら終わってしまう。互いに協力しながら乗り越え、距離を縮めていってもらいたいものである。

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