星の子たち
星の子たち
作者 @QuantumQuill
https://kakuyomu.jp/works/16818093082959601787
少年は見知らぬ黒い世界で目覚め、極めて白い羊雲が漂う荒野を歩き続ける。白い直方体の建物で、バイクに乗った異星人セググと出会い、彼の家に滞在することになる。二人はシリカ茶を飲みながら会話を楽しむが、少年は自分の居心地の悪さを打ち明け、セググとの時間を大切にするようになる。やがて少年は新しい仕事を始め、セググとの絆を深めていく。しかし、ギヌイ邸での恐ろしい出来事を経て、セググが虹色の光となって消えると、少年は孤独な運命を受け入れる話。
文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。
ファンタジー。
異世界転移もの。
独特な世界観と心理描写や星の子であるセググとギヌイなど魅力的なキャラクターは印象的。多くの謎が残されたままなところに考える余地を与えている。
三人称、少年視点と神視点で書かれた文体。
女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。
ある夜、少年は見知らぬ黒い世界で目覚める。そこは建物も人影もない荒野で、ただ極めて白い羊雲だけが空を漂っていた。少年は不安を抱えながら歩き続け、やがて白い直方体の建物を見つける。そこで出会ったバイクに乗った背の高い男・セググに招き入れられる。
セググの家で、少年は自分の世界のことを語り、セググは「星の子」としての出生を明かす。二人はシリカ茶を飲み、シリカ葉巻を吸いながら会話を楽しむ。しかし、眠気を覚えた少年はベッドに横たわり、セググの家に居候させてもらうことを願い出す。セググは微笑むだけで、少年は眠りにつく。
少年は見知らぬ世界で目覚め、セググという異星人に出会う。セググの家に滞在し、シリカ茶を飲む。翌朝、少年は外の無機質な世界に違和感を覚える。セググと砂丘へピクニックに行き、ギヌイという友人と出会う。砂丘で少年は過去の記憶を思い出す。友人との鬼ごっこや勉強会での孤独感が蘇る。少年はセググに自分の居心地の悪さを打ち明ける。二人で砂丘を歩き、季節の変化に気づく。少年は宇宙の仕組みについて考え、セググと対話する。
黒く乾いた世界で、少年はセググという「星の子」と出会い、共に暮らすようになった。この世界では季節の変化が気温の変化だけで表現される。少年はバイク操縦を習得し、シリカ葉巻の重要性を知る。ある日、ギヌイという別の「星の子」から依頼を受け、シリカ素材の配達を始める。少年は新しい仕事に楽しみを見出し、セググとの対話を通じて成長していく。「星の子」たちが七年で星に命を返す運命を持つことを知り、少年はセググとの時間を大切にする。セググのいない地球には戻りたくないと思うようになった少年は、この黒い世界に新たな美しさを見出していく。
少年は目を覚まし、軽やかに体を持ち上げる。部屋にはセググがいた痕跡が残り、シリカ茶の香りが漂っている。朝の茶を淹れ、外の景色を眺めながら飲む。深い黒さの空は変わらず、無慈悲にも見えるが、同時に優しさを感じさせる。少年はギヌイ邸に向かう準備をし、セググから頼まれたシリカ飴のアイデアを持って出発する。
庭を出てバイクの点検を行い、動力を入れるとバイクは渋い音を立てて動き出す。ギヌイ邸に到着すると、迎えはなく一人で邸宅内を探すことになる。居間にはギヌイの姿は見当たらず、静寂が広がっている。音の方へ進むと、キッチンで湯が沸かされている音が聞こえ、少年はさらに邸宅の奥へと足を進める。
廊下には光がなく、不気味な暗闇が続く中で、壁に書かれた文言『星の子はその功績を伴ひ天命に帰す』を見つける。少年はその意味を理解できないまま進み続ける。そして「ギヌイ私室」と書かれた部屋から虹色の光が漏れているのを発見し、中に入ると目を奪われるような光景が広がっていた。
その光は居間へ流れ込み、シリカの森が枯れ始める。少年は恐怖から逃げ出そうとするが、床が崩れ始め、急いで駐輪場へ向かう。バイクに乗り込むと、邸宅は崩壊し始め、美しい形状が消えていく。少年はセググの家へ急ぐも、バイクが故障し、高くから落下してしまう。
痛みを感じないまま立ち上がり、セググの家へ向かうと、庭で点検しているセググを見つける。しかし、その瞬間セググは虹色の光となって消えてしまう。少年は彼の言葉を思い出し、自身もまた孤独な世界で生きていかなければならないことを悟る。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場 状況説明、物語のはじまり)
少年が見知らぬ黒い世界で目覚める。周囲には建物も人影もなく、ただ白い羊雲が漂う荒野が広がっている。この異様な環境に不安を抱えながら、少年は歩き続ける。
二場 目的の設定
少年はこの世界での居場所を求め、セググという異星人と出会う。セググの家に招かれ、彼との交流を通じて自分の存在意義や目的を見つけようとする。
二幕三場 最初の課題
少年はセググの家での生活を始めるが、この異世界での孤独感や不安に直面する。最初の課題は、彼が新しい環境に適応することである。
四場 重い課題
次第に少年は、自分の過去や友人との思い出に苦しむようになる。この重い課題は、彼が心の中で抱える孤独感と向き合わせることである。
五場 状況の再整備、転換点
少年とセググは砂丘へピクニックに出かけ、そこで季節の変化や宇宙の仕組みについて考える。この経験を通じて、彼は自分自身と向き合う機会を得る。
六場 一番高い障害(最大の課題)
少年はギヌイからシリカ素材の配達を依頼され、新しい仕事を始める。しかし、その仕事を通じて彼は大きな危険に直面し、自らの成長を試されることになる。
三幕七場 クライマックス、最後の課題
ギヌイ邸で恐ろしい出来事が起こり、邸宅が崩壊し始める。少年はセググを失う危機に直面し、その瞬間に彼自身も孤独な運命を受け入れることになる。
八場 結末、エピローグ
少年はセググとの思い出を胸に、新たな美しさを見出してこの黒い世界で生きる決意を固める。
黒い世界の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
遠景で、「それは遠い遠い何処かの話……」と示し、物語の始まりを告げ、近景で、「少年はようやく目を開ける」と主人公を説明、心情で「少年が昨晩床に就いたのは、二十五時のごく浅い、夜の始まり。次に目を開けるとき、少年は当たり前に床に就いた時と同じ天井を見るはずだった。しかし、今、少年の目に写しだされる情景は、まったくそうではない」と物語が語られていく。
目覚めると真っ黒の世界。
空には極めて白い羊雲が浮かんでいる。
それ以外は、空も大地も真っ黒。
それでは、空と大地の区別がつかない。
雲だけが白く、それ以外は黒の、モノクロの世界が広がっている。
「少年は彼が目撃していることを『夢である』と断言できる確たる根拠を持ち合わせていない。それに、少年が自分の頬をつねってみたり叩いてみたりするが、この『夢もどき』が覚める気配がしないことも、少年が夢かどうかを精査することの無意味さを示している」
冷める気配がないだけで、痛かったかどうかは書かれていない。
つまり、この世界は夢である可能性は捨てきれない。
「少なくとも、少年が懸念するべきは、『夢かどうか』ではなく『これからどうするか』だった」夢であれ、違うであれ、どうするかは大事なことである。
本作は、どこへ向かいたいのかが、今ひとつわかりにくいところがある。その理由としては、主人公がどうしたいのかがよくわからないからだ。
「広がる光景は、黒い荒野。しかし、遠くの丘の上に、ぽつんと建物があるのが見えた。少年は、希望を以てその建物を目指す」
世界は真っ黒なので、建物があるとわかるなら、色は白なのだろう。
「近くから見ると、建物も大地と同じく有機的ではない。色は白色。形は、八つの頂点を持つ直方体型――いわゆる豆腐型の家である。壁には『田』の形の窓がひとつ、その隣にあっさりした内開きのドアがあるだけだ。ドアに至るまでに、三十平方メートルほどの庭がある。庭に緑はない。庭からドアまで、直線的な道が掛かっている」
世界は真っ黒。どこを歩いているのかもわからないのに、二話があるとはどういうことだろう。また直線的な道がかかっているともある。
モノクロの世界なので、道も庭も白なのかもしれない。
だったら、少年が歩いてきたところは道ではなかったのか。
描写がよくわからない。
プロペラの付いたバイクに乗って、二メートル以上で細身の人物が現れる。
人もバイクも認識できるということは、白なのだろうか。
特異な世界において、どの様にみえているのか、読者に想像しやすく表現してほしい。
「彼の顔もこの時初めて見た。彼はハイライトがない暗い目をしていた。しかし、それは放任主義のようでもあって、彼なりの優しさの在りようみたいだった」
むしろ、モノクロの漫画のような世界なのだろうか。それならば、それらしく描写をしてほしいと思っていると、「少年は彼の家に入る。彼の家もまた、外形通り淡白だった。白い部屋に、白いテーブル、白いキッチン、白いベッド。白い棚に白い植物が添えられている」とある。
こういう描写が欲しい。
相手は二メートルを越えた人物。もう少し容姿や、どんな表情、声なのか、描かれていると想像しやすい。読者はどういう人物を想像したらいいのだろう。
シリカ茶ということは、この世界に水はあるらしい。
どんな色なのだろう。やはり白なのか。
少年の話をして、今度はシリカ葉巻を持ってくる。
「シリカ葉巻だ。シリカの葉が使われている。私たちを眠りから遠ざけ、鋭い集中と共にさせるだろう。宵のただ中だが、私は君とまだ話したい」
シリカ茶も、おなじように眠気を遠ざけるものなのだろう。
火をつけたとき、青い火と、薄青い煙が上がる。
モノクロの世界にはじめて別の色がでてきた。
「私たちは『星の子』だ。星とは、私たちを産み落とすとされる目に見えない神様のことだ。彼はあの黒い空の果てにいると言われている。そして時に羊雲から私たちを眺めているそうだよ。私たちはある時、空の果てから流れ星として落ち……」
神様の子で、神は羊から眺めているらしい。
その話を誰から聞いたのだろう。
「生まれて六年しか経っていない」とある。
のちに、七年しか生きられないことがわかる。だから、「六年しか経っていない」とする考えは、少年のものなのだろう。
「朝と夜は睡眠を基準にしている。眠くなるころから夜で、眠りから覚める頃が朝。だから、景色は昨晩と何ら変わりない」
シリカ茶を飲むことで眠くならないのなら、起きている限り夜は来ないことになる。
「外に見えるものは何もない。庭にも草は映えていない。全てが直線で構成されたような、無機質で、面白みがなく、淡々とした世界。音がない世界。ただ白い雲だけが地平線に進んでいる」
そんな景色を見ていると、セググが帰ってくる。少年は、「ここは学校に似ているんです」という、
「友達と遊ぶときは本当に幸せです。でも、この暗く、閑散とした世界いることと、学校の中で過ごすことは、共通点がある気がするんです。その正体は分からないけども」
少年は、学校生活を、無機質で面白みがなく、淡々と過ごしてきたのだろう。学校が楽しくなかったのだと想像する。
そんな気持ちを抱いていたから、黒い世界に招かれたのかもしれない。
「出発地点だったセググの直方体型の家は、二次関数的に存在感を失っていく。少年はその小さくなりゆく白い建物を眺め続ける。セググは運転に集中して話さない」
ここの描写がいい。
学校に行っていて勉強が趣味だという少年らしさがでている。
「砂丘は、少年に故郷の面影を想起させた。少年の故郷たる地球において、この黒い荒野と様相が似る環境は、砂丘や砂漠、サバンナほどである。少年はさっきと地面の質と起伏くらいしか変わらない光景ではあるものの、強烈なノスタルジーを感じた」
砂丘も黒いのかしらん。
今ひとつ想像しにくい。
ギヌイの容姿が描かれている。
「セググの名を呼ぶ彼は、バイクが地面に付くのが待ちきれずに、途中で飛び降りてこちらに駆けてくる。大柄だ。セググと同じく背丈は二メートルは超えている。服飾はいわゆるストリートな感じで、隙間が多そうだ。髪は真ん中で二つに分けられていて、やや長い。彼が近づくたび、彼の声は大きくなる」
セググも同じように描かれていたらわかりやすかった。
「ギヌイと私は生まれてからの友だ。私が生まれた年と同じ年に生まれたのは、ギヌイと、あとほんの少ししかいなかったからね。加えて、私とギヌイは同日に生まれたんだ。何かしら星から共通したものをもらったんだろう」
最後、ギヌイが消えたあとセググも消えてしまう。
あとほん少ししかいなかったとあるので、どこかに、同じ年に生まれた星の子が住んでいるのだろう。
「ここに来たのは、少年の悲しげな表情を治すためだよ。君は無意識に、この黒い世界に居ることと、元居た学校での生活に共通点を見出している。君が元居た世界に戻っても、君に十分な幸福は訪れないだろう。その不安を払拭してやりたい。君が見た共通点とは何だい」
セググは優しい。人間味を感じる。
「セググの声が、耳の淵を優しくなぞって、奥の方へ流れ込んでいく。その声色の潮流は、道なりに、奥へ奥へ進み、僕の内耳へ侵攻する。内耳の中のカタツムリの殻を沿って進み、やがて脳裏に到達する。彼の優しい声のメロディはじっくりと僕の脳を浸ひたしていく。太平洋の、清いサンゴ礁の海に抱かれている感じ。その魔力のようなものは、僕に忘れかけていた記憶を思い出させようとする。それは黒い世界と学校生活の共通点を示すものであろう」
セググの声を聞いたときの、少年の体感の描写が、かなり独特で好印象だったことを伺わせている。聴覚を視覚と触覚をもって表現し、「太平洋の、清いサンゴ礁の海に抱かれている感じ」比喩をも用いている。
未清算の過去に触れて、触発されたことで、少年は思いだす。
「僕はかつて、同じような砂丘に友人と一緒に来たことがある」と過去回想が始まる。
「学校の仲間とバカ騒ぎするのはとても幸福です」「でもそれ以上に、他と比べて異常な勉学者としての僕の成分が、僕に居心地の悪さを訴え続けていたんです」
賢さゆえの孤立、孤独をかかえていたのだ。
だから学校生活を、無機質で面白みがなく、淡々と過ごしてきたのだろう。
その気持ちがあるから、黒い世界に招かれたのかもしれない。
少年の過去や地球での生活についてより具体的に描写し、物語の展開をより明確にし、中心的な葛藤や目標を設定すると、理解しやすくなるのではと考える。
風の雰囲気から少年は、「この無の象徴のような荒野にも、季節は巡るんですね」と気づく。
「大気温度が変わるという意味としての季節が存在するなら、あの黒い空のどこかに熱源があって、この大地はそれに対して公転運動をしているんでしょうか。それともこの荒野は大地が温まるシステムを持っている? 少なくとも、地球では前者の通りでした。太陽があって、地球が回って……セググさんはどう思います?」
セググに尋ねると、「そうだね。どうだろうか。もっと詳しく知りたいな」と優しい表情でいう。
セググにもくわしくはわからないのだろう。
「黒く、乾き、寂しい世界での季節の変化は、気温の変化だけだった」気温の変化だけで、湿度もないのかしらん。
「前の春」「夏」「後の春」と季節の変化を読んでいる。
もうじき「冬」があけるとあったので、少年が来たのが冬の季節なのかしらん。
「星の子」の世界についてもう少し詳細な説明を加え手もいいのではと考える。少年は、セググから黒い世界について、なぜ学ぼうとしないのだろう。勉強が趣味ならば、得体のしれない世界を前にして、好奇心がくすぐられてもおかしくない。それがないのはなぜなのか。
バイクで空を飛ぶ少年。
「バイクはかなり高高度で飛行しているので、うっかり平衡感覚が崩れると大事故に繋がりかねない。少年は一旦、空中でバイクを停める。バイクは空気を割く音を出しながら停まる」
黒い世界に、羊雲の白しかないからだろう。
羊雲の上を飛んでいるのだろうか。その辺りの描写がない。
「ずっと淡々と代り映えしない景色」としかないのでわからない。
「少年は旅路を進める。少年が咥えた煙草が終わる時、少年は目的地を視界に入れる。それは、セググの家など比べものにもならない豪邸。いくつもの白い立方体がつながり合ってできた構造体で、ところどころ、一面丸々抜かれた立方体の面があったりする。たぶんあれはバルコニーだ」
とにかく、遠く離れたところにギヌイは住んでいるのだろう。
「広い森が広がっている。生えている木はみな均一な高さで、葉も幹さえも白い。あれがシリカの森のようだ。セググの家の小鉢に生えていた小さな苗の大きさとは全く違う。目の前のシリカの森は、まるで何万年もの月日をその土地の守護者として過ごしてきたかのような貫禄を備えている」
シリカの森は白いのがわかる。
そうすると、黒い世界を飛行していると、羊雲以外にもいろいろなものが見えてくるはず。
特異な世界舞台にしているので、少年が見えている世界を描写されていないと、読者はどの様な世界なのかを想像しにくくなるので、必要なところは描かれてほしいと思う。
「声の主はセググと同じ2にメートル超、いわゆるストリートな格好をしている。白ぶちのサングラスを、額にかけて、また、髪は二つに分けられている。左手をポケットに突っ込んだまま少年に挨拶をした彼は、ギヌイである」
黒の世界にサングラスを掛けたら、真っ黒でなにも見えないのでは、と思えてくる。
「俺たち『星の子』は星から産み落とされる。だが、同時に星に必ず命を巡らせなきゃいけない運命にもある。俺たちは生まれてからちょうど七年で天命を終える。星に命を返すのさ」
ギヌイから衝撃的なことを告げられたとき、「立方体の構造物の外のシリカの森で、純白の葉がさらさら揺れる。ほのかに走る風によって、塩のように白い花粉が渦を巻いて舞う。僕らは一緒にそれを見つめている。ギヌイは杯を持ち直す」独特な状況描写が、寂しさを醸し出しているように思える。
「セググは寝台で本を読んでいた。『星の子の昇天と神のすみか』という題である。以前セググに聞くと、それはこの世界でいちばん拡散した書物らしく、『星の子』は誰でも知らぬ間に入手しているそうだ」
書籍から、自分たちが七年で天命を終えるといった知識を得ていたのだろう。
「彼曰く『この本は私たちの心の現れなんだよ』らしい」
意味深である。
彼らにとっての生き方、バイブルみたいなものなのだろう。
「少年は、あの砂丘の日から彼の知識をセググに披露することを躊躇わなくなった。その日あった出来事を事細かに教えたり、それを学校や本で学んだ知識と併合させた考えを話したりした。それは少年にとって夢のような心地で、学校では絶対できないことだった」
少年にとっては知古の友を得たような感覚だったのだろう。
思い出を語るときは、「少年はそのモノクロの世界が、セググと話している時は特段、目を焼くほど美しく見えた」とある。
懐かしさまで覚えるようになっているのだ。
少年からは、年寄り臭さを感じる。
若者が昔を懐かしんで語ってはいけない。新しいことを想起できなくなった証であり、昔語りは年寄りの特権である。自分にはもうなにもない、といっているようなものだ。そんなときに浮かべる笑みは寂しさを感じさせる。
少年は「セググさんがいない、地球には帰りたくない」が口癖になっている。でも、彼は返答しない。
もうすぐ星に命を返すと知っているからだろうか。
それとも、地球に戻して上げる方法がわからないから、黙って聞くしかないからかもしれない。
長い文は、八行くらい続くところもある。句読点を用いた一文は長過ぎることはない。短い文と長い文を織り交ぜたリズミカルな文章。登場人物の性格のわかる会話文。一人称視点と三人称視点の混在し、対話を通じた物語の展開、詩的な描写と現実的な会話のバランスがよく、独特の世界観を細かい描写で表現し、SF的要素と心理描写の融合が見られる。
異世界と現実世界の対比が巧みに描かれており、読者を引き込む独自の雰囲気を醸し出しているところがいい。物語全体に漂う神秘的な雰囲気や美しい描写が印象的。現実と非現実の境界を曖昧にする幻想的な雰囲気でありながらも緊迫感がある。
少年とセググの対比を通じた興味深い関係性が描かれ、彼らの絆が深まる過程が丁寧に表現されている。少年の心理変化や成長が細やかに描かれ、感情移入を促してくる。
描写には五感に訴える詳細な描写が多く含まれており、特に視覚的な要素が強調され、情景描写が豊かで世界観を味わえる。シリカ葉巻や「星の子」など、独自の設定も効果的に使用されているのがいい。
主人公の成長や葛藤が丁寧に描かれており、物語を通じて彼がどのように変わっていくかが見どころ。物語には自然に哲学的な問いかけが織り込まれており、考えさせられ、生と死についても考察されている。
これらが物語に深みを増し、強い印象を与えているところが良かった。
五感の描写について。
視覚は、黒い大地、極めて白い羊雲、白い建物、砂丘の景色、黒い荒野、白いシリカの森、立方体の建物、崩壊する邸宅、虹色の光など。
聴覚は、静寂、バイクの爆音、鍋のふつふつという音、風の音、シリカ葉のさらさらという音など。
嗅覚は、シリカ茶の湯気、シリカ葉巻の煙、シリカ茶の芳しい匂いなど。
触覚は、無機的な地面の感触、ティーカップの温もり、シリカ茶の熱さ、砂の感触、風の感触、バイクの振動など。
味覚は、シリカ茶のクセのある味、シリカ菓子の味、茶を飲む際の温かさなど。
主人公の弱みは不安と孤独感をかかえていること。状況への理解不足から、セググに頼りがちになる。
自分の知的好奇心が他者に受け入れられない不安や、新しい環境への適応の難しさも弱みとしてある。バイク操縦中に注意力が散漫になったり、地球での思い出を懐かしんだり、セググへの強い依存心がみられる。
孤独感や不安感に苛まれており、セググたち大切な人との別れによって精神的に脆くなる。また、自身のアイデアを忘れるなど、自信の欠如も見受けられる。
「白さを湛える雲は、いつもより遅いペースで地平線に向かう。それは、不気味なほどに」
いつもと違う変化を見せている。
『星の子はその功績を伴ひ天命に帰す』
標語のようなものがでてくる。
また、「ギヌイ私室」で「少年が中で見たものは、虹色の光の淀み。このモノクロの世界で見かけることが全くなかった色彩を激しく主張する、流体みたいなもの。正体は分からない、しかし太陽のように眩しく輝いている。その淀みは少し蠢うごめいている。それはしばらくして部屋の外に出ると、床を伝って居間への一本道の廊下を辿り始めた」とある。
光が空へと登った後、シリカの森が枯れ、建物が崩れていく。
つまり、建物も、シリカの森も、ギヌイ作り出したものだったのだ。彼の功績とともに、天命に帰ったため消えてしまったのだ。
突然でもないけれども、やはり予想外で、少年同様読者も驚きと興奮を覚える。星の子が天に登っていくのは想像がついたとしても、シリカの森や建物まで消えてしまうのは想定外。
バイクが地面に落ちたとき、「とても大きい痛み。だが少年はそれを感じない。認識しない。少年がセググの家に到達しようという強い思いは、強大な痛みを忘れるほどのものである」とある。はたしてそれだけなのか。この世界は夢かもしれない。
少年が推察をつげると、「彼の首に音もなくひびが走る。それは咄嗟のことだった。そのひびは瞬く間に首全体に広がり、砕け散り、セググの頭が落ちる。少年はあわてて、頭が地面にぶつかる前に捕まえる。セググの頭ではない体は、首が取れたところから虹色の眩い光を溢れ出させる。虹色の流体が高く噴き出して、庭に大きく広がった。体はその虹色の淀みの上に倒れ、横たわる」という状況が起きている。
七年すれば星に帰ることはいわれていたので、この展開は予想がつく。とはいえ、目の当たりにするのは衝撃的である。
「君は大丈夫。この半年で強くなった。孤独にも耐えられる。自分を鼓舞できる。それに、君は元の世界、地球に帰る努力をしなくちゃいけないよ。『星の子』はみな短命だから、いつまでもいられないし、いついなくなるかも分からない。私のようにね」
「地球の人たちはみな私たちよりもずっと長生きだ。君は良い友達を見つけて、交流を享楽できるだろう。穿つような眼差しを忘れてはならないよ」
まさに遺言である。
穿つとは射抜くような眼差しということだ。
どんなときにも、曇りなき眼差しでまっすぐ見ることで、物事の本質や道理、意思や意図を見抜くことを忘れてはいけないと教えているのだ。
学校生活を、無機質で面白みがなく、淡々と過ごしてきたのは、穿つ眼差しをもっていなかったからだ。
「頭に溜まっていた虹の淀みはすべてこぼれ落ちてしまった。少年は地面に溜まっているそれをかき集めて、またセググの頭に戻そうとする。何度も何度も、小さな手を動かして、嗚咽が混じった泣き声で小さな雫を入れる。でも、セググは動かない」
ここの描写を読んでいるとき、ケネディ大統領が暗殺された場面の映像をふと思い出す。
リアリティーを感じる。
セググの家を表現するとき、立方体としていた。崩れるときは豆腐のように崩れていうという表現が、想像しやすいだけに、形も残らず消えていく寂しさを如実に感じさせられる。
セググが消えると、痕跡もきてしまった。
そして冬が訪れる。
「少年の中には消えることない火が灯っている。青い火だ。そして充満する薄青い煙、クセのある匂い」シリカの効果で、眠くないのだ。だがやがては効果が切れるだろう。
「彼の次の目的地は分からない。だが、彼は遠い遠い何処かで、地球に帰る手順を見つけるだろう」
おそらく眠くなり、次に目覚めるときは元の世界にもどっているかもしれない。それは読者の想像に委ねられているだろう。
最後の状況描写は、「極めて白い雲は漆黒を湛える空の中を、地平線の果てへ、かつてない速さで泳いでいる」主人公の心情を表している。どこへ急いでいくのか。それはわからないが、若者は常に、ここではない何処かへを求めて行くものである。
読後。
少年の孤独感や内面的な葛藤が非常にリアルに描かれていて、心に響く。セググに頼り切りになり失う状況は、私たちが時折経験する孤独や不安を思い起こさせる。
逃避要素が強く、少年がこの世界に来た理由や、得たものが曖昧であることが、逆に彼の苦しみを深めているようにも感じた。
成長しないまま物語が進む点では、私たちも人生の中で成長を感じられない瞬間があることを思い起こさせ、共感を呼ぶだろう。
作品の終わりが開かれたものであるのは珍しい。
おかげで考える余地を与え、読者の解釈を引き出そうとしているところが魅力でもある。
少年は地球に帰れるのか、成長できるのか、そうした問いかけが残り、考えさせられた。
セググたちは星の子と呼ばれているが、私達人間もまた、地球が生み出した星の子供たちである。
限りある命を与えられ、何かしらの功績を残し、この地を離れる。生きた思い出は残るとしても、気づきあげた人生は、終われば消えてしまう。たとえ形あるものが残ったとしても、いずれはこの世から失せる。
とくに、親や年長者は、確実に子供より先に天に帰る。
たとえば祖父母と出会って、いろいろな話をしても、必ず先に逝ってしまう。面影もぬくもりも残らずに。
それでも、残された者は生きていかなくてはならない。頼れるものを失っても、どこへ向かうのかわからずとも。
まさに少年が黒い世界へ迷い込み、体験した生き方を、私達はしているのだ。本作は読者に、自身の立ち位置を気づかせ、あなたならどうするのかと問うているのだろう。
不思議な世界観、幻想的な雰囲気と謎めいた設定に引き込まれる。少年とセググの関係性に心を動かされるし、哲学的要素や美しい描写もあるが、展開がやや遅く、主人公の行動に物足りなさを感じる場面もある。全体的に、孤独や人間関係の複雑さを考えさせられる深い作品であり、読後感が強く印象に残った。
少年の物語が私自身の経験と重なり、感情的な影響を与える作品だと思う。
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