夢を見た
夢を見た
作者 ニニ
https://kakuyomu.jp/works/16818093083050611353
広早華名は、高校生活を送りながら、中学時代の初恋相手を忘れられずにいる。友人の由衣と恋愛の話をする中で二次元のキャラクターに夢中になり、現実の恋愛に対しては消極的。ある日、夢の中で初恋相手と再会し、告白の場面が浮かぶが、現実では告白されたことを拒否してしまう。華名は自身の感情と向き合うことに葛藤しつつ、恋愛の経験が必要だと感じ始めるが、心の奥では複雑な思いを抱えていく。由衣に影響されてスクールメイクをし、彼女たちとの会話で自分の価値観や感情のズレに気づく。特に遥に惹かれながらも、恋愛への理解が不十分で苦しむ。カラオケで由衣の誕生日を祝う中、遥との関係が進展する期待を抱くが、友達としての関係を大切にしようと決意する話。
文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。
現代ドラマ。
華名が高校生活を通じて自身の恋愛感情やアイデンティティに向き合う作品。
全体的にリアルな描写と繊細な内面の葛藤が魅力的。蛙化現象や、LGBTQ+を扱っている点が現代的で、主人公の成長や変化も感じられて、読者層には共感しやすいだろう。
主人公は、女子高校三年生の広早華名。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。
高校生活を送る主人公・華名は、親友の由衣と日常的に恋愛の話をする日々を過ごしている。由衣は彼氏とのトラブルを語り、華名は興味を持たない振りをしながらも彼女の話を聞く役割を果たしている。そんな中、華名は最近見た夢を思い出し、初恋の相手を懐かしく感じる。彼女は恋愛に対する憧れを抱きつつも、過去の思い出にとらわれ、新しい恋に踏み出せずにいる。教室で孤独を感じ始めた華名は、恋愛の重要性に気づきながら、複雑な心境を抱えている。日常の中での友人との絆や、恋愛への期待が描かれ、彼女の心の葛藤が浮き彫りになる。
華名は、不安定な夢から目覚め、友人の由衣との会話を通じて、恋愛に対する複雑な感情を抱えている。下駄箱での告白を経て、彼女は恋愛経験を持つことの重要性を考え始める。由衣の励ましもあり、彼女は告白を受けることに決めるが、実際の告白は公開され、華名は緊張から逃げ帰ってしまう。
その後、華名は夢に登場した過去の出来事を思い出し、自分の嗜好と向き合うことになる。中学時代に抱えた恋愛の葛藤や、自分の気持ちを隠さざるを得なかった環境に苦しむ中、文化祭での再会を通じて少しずつ自己表現の道を模索する。
友人との会話の中で、華名は自分が持つ恋愛観の違いを再認識し、心の中にある孤独感や葛藤を深く感じる。彼女は恋愛が「LIKE」と「LOVE」の問題ではなく、全く異なるものであることに気づく。そして、恋愛に対する自分の気持ちを理解するための旅が始まる。
華名は、最近見た夢の中で特別な女の子に告白されることを待ち続けていたが、現実ではその気持ちを表に出せずにいた。夢の中のシーンは印象的で、彼女はその女の子と過ごす時間を切望している。しかし、目が覚めた後は、夢の内容が悪夢に変わり、心に不安が残る。学校に行くと、友人の由衣が華名の顔色を心配し、最近の告白騒ぎについて話を振る。
教室では、華名の席が他の生徒に奪われ、彼女は周囲の視線にさらされる。由衣や他のクラスメイトが華名の告白逃げの話をする中、華名は自分が恋愛に対して持つ独特の感覚について悩む。特に、恋愛に興味がない自分を「欠陥」と感じる瞬間が多く、周りの人々の期待に応えられないことに苦しむ。
放課後、由衣の誕生日を祝うためにカラオケに行く計画が立てられ、会田という新たな友人が加わる。会田は明るく優しい性格で、華名に対して特別な配慮を見せる。カラオケの楽しみを通じて、華名は少しずつ自分の心を開いていくが、恋愛に対する疑問は解消されないままだ。
彼女は「付き合う」ということが何を意味するのか、なぜ人々は恋愛を求めるのかと深く考える。友達との楽しい時間や新たな友情の中で、華名は恋愛向きではない自分に対する葛藤を抱えつつ、自分の気持ちを少しずつ探り続ける。
華名は、夢の中で体育館から驕・縺輔を眺めていた。彼がサーブの練習をしている姿に心を奪われ、彼との時間が少なくなることを思うと切なく感じる。夢の中では驕・縺輔に対する想いが溢れていたが、目が覚めるとノイズに満ちた悪夢に変わってしまった。夢の内容に混乱しながらも、彼への思いを胸に抱えて現実に戻る。
学校では、終業式の後に由衣の愚痴を聞くことになり、彼女が推しキャラクターの誕生日イベントについて不満を述べる姿を見て、華名は微笑ましく思う。由衣と新たに友達になった会田遥は、明るく人懐っこい性格で、華名や由衣にとって新しい存在となっていた。会田の存在が華名に安心感を与えていることを感じる。
放課後、カラオケに行くことになり、由衣の誕生日を祝うために盛り上がる。由衣がマイクを持って自分の恋愛話を展開し始め、華名はそんな彼女を見守る。由衣の楽しそうな姿に、華名は自分の気持ちに気づく。「もしかしたら、遥に恋しているのかもしれない」と思うが、どう行動すればいいのか分からない。
カラオケの中で、友達との楽しい時間を過ごしながら、華名は自分の心に正直でいたいと思う。しかし、彼女の中で「好き」と「告白する」という二つの感情がうまく結びつかず、葛藤を抱えている。それでも、心地よい空間の中で歌いながら少しずつ気持ちを整理しようとする。
華名は夢の中で、いつもの高校の日常を過ごしていた。朝8時に教室に着くと、20分遅れて由衣が現れ、その隣には新しく友達になりたいと思っている遥がいた。
「華名おはよー」と由衣が元気に声をかけ、「おはー」と遥も続ける。華名は彼女たちとの会話が楽しく、特に遥から初めて名前で呼ばれたことにドキドキしながら心を躍らせる。彼女との10分間の会話はとても充実していて、このまま続けばいいのにと願った。
しかし、夢から目覚めた華名は現実に戻る。朝食を済ませ、部屋に戻り、二度寝防止のアラームを止め、服に着替える。由衣の影響を受けたスクールメイクを施し、髪を二つに結んで家を出る。心の中では、遥ともっと仲良くなりたいという気持ちが膨らんでいる。同時に彼女は自分の感情に戸惑いも感じていた。「私のことを忘れてください」と心の中でつぶやくように思いながら、華名は一歩ずつ前へ進もうとしていた。この夢の中の理想的な瞬間が、現実にも近づけるようにと願っているのだった。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場 状況の説明 はじまり
華名は中学時代に片思いをしていた女の子を忘れられず、夢の中で再会することが多い。高校では友人の由衣と恋愛話をするが、自分の感情は隠している。
二場 目的の説明
華名は、恋愛に対する自分の気持ちを整理し、恋人がいる経験をしてみるべきか悩むが、告白を受けることに決意する。
二幕三場 最初の課題
華名は告白を受けるが、実際に告白されるとプレッシャーに耐えきれず逃げ出してしまう。自分の感情に向き合えず葛藤が生まれる。
四場 重い課題
華名は中学時代の文化祭に遊びに行き、友人たちと再会。恋愛感情について話すが、理解を得られず孤立感を感じる。自分の感情が他の人とは異なることを痛感する。
五場 状況の再整備、転換点
夢の中で初恋の相手と再会し、自分の気持ちを整理する。夢の対話を通じて、少しずつ自分を受け入れることができるようになる。
六場 最大の課題
学校で、華名は教室に入る勇気が出ず、千佳に席を奪われていることに気づく。この状況が彼女の心の葛藤を深める。
三幕七場 最後の課題、ドンデン返し
終業式の日、華名は由衣と遥と一緒にカラオケに行く。そこで遥に対する気持ちを自覚するが、告白する勇気がない。心の葛藤が最高潮に達する。
八場 結末、エピローグ
華名は友達としての関係を築くことを決意し、自分の気持ちに折り合いをつける。彼女は少しずつ自分を受け入れ、恋愛への理解を深めていく。
夢の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
各話のはじめに、夢の話を描いてから日常を描いている。それによって「導入、本編、結末」といった書き方になっており、導入と結末は客観的状況からはじめ、本編で主人公の主観を描くという展開となっている。
また、話が進んでいくことで、どのような夢をみているのか、内容が徐々に明らかになっていく。文字化けを用いて、主人公の内面に潜んでいる思いを描く手法を取っている。
冒頭は、物語の導入であり、主人公のモノローグから始まっている。
遠景で「私のことを忘れてください」と示し、近景で「あの時の日常を忘れて、生きていてください。私とあなたは同じ高校に集まった一時の友人。それだけです」と説明し、心情で「あなたの幸せを願っています」と語る。
かなり意味深である。
別れの言葉に思える。
主人公が誰かに告げたのか、思いなのか、夢なのか。
その辺りはよくわからない。
読後に読み直すと、主人公の遥に対する思い、と思える。
夢から始まる
遠景で「最近変な夢を見た」と示し、近景で「リズミカルな音楽にキャラクターの着ぐるみが踊っている。国民的テーマパークの中に似つかない温泉があり、時間に追われながら浸かる」説明し、心情で「修学旅行みたいだなぁ、なんて思う」と語る。
さらに、遠景で「自分の隣に女の子が座っていた」で示し、近景で「絶対に忘れることのない顔。声をかけたかったが、かける言葉が見つからなくて、私は喉を詰まらせた」と説明。心情で「あの子は中学生の時に片思いをしていた子だ」と語る。
そういう夢を見た、ということを踏まえた導入を終えて、次から本編の日常がはじまる。
主人公は、「毎朝、由衣は登校したら昨日の彼氏のここが悪かった選手権が始まる。三年目に突入した日常を彩る、飽きることのない大会だ。しかし講評を求められる中立の私は、お決まりの言葉を口にする」という毎日を過ごしている。
三年目から、主人公は高校三年だとわかる。
中学のときの初恋をいまだ忘れられず、三年が経過しているのだ。
会話文が多く、人物描写が少ない。華名の内面の葛藤や感情が丁寧に描かれているが、心情描写で状況を描写しているため、いつ、どこで、どういうことが起きているのか、夢と現実の描写が混在しているため、混乱しやすいと思われる。もう少し明確に区別すると良いかもしれないのだけれども、よく読めば、夢を見た日の高校生活の出来事を描いていて、高校三年生の一年間の話を、断片的に描いているのが読み取れる。
「出席番号が一個後というだけで毎日愚痴を聞かされるこっちの身にもなってほしい」
由衣とは、一年からクラスが一緒だったことと、ゲームのオルナト様の話ができること、席が近かった理由から親しく話しているのがわかってくる。
「ご先祖様は皆リア充とは言うけれど、それでもリア充は嫌い。女子校とは違い、共学には恋愛がそこらじゅうに落ちているので巻き込まれる確率も高くなっている」
主人公が恋愛、リア充を苦手としていて、以前は女子校に通っていたことが伺える。
中高一貫校に通っていて、文化祭に顔を出す場面が出てくる。
恋愛に対して消極的なのは、主人公は同性が恋愛対象だから。
「最近の社会情勢的に彼氏という性別を特定する言葉は使わない方がいいと思う。でも由衣の隣にいるためには余計な反抗はしないが、それなりに従順さは求められるためスルーが鉄則。同性を好きになると少しでもバレたら終わり。中学の二の舞になってしまう」
中学の時、初恋相手がいて、いまだにこじらせいるのは、バレたからだと思われる。それとも、主人公は好きな人に告白をしたのだろうか。
作中から性格を考えると、言えないと思う。誰かに気づかれるか、噂が広がってしまったのかもしれない。
それをきっかけに共学校に進学したのだと想像する。
冒頭は三年生の夏休み前。夕方、体育館で顔も名前も知らない人に告白する夢を見て、昨年の修学旅行で告白されて断った人から、下駄箱にラブレターを貰ったこと。帰り際に後悔告白され、断って帰る。由衣に結果だけ報告すると、[蛙化現象起こしちゃったかー]と返事。
調べると、「恋人の言動で、恋人自身を気持ち悪く思ってしまう現象らしい。確かに気持ち悪さはあったけど、なんとなく蛙化現象ではない気がする」とわかる。
主人公が調べたとおり、蛙化現象ではない。
主人公は男性が恋愛対象でないから、告白されて気持ち悪かったのだから。異性が好きな人が、同性から告白されて、気持ち悪いとか生理的に受け付けないとか、ごめんなさいと断るのと同じである。
「久々に夢を見た。夢というより思い出に近い。中学の下駄箱で下校のチャイムをバックに友人と会話をしていた。この頃の私は、女子を好きになってしまったことを誰かに伝えたい気持ちと、批判の目が怖い気持ちを抱え込んでいた」からはじまる部分は、主人公が夢でみた出来事だと思われる。このときの会話、
「そういやさ、華名って好きなタイプとかあるの?」
「えぇ……唐突だなぁ……」
「別に深い意味はないよ。ただ知らないなぁって思って」
もしかしたらこれはチャンスかもしれない。ここで女性の名前を出して反応を探ればいい。
「あぁー社会の本橋先生とかー家庭科の水浦先生とか?あんな感じの雰囲気持ってる人」
「どっちも女性の先生やん」
「いいでしょ。あくまでタイプなんだから」
「それはそうだけどさー」
おそらく、中学時代に初恋相手の子と話したときの場面だろう。
このやりとりで、彼女に異性が好きなことがバレたと思ったのかもしれない。実際は「記憶が正しければ、このまま別の話題に移ったはず」だったが、夢の中では、
「女子好きになるやつが女子校に来るとかさ、ロリコンが小学校襲うのと一緒みたいなものでしょ? マジやばいよねー」
夢ならではの脚色に私は下駄箱の前で思わず止まってしまった。
「……うん。そうだね」
実際にいわれてはいないが、主人公は彼女はそう思っていると心の何処かで思っているから、夢に見てしまったのだと考える。
中高一貫の女子校での文化祭で、女子校を辞めた主人公ともう一人、在校生の三人での会話で、「あぁーうちさ。アロマンティックって言って恋愛感情芽生えない人なんだよね。LGBTの一つ」とカミングアウトしている子がいる。
「あまりにも自然に言うからびっくりした。そうか、私は少し勘違いをしていたかもしれない。意外と受け入れてくれるのだ。ましてや今この空間にいる人は全員他校。居場所も失わない」
ここの主人公の見立ては、いいなと思った。
打ち明けても、三人は学校が違うので、バレても困らない。
だから打ち明けられたのだ。
「でもなんか分かるかも。私も恋はするけど両思いは違うって思うもん」
同意をしようとしにいったのが、無理があったのかもしれない。
相手は恋愛感情が芽生えない人。
主人公は同性に恋愛感情を芽生える人で、うまく行かないことから恋愛を避けている人。
その差異を考えると、安易に「分かるかも」と言わないほうが良よかったと思う。
また、相手の「蛙化じゃん。一緒にすんなし」は間違って使っている。蛙化ではない。おそらく蛙化についてよく知らない、あるいは誤解している、もしくは他にボキャブラリーを持っていないので、なんでも「蛙化」と一括りに使ってしまう人なのだろう。いいも悪いも「ヤバい」で済ませるみたいに。
その結果、主人公は傷ついてしまう。
でもおかげで、自分の好きを見つめるきっかけになる。
「同性愛者は異性を好きになるように同性を好きになるだけで何も変わらないのだ。ならば私は? 異性を好きになるように同性を好きになれなかった」
主人公は同性は好き。
ただ、初恋相手にこじらせているので、次にいけない状態でもあるし、うまく行かないことのほうが多いし、居場所を失うことにもなりかねない。だから異性を好きになるけど告白はしない、できない、そんな状況にあるのだ。
長い文は、十行近いものもある。句読点を用いた一文は長いものもある。読点のない一文は、重々しさや落ち着き、弱さ、説明といったことを表現していると思われる。
短文と長文を組み合わせテンポよくし、感情を揺さぶるところもある。ときどき口語的。登場人物の性格がわかる会話文。一人称視点で描かれており、華名の内面の葛藤や感情がリアルに伝わる。
日常の会話や夢の描写が多く、現実と夢の境界が曖昧になることで、華名の内面世界が強調。高校生活や友人関係、友人たちとの会話がリアルに描かれており、読者層である十代の若者も、自分の経験と重ね合わせやすく、内容も共感しやすい。
また、華名の内面の葛藤が繊細に描かれている点が特徴で、彼女の成長や変化が感じられる。由衣や遥といったキャラクターが魅力的で、物語に深みを与えているところもよかった。
五感の描写について。
視覚は、教室や体育館、夢の中の風景などが詳細に描かれている。
教室の風景や華名の周囲の風景、友人たちの外見、由衣のメイクや髪型、遥の茶髪など。
聴覚は、友人との会話や夢の中の音楽などが描かれている。夢の中での温泉やキャラクターの着ぐるみの描写が印象的。友人たちとの会話や教室のざわめき、カラオケでの歌声など。
触覚は、夢の中での温泉の感覚や、現実での体調不良の描写。華名が吐き気を感じるシーンなどが具体的。由衣が抱きつくシーンや、華名が柱にもたれかかるシーンなど。
嗅覚はない。教室の匂いや外の空気の描写があると、いいかもしれない。
味覚 食堂でのレモネードの描写があるが、味はない。
五感の描写の強化 嗅覚や味覚の描写を増やすことで、より臨場感のある描写が期待できます。
主人公の弱みは、自己受容の難しさ。華名は自分の恋愛感情やアイデンティティを受け入れることに苦労している。そのため、他者との関係 友人との関係において、自分の本当の気持ちを隠すことが多く、孤独感を感じている。
特に恋愛に対する価値観の違いを抱えており、華名は恋愛に対する価値観が他人と違うことが弱みとなっている。そのため、自分を「欠陥人間」と感じるなど、自己肯定感の低さが見られる。
また夢である。
「最近変な夢を見た。リズミカルな音楽にキャラクターの着ぐるみが踊っている。国民的テーマパークの中に似つかない温泉があり、時間に追われながら浸かる。修学旅行みたいだなぁ、なんて思う。自分の隣に女の子が座っていた。絶対に忘れることのない顔。この景色、内容は知っている」
中学の初恋相手が出てくる夢である。
「闖ッ蜷はさぁ結局意気地なしだったよね」
喋りかけられるとは思ってなかった。ただ違和感がある。
「闖ッ蜷は告白して来なかったじゃない。私ずっと待ってたのに」
「なんで告白しなきゃいけないの?」
「そんなこともわかんないの?」
違う。あの子はそんなこと言わない。あの子はもっと優しくて私のことなんてクラスメイトとしか思っていないはず。
「今なら闖ッ蜷の言いたいこと聞いてあげるからさ。ずっと何が言いたかったのか教えてよ」
「違う!!」
実際には、彼女からは言われていない。すべて主人公の心の声だろう。意気地なしで告白できなかったのだ。
このときから、文字化けが出てくる。
ちなみに、闖ッ蜷→華名。
三大ギャルの話が出てくる。
「三大ギャルが集まって会話をしている。由衣は自分の席に座り、私の席に一年生で一緒だった千佳、もう一人は多分会田さんだったはず。千佳はアルコールで私の席を消毒していた」
「三大ギャルに嫌われたら学校で居場所はないという噂は、この学校にいるなら誰もが知っている。その一人に席を奪われ、話の中心人物が私である。教室に入る勇気が出なかった」
由衣がその一人だとは驚きだ。
三人は、それだけ可愛いのだろう。
会田遥がどういう子なのか、描かれている。
「会田さんは両手でピースを作って笑った。ギャルはギャルでも素朴なギャルだ。由衣たちに比べるとメイクも薄めだが、明るめの茶髪を外巻きで下ろし、スカートは一番短い。何より、くしゃっと笑う笑顔が可愛かった。方言が混じった軽い喋り方がクセになって、話したい意欲を掻き立てる」
基本的に、本作は状況や人物描写が少ない。
主人公の主観、心情描写が強く描かれていて、夢も幾度となく登場している。つまり、主人公が興味関心のあることだけが描写として描かれているのだろう。
だから、会話文ばかり並んで、地の文で主人公の心情や考えなどが挟まれて書かれているのだ。
だけど、会田遥はちがう。
それだけ、主人公は彼女に意識が向いた。このとき、強く意識したのだと考える。
もっと前に、夕方の体育館で告白した夢を見ている。バレーの試合もみていることから、前から会田遥に興味は持っていたと思われる。
「ただ彼女は覚えている。去年の県大会で由衣の上げたトスを敵コートに返したのが三番の人で、彼女の打つボールはいつも綺麗にコートに入る。ただその時の髪色は黒だったはず」とあるので、無意識下で背番号三番の子に関心を持ち、この度話す機会を得て、色づいていく感じになったのではと邪推する。
「検索しても私の納得する答えが出てこなかった。やっぱり恋愛向いてないかもしれない。ただ一つわかったことは想像以上に世間とのズレがありそうだ。これは困った」
つきあいに、正解はないと思われる。
必ずイチャイチャしなければならない、というわけでもない。あれをしなければ、これをやらなければ、と決まっているものではなく、一緒にいて側にいるだけでもいい。付き合っている二人が決めることなのだ。
「夢を見た。体育館を廊下から眺めていた。視線の先には驕・縺輔がいた。サーブの練習をしているようで、こちらに気づいてはいなかった。引退試合で決めたアタックがかっこよかった。部活が終わってからも練習を続けているのだろうか。綺麗な弧を描くサーブに思わず見惚れてしまう。心の綺麗さがボールに伝わってるのかなぁ、なんて思いながら廊下の柱にもたれかかる。来月には同窓会以外で会うことはない仲になる。普段の緩さと鋭い動きがギャップとなってかっこよかった。制服姿のまま打ち続ける驕・縺輔が試合中の姿と重なって、あの時の感情を思い出す。陽が暖かいからか、ほんわかする」
実際にあったことが混ざっているのかもしれない。
夢で「引退試合で決めたアタックがかっこよかった。部活が終わってからも練習を続けているのだろうか」から、夏に行われた引退試合を、主人公はみたのだろう。ただ、その後はバレー部を覗きに行っていないだろうから、練習をしているのかどうかは知らないと思われる。だから後半は夢の部分なのでは、と想像する。
「闖ッ蜷ちゃんじゃん。どうかした?」
「んーちょっと考え事」
ぼーっとしていたら見つかってしまった。
「何考えてたの?」
「驕・縺輔のこと」
「私のことー?」
名前が入るはずのそこには、当たり前のようにノイズがかかっていた。
「螂ス縺なんだよね。驕・縺輔のこと。縺っと蜑阪°繧」
「遘√b螂ス縺」
「譛蛾屮谿コ縺励※縺上l」
目を覚ました。ノイズの混じった不快な音で塗れた悪夢だった。
文字化けしている。
それぞれの意味は「闖ッ蜷→華名」「驕・縺輔 →遥」「螂ス縺なんだよね。→好きなんだよね」「驕・縺輔のこと→遥のこと」「縺っと蜑阪°繧 →ずっと前からね」「遘√b螂ス縺 →私もだよ」「譛蛾屮谿コ縺励※縺上l → ありがとう、殺してくれ」だと思われる。
サイトで調べたけれど、綺麗に解読されなかったので暫定です。
「殺してくれ」ではなく「忘れてくれ」かもしれない。
「遥さんは人の心情を察して、厄介ごとを綺麗に交わすタイプだと思う。明るめの茶髪が陽キャ特有の威圧感を放っているけど、器用に人と関係を築いていくのが三大ギャルと呼ばれて、学年で一番モテる理由なんだろうな。でも由衣だって負けてはいない。女の私から見ても可愛い。童顔に綺麗さを足した、服やメイクが縛られないタイプの顔。学校で堂々とメイクをして前髪用のコームを常に持ち歩くが体育に妥協はないタイプのギャル。正直好みの問題だと思う」
物語の終盤で、由衣の見た目が描かれている。
終業式で、なおかつ誕生日のお祝いにカラオケにいくため、意識が彼女にも向いているからだと推測。
由衣や遥の背景や過去についてもう少し詳しく描くことで、キャラクターに深みが増すだろう。彼女たちの家庭環境や過去の出来事などが描写されるといいだろうけれども、主人公は前半、周囲に関心がもてていないので、難しいかもしれない。
「元彼は祝ってくれなかったです! 今の彼氏は祝ってくれますかぁあ?」
三年間付き合っている彼が今彼かしらん。
中学時代に付き合っていた彼氏は、祝ってくれなかったらしい。誕生日が来る前に別れたのか、本当に祝ってくれなかったのか。
「いつもと違う一面というのは友達でもドキドキしてしまうものだ。それは遥さんと初めて会った時も同じ。カッコいいと思ってた人が可愛かった。最近は中学の恋愛の夢を見ていたが今日は違った。遥さんに告白をする夢だ。それはきっと、私が遥さんに恋をしているという暗示なのだろうか」
自分の気持ちに素直になっている。
でも、「私は一体どうしたいんだろう。『好きかもしれない』という事実と『告白した方がいい』という常識がいまいち繋がらない。ただこの空間はとても居心地が良かった」とあり、どうしたいのかまではわからないけれど、居心地の良さを味わっている。
こういう時間を過ごすことが、付き合うということに気づけているのだろうか。
夢で、三人とホームルームがはじまるまでの時間を楽しく過ごしている。
「チャイムがなるまでの十分間、遥と二人でしゃべった。楽しかった。このままがいいと思った。好きという気持ちを自覚しておきながら、喋るだけで満足をするのは怠慢か。この夢こそが理想の恋愛だった」
夢のおかげで、主人公自身の、付き合うということがどういうことかわかったと思う。遥と友だちになろうと家を出る。
ラストの、「そして私のことを忘れてください」は、結局告白はできないってことかもしれない。
華名の内面の葛藤や友人たちとの関係がリアルに描かれて、よく伝わってくる。恋愛に対する価値観の違いに悩む姿は印象的で、自分自身の経験を思い出したり、重ね合わせたりして考えることができた。キャラクターたちの魅力もあって、最後まで飽きずに読むことができた。
読後。タイトルを見て、ラストをつなげて冒頭を読み直す。
「朝起きて、朝食を食べて、部屋に戻って、二度寝防止のアラームを止めて、服に着替える。由衣に影響されたスクールメイクをこなして、髪を二つに結んで家を出る。遥さんと友達になろう。すでに友達かもしれないが。そして私のことを忘れてください」「私のことを忘れてください。あの時の日常を忘れて、生きていてください。私とあなたは同じ高校に集まった一時の友人。それだけです。あなたの幸せを願っています」
遥に向けた、主人公の思いである。
最後に見た、理想の恋愛を送れたら、主人公の高校生活は楽しいものだったに違いない。そんな夢を彼女は見たのかと、タイトルを見ながらしみじみじ思った。
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