盛夏の灯影
盛夏の灯影
作者 ゆのみ
https://kakuyomu.jp/works/16818093084482869424
オープンキャンパスに行った帰りの電車で居眠りをしてしまい、見知らぬ田舎の駅で降りることになる。そこで出会った少女と共に、田舎の風景を楽しみながら過ごす。彼女との交流を通じて、主人公は過去の思い出や自分の気持ちに向き合うことになる。
主人公は、幼馴染のナツキを交通事故で失った過去を持つ高校生。彼はナツキとの思い出を引きずりながらも、新たに出会ったカオリと交流を深める。カオリとの関係を通じて、主人公はナツキの影を乗り越えようとするが、花火大会でカオリの姿がナツキと重なり、感情が揺さぶられる。カオリとの友情を大切にしながらも、ナツキへの思いを整理しようとする話。
現代ドラマ。
出来が良い。
物語の構造が上手い。
情景描写は美しく、感情描写は丁寧。
過去と現在の対比がうまく描かれ、深みがある。
主人公の心情に共感しやすく、実に素晴らしい作品。
主人公は高校二年生の男子。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
オープンキャンパスに参加した主人公は、帰りの電車で居眠りをしてしまい、見知らぬ田舎の駅で目を覚ます。慌てて母親に連絡を入れるが、結局は引き返すしかないと悟る。次の電車までの時間を潰すために駅を出て、田舎の風景を楽しむことにする。
田舎の風景を歩いていると、背後から声をかけられる。声の主は、自転車に乗った少女だった。彼女と話をするうちに、主人公は彼女の提案で自転車の荷台に乗り、田舎の風景を楽しむことになる。彼女との交流を通じて、主人公は過去の思い出や自分の気持ちに向き合うことになる。
彼女に連れられて丘の上に到着し、田舎の風景を一望する。彼女の笑顔に、主人公は過去の思い出が蘇る。帰りの電車に間に合うように急いで駅に戻り、彼女との別れ際に「また来てくれる?」と尋ねられ、「行くよ」と答える。
再び田舎の駅を訪れた主人公は、彼女との再会を果たす。彼女に連れられて駄菓子屋に行き、ラムネを買って一緒に飲む。彼女の言葉に触発され、主人公は過去の思い出や自分の気持ちに向き合うことを決意する。
主人公は、幼馴染のナツキを交通事故で失った過去を持つ高校生。彼はナツキとの思い出を引きずりながらも、新たに出会ったカオリと交流を深める。ある日、カオリと駄菓子屋で出会い、ラムネを買って一緒に過ごす。カオリの明るさと無邪気さに触れ、主人公は少しずつ心を開いていく。
主人公はカオリを花火大会に誘う。カオリは快諾し、二人は花火大会の日を楽しみにする。花火大会当日、カオリは浴衣を着て現れ、その姿に主人公は心を奪われる。二人は屋台を巡り、かき氷を食べながら楽しい時間を過ごす。
花火が打ち上がると、主人公はカオリの横顔がナツキと重なり、感情が揺さぶられる。ナツキとの思い出が蘇り、彼はナツキへの未練とカオリへの新たな感情の間で葛藤するが、主人公はカオリとの友情を大切にしながらも、ナツキへの思いを整理しようと決意する。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場の状況の説明、はじまり
主人公がオープンキャンパスに行った帰りの電車で居眠りをし、見知らぬ田舎の駅で降りるところから始まる。
二場の目的の説明
田舎の風景を楽しみながら少女と出会い、彼女との交流が始まる。
二幕三場の最初の課題
少女との交流を通じて、主人公が過去の思い出や自分の気持ちに向き合う。
四場の重い課題
主人公が再び田舎の駅を訪れ、少女との再会を果たす。
五場の状況の再整備、転換点
主人公とカオリが駄菓子屋で出会い、交流を深める。
六場の最大の課題
カオリとの関係が進展し、花火大会に誘うまでの過程。
三幕七場の最後の課題、ドンデン返し
花火大会でカオリの姿がナツキと重なり、主人公の感情が揺れる。
八場の結末、エピローグ
カオリとの友情を再確認し、ナツキへの思いを整理しようとする主人公の心情。
彼女の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
冒頭は客観的に状況を描いてはじまっており、きれいな情景描写からの書き出しがいい。
遠景で車内から見える風景を描き見せ、近景でオープンキャンパスに行ってきたことを説明し、心情で見てきた大学に行きたいと思いながら、「叶うことなら、一緒に行きたかった」ことを思いつつ、乗り過ごさなければ大丈夫と眠気に襲われていく。
最後の「視界に最後映ったのは、青い空だった」で余韻を残す。
冒頭の導入部分も、導入本編結末、または起承転結で書かれている。無駄がなく、読者にいまがいつで、主人公がどこにいて、なにがあり、どうしているのかが伝わる。
それでいて、「叶うことなら、一緒に行きたかった」一緒に行きたかった人がいるが、いまはもういないことを思わせる意味深な部分を盛り込んでいて、読者に興味を惹かせている。
冒頭は、主人公一人であり、孤独なところから可愛そうに感じ、共感を抱く。
本編もまた、風景からはじまる。
遠景で「次に意識が浮上したのは、オレンジ色が広がる風景だった」と示し、近景で「辺り一面、田んぼ。見慣れない景色に呆然としていると、次は終点、なんて言葉が耳に入った」と説明。心情で「途端、恐ろしい気分になって冷や汗が滲む」と語る。
降りる駅を寝過ごしたのだ。
ドジっ子かしらん、というボケはしないけれども、乗り過ごした経験があると共感を抱くだろうし、可哀想にとますます思うかもしれない。
田舎の駅や田園風景。「迷い子のような心地にそわそわしていた。そんな俺の気分を、味わっていた世界に、亀裂のごとく甲高いブレーキ音が割り込んできた」
主人公の前に現れた人物の描写が描かれる。
「声変わりを終えた、大人びた声色だった。俺の背後から現れたその少女は、髪をひとつに結って、耳にはピアスらしきものを付けていた。服装は、短パンに半袖といったベーシックなもの。切れ長の一重がクールさを際立たせているし、自転車にまたがる姿も様になっている」
聴覚描写の声から入り、距離感を感じさせてから、視覚描写。髪、耳、服装を描いてから、目の切れ長の一重、そして印象「クールさを際立たせ」、ズームアップからアウトし、自転車にまたがる姿という全体像を描いている。
文章のカメラワークが実にすばらしい。
主人公との距離感をも感じさせつつ、人物を読者に紹介している。
出会ったばかりの子に、自分の置かれた状況を話している。
無駄に会話をするのではなく、「一通り彼女の姿を見たところで、ありのままに起こったことを伝えた。すると、彼女が不意に吹き出した」説明をして、相手の反応を描くだけにとどめている。
なにを描き、なにを描かないかがわかっている。
いいかえるなら、読者になにを見せたいのかを理解して描いているのだ。
作者が読者を意識して、作品づくりをしているのがよくわかる。
「面白いね、きみ」
屈託なく笑う姿に、何故か『彼女』の顔がチラついた。いや違うだろう、と首を横に振ると、また彼女が笑い出す。
主人公は最近、彼女さんと別れたことが想像できる。一緒に大学に行きたかった相手だろう。のちに、亡くなっていることがわかる。彼女さんが亡くなって、それほど歳月が経っていないのだろう。
初見だと彼女と失恋したのかと思える。失恋の痛手を引きずってしまい、寝不足だったのかもしれないし、心地よい揺れで寝過ごしたのかもしれないとも考える。
いつもとはちがう精神状態だったのだろう。こういうところにも同情、共感を抱く。
自転車を漕いでいく描写がいい。
「それから、彼女が思いっきりペダルを踏み出す。最初はのろのろ亀さんみたいなスピードだったのに、一分間あたりのペダルを漕ぐ回数が増えていくのに比例して、段々と速度が上がっていった。バランスを崩さないように、荷台を掴む手と体幹を最大限駆使した。流石に女子に腕を回すのは如何なものかと思い、それには頼らなかったが、意外と何とかなるものだということが判明した」
どうやって走り出していったのかを描写で説明した後、主人公の感想、古紙に腕を回すのをせず、荷台を掴んでバランスを取って乗った感想、「意外となんとかなる」が伝わる。
読者が追体験できる書き方がされていて、実にいい。
体感のいい理由にバレー部だと返事。簡単な理由も書き添えられている。
彼女のお気に入りの丘に連れてきてもらう。
「振り向くと村や水田がずらりと並ぶ光景を目の当たりにした。日は暮れかかっているから、暗くなっているところも多少あったが、それでも大自然に囲まれたこの土地に心を落ち着かせられた」
簡潔にまとめられている。印象に残る、とまでは至っていないのがわかる。かわりに、「また、『あの子』の顔が過ぎる。あのとき、『彼女』は何かを手に持っていて、確かあれはバレンタインの日で──」と干渉に浸っているのがわかる。
別れ際に「暗い人影が、あの日の『彼女』に重なった。咄嗟に、俺は叫んだ」と、出会った女子に、彼女が重なっている。よほど、大切だった人をなくしたのが感じられる。
「夏は好きか?」
閉まっていく扉に、彼女の叫びがギリギリのところで入り込んだ。
「夏なんて、大っ嫌いだよ」
興味を引くような台詞を最後に、一話が終わる。実にいい引きである。
二話では、主人公が再び訪れている。駅で彼女が来るのを待ち続けているのだが、どうも連絡先を知らないらしい。
「太陽が南を通って、しだいに影が大きくなっていく。時計の長身が三を指したころ、不意にため息をこぼした。交通費を無駄にして落胆したのではない。折角来たのだからまた縁がないだろうか、という自分の甘い考えにあきれたのだ」
昼前に到着し、午後三時まで駅にいたことになる。
「ホント面白いね、きみ」
そう言われても仕方ない。
「今日は何しに来たの? また乗り過ごしちゃった?」に対して、「暇だった」と答えている。おそらく本当だろうけど、会いに来たとはいわないところが、主人公の中にはまだ亡くなった彼女さんがいることを感じさせてくる。
荷台に座布団が敷いてある。この女子は、主人公がまた来ることを信じて準備していたのだろう。
「思ったより気が利くのか、と思うと、口に出ていたのか、肘で鋭く突かれた。痛かった」ここが面白かった。
「会うのは二回目だと言うのに、歯に衣着せぬ物言いにガックリと項垂れる。さらに悲しいかな、その評価は的確だったのだ。人の内面は案外わかりやすいものだ、なんてどこかで言っていたけれど、本当にそうかもしれない」
運転が荒いらしい。
「数秒遅れて、『あら、カオリちゃんじゃない』と落ち着きのある声が耳に入った」
物語が半分近くなって、ようやく名前が出てくる。しかも作中で主人公の名前は出てこない。少なくとも、名前も知らない相手と出会っていることがわかる。
「裏から現れたのは老婦人だった。穏やかな笑顔が、まるで実家のような感覚を与える」
具体的な描写はない。
「甘いのはそれほど得意じゃなかったが、ラムネは嫌いじゃなかった。小学生の頃は、『彼女』とビー玉をどうやってとるか、なんて試行錯誤したのも懐かしい」
子供の頃から、甘い物が好きではなかったのかしらん。
小学生のころから漢書と一緒に過ごしている。幼馴染だったのかもしれないし、長い付き合いだったことを伺わせている。
「その台詞は、脳幹を揺るがす衝撃だった。嫌に心臓が跳ねて、吸った酸素が変なところに入りそうだった。『絶対出来ないなんて決めちゃダメだよ』温厚な『彼女』が、唯一口を強くして言っていた言葉に、酷似していた」
ささいなことで思い出してしまうほど、主人公にとって大事な人をなくしたことがわかる。
長い文は十行くらいで改行。句読点を用いた一文は長くない。短文と長文を組み合わせテンポよくし、感情を揺さぶっている。問に口語的。登場人物の性格がわかる会話文。落ち着いた語り口で、情景描写が豊富。主人公の内面描写、感情の揺れ動きが丁寧に描かれている。
自然の風景や日常の出来事を通じて、主人公の成長や心の変化を描いている。特徴: 過去と現在の対比が巧みに描かれており、主人公の内面の葛藤がリアルに伝わる。
キャラクターの描写では、 少女との交流を通じて、主人公の内面を丁寧に描きつつ、カオリとナツキの対比が巧妙で、主人公の成長が感じられる。主人公の感情の揺れ動きが丁寧に描かれており、読者が共感しやすいところもいい。
テーマの、過去の思い出や自分の気持ちに向き合うことの大切さが伝わる。
情景描写がよく、 自然の風景や田舎の風景が美しく描かれており、読者に臨場感を与える。また、五感を使った描写が豊富で、読者がシーンを鮮明にイメージできる。
五感描写について。
視覚は田舎の風景や自然の美しさが詳細に描かれている。ビル群や田んぼ、夕陽などの描写が豊富。花火大会のシーンや駄菓子屋の情景描写が鮮明。カオリの浴衣姿や花火の光が印象的。
聴覚は電車の音や自然の音、少女の声などが描写されている。花火の音や駄菓子屋での会話の音がリアルに描かれている。
触覚はクーラーの冷たい空気やアスファルトの熱さ、自転車の荷台の感触などが描かれている。ラムネの冷たさやビー玉の感触が具体的に描写。
味覚はラムネの甘さや炭酸の刺激、ラムネやかき氷の味が詳細に描かれている。
嗅覚は田舎の空気や自然の香りが感じられる描写がある。駄菓子屋の匂いや花火大会の屋台の匂いが感じられる。
主人公の弱みは、自己認識の欠如。自分の気持ちや過去の思い出に向き合うことができず、迷いや不安を抱えている。また、他人との関わり方に不器用で、特に少女との交流に戸惑いを感じている。
原因は過去のトラウマであり、ナツキを失った過去が主人公の心に深く影を落としている。そのため、ナツキとカオリの間で揺れる感情を整理できずにいる。
三話で、連絡先を交換し、自己紹介をしたとある。「老婦人の駄菓子屋でカオリと呼ばれていた覚えはあるが、逆にこちらの正体はまだ明かしていないし、連絡先を交換するまでステップを踏むなら、流石に名前を知らないのは危ないだろう。そういうわけで、年齢、名前、好物などを喋ったのだ」
読者には明かされていないだけで、彼女には伝えたのだ。
物語が三分の二を消化し、主人公の内面や事情が徐々に明らかになってくる。
「カオリのことを忘れたことは無かった。否、稀によぎる『彼女』の面影が重なって、二重の存在を放っているように思えて、忘れることなんて到底できなかった。心の中では、潜む苦痛に顔を歪めていた。乗り越えるのを容易にしたくなかった。だけど、『彼女』を罪悪感という名の鎖に繋がれたままにするのは、気が引けた。そのような複雑な想いが雁字搦めになって、無関係であるカオリまでも巻き込んでいるこの現状を、打破したかった」と状況を説明してから、「そういうモヤモヤを晴らすには、どうしたら良いだろうか──その答えを示したのが、学校帰りに目にした『花火大会』の文字だった」主人公は自身の考えを述べる。
だから彼女を花火大会に誘ったのかと、納得する。
カオリのキャラクターをもう少し深掘りされていると、彼女の魅力がさらに引き立つのではと考える。
主人公が亡くなったナツキのことを引きずっているためなのだろうけれども、カオリのことがあまり描かれていない。距離感を感じるのは仕方がない。
「花火大会には、『あの子』と行ったことがなかった。正確には、行くはずだったと表現するのが良いだろうが、この際はどうだっていい。カオリは、『あの子』とは違う。それを脳でも、体でも、心でも刻みつけるために、カオリと花火を見たいと思った」
彼女と見に行ったことがないことをする。
重要なターニングポイントだと考える。
いままでは故意ではなかったが、亡くなった彼女と過ごしたことをなぞるように、カオリに重ねてみていた。でも、花火大会にはいっていないので、主人公自身がどう受け止めていくかが気になっていく。
カオリは夏が嫌いだといっていたことを思い出す。どんな花火大会になるだろう、興味が惹かれる。
「小走りでやってきた彼女を見て、どきりとした。青を基調とし、花が描かれた浴衣を身にまとった彼女は、いつものように髪を一束に結ぶのではなく、編み込みを加えた華やかな髪型で現れた。恥じらいながら微笑をこぼす彼女を目の当たりにした周辺が、どよめいている」
花火大会といったら浴衣である。
ちゃんとおめかしをしている所が良い。
「『すげー待った』未だバクバクが収まらない心臓を隠すかのように、冷たく返せば、『ほんとごめん』と素直に謝罪を口にした。あまりにも申し訳なさそうにするので、もういいってば、と宥める」
彼女がいたことがあるはずなのに。なぜ褒めないのか。
そういう経験がないからだろう。
屋台に行き、カオリはかき氷が食べたいという。
暑かったのかもしれない。
「緩やかな傾斜の上り道を歩いて、急な高さの階段を慎重に登る。屋台通りから歩いて十分弱で着いたその場所は、夜空に散りばめられた星々が見えるほど、壮観な風景を目にすることが出来た」
きれいと魅入るカオリ。
主人公は彼女を彷彿させ、「カオリは、違うはずだった。なのに、ずっと固守してきたその考えが、花火と共に散っていった」を皮切りに、彼女――ナツキを思い出す。
花火大会にいく約束をし、告白するつもりだったが、交通事故でなくなってしまった。
ナツキが亡くなったのは昨年のことかしらん。
「火花から発せられる光が、カオリの横顔を照らしていた。それが不意に、ナツキと重なった。存在しない、ナツキと花火を見た記憶と」
主人公の葛藤がよく伝わるのは、花火のきれいな情景を前にして、主人公の回想による語らいにより、主人公の想いが読者には共感となるからだ。
「抱き締めたい衝動を殺して、下を向いて湧き上がる感情を抑え込んだ。違う、違う、違う。ナツキじゃない。ナツキじゃないのに、ナツキだと信じたくなってしまう。そんな愚かな自分こそ、死ぬべきだった」
ここで抱きしめると、ナツキの代わりにカオリを利用したことになる。カオリの立場から考えると嬉しくない。それが主人公は理解しているから身勝手な自分に対して、「そんな愚かな自分こそ、死ぬべきだった」と責めるのだ。
ナツキとの過去のエピソードをもう少し具体的に描写することで、主人公の感情の深さが伝わりやすくなるのではと考える。
カオリから『「ずっと友達でいようね」』といわれる。
二重括弧も用いられているので、ナツキにもいわれたことがあるのだろう。
ナツキとの思い出が主人公の心に深く刻まれてうて、影響からは逃れられないでいる。だけれども、カオリとの時間を過ごすことで、少しずつ前に進もうとしている様子も描かれてきている。
カオリが「ずっと友達でいようね」と言ったとき、複雑な感情を抱いただろう。ナツキとの思い出と、カオリとの新しい関係の間で揺れ動いている。
ラスト、主人公はなんと答えたのだろう。
読者の想像に委ねられているが、そもそも連絡交換をし、自分から花火大会に誘っているのだ。
「うん、ずっと友達でいよう。それ以上の関係になれるなら悪くないと思う」みたいなことをいったのかもしれない。
まだ完全には過去を忘れられないかもしれないけれど、カオリとの関係を大切にし、新しい一歩を踏み出そうとしているだろう。
読後。タイトルを眺めて、作品の余韻に浸る。
「盛夏」は真夏、「灯影」は灯りの影、つまり光と影を意味している。真夏の夜に花火が照らし出す光と影の美しさ、主人公の心の中にある過去の影ナツキと新しい光カオルを描いているのだろう。
主人公が過去の痛みと向き合いながらも、新しい希望を見つけようとする姿が、タイトルからも感じられる。
自然の風景や田舎の風景が美しく、情景描写も豊富で、臨場感もあり、魅力的で、主人公の成長や心の変化が丁寧に描かれていた。
花火大会の場面はとくに印象的で、カオリとナツキの対比が心に響いた。全体として非常に完成度の高い作品だった。
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