ゆびわ

ゆびわ

作者 @tottakai_am

https://kakuyomu.jp/works/16818093084570789712


 伊都は神社で見つけた指輪を通して鬼を見ることができる。夏祭りの日に伊都は指輪を通して見たことのない鬼の行列を目撃して追いかけ、神社にたどり着く。白い一つ目の鬼に「帰りなさい」と言われ家に戻ったあと、友人のこだまと共に鬼の神社に行く。二人は神社に到着、森へ進むと白い一つ目の鬼に再会するも、こだまに腕を引かれて逃げ出す。霊力の強い家系のこだまは、伊都が鬼に襲われるのを防ぐために指輪を奪い、つながりを断ち切る。後日、指輪を川に投げ捨てる。一方、伊都は鬼の思い出を原稿に書くが、うまく書けず原稿を捨てる話。


 現代ファンタジー。

 日常と非日常が交錯する独特の雰囲気が魅力的。

 鬼が見える指輪が、非常に興味をそそられる。

 小学高学年らしい感じも描けていてよかった。


 三人称、小学六年生の伊都視点、こだま視点、神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすい。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 伊都という少年は指輪を通して鬼を見ることができる不思議な力を持っている。彼はその指輪を通して毎朝鬼を覗くことが習慣になっていつ。夏祭りの日に伊都は指輪を通して見たことのない鬼たちの行列を目撃し、その行列を追いかけて神社にたどり着く。そこで伊都は一つ目の鬼と出会い、「帰りさない」と言われ、危険を感じて家に戻る。

 その後、友人のこだまが訪れ、伊都の指輪に興味を示す。こだまは指輪を覗き込み、何かを感じ取る。実は霊力の強い家系に生まれ、鬼や神についての知識を持っていた。祖父から、「御守として使われてきた指輪だが、人が神の世界に流出してしまう危険があるため神社に捨てられた。だが見つけた少年がいる」と聞かされていた。

 彼は伊都の指輪が特別なものであり、伊都を守るためのバリアの役割を果たしている端境ができていることを理解する。鬼に目をつけられて伊都の命が奪われないために、指輪とのつながりを切り、霊力の高い場所に指輪を置くことを考える。

 こだまは伊都に、鬼の神社に行くことを提案。二人は神社に向かい、森に入って再び一つ目の鬼と出会う。鬼は伊都に対して警告を発し、ここは危険な場所であることを伝える。伊都とこだまは鬼の言葉に従い、神社を後にします。

 伊都とこだまは、鬼が見えるという指輪を持って神社に向かう。こだまは鬼を見れる場所を探しており、伊都も興味を持って同行する。神社の前で一礼し、森の中に入ると、伊都は指輪を通してぼやけた鬼を見る。さらに奥に進むと、伊都は白い一つ目の鬼と対面し、その声を聞く。鬼は伊都に「君ならまたきてくれると思っていたよ、いらっしゃい」と言い、伊都はその声に安心感を覚える。

 しかし、こだまが伊都を引っ張り、鬼から逃げることになる。走っている間に蝉の声が聞こえなくなり、森がどんどん深くなるも突然、目の前が開け、細い川と赤い橋が現れる。伊都は橋の向こうに行きたい衝動に駆られるが、こだまが転ばせ、落とした指輪をこだま拾い、橋の向こうに行ってしまう

 こだまは指輪を高くかざし、何かを切るような動作をすると伊都はその瞬間に何かが切れたような感覚を覚え、気を失う。目が覚めると、伊都は神社の入り口にある壊れかけのベンチの上で目を覚まし、こだまが隣に座っていた。

 翌日、こだまは再び森の中を歩き、小さな川の前で指輪を取り出し、伊都が鬼に襲われるのを防ぐために指輪を川の向こうに投げ捨てる。

 伊都はその後、机に向かい、原稿用紙に転校してきたばかりの五年生のときに神社で見つけた指輪を覗くと鬼が見えた経験を書くが、「だめじゃん。やばいとか書いてるし」笑って捨てる。伊都は鬼を見れなくても大丈夫だと感じるのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 伊都の日常生活と指輪の不思議な力が紹介。

 二場の目的の説明

 夏祭りの日に鬼の行列を目撃し、神社にたどり着く。

 二幕三場の最初の課題

 神社で一つ目の鬼と出会い、危険を感じる。

 四場の重い課題

 霊力の強い家系のこだまは、伊都が鬼に襲われるのを防ぐための行動をしようと、共に鬼の神社に行くことを決意。

 五場の状況の再整備、転換点

 伊都とこだまが神社に行く計画を立てる。

 六場の最大の課題

 神社で鬼を見るために森に入る。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 白い鬼が現れ、危険を告げる。こだまに手を引かれて逃げる。端が見えたとき、こだまに転ばされる。落とした指輪を拾ったこだまは、伊都と指輪のつながりを切る。

 八場の結末、エピローグ 

 こだまが指輪を川に捨て、伊都が思い出を原稿に書く。


 指輪の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 遠景で、「夜になったから爪を切った」と示し、近景で「よつめの鬼が来て、爪切りを持っていった」と説明。心情で「朝になって、何時間か経ってから、伊都はもぞもぞと起き上がった。蝉がもう鳴いている」と語る。

 冒頭、何気ない行動の後、おやっと思わせる出来事が起きていて興味を惹かれる。

 

 主人公は朝寝坊をした、ということかしらん。

 蝉がもう鳴いており、午前十時頃かもしれない。夏休みか、日曜祭日なのだろう。

 うがいをして、「声変わりを焦らすような濁点」から、声変わりめだとわかる。主人公は小学高学年から中学一年くらいだと推測。

 顔を洗っていると、指輪が顔に当たる。

 その指輪は、「大きめの平たい石に穴をあけただけのようなそれを、指にはめてしまえばそれは指輪だ、と伊都の中では結論付けていた。触ると冷たくて、外してその穴を覗くと、鬼が見える」不思議なものだとわかる。


「指輪を外して目の前にかざす。カーテンと窓の間に隠れて外を眺めている、小さな鬼の足が見えた。毎朝指輪を覗くことは習慣になっていた」

 自分にしか見えない特別な景色を見るのを楽しんでいるのだろう。

 そんな特別な主人公に、興味が湧き、共感を抱く。


「母の手に洗い終わった食器があるのをみて、少し罪悪感を覚えながら伊都はそう言った」

 寝坊したことで、家事を増やしてしまうことに申し訳なく思っているのだろう。人間味を感じるところからも共感する。


 宿題の『小学校の思い出を書こう』を取り組む姿がある。

 一年と少し前、小学五年生のときに転校してきたとある。

 つまりいまは、小学六年生なのだ。


 こだまが転校してきたときのことが、回想で書かれている。

 

「こだまは机のそばに座り込んで見せて、と言った。いきなりで、断ることもできずに指輪をわたした。こだまはそれをスッと目の前にかざして輪の中を見る。伊都が声を出す暇もなかった。こだまは輪の中をのぞいたまま、嬉しそうに笑って、すごーいと言った。指輪のことはこだまにしか話していない」

 こだまは、鬼が見える指輪だと知っているのだ。

 伊都とこだまのキャラクターをさらに深掘りし、彼らの背景や動機、二人の仲の良さが書かれていると、もっと魅力的に感じられるかもしれない。

 指輪の話だけでなく、二人共転校生という共通点があるので意気投合して仲良くなった、ということがあればいいのかなと想像する。


「この地域は、昔から神様との繋がりが深い地域であり、規模は小さいが毎年、伊都が前いた地域の夏祭りよりも格式的に祭りが執り行われる。その雰囲気がおみこしにまで伝わっている」

 さりげなく伏線らしきものが書かれている。

 それでいて、「見た事のない、鬼よりも人間に近い何かがたくさん歩いている。行列だ。一人二人ではなく、数十人、もしくは数十匹で歩いているのは初めて見た。それらはおみこしについていくようにしてゆっくりと歩いている。一歩一歩歩くたびに地響きが聞こえてくる気がしてしまう」と、鬼を見る。

 そもそも、神輿には神様が乗っている。神様にとっては車で、自分の管轄の町や村をみてまわっているようなもの。

 神に近い鬼も、いっしょになって練り歩いても不思議ではないかもしれない。


「伊都は立ち止まった。わかれ道で鬼だけが、人の形のものが行く神社とは違う道へ進んでいく。指輪を目の前からおろして鬼が行っていた道を見る。薄暗くて少し狭い道は、そのまま山へと向かっている」

 鬼にには鬼の都合があるのだろう。


 神社へ行き、鬼を見ている主人公。

「鬼は目的を持たずに神社の中を歩いていた」

 鬼はなにをしているのかしらん。


 主人公は白い一つ目の鬼を見る。

「よく見つけられたね。その指輪を見るのは久しぶり。また会いに来てくれたんだ。嬉しい」「でもね、危ないよ。ここはあまりいい場所じゃない。気づかれないうちに帰りなさい」

 また、会いに来てくれたとある。

 以前もきたことがあるのだ。

 ラストで書いた作文に、「小学校の五年生のとき、ぼくは神社の裏で指輪を見つけました。最初は指輪だとは思わずに、石だと思いました」とあり、このことをいっているのだ。

 このときはまだ、主人公は鬼が見えていない。

 白い一つ目の鬼が、こっそり見ていたのだろう。

「出ていきなさい。帰りなさい。ここに来たことを話しちゃだめだよ」

 この白い一つ目の鬼は、いい鬼のような気がする。


 こだまが来たとき、鬼との約束を守るように、隠している。

「おみこしが行った神社には行っていないから嘘は言っていない」

 それでいて、こだまを裏切ることもしていない。

 この辺りの屁理屈的な感じが、子供らしさを感じていい。


 こだまの家系は、悪い神や鬼から目をつけられて霊力を奪われて死んでしまわないよう、あちらとこちらの端境を守ることを生業にしてきたらしい。


 一年前のおじいちゃんの話で、「古くからお守りとして使われていた指輪で、霊力が強すぎるために人が神の世界に流出してしまう危険があると判断されて、神社に捨てられた。それを見つけてしまった少年がいる。お前と同じ歳ぐらいだ。うん。お前の初仕事かな」といわれている。

 ラストで書かれた随筆から、おじいさんと会っている話がある。

 おじいさんは主人公が指輪を持っていると知り、孫のこだまを転校させたのだと考える。

 つまり、こだまは最初から主人公のこと、指輪を持っていることを知って声をかけてきたのだ。

 鬼や指輪の背景についてもう少し詳しく説明されていると、物語が深まる気がする。ふわっとして、ざっくりしている印象を感じる。


「切った後に指輪の保管場所も考えなきゃいけない。あれだけ霊力の強い指輪を保管できるのは、あの霊力が弱い霊力になるぐらいもっともっと霊力の強い場所に置くしかない。そんな場所は滅多にあるもんじゃない。力の強い神社になら、そんなスポットがないこともないだろうが……」

 のちに、こだまは小さな川に捨てている。

 霊力の強い場所のかしらん。

 川は、あの世とこの世の境でもあるので、捨てる場所としては悪くないのかもしれない。


「鬼を見れる場所考えてたんだけど、この町、神様の神社だけじゃなくて鬼の神社もあるでしょ」

 鬼の神社があるらしい。

 それが、山にある神社なのだろう。


 長い文は十行以上続くところもある。句読点を用いた一文は長くない。登場人物の性格がわかる会話文が多い。キャラクターの感情が伝わりやすい。シンプルで読みやすい文体。伊都の視点から描かれており、彼の感情や思考が丁寧に描写されている。

 日常の中に非日常が混ざる独特の雰囲気が魅力的。

 日本の伝統的な要素(神社、鬼)を取り入れたファンタジー要素が現実の中に自然に溶け込んでいる。緊張感と不安感が巧みに描かれているのが特徴。

 伊都とこだまの関係性が丁寧に描かれており、読者が感情移入しやすい。友情と勇気、そして未知への探求心がテーマとして描かれている。鬼の登場シーンや森の描写が緊張感を高めているところがいい。

  視覚、聴覚、触覚など五感を使った描写が豊富で、読者が物語の世界に入り込みやすい。

 視覚は鬼の姿や行列、夏祭りの風景、神社の様子、森の深さや木々の様子、白い一つ目の鬼の姿、赤い橋などが詳細に描写されている。

 聴覚は蝉の鳴き声、笛と太鼓の音、母親の声、セミの鳴き声、川のせせらぎ、鬼の声など物語の雰囲気を豊かにしている。

 触覚は、指輪の冷たさ、風の感触、汗が吹き出す感覚、指輪を握る感覚、転んだ時の感覚など。

 嗅覚、味覚はない。

 夏祭りの雰囲気、神社や森の匂い、汗のなどの匂いなど、朝食のシリアルや牛乳の描写などに嗅覚や味覚の描写を追加すると、さらに臨場感が増すと考える。


 主人公の弱みは、内向的な性格で人見知りがち。これが彼の行動に影響を与えている。また、鬼を見る力に対する不安や恐怖、好奇心が混在している。自分の感情に振り回されやすい。


 森で見たとき、「よく、わかんない……。なんか、いつもの鬼より、ぼやぁってしてる……」とある。

 それに対してこだまは、「やっぱり森の中のほうが霊力が高くて指輪がピンぼけみたいになってる」と説明している。

 霊力でピントを合わしているということは、いままでみえていた鬼は、指輪と同じくらいの霊力だったのだろう。

 ボケるということは、鬼の霊力が弱いか、もしくは強すぎるのか。

「社の前でははっきり見えてたのに」とある。

 指輪の力を抑えるために、それ以上の力を持つ場所に置かなくてはならないので、社の霊力で指輪の力が抑えられ、弱まっていたと推測。

 神社で白い一つ目の鬼を見たときは歪んでいた。

 でも森の中で会ったときは、「白い一つ目は全く歪ではない顔で嬉しそうに微笑んだ」とあり、指輪の力が抑えられていない状態。

 指輪と同じ霊力を、一つ目の鬼は持っているのだろう。

 

 白い一つ目の鬼に会う前に、こだまは「あのねぇ、鬼の中にはすごく霊力が高い妖怪みたいなものがいてね、神様と同じくらい高いんだって。でも、霊力が強い分、向こうに気づかれたら終わりだけどね。その指輪……神様は見れるのかな?」といっているということは、白い一つ目の鬼は神様のような鬼だということだろう。

 だから、主人公に危ないから来てはいけないよと忠告してくれていたのだ。

 でも、「君ならまたきてくれると思っていたよ、いらっしゃい」というので、襲ってくるのかどうかわからない。

 主人公は指輪との結びつきから、霊力の強いものへ引き寄せられていくのだろう。指輪の持ち主ではないこだまは危機を感じ、その場から主人公を連れ出すのだ。


「森の手前に細い川が流れていて、小さな赤い橋がかかっている。ここに立つ直前まで聞こえなかったはずのせせらぎの音がやけに大きく聞こえる。伊都はまるでとてつもなく大きな川を前に、自分がのまれそうになっているように感じた。ここがどこか、なぜ橋があるのか、こだまはここを知っていたのか、一瞬のうちに伊都の中に疑問が溢れ出してきて、そして消えた。催眠にかかったようなふわふわした頭で思う。(怖い、けど、あの橋の向こうに行きたい)」

 人間の世界と鬼や神の世界の世界の境に来ていたのでは、と考える。

  

 読後。

 伊都とこだまの冒険に引き込まれる。鬼というファンタジー要素が現実の中に自然に溶け込んでいて、物語の世界に入り込みやすかった。伊都とこだまの関係性も魅力的で、一気に読み進められた。

 緊張感のあるシーンが続き、最後、こだまの行動や伊都の思い出が心に残る。助けるためとはいえ転ばせて悪かったなと反省しているところに、友達を思う気持ちが感じられる。

 全体として、非常に魅力的な作品だった。

 気になるのは、よつめの鬼が持っていってしまった爪切りがどうなったのか。最後ゴミ箱に投げ捨てたとき、爪切りがそばに転がっているのを見つけてもよかったのかなと、邪推した。

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