DIGITAL SINGLE「Bride」

DIGITAL SINGLE「Bride」

作者 五十嵐璃乃

https://kakuyomu.jp/works/16818093084165809073

 

 戦時下の日本。結婚して数年が経過したほのかは、夫の浮気を知りつつも自らも別の男性と恋をしている。互いに不倫を認めつつ、夫婦愛を装っている。夫に召集令状が届き、夫への思いを新たにし、自らの不倫を清算する決意を固める。出征前、ほのかは病に倒れ翌朝回復。不安を抱える夫は「人を殺す時の感覚はどうだろう」と残酷な質問を投げかける。夫の無事を願い別れのキスを交わし、夫は戦地へ向かう。出征後、孤独な日々を過ごしていると夫の浮気相手、青木という女性が訪れる、夫が仕事を辞めた理由を尋ねる彼女に怒りを抑えきれず突き放す。後に青木が空襲で亡くなったと知り、自身の行動を悔い、彼女の死を心から憐れむ。戦後、夫の復員の知らせを受けて港に向かうも見つけられず、恐怖に駆られる。やがて夫の声が聞こえ、彼女は涙ながらに再会。抱きしめられてようやく孤独から解放され、幸せを感じる話。


 時代もので、私小説。

 戦争という大きな背景に不倫を扱いながら、愛と孤独、夫婦愛を描いている。感情描写は豊かで、リアルな人間関係と感情の揺れ動きを上手く表現された作品。モノローグが冗長的なところもあるけれども、秀逸といえる。


 主人公は戸山ほのか。一人称、私で書かれた、ですます調の文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 絡め取り話法の中心軌道に沿って描かれている。

 時は第二次大戦ごろ、ところは日本。

 主人公の戸山ほのかは夜遅くこそこそと家に入り、心配性の夫・清蔵が待つ自宅へと辿り着く。夫が他の女性と過ごしていることを知りながら、彼女自身も別の男性と密かに恋愛をしている。互いに不倫を認めつつも、夫婦としての愛情も持ち続ける彼らは、複雑な関係を続けていた。

 時が経つにつれ、戦争の影が迫る中、夫に召集令状が届く。彼は戦地に向かう運命を背負い、彼女はその現実に直面する。彼女は夫に不安や苦しみを抱かせたくないと願い、秘密の恋人との関係を一時的に断ち切る決意をする。

 病に倒れた彼女は、出征前の夫の心配を増やしてしまうことに苦しむが、彼の温かい気遣いに触れ、心が癒されていく。彼女は、二人で笑い合った瞬間の幸せを思い出し、自身の不倫相手との関係を清算することを決意する。

 夫が出征する朝。彼女は熱から回復したものの、夫との会話は緊張感に満ちている。夫は「人を殺す時の感覚はどうだろう」と問い、彼女はその言葉に動揺しつつも、夫の無事を願う。最後のキスを交わし、夫は戦地へと向かう

 夫が出征してから二か月が経ち、彼女は孤独な日々を過ごす。彼女は野菜を育てたり、小説を読んだりして自分を紛らわす一方、心の奥には不安が渦巻いている。そんな中、夫の浮気相手である青木という女性が突然訪ねてくる。青木は夫についての質問をし、主人公は嫉妬心から強く応答。戦争後に青木が空襲で亡くなったことを知り、主人公は彼女の死を心から悲しむと同時に、自分の行動を悔やむ。

 夫が出征して三年以上が過ぎた昭和二十年の八月。大日本帝国の敗北が知らされる。終戦のおよそ三か月後、夫の復員の知らせが届くと、彼女は期待と不安に満ちた心で港へ向かう。多くの人々が集まる中、彼女は夫を見つけられず、恐怖と不安に苛まれる。しかし、ついに夫の声を聞き、涙を流しながら再会を果たす。夫の腕の中に収まり温もりを感じながら、三年の孤独から解放され、幸せを噛み締めるのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 主人公の心情と夫婦関係の描写。

 二場の目的の説明

 不倫関係が進展し、互いの感情が複雑化。

 二幕三場の最初の課題

 夫の召集令状の受け取りによって緊張が高まる。

 四場の重い課題

 夫との最後の時間を大切にし、彼女の決意が固まる。

 五場の状況の再整備、転換点

 出征を前にした夫婦の緊張感ある朝の描写。

 六場の最大の課題

 戦争中の孤独と夫の浮気相手との不快な遭遇。主人公の葛藤。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 戦争終結後の夫の復員の知らせと、混乱の中での再会。

 八場の結末、エピローグ 

 再会を果たした主人公が夫に抱きしめられ、幸せを実感する。


 夫婦の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 遠景で、泥棒のように夫の待つ自宅に帰宅するのは「何とも言い難い気分になる」と示し、近景で、夜遅くまで男と一緒にいたのを待っていて居間に電灯がついていると説明。心情で、帰宅すると、迎えてくれた夫は安堵の表情を浮かべていたと語る。

 不倫をしてきた主人公が帰宅して、夫に出迎えられるという状況。

 倫理的に正しくないから不倫というのであるけれども、主人公はコソコソ帰ってきて悪いことをしているという自覚を持っている。

 こうしたところに人間味を感じ、共感を抱く。


 しかも夫は夫で、よういした食事を食べず、「本当は、外で好きな女の人と一緒に食べてきたのだから、お皿だけ残して、食べ終わったかのように見せかけた上で、自分の部屋まで持っていって、後でこっそり召し上がるつもりなのだ」と、不倫をしている。


「そんな互いに気を遣うような生活を続けて、もう一年が経っています。一体どちらが先だったかなんて憶えていませんが、結婚して数年が経った、ある時分から、あの人は、好きな女の人のところに、私は、好きになってしまった男のもとに、出掛けるようになりました」とある。

 あとで、「五年近くも経って、互いに相手も出来ていたのですから、私は二十六にもなるおばさんでも、実際は、身も心も未熟な、世間知らずの女の子でした」と出てくるので、結婚して五年目ぐらい。

 主人公が二十一で、夫が二十五のときに結婚。不倫をするようになったのは、この一年くらいだから、主人公が二十五で、夫が二十九歳のとき。夫が不倫をするようになってから、主人公もするようになったのではと邪推する。


「私たちは、必然的な愛は知っていても、偶然的な恋は知らなかった。だからこそ、そこには、好奇心がありました。私たちは、知ってみたかったのです。夫婦という関係で結ばれた上で、その自由と人間性に満ち溢れたものに触れてみたかったのです」

 ようするに、互いの母親が同郷で茶会で知り合ったのがきっかけで、自分たちの子供を見合いさせて結婚をしたため、恋愛をしたこともない二人は経験したくなり、不倫をはじめたと後付の理論、言い訳をしている。


「今でも、私の方では、敬語交じりな言葉遣いは抜けていなくて、私たちの母親もとっくの昔に他界してしまい、あの人は三十、私は二十六にもなるのに、子供一人だって作らず、こうやって互いに相手の後ろめたい事を許すような、へんてこな関係になってしまいました」

 姑がいないので、諌める人がいないのだ。

 おそらく、それぞれの母が他界したのは一年以上前だと推測。

 父親はいないのだろうか。

 早々に戦争に行って帰らぬ人となっているのかしらん。そう考えると、二人には身内がいない。だから不倫をしていても別れないのかなと邪推を巡らせてみる。

 

「それに、私もあの人も、それぞれの相手を、ちゃんと知っているんです」

 夫の相手は「勤めている測量会社の女社員だそうで、何ともロマンチックに惹かれ合い、恋が芽生えていったそうなのです」

 主人公の相手は、夫よりだいぶ若い、「新参の劇作家で、或るカフェーで知り合ったことをきっかけに、私の方が不道徳な恋に落ちてしまい、その人もそれに応じて、次第に秘密の逢瀬を重ねていったのです」とある。

 主人公よりも年下かもしれない。

 不倫相手や夫の描写をもう少し具体的に描くと、物語全体のバランスが取れるのではと考える。あとで夫の不倫相手の青木は登場するけれども、主人公の不倫相手は影すらみえない。

「例の不倫相手とも既に決別し(どうやら、男の人は、女の人から振られてしまうと、それ相応の衝撃と苦痛を感じるようです)」とあるので、自暴自棄になったまま、主人公の不倫相手だった彼は出征していき、死んだかもしれない。

 

 そんなことをしているうちに、「夫のもとにも召集令状が届きました。東南アジアの端に位置する森林地帯を抑えている部隊への配属が報じられて、あの人も私も、呑気に自分たちの恋を続ける訳にはいかなくなりました」と、戦争の足音が身近に迫ってきた。

 出征して三年ぐらいで戻っているので、前半のお話はおそらく一九四二年。出征から二か月ほどが経った夏に不倫相手の青木が来ているので、六月ごろに赤紙が届いたのだろう。

 

「会社を辞めて、出立の日まで、あの人は、ずっと、お家にいらっしゃいました。あの人のことですから、女の人には、召集のことは隠して、それらしいことを言っておいたのでしょう」

 のちに、不倫相手の青木が「清蔵さんが、会社をお辞めになった時、理由を尋ねたら、別の会社で働くようになったとおっしゃっていたんです。その時はそれで納得したのですが、何だかそれが後になって嘘っぽく聞こえてきて、非常に気になってしまって、不躾にもこうやってお伺いしたのですが、清蔵さんは、今、御自宅にいらっしゃいますか?」訪ねに来ている。

 出征の話だけでなく、不倫関係をやめるようなことも言わずに、戦争にいってしまったらしい。

 主人公も、「真実は黙っておいて、少しの間その人と逢うのはお断りして」と、距離を置くことにした。


 出征前に流行り病にかかって寝込んだとき、「出征前の夫に心配をかけてしまったことが、一番つらかったんです」と夫を気にかけている。

「あの人は、戦争が嫌いなようでした。人殺しを恐れ、憎んでいたんです。だから、赤紙が来た時の、あの人の漠とした不安が、私には痛いほど染みてきて、御国のため、陛下のためと、あの人は、震える手を必死に抑えている様子でした。そんな時に、私が倒れてしまったのですから、あの人に更に心の負担がかかることをするのは、本当の本当に嫌でした」

 外に相手をつくりながらも、夫を気にかけている。

 家庭内に問題があって、互いに不仲な状況であるとき、外圧がかかると。互いに共通する問題ができるため協力しようとする。結果、相手を気遣ったり、助け合ったりして、家の外にある問題と対峙しようとする。

 子供が入れば、夫婦間に共通項ができるのだけれども、二人に子供がいないので、夫婦としての成長に時間がかかるのだと推測する。

 

「無理に体を起こして、あの人と目線を合わせようとしました。だからといって、『無理をするな』と言わないのが、あの人でした」

 と思っているところに、「まだ少しあるね。もうしばらく寝ていた方が良いんじゃないか?」と気遣われ、「あの人が私に触れてきたことに対する、初心な恥ずかしさを感じた」となるのだ。

 五年くらいの間、互いにスキンシップをしてきていなかったのだと思われる。「五年近くも経って、互いに相手も出来ていたのですから、私は二十六にもなるおばさんでも、実際は、身も心も未熟な、世間知らずの女の子でした」という心情がでてくるのだろう。


「私に紡いでくれた言葉の数々も、眼鏡を通して私に向けられたその眼差しも、おでこに感じた額の温とさも、あの人が私に与えてくれた愛情の一部だってことを、私はこんなにも嬉しく思っている。あゝ、やっぱり、私、幾つになっても、不倫をしていても、あの人のことが好きなんだ。あの人のことを愛してるんだ。そうでなかったら、あの人と一緒に居て楽しかった、なんて思わないはずだし、あの人が好きだったから、不倫をしていて、こんなにも心が苦しかったんだ」と、愛していることに気づき、不倫相手と別れよう、夫と夫婦でいようと決意する。

 それを決意するのが、出征の前日。

 戦争の激化による出征により、今までの関係が壊れたことで、うちに秘めてきた思いが溢れ出てくる。少女漫画でもよくみられる展開であり、主人公にとって小さな殻を破り、意思決定をするところで前半が締めくくられているところが実にいい。

 後半は、積極的にドラマを動かしていく展開になっていく。

 だから、別れ際、生きて帰ってこられる気がしない夫に対して、「自分でも記憶にないぐらいの速さで、不意に、あの人にキスしてしまいました。それが夫婦になってからした、何回目のキスだったかさえ、あやふやでしたけど、私は、再び、あの人に、妻として、女として、恋に落ちていました」と行動する。

 ここで夫にキスしたから戦後、帰ってくることができたのだろう。

 

 長い文は二十行くらい続くところがある。

 句読点を用いた一文は、とにかく長め。だけれども、読点で短く区切られていて、読みやすくしている。一文に色々盛り込んでいるので、区切ってもいいかもしれない。ただ、主人公の主観で絵が変えた独白なので、主人公の中では状況や風景、体験と思考、葛藤がないまぜになっている状態を表していると捉えるのであれば、悪くない表現だと思う。

 敬語を用いた口語的。内面的な独白を多く取り入れ、感情や思考が詳細に描写されており、感情移入しやすい。反復的な表現が多く、主人公の葛藤や心情の変化を強調しているのが特徴。

 夫とのやりとりや青木との会話がリアルで、緊迫感が伝わる。孤独感や愛情の描写が繊細で、読者に強い感情を呼び起こす。

 戦争の影響や人間関係の複雑さがリアルに描かれており、読者が共感しやすいところがいい。主人公の内面的な成長が明確で、読者に感情移入を促す。

 戦争という大きなテーマを背景に、個人の感情をしっかりと描きながら、愛、孤独、戦争の悲劇を上手く織り交ぜられていて、深いメッセージが伝わる。

 五感の描写について。

 視覚は、主人公が帰宅する際の薄暗い夜の描写が、緊張感を生む。夫の顔や港の混雑、青空が詳細に描写され、情景が鮮明に浮かび上がる。

 触覚は、夫が主人公のおでこに当てる場面は、温もりが二人の親密さを際立たせている。キスや再会時の抱擁による温もりが強調され、愛情の深さが伝わる。

 聴覚は、夫の安堵の声や、部屋の静けさが緊張感を際立たせている。夫の声や周囲の雑音が対比的に描かれ、緊迫感や感動が増幅されている。

 嗅覚や味覚はとくにない。戦時中の日常生活に関連する感覚がさりげなく描写され、リアリティを持たせている。


 主人公の弱みは、自身の不倫に対する罪悪感と、夫への愛情との間で揺れる心情。夫の心配をする一方、自らも他の男性と関係を持つ矛盾を抱えている。

 夫の出征後は感情の不安定さが現れている。夫との別れや浮気相手との対面で、自信を失い、感情的になってしまう。不倫相手に対する過去の行動が、今の状況に影響を及ぼし、自己嫌悪に陥る。


「『あのー、すみません。戸山清蔵さんのお宅は、ここで合っていますでしょうか?』と、女の人が訊いてきました」

 ようやく夫の名前と、そのあと主人公の名前、ほのかがでてくる。

「何だかあっちも恐る恐る聞いてきて、女二人で奇妙な構図を描いていました」

 不倫している人が、相手の家を訪ねに来るのはそれなりに勇気がいるだろう。青木は、主人公が夫の不倫を知っていることに気づいているかしらん。

 主人公が強い口調で伝えたことで、知っていることがわかったのだろう。

 青木がしんみりと黙り込んだのは、不倫がバレたこともそうだけれども、戸山清蔵が出征して会えなくなったことだろう。

 いつ帰ってくるのか、戻ってこれるのかもわからない。

 事実上、関係が終わったことを知っったから、「陽の光が能天気に降り注ぐ急坂を、一人憂鬱に下って」いくのだ。

 状況描写で、スポットライトを浴びながら人生の下り坂を降りていくようで、青木の心情をも表している。

 このあと、大空襲でなくなるので、それをも暗示していると思える。とはいえ、青木の描写が薄い感じがする。主人公視点の心情が強く書かれているからだと思うが、彼女の背景をもう少し掘り下げられていると、より立体的に感じられるかもしれない。

 

 復員の知らせが届いたとき、「私は、最初、余りにもびっくりしてしまって、数分間、固まってしまいました。そして、いつからか記憶が薄れていった、あの人の顔に、段々、色彩と現実味が蘇ってきて、私はようやく意識を取り戻すことが出来ました」ここの描写は実感がこもっている。

「余りにもびっくりして」を削って、動きだけを示してもいい気がする。

「私は最初、数分間、固まってしまいました。そして、いつからか薄れていたあの人の顔に、段々、色彩と現実味が蘇ってきて、私はようやく意識を取り戻すことが出来ました」と描いて読み手に追体験させて、主人公がびっくりしたことを感じてもらうといいのではと余計なことを考えてしまう。


 港についたときの、「港は、眼の前が人の頭で埋め尽くされてしまうぐらいの光景」では、主人公は見ているので、「眼の前が人の頭で埋め尽くされた光景」と、いい切ったほうが読み手に伝わると考える。

「周りの人声や雑音は少しも掻き消されず、悲愴感に呑み込まれた私の耳を、気色悪く通り抜けていきました」悲壮感、と説明している部分は削ってもいいと考える。主人公の動きや感じていることを追体験してもらい、読者が「主人公は悲壮感に飲み込まれているんだ」思えるようにしたらいいと思う。

 夫の復員の場面にもう少し緊張感を持たせ、読者を引き込む工夫をすると、再会がより感動的な瞬間となるのではと、余計なことを考えてみた。


 戦争が終わり、復員で夫が帰ってきて二人が抱き合う状況は、生きて帰ってきた喜びはもちろん、二人がようやく夫婦になれたと思え、幸せを倍に感じることができる。物語の作り、運び方は、実によく考えられて上手いと感じた。


 夫との三年ぶりの再会。

「軍服は汚い上にボロボロで、身体は以前よりは大分痩せてしまって、段々剃るのが面倒になってしまったのでしょう、顔には髭がびっしりと生えていましたが、何処からどう見たって、やっぱり、ちょっと不器用で、それなのに物事には凄く熱心で、責任感が無駄に強くて、いつも自分のせいだとばかり思い込んでしまって、そして何より、初めはあの人以上に未熟でぎこちなかった私のことを、五年も見捨てずに大切にしてくれた、私の夫でした」

 一文が長い。

 句切れそうではあるが、主人公が夫を出迎えたときの、頭の中にある記憶から探し見つけ出し、じわりじわりと鮮やかな彩りを持って現れていく様を、追体験できる。

「おっ……おかえり、なさい……」と答え、抱きしめられて幸せでしたと締めくくられる場面は、客観的に状況が描かれているところはよかった。

 物語全体が、過去回想で描かれていて、主人公は昔を振り返るように戦時下の夫婦のこと振り返っていたのだと、読後に感じられた。


 読後。

 タイトルをはじめ見たとき、インターネットを通して一曲単位でダウンロード販売されるシングル、デジタルシングルとしてリリースされた結婚や愛をテーマにした楽曲「Bride」かと思った。

 デジタルとは、つながりのない「バラバラ」を、シングルは「たった一つの」「個々の」「独身の」を、ブライドは「花嫁」を意味している。

 結婚しているけれども不倫している主人公を表していたのだろう。読み終えて改めてタイトルを読み、出征して一人孤独に帰りを待っていた主人公をも表していたのだと感じた。

 感情の起伏や複雑な人間関係、主人公の苦悩も感じた。夫との絆が深まる瞬間は実に良く、物語が進むにつれて、彼女の決意に心が温まる。葛藤や再会の瞬間は心が打たれ、戦争の悲劇と愛の力を感じた。

 内的な独白が長く、テンポが崩れるところもあるけれども、伝えたいことや感情の深さは非常に魅力的で感情を揺さぶられる深い作品だった。



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