都内に事務所を構える名探偵はどうやら極端な気分屋らしい〜とある共学校で起こった女子生徒数名の殺人事件〜
都内に事務所を構える名探偵はどうやら極端な気分屋らしい〜とある共学校で起こった女子生徒数名の殺人事件〜
作者 伏見ダイヤモンド
https://kakuyomu.jp/works/16818093076859712496
女子生徒数名が殺害された事件を解決するため、名探偵坂本樹と助手宮本七海が調査を進めるミステリー。
六月十九日。外林桜が学校の廊下で金属製の槌を持った何者かに襲われる。警備員の岡崎慎太郎が血の跡を辿り、事件を発見。次に、杉山大翔が部室にユニフォームを取りに行く途中で女子生徒の死体を発見し、警察に通報。探偵の坂本樹と助手の宮本七海は、校長の大平源蔵から依頼を受け、事件調査を開始。彼らはトイレが犯行現場であることを特定し、被害者の一人である外林桜と仲が良かった斎藤真奈美から証言を得る。探偵事務所に百合真央が訪れ、見せられた手紙には、事件当日にB棟四階の女子トイレに来るよう指示が書かれていた。坂本は事件の関係者を集め、犯人が高橋麻衣である可能性が高いと指摘。百合は高橋をいじめていたことを告白し、高橋が山崎にそそのかされて犯行に及んだと認める。山崎と高橋は逮捕され、山崎の行動が独占欲から来るものだった話。
誤字脱字等は気にしないが、登場人物の名前の誤りは気になる。
ミステリー。
緊張感のある展開と詳細な描写が魅力的な作品。
全体的にはテンポが良くて読みやすく、心理描写も豊かで登場人物の感情に共感しやすいところが魅力だ。
三人称、事件の調査を進める探偵たち(坂本樹と助手の宮本七海)視点、神視点(外林桜、岡崎慎太郎、杉山大翔、高橋麻衣などを含む)で書かれた文体。シンプルで読みやすい。謎解きものなので、奇妙な出来事→推測1→推測2→推測3→答えの順に沿っている。
事件の発生から調査、解決に至るまでの過程を描かれている。
各章は、異なる視点からの描写が交互に展開され、読者に緊張感を持たせながら進行し。事件の調査を進める探偵たちの視点で過去の出来事や関係者の証言を通じて真相が明らかになる。
各章で新たな情報が提供され、徐々に全体像が見えてくる展開が特徴。
坂本と山崎は男性神話、高橋と斎藤は女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
六月十九日。外林桜は学校の廊下を走っている最中に恐怖に襲われ、金属製の槌を持った何者かに襲われて意識を失う。その後、警備員の岡崎慎太郎が校内を巡回していると、血の跡を発見し、恐る恐るその跡を辿っていく。
野球部の杉山大翔は、先輩に頼まれて部室にユニフォームを取りに行く途中、中庭で血まみれの女子生徒二人を発見。彼は警察に通報しようとするが、その時、上階から女子生徒の絶叫が聞こえる。
探偵の坂本樹は、校長の大平源蔵から依頼を受け、事件の調査を開始。被害者は井上日和、高坂薫、外林桜の三名、いずれも高校二年生。井上と高坂は屋上から落下して死亡、外林は金属製の槌で殴られて死亡した。坂本は三名を殺害した犯人が同一人物である可能性を考える。
坂本と助手の宮本七海は、事件が起こった学校を訪れ、現場検証を行う。大平校長は、犯人が捕まるまで学校を休校にすることを決定。坂本は、井上と高坂が死亡していた中庭を調査し、彼女たちがトイレで殺害され、窓から捨てられた可能性を考える。
坂本と宮本は、トイレを調査し、床が濡れていることに気付く。坂本は、井上と高坂がトイレで殺害され、窓から捨てられたと確信。しかし、外林の殺害現場についてはまだ分からない。坂本は、事件の真相に迫るため、さらに調査を進める。
探偵の坂本と助手の宮本は、事件の被害者である外林桜と仲が良かった斎藤真奈美の自宅を訪れる。斎藤は事件当日、外林と一緒に帰宅していたが、外林が忘れ物を取りに戻ったため別れたと証言する。斎藤はその後、外林が殺害されたことを知り、後悔の念を抱いている。
探偵事務所に向ケ丘高校の生徒、百合真央が訪れる。彼女は事件当日に受け取った手紙を持参し、その内容が事件と関係があるかもしれないと話す。手紙には、B棟四階の女子トイレに来るよう指示が書かれていた。坂本と宮本は、他の関係者を集めることを決意する。
探偵事務所に集められた関係者たちの前で、坂本は事件の犯人が高橋麻衣である可能性が高いと指摘する。百合は、高橋をいじめていたことを告白し、彼女が犯人である理由を説明する。坂本はさらに調査を進め、事件当日の高橋の行動を確認する。
高橋麻衣は、いじめの被害を受けていたことから、担任の山崎に相談していた。山崎は高橋に「殺してしまおう」と提案し、二人で計画を立てる。高橋は匿名の手紙を使って井上と高坂を呼び出し、山崎が背後から殺害するという手口だった。しかし、外林桜が偶然現場を目撃し、山崎に追われて殺害される。
山崎は過去に自殺を考えるほど追い詰められていたが、幼い高橋に救われた経験があった。高橋が高校に入学してからも彼女に特別な感情を抱いていたが、彼女に彼氏ができたことで嫉妬し、事件を引き起こす。最終的に、坂本と宮本の調査により山崎と高橋は逮捕される。坂本は、山崎の行動が独占欲から来るものであり、本当の愛ではなかったと結論づける。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場 状況の説明、はじまり
外林桜が学校の廊下で金属製の槌を持った何者かに襲われる。警備員の岡崎慎太郎が血の跡を発見し、恐る恐るその跡を辿る。
二場 目的の説明
野球部の杉山大翔が血まみれの女子生徒二人を発見し、警察に通報しようとするが、上階から女子生徒の絶叫が聞こえる。
二幕三場 最初の課題
探偵の坂本樹が校長の大平源蔵から依頼を受け、事件の調査を開始。被害者は井上日和、高坂薫、外林桜の三名で、坂本は犯人が同一人物である可能性を考える。
四場 重い課題
坂本と助手の宮本七海が学校を訪れ、現場検証を行う。校長は学校を休校にすることを決定。坂本は井上と高坂がトイレで殺害され、窓から捨てられた可能性を考える。
五場 状況の再整備、転換点
坂本と宮本がトイレを調査し、床が濡れていることに気付く。坂本は井上と高坂がトイレで殺害され、窓から捨てられたと確信するが、外林の殺害現場についてはまだ分からない。
六場 最大の課題
坂本と宮本が外林桜と仲が良かった斎藤真奈美の自宅を訪れる。
斎藤は事件当日、外林と一緒に帰宅していたが、外林が忘れ物を取りに戻ったため別れたと証言する。
三幕七場 最後の課題、ドンデン返し
探偵事務所に向ケ丘高校の生徒、百合真央が訪れ、事件当日に受け取った手紙を持参する。坂本は事件の犯人が高橋麻衣である可能性が高いと指摘し、百合は高橋をいじめていたことを告白する。
八場 結末、エピローグ
高橋麻衣と担任の山崎が事件を計画し、実行していたことが明らかになる。坂本と宮本の調査により山崎と高橋は逮捕される。坂本は、山崎の行動が独占欲から来るものであり、本当の愛ではなかったと結論づける。
連続して殺害された女子生徒の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
ミステリーは大きく二つにわけられる。
一つは、これまでにない「新鮮さ」が感じられる小説。
もう一つは、全体的に完成度、質が高く、読み手にとって読みやすい小説。
前者の「新鮮さ」とは、
一、これまでにない魅了的な登場人物や物語の設定があること。
二、これまでみたことのない奇妙なトリック。
三、これまでエンタメでみたことない意外なラスト。
四、これまで味わったことのないハラハラ・ドキドキ感。
このうち、一つでも満たせれば、多くの読者に楽しんでもらえて、賞を取ることも夢ではない。
後者の全体的に完成度、質が高く、読み手にとって読みやすい小説は、ミステリー小説に限らず、どの作品にもいえることである。
ミステリー小説に限っていえば、読み手は誰も「きっと面白いミステリーだろう」と期待せず、選考員も「どうせ駄目なミステリーだろう」と思って読むのだから、それを覆すためにも印象的な冒頭が必須になる。無名の新人であれば、できるだけ早く、死体を出して興味を惹かなくてはいけないと言われる。
遠景で「外林桜は永遠にも思える長い廊下をただ懸命に走っていた」と示し、近景で息切れを起こしていることを説明、心情でからだから汗が吹き出ている状況を語る。
なにやら尋常ではない状況にあり、必死に走っている感じが伝わる。
背後を見て、足がもつれて転んでしまう。スカートのしたから真っ赤になった足が見え、後ろに立つ人物が振り上げた手には、金属製の槌が握られており、どこで間違えてしまったのかと振り返る中、槌が振り下ろされると同時、外林の意識は完全に途絶えてしまう。
殺害の瞬間が描かれているのだ。
インパクトのある書き出しである。
次に遠景で、岡崎慎太郎があくびをしながら校内を回っていると描き、近景で、警備員を勤めて十二年と説明、心情で「この仕事にもいい加減飽きてきていた」と語る。
毎日おなじことのくり返し、事件も事故もなく過ごしてきたのだろう。こういうところは、共感を抱きやすいと考える。
「鼻をつんざくような悪臭。思わず顔を顰しかめたくなるような、強い刺激臭」を感じる。
嗅覚で違和感を感じ、つぎに「ワケもわからぬまま歩き続けていると、やがてベチャリという音が聞こえた」と触感と聴覚の描写から身近に感じて、懐中電灯で照らすと、上履きが真っ赤。
しかもあたり一面、赤い液体が広がっている。
「周囲を照らすと、その液体はどこかへ一直線へと進んでいた」と、液体はなにを意味しているのかはまだ見せない。
「恐る恐る、岡崎は血の跡を辿っていった。やがて発見したものは――」と、一話が終わる。
結局、赤い液体の謎が明かされない。
でも読み手は、先程の女子が襲われた場面を読んでいるので、ひょっとしたら殺されたのではと想像している。きっとそうに違いにのだが、まだ確証が得られていない。気になって先を読み進めてしまう。
さらに人物が変わる。
遠景で「先輩から名前を呼ばれた時、『またか』と杉山大翔は肩を落とした」と示し、近景で、無視できずしず支部要件を伺うと、先輩は両手を合わせてくると説明。「悪いんだけどさ、部室にユニフォーム忘れたから取りに行ってくれない?」と会話が来て、心情で舌打ちしなかっただけでも偉いだろうと自分を褒めている。
先輩の頼みだからと引き受ける。
なんだか可愛そうであるので、共感を抱く。
十八時を回っていて、十八時の完全下校制度がある。見つかれば反省文を書かされるか、部活停止をいわれる。それだけは避けたいと思いながら校内へむかう。
ますますもって可愛そう。
中庭で、人影を見て近づくと、制服を着用した二名の女子生徒が頭から出血をし、その血液は現在も勢いよく流れ出していた。
季節がいつかわからないが、春夏なら薄暗くても赤い血の色を判別できるだろう。秋口なら暗くなるのも早くなる。
つまり、本作は春夏の時期に起きた出来事なのだろう。
ただ、中庭なので、日当たりが良いのかどうかはわからない。
「女子生徒を抱きかかえ、二人の頬を軽く叩いてみる」とある。
頭から出血をしているということは、強く頭部を打ち付けている可能性がある。動かしては駄目。しかも、勢いよく血が流れ出しているので、頬を叩くのもどうかと。
見た目に外傷がなく、生きているのか寝ているのかわからないから、叩いたり揺すったり呼びかけたりする。
そもそも、目の前に血を流して倒れている女子二人を目の前にして、驚く素振りもなく声をかけ、抱きかかえて頬を軽く叩けるかしらん。行動に違和感がある。
通報しようとしたとき、上から女子生徒の悲鳴がくるのは、さらに驚きと興奮を覚える展開だ。
ここまでが導入。つぎからは本編へと入っていく。
さらに新たな登場人物。遠景で「大平源蔵が都内の探偵事務所を訪れたのは、午後一時を過ぎてからのことだった」と説明。
近景で探偵事務所の様子を描き、心情でチャイムを鳴らせば、返事の後、扉が開かれる。
二十代半ばくらいの男性の様子が描かれ、
「あの、昨日電話させていただいた、向坂というものなのですが……」という。
さきほど大平源蔵とあったのに、「向坂」と名乗っている。
偽名なのかしらん。
部屋に入りビール瓶に目を向けるとこまでは向坂だが、部屋の男性がビール瓶を頭に叩きつけたときには、「大平は予想外の出来事にギョッと目を剝むいた」とあり、その後、しばらく向坂は出てこない。
しばらくのちに、「久遠は少し考える仕草をした後、向坂に問うた」とある。久遠とは誰のことかしらん。向坂の名が出てきた後、また大平になっている。
坂本が中庭に来たとき、「向坂は先ほど教員に呼ばれ、その対処を済ませた後に合流するとのことだった」とある。
また「向坂から住所を聞き、聞き込みのためにこうして遥々はるばるやって来たのだ。往復の電車賃の五百円も、バカにはならない」ともある。大平校長と一緒に向坂という人がいるのかもしれない。
よくわからない。
語字かしらん。
大平は校長だと名乗り、生徒が三名亡くなったことを話す。
「ああ、今朝新聞で読みました。生徒が亡くなられたのは創業以来初めてのことだとか……」
きっと夜や朝のニュースでも報道されただろう。ということは、警察が現場検証をしたはず。
「死亡したのは女子生徒三名。被害者の名前は井上日和、高坂薫、外林桜……いずれも高校二年生だった。井上と高坂は中庭で、外林はB棟四階の廊下で死亡が確認された。犯人は未だ捕まっておらず、逃走中とのこと」とある。
犯人とあるので、警察は事件性があると判断したのがわかる。
「井上と高坂の二人は屋上から落下して死亡した、と記事には書かれているのですが、そうするとおかしな点が出てくるんです」「この二人の頭部には、傷が二つ確認されています。もし落下して死亡したのなら、傷は一つだけのはずなんです。でも、二人には傷が二つ……前頭部と後頭部に深い傷があったんです。だから……」
大平校長は、警察から聞いたのかしらん。
それとも、警察が来る前に二人の遺体を見て確認したのかしらん。あるいは野球部の杉山は頭部に傷が二つあるのを見て、校長に話した可能性も考えられる。
外林は他殺で間違いないと新聞に読んだと坂者との台詞の後、
「はい、彼女は他殺でまず間違いないでしょう。警察によると、轢殺だそうです。脳天に、他の二人と同じような傷が確認されています。外林の死体のそばに、犯行に使われたであろう金属製の槌つちもあったそうです。その槌で頭を殴られた、ということらしいのですが……」
とあるので、他の二人の頭部にある二つの外傷は、警察から聞いたのがわかる。
三名を殺した犯人は同一人物の可能性があるとわかり、坂本は「分かりました。この依頼、引き受けましょう」と答えている。でも会話の中では、犯人を見つけ出してほしいという言葉はでてきていない。
電話で探偵依頼をしたい旨を、先に伝えていたのだろう。探偵事務所に来て、世間話をして帰っていくことはないけれども、違和感がある。犯人が見つからないと、また殺人事件が起きるかもしれないし、不安で他の生徒が授業を受けられないからとか、校長が依頼する理由を語ったほうが、坂本としても依頼を受けやすくなると思う。
そして、事件が調べられていく。ここでは宮本七海の視点で話が進んでいく。
遠景で、坂本と助手の宮本七海が向ケ丘高等学校へ来たと示し、近景で現場検証が目的、B棟の四階に外林が死亡した廊下があり、さかもとは入念に観察。心情で「それで何が分かるのか、宮本にはいまいち分からない」と語られる。
野球部の杉山が二人の女子生徒が亡くなっているのを見つけたとき、B棟の四階から悲鳴を聞いている。そこは外林が死亡した廊下がある。つまり、悲鳴は轢殺されたときのものと考えられる。
その後、警備員の岡崎慎太郎が殺された外林を目撃したのだとすると、彼も悲鳴を聞いているはず。
もちろん彼は、A棟の見回りを終わらせてからB棟にたどり着いている。A棟からでは聞こえなかったのかしらん。A棟とB棟はどれだけ離れているのかしらん。
杉山は警察を呼んでいるので、十五分もしないうちに警察車両も救急車も学校にやって来るはず。そうすると、嫌でも騒がしくなる。
十二年も警備員をしていて退屈だと言ってられない。
二人が屋上から飛び降りたと警察が考えたのなら、B棟の階段を登るだろう。そこで警察は、外林の遺体を見つける可能性も考えられる。実際、朝刊には三人の女子生徒が殺害された記事が乗っており、校長も警察から三人の状況を聞いている。
そうなると、警備員の岡崎慎太郎が外林の遺体をみることができたのは、轢殺されてから警察が来るまでの間しかない。
警備をしながら、窓を閉めまわっていたかもしれない。すると、悲鳴は聞こえにくい状況になるだろう。
宮本は情報収集に徹しようと、大平と話している。
しばらく休校云々と語っているが、それは探偵依頼を持ちかけてきたときに話しておく内容だと思われる。部外者が校内に入るのだから。
そもそも、校長はなぜ警察ではなく、探偵に頼ったのか。
早く学校を安心して再開したかったからだろう。
その辺りのことも、会話の中に盛り込んでおくと、探偵に頼るしかなかったことがわかり、坂本たちの行動にも共感して読み進めていける気がする。
杉山が現れて、校長が休校にしている意味が、と話している。
事件のとき、校長と杉山の接点がなかったのがわかる。
どうして、杉山と高橋は、探偵が校内を調べているのを知っているのかしらん。野球部の練習と言っても、B棟の四階に来ているので、明らかに坂本がいることを知っての行動だと思われる。校長が休校を発表したとき、探偵に調べてもらうとでも説明したのかしらん。
「いえ、トイレの床が濡れているのを不思議に思いまして。通常、トイレの床を掃除するのは金曜日だけなんです。今はまだ木曜日なのに、と思って……」
生徒が掃除をしないのだろうか。トイレ掃除は業者に頼んでやってもらっているのかもしれない。それが金曜日なのだろう。それならそう書いたほうがわかりやすいのではと考える。
長い文は数行。基本はこまめに改行されている。句読点を用いた一文は長くなく、落ち着きと重々しさ、弱さや説明を表している。
短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶるところもある。
シンプルで読みやすい文体が特徴。
描写が詳細で、読者に情景を鮮明にイメージさせる力がある。性格がうかがえる会話が多いため、テンポが良く、登場人物の心理描写や感情表現が豊かで、読者が感情移入しやすい。
各キャラクターの心理描写が丁寧に描かれており、特に恐怖や焦りの感情がリアルに伝わってくる。また、探偵の坂本のユニークな性格や行動が物語にユーモアを加えている。宮本の真面目な性格が対照的で、物語に深みを与えている。
事件の発生から解決までの過程がスリリングで引き込む力があり、徐々に真相が明らかになる展開が、読者の興味を引き続けるところも本作の良いところ。
五感を使った描写が豊富、物語の緊張感や恐怖感を一層引き立たせ、登場人物の感情を効果的に伝えながら読者にリアルな体験を提供している。
視覚は血まみれの床や、金属製の槌、真っ赤な液体の海など、視覚的に強烈なイメージが描かれており、外林の死体の写真や、血液の流れ方、登場人物の表情など詳細に描写され、強い印象を与えている。
嗅覚は、 鼻をつんざくような鉄の臭いや、甘い匂い、血の臭いなど刺激する描写が効果的に使われている。
触覚は、外林が感じる冷や汗や足の感覚がなくなる描写、 斎藤が拳を握りしめる場面や、坂本が山崎の顎に正拳突きを食らわせる場面など、触覚的な描写がリアリティを増している。
聴覚は、外林の短い悲鳴や、女子生徒の絶叫、ベチャリという音、チャイムの音や、背後からの声かけ、電話の会話など緊張感を高める音が描写されている。
嗅覚は、飴でできたビール瓶の甘い匂い、レモンティーの香りや血の匂いなど、場面の雰囲気を豊かにしている
味覚は ビール瓶の形をした飴、レモンティーを啜る場面など、味覚に関する描写が登場人物の心情を表現している。
主人公の弱みとして、探偵の坂本樹は極端な気分屋であり、時折予測不能な行動を取ることがあるため、周囲の人々に不安を与えることがある。
ビール瓶の飴を集めるのはなぜかはわからないが、ある意味、茶目っ気がある。キャラ立ちとは、個性的なキャラを作ることではなく、読者に愛されるキャラを作ることなので、普通の人でも構わな い。
素人探偵ではなく、探偵事務所を開いている玄人にしたところが良かった。その手の職業の人なら知っている知らない、という読者のツッコミを回避できるから。
助手の宮本七海は、真面目すぎる性格が災いして、柔軟な対応が難しい場面がある。
探偵業だけでは食べていけないから、バイトをしている。食べていけないのに、ビール瓶の飴を買う坂本は、普段はどの様な食生活をしているのかしらん。
また、主人公である坂本と宮本の弱みは、感情的になりやすい点や、過去の出来事に囚われやすい点。これが物語の中で葛藤や成長の要素として描かれている。
外林は、忘れ物を取りに戻り、トイレでの犯行を目撃したため、口封じのため犯人に殺されてしまたことが明らかになる。物語の中盤でこのことがわかり、探偵の坂本と助手の宮本が犯人を見つけなければと強く思う場面が印象的。
事件があったのが六月十九日だということは、もっと早くに読者に知らせていてもいい気がする。朝刊に事件の記事が乗っていたときでも書けたのではと考える。
百合真央が探偵事務所を訪ねてくる。
向ケ丘高等学校の生徒は、探偵が調べていることを知っていると思われる。校長から説明があったのかもしれない。なにか気づいたことがあったら探偵事務所まで連絡をくれるよう、宮本が手を売っていた可能性も考えられる。
訪ねてきているということは、坂本の探偵事務所はそれなりに有名なのかしらん。
「いえ、行きました。でも、途中で亡くなった外林さんと、警備員さんに会って……。そこで警察に通報するよう頼まれたので、結局女子トイレには行っていません。あの、それが何か……」
この日、杉山と百合それぞれが警察に通報したことがわかる。
それにしても、十八時の完全下校制度があり、見つかれば反省文を書かされるか、部活停止をいわれるというのに、どの生徒も守る気がないように思える。おまけに、呼び出している犯人はのちに教師だとわかるのだが、教師が生徒に約束を破らせるのはいかがなものかしらん。
この点をみても、山崎という教師の身勝手さを感じる。
あとで山崎の行動が独占欲から来るものであると坂本が断じるのも、頷ける行動をしていた。
「坂本の目は、既に速水を見ていなかった」「都内にある探偵事務所に集められたのは久遠と速水を含め、全員で七人だった」とある。
久遠、速水とは誰? 語字かしらん。
宮本がトイレで拾った紙切れを取り出すシーンは、待っていただけにワクワクした。
「犯行に使われた槌のレシート」を拾ったことは、坂本には伝えていたはず。店を特定し、防犯カメラを見せてもらうか、その日のレジ担当に聞くなどして、購入者が山崎先生だと気づいていたはず。ただ、動機がわからなかった。そこに百合がやってきて話してくれたことで、わかったから、関係者を集めるに至ったのだろう。
机の上にナイフがることは先に描写しておいても良かったかもしれない。通販サイトで購入したことを語っているけど、ビール瓶の飴もそうなのだろう。
だったら、校長が事務所に来たとき、ビール瓶の飴の話をしたところで、面白グッズの収集が趣味で、通販サイトを要利用していることがわかるよう、座ると音がなるクッションとかチューインガムを取ろうとした指が挟まれるとかの他の商品を登場させたり、購入した空き箱の段ボールが見えるとこに置いてあったり、そんな描写をしておいても良かったのではと考える。
四階のトイレに呼び出しておいて、凶器を用意していたのは、効率よく三人を殺害するためだった。突き落とせば凶器は必要ない。頭を殴ることで抵抗できなくして落下しやすくする。
凶器は、堅いものなら何でも良かった気がする。致命傷は必要ないのだから。ホームセンターで購入する必要があったのかしらん。
凶器を廊下に落としたので、警察に押収されているはず。
指紋がついていると思うので、学校関係者から事情を聞く際に指紋採取の協力を仰げば、すぐに犯人が見つかったのではと考える。
そうはなっていないので、指紋がつかないよう手袋をしていたのかもしれない。手袋をしていても、繊維などの付着物が残っている場合もある。大量生産されているものを使用していると、調べるのに時間はかかるだろう。
「教師の職に就いてからの日々は、まさに地獄のようだった。住民から度々来る生徒への苦情の対応、素行の悪い生徒の指導、そして給料の発生しない残業。サッカー部の顧問ということもあり、土日は部活に駆り出された。一応給料は発生するが、雀の涙ほどの金額しか貰えない。しかし責任ある立場であることから、休むことも許されないのだ」
この描写は、日本の多くの高校教師が直面している現実を、かなり反映しているところにリアルを感じる。
教師は学校と地域社会の橋渡し役として、生徒に関する苦情や懸念に対応することが多く、問題行動を示す生徒への対応は、教師の重要な役割の一つ。日本の教師の長時間労働は深刻な問題として認識されており、給与に反映されない残業は珍しくない。
また、多くの教師が部活動の顧問を務め、週末も含めて多くの時間を費やし、部活動手当は少額。責任ある立場にあることから、休暇を取るのが難しい状況は多くの教師が経験しているだろう。
ただし、勤務環境や生徒の状況は、学校や地域によって大きく異なるだろうし、教師個人の経験や感じ方は様々で、全ての教師がこのように感じているわけでもなく、教師の労働環境改善のための取り組みが進められており、状況は少しずつ変化しつつある。
それでもやはり、山崎の語る内容は、高校教師が直面しているリアルだろう。
こういう部分が、作品に現実味を感じさせてくれているところはいい。
犯人が無事逮捕され、杉山が「彼女が罪をきちんと償ったら、もう一度話してみようと思います」といったところに、救いがある気がして良かった。
日本の少年法と刑事司法制度に基づいて、十七歳で殺人幇助を犯した場合、少年法の適用対象となる。少年法では、二十歳未満の者を「少年」と定義し、特別な取り扱いを規定している。
処分の可能性
十七歳で殺人幇助を犯した場合、
一、保護処分
少年院送致
保護観察
児童自立支援施設等送致
二、刑事処分
家庭裁判所から検察官に逆送され、刑事裁判で有罪となった場合
刑期と仮釈放
刑事処分となった場合、殺人幇助罪の法定刑は二年以上十五年以下の有期懲役。ただし、少年であることを考慮して、刑が軽減される可能性がある。
殺人未遂罪の場合、懲役七年以下の判決が全体の八十パーセント以上を占めており、殺人未遂罪の量刑の相場は三年〜十五年が一般的。
殺人幇助罪は殺人未遂罪よりも軽い罪とされるため、これらの量刑よりもさらに軽減される可能性が高い。
数年懲役かもしれない。
仮釈放については、成人の場合、刑期の三分の一を経過すれば仮釈放の対象。少年の場合も、刑期の三分の一を経過すれば仮釈放の対象となり、さらに早期の仮釈放が検討される可能性もある。
具体的な刑期や仮釈放の時期は、事件の詳細や裁判所の判断によって大きく異なるが、一般的に少年犯罪者の場合、更生と社会復帰を重視する傾向があるため、成人よりも早期に社会に戻れる可能性が高いだろう。
ラストのオチも、うまくまとまっていていい感じだった。
読後。タイトルを見て、オチから考えても、気分屋というより面白グッズ収集家の困った探偵といった側面が強いのではと思う。
登場人物の名前は、おそらく謝りだと思うところもあったけれども、展開はスリリングで、坂本のユニークな性格は面白く、推理を追うのは楽しかった。それに展開はスピーディーで、次々と新たな情報が明らかになっていくので、飽きずに読み進められた。登場人物の感情や心理が丁寧に描かれていたし、ミステリー要素も強く、最後まで真相が気になる展開は楽しめた。
ブラッシュアップすれば、さらに面白みが増すと考える。
なにより、読みやすかったのが良かった。
それにしても、三人の女子生徒が殺され、犯人は教師と生徒。実にいたたまれない。
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