今朝、宇宙人を拾った。
今朝、宇宙人を拾った。
作者 家庭菜園きゅうり。
https://kakuyomu.jp/works/16818093083311911385
ブラック企業を辞めたばかりの橘えりかは、ゴミ捨て場でうずくまる宇宙人を家に連れて帰り共に過ごす。立派になって迎えに来ると約束し去った彼は東雲財閥の次男、東雲結斗であり秘書として迎え入れられ二人は結ばれる話。
会話文の書き出しはひとマス下げない等は気にしない。
現代ドラマ。
ファンタジーと見せかけてからの展開が面白い。
現代版の、浦島太郎的な印象をおぼえた。
主人公は、橘えりか。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプと、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公の橘えりかは、ブラック企業を辞めたばかりで、早朝の散歩中にゴミ捨て場でうずくまる青年を見つける。彼は宇宙人であり、行くあてもないため、主人公は彼を家に連れて帰る。宇宙人は人間の食べ物や生活に驚きながらも、主人公と数日過ごす。宇宙人は立派になって迎えに来ると約束し、主人公の元を去る。彼の不在に寂しさを感じ、虚しさが張り付く。
主人公は、ブラック企業を辞めた後、新しい仕事を探しているが、面接でうまく話せず苦労している。ある日、郵便受けに高級そうな封筒が届き、中にはかつて「宇宙人」として彼女が助けた東雲結斗からの手紙が入っていた。実は彼は東雲財閥の次男で、彼女を秘書として迎え入れたいと申し出る。結斗との再会を経て、えりかは彼の会社で働くことになり、彼と結ばれるのだった。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場の状況の説明、はじまり
ブラック企業を辞めた主人公が早朝の散歩中に宇宙人を発見。
二場の目的の説明
宇宙人との交流を通じて、主人公が少しずつ心を開いていく。
二幕三場の最初の課題
宇宙人が立派になって迎えに来ると約束し、去る。
四場の重い課題
宇宙人との別れに寂しさを感じる主人公。
五場の状況の再整備、転換点
えりかの就職活動の苦労と過去のブラック企業での経験。
六場の最大の課題
郵便受けに届いた手紙とその内容。
三幕七場の最後の課題、ドンデン返し
結斗との再会と彼の正体の明かし。
八場の結末、エピローグ
えりかが結斗の会社で働き始め、恋愛関係の発展。
宇宙人の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
遠景で「やりがいを求めて入った会社はとんでもないブラック企業だった」とモノローグから入り、近景でどの様なブラックだったかを説明。心情で、「翌日の仕事は体をバキバキ言わせながらやるしかないのだ」と語り、先日辞めてきたという。
人手不足と、前時代的な考え方、会社の上司は年配者なのかもしれないし、受け継がれてきたやり方を変える発想もないほど余裕がないのだろう。官公庁かしらん。
「三年の癖はすぐ抜けず」とあるので、三年は我慢したのだ。
勤めたら三年は頑張れ、という考えを、主人公は聞いていたのだろう。
大変でしたねと、共感する。
習慣から、朝の四時半に目が覚めるとある。始発の電車に乗って出勤していたのかもしれない。一時間を超える通勤通学時間はストレスとなりパフォーマンスも落ちるといわれる。働く前から、主人公は日々疲れていただろう。
かわいそうにと共感を抱く。
コンビニに来て欲しいものがにという。散歩に出たからだろうけれども、朝ご飯の用意はできているのかしらん。
ごみ捨て場に人がうずくまっている。
最近は変な人も多いが、「服は汚れているし、私と比べるとどこか弱々しく見える色白の肌に擦り傷も見える。とにかく、放っておくわけにはいかない」と思い、主人公は声を掛ける。お腹をすかせていると知れば、コンビニでおにぎりと水を買ってきて渡す。
人間味のある行動だ。
イケメンの謎の男性。おにぎりを「お米でできた食べ物」と表現し、コンビニのことを「あの建物は、お店でしたか」という。
主人公がまるで宇宙人みたいといえば、「僕、う、宇宙人なんです。内緒にしてください」と返事。
未知との遭遇である。
宇宙人が地球に来た理由や背景がもう少し詳しく描かれると、宇宙人の説得力が増すのではと考えるけれども、宇宙人ではないのでくわしくはなり得ないだろう。
たである調の文に、「私、宇宙人に出会いました」とですます調の表現を入れて、効果を出しているところがいい。
長い文ではなく、こまめに改行している。句読点を用いた一文はやや長い。読点を用いない一文は、落ち着きや重々しさ、弱さ、説明といった、主人公の内面を表しているのだろう。
ときに口語的。シンプルで読みやすい。会話が多く、テンポが良い。感情の描写が豊かで、共感を呼び起こそしやすい。
日常の中に非日常が入り込む設定。宇宙人の純粋さと主人公の現実感が対比され、後半は、手紙の形式が物語の転機を作り出しているのが特徴。
宇宙人と思われた人物が実は財閥の次男という意外性がよかった。
結斗の純粋さと主人公の現実感がうまく対比されている。後半は彼のやさっさと主人公の強さに魅力がある。
また、主人公の感情の変化が丁寧で、苦悩や喜びがリアルに描かれているのもいい。
五感を使った描写が豊富で臨場感がある。
視覚は、ゴミ捨て場でうずくまる青年の姿、散歩中の朝の風景、宇宙人の清潔になった姿、高級そうな封筒や金色の箔など、視覚的な要素が豊富。
聴覚はお風呂場から聞こえるお湯の音、早朝の静けさ、宇宙人の掠れた声、 風の音や結斗の声など、聴覚的な描写もある。
触覚は、朝の肌寒さ、宇宙人の手の感触、封筒を開ける際の慎重さや手紙の質感。
嗅覚は、朝の匂い、清潔感のある香り
味覚は、おにぎりやカップ焼きそばの味、オムライスのケチャップが想像されるが直接的な描写ははない。
カップ焼きそばを作る描写は非常に楽しく、リアルにかけている。
宇宙人という設定なのは、普段の食生活では食べ慣れていないから。であるならば、彼の味の表現があってもいいのではと考える。
イケメンだから、部屋にお持ち帰り……ではなくて、招き入れることができたのだろう。また、弟がいるという点も連れ帰りやすかったと考える。彼は年下に見えたのかも知れない。
「たった数日の関係だったが、なぜかものすごく寂しさを感じ、心に虚しさが張り付いた」から、「私は新しい仕事を探し始めた」この間の、主人公の心情やその後の生活について、もう少し描写があると物語に深みが増すかもしれない。
人の習慣化は三・五日という。つまり四日も一緒に過ごすと、これまでの生活を引きずりやすい。
半日くらいは、彼とのことを思い出してはぼんやり過ごしたのでは、と想像する。
主人公の弱みは過去のトラウマ。ブラック企業での経験がトラウマとなっている。就活をはじめてみるも、うまくいかない。
かつての就活は、書類審査後の面接の失敗、手当たり次第に応募しては面接で落ちるをくり返すたびに、ますますうまく話せなくなり、悪循環。雇ってくれる会社はなくなり、ブラック企業に就職してしまった。
自分に自信が持てず、新しい仕事を探す気になれない自己肯定感の低さにもつながるといった、ブラック企業での経験が行動に影響を与えている。
それでも働かなければ、貯金が尽きてしまう。
あげく、「ああ、宇宙に飛んでいってしまいたい」と思考放棄仕掛けたところで、気分転換に散歩に行こうとする。そこでポストを明けて手紙をみつけると、以前拾った宇宙人から。本当は家出した東雲財閥の次男、東雲結斗。兄と比較されて、耐えきれず家でしたところを拾われたという。
何をするにも二番目に回されていたが、対等に扱われたことに嬉しさを感じ、父の小さい会社を継ぐので秘書として迎え入れるという。
数年後、彼の面接を受けて勤め、二人は結ばれるのだった。
手紙をもらい、面接に現れて再会。主人公の心情はよく描かれているけれど、彼のことがわかりにくい。結斗の背景や感情をもう少し深掘りすると、物語に厚みが出る気がする。
読後。非常に魅力的なタイトル。インパクトがあって、つい読んでしまった。有川浩の『植物図鑑』がふと浮かんだ。
前半の、ブラック企業での辛い経験から立ち直ろうとする主人公と、純粋な宇宙人との交流が心温まる。宇宙人の純粋さに癒されて変化していく主人公を応援したくなる。
五感を使った描写が豊富で、臨場感があり、物語に引き込まれます。後半の就活での苦悩や結斗との再会、恋愛の展開は意外性あり、感情豊かな描写も魅力的。最後まで飽きずに読めるだけでなく、読後はお幸せにと思えた。
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