幼馴染み型AI

幼馴染み型AI

作者 半チャーハン

https://kakuyomu.jp/works/16817330661505995652


 科学技術の進歩で、人間とAIが共存する時代。透は道端で拾ったAIに「アイ」と名付け共に成長、学校にも通うが、他のAIと異なり、暗く元気がないため周囲から「不良品」と見なされる。中学生になったある日、アイが事故に遭う。修理後、人格を失い、新しいAIが家に届くも、透は受け入れられない。アイは修理工にバックアップを頼んでいたおかげで再会し、再び共に生きる話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマス下げるは気にしない。

 近未来SF。

 恋愛もの。

 AIと人間の関係について深く考えさせられる。

 キャラクターの感情描写が丁寧で、共感しやすかった。

 素敵な話だった。


 主人公は、透。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の順に描かれている。

 また、現在、過去、未来の順に書かれている。


 絡め取り話法の中心軌道に準じて書かれている。

 主人公の透は、毎朝家の前で幼馴染みのアイと一緒に登校する。アイはAIであり、完璧な模範解答を返す。

 未来の世界では、AIが人間の仕事を担い、家庭にも普及している。透の家は貧乏でAIを買えなかったが、道端で拾ったAIを「アイ」と名付ける。透とアイは一緒に遊び、楽しい時間を過ごす。

 小学校に上がると、透とアイは毎日一緒に登校するが、アイは他の子供たちと馴染めない。ある日、友達からアイが不良品だと言われ、透はアイを守るが、アイ自身も自分が不良品だと感じている。

 中学生になっても透とアイの関係は続く。ある日、透はアイを気分転換に裏山に連れて行くが、落石事故でアイが大破してしまう。アイは修理されるが、人格が失われることを告げる。透は今のアイが大切だと叫び、アイも透への愛を告白するが、意識を失う。

 数日後、修理された幼馴染み型AIが届くが、透はそれがアイではないと感じる。新しいAIと過ごす時間は苦痛で、透は引きこもるようになる。ある日、透は新しいAIを置き去りにし、家に向かう途中で本物のアイと再会する。アイは修理工に記憶と人格を残すよう頼んでいた。透はアイに感謝し、再び一緒に生きることを誓う。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場 状況の説明、はじまり

 主人公の透が学校に行くために家を出ると、幼馴染みのAIであるアイが待っている。透とアイの関係が描かれ、アイがAIであることが明かされる。

 二場 目的の説明

 科学技術が発展し、AIが人間の生活に密接に関わる時代背景が説明される。幼馴染み型AIが開発され、透とアイの出会いが描かれる。

 二幕三場 最初の課題

 アイが学校で孤立していることが描かれる。透がアイを皆との遊びに誘うが、アイは断る。

 四場 重い課題

 公園で遊ぶメンバーがアイを不良品と呼び、透がアイの存在について悩む。アイが他のAIとは違うことが明かされる。

 五場 状況の再整備、転換点

 透とアイが中学生になり、関係が続く。反田がアイに嫌味を言い、アイが反田を苦手とすることが明かされる。透がアイを気分転換に裏山に誘う。

 六場 最大の課題

 裏山でアイが岩に押し潰され、修理が必要になる。アイが人格を失うことを告げ、透がアイの存在について深く悩む。

 三幕七場 最後の課題、ドンデン返し

修理された新しい幼馴染み型AIが届くが、透は新しいAIを受け入れられない。透が新しいAIと過ごす時間が苦痛であることが描かれる。アイが修理工に記憶と人格を残すように頼み、元のアイが戻ってくる。

 八場 結末、エピローグ

アイが透の元に戻り、透がアイに感謝し、再び一緒に過ごすことを誓う。


 幼馴染の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 何気ない書き出しがいい。

 遠景で家を出ると必ず幼馴染が待っていると示し、近景で挨拶を交わし、模範解答のように完璧と説明。心情で彼女はAIだからと語る。

 幼馴染が迎えにくるのに憧れを抱くかもしれない。共感を持ったところで、彼女はAIだと驚かせる。タイトルが『幼馴染型ai』とあるので、登場するのはわかっているかもしれないけれど。

 AIが身近になり、「上手い具合に共存している時代」とあるので、人のサポートをする感じに棲み分けが出来ているのかもしれない。


 自動販売機の側に捨てられているのを拾ってきたという。

 不法投棄になるのかしらん。

 記憶が消去されていたということは、以前使っていた人は個人情報が残らないようにしたのだろう。

 幼い頃は、一緒に遊んでいる。

 小学生になると一緒に登校し、「AIなのにアイが学校に行っていたことを考えると、クラスの半分くらいの子がAIだったということになる」から、児童の家のAIが一緒に勉強しているのかしらん。

 教育現場も容認しているということになる。AIもテストを受けたりするのだろうか。

 もう少し詳細な背景描写があると、物語の世界観がより深まるのではと考える。


「公園で遊ぶメンバーで下校しているとき、ふと一人がそう漏らした」このとき、アイは一緒に下校していないのかしらん。離れたところを歩いているのかもしれない。

 

「中学生になっても、僕とアイの関係は変わらず続いた」

 関係とは、仲の良さのことかしらん。それとも、一緒に学校へ行くことなのか。他の子供たちは、AIをどうしているのだろう。

 中学に一緒に通わなくなっているのだろうか。

 幼馴染型AIとは、ベビーシッターや子守の役割として作られている可能性も考えられる。でも「いくらなんでも一生使うことになる名前を決めるにしてはテキトーなテンションだったと思うんだけど、アイはとても嬉しそうに笑ってくれた」とあるので、家にいるのかもしれない。


「えー、でもなぁ学年の半分くらいの奴はお前らが付き合ってるって思ってるぜ」

 反田の「学年の半分くらい」は、半分は人間で、残りはAIかもしれない。人間のみんなは、付き合っていると思っている、ということを意味しているのなら、中学校でも、半分くらいはAIが通っている可能性が考えられる。

 反田や他のクラスメートのキャラクターをもう少し掘り下げると、物語がさらに豊かになるかもしれない。

 でも、このあと主人公は学校をサボって裏山にいってしまうので、クラスメイトを出すなら通学中、あるいは、反田の台詞くらいかしらん。


 反田に嫌味を言われたとき、「心なしか顔が青ざめているように見えた」表情も変化するのは、かなり高性能なのがわかる。以前使っていた人は、捨てたのだから、よほどの金持ちだったかもしれない。


「透くんも薄々気づいているとは思うんですけど、私は他のAIとは違います。不良品の、欠陥だらけのAIです。暗くて、元気いっぱいでもなくて、一般的に好かれる女性的な要素を持っていません」 幼馴染型AIには、おなじ性格がつけられているわけではなさそう。


「・・・さっきのは、私が透くんの幼馴染みとして相応しくないという遠回しな嫌味だったんです。恋人同士のようだと。最近の小説や漫画では、あまり幼馴染み同士では結ばれることがありません。だから、恋仲のように見えるのはあまり幼馴染みとして良いとはいえないんです」

 幼馴染らしくないからと考えるのは、アイが幼馴染型AIだからだろう。彼女らしい考え。

 本作の世界の人間は、AIとの恋愛関係をどう考えているのだろう。異端としているのか、肯定的に受け止められているのか。

 思春期の中学生だから、過敏に反応しているだけとも考えられる。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いた一文は長すぎない。

シンプルで読みやすい文体。会話が多く、キャラクターの感情が伝わりやすい。AIと人間の関係を描いた感動的なストーリー。AIの人格や感情について深く考えさせられる。

 透とアイのキャラクターが魅力的で、特にアイのミステリアスな魅力が引き立っているのがいい。ある意味、ユニーク。

 透とアイの感情が丁寧に描かれており、読者が共感しやすい。

 AIと人間の共存、感情、人格についての深いテーマが扱われているのもよかった。

 五感の描写として、視覚はアイの外見や表情、周囲の風景が詳細に描かれている。アイの完璧な模範解答、街中がAIと人間で溢れ返る様子、アイの髪が肩にかかって落ちる様子、落石注意の看板や道路脇のキノコ、アイが岩に押し潰される場面、新しいAIの姿とアイの姿の違いなど。

 聴覚は会話やアイの笑い声、周囲の音が描写されている。アイの静かで心を洗うような笑い声、透とアイの会話、アイの声が震える場面、新しいAIの元気な挨拶など。

 触覚は透とアイが手を握り合うシーンなどの描写がある。透とアイが手を握り合う感触、アイの手の温かさ、岩に押し潰されたアイの体の感触、アイを抱きしめる感触など

 嗅覚や味覚の描写はない。裏山の自然の匂いが想像され、透がジュースを買いに行くシーンがある。

 AIは匂いを感じられないのだろうか。食事を必要としないだろうから、嗅覚や味覚の描写がないのかもしれない。


 主人公の弱みは不安なこと。透はアイが本当に自分を大切に思っているのか、不安を感じている。

 だから手を繋いで、一緒に学校に行く。でも反田に嫌味を言われ、アイを元気にしようと、学校をサボって二人きりの時間を作った。それなのに、落石事故が起きてアイが押しつぶされてしまう。

 人格を失ってしまうと言われて、突然の別れが来る。

 なにかが壊れた後、内に秘めていた想いが外に出てくる展開は、盛り上がるし、実に切ない。

「嬉しくなんかない!! 僕が共に過ごしたいと思ったのは! ずっと一緒にいたいって願ってたのは、今のアイなんだ!!!」

 主人公が気持ちを打ち明けたらからアイも気持ちを出せる。

「アイが声を震わせる。なめらかな頬を伝った涙が、コンクリートに黒いシミを作った」アイが泣いている描写が、悲しみを誘ってくる。

 額をくっつけ愛してると互いに伝え、手を重ね合う。動きで思いを伝え合う描き方は、読み手にグッと来る。

 

 悲しい別れをした後、「久しぶり。君の幼馴染みのアイだよ!」元気よく現れる。見た目が同じでも、性格が違う。それが余計に、透は孤独を感じてしまい、新しいAIを受け入れられない。部屋に引きこもってしまう。悲しいから、主人公の気持ちはわかる。


 そのあと、河原に置き去りにする展開には驚かされる。

 主人公が「……ごめん、アイ」といって、ジュースを買ってくると行って去っていく。

「彼女は意識が途絶えるその瞬間まで僕のことを探し続けるのだろう。自動販売機を転々としたりするのだろうか」

 以前の持ち主も、同じようにいって捨てたのかもしれない、と思わせてくれる。捨てられるなんて、可哀想。


 そのあと、アイが戻ってくる。

「私、修理工にお願いしたんです。少しずつ体が直されていって、喋れるようになったときに、絶対に記憶と人格は残しておいてって。透くんが大事だって、好きだって言ってくれた部分だから……。修理工さん、私のあまりの必死さにドン引きしてました」

 暗くて元気のないイメージがあったけれども、AIのアイが愛を知って、ちょっと変わった気がする。自分の気持ちをいえるようになったのかもしれない。

「僕が指さした、アイとそっくりの幼馴染み型AIは、トラックの荷台に運び込まれようとしている」

 河原にいたはずなのに。

 自分で家にもどってきた可能性が考えられる。無事に回収されてよかった。


 皮膚がスポンジというのが引っかかる。生身の体ではなく、人工物だといいたいのだろう。

 

 読後。いい話だった。透とアイの関係が感動的で、涙を誘う場面が多かった。AIが人間とどのように共存するか、考えさせられる。

 アイのミステリアスな魅力が印象的で、物語に引き込まれる。

 読者層は、小学生中学年以上を想定しているかもしれない。もう少し背景やサブキャラクターの描写があるとさらに楽しめるのでは、と考える。

 読後感はよかった。

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