願いをのせて〜THE SEVENTH NIGHT OF JULY〜

願いをのせて〜THE SEVENTH NIGHT OF JULY〜

作者 卯月なのか

https://kakuyomu.jp/works/16818093078559584948


 田舎の弱小校、星降高校吹奏楽部は毎年夏の吹奏楽コンクールに向けて努力を重ねる。自由曲「七夕」を選ぶが、副部長の黒崎と学生指揮者の彦坂叶人が対立。最終的に「七夕」に決定し、アルトサックスのソロを担当する織田望美は厳しい練習を経て自信を取り戻す。七夕祭りの日に望美は白鳥夢と和解し、二人の絆が深まる。コンクール本番で金賞を受賞。県大会に向け、音楽を楽しみ続けていく話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。

 現代ドラマ。

 吹奏楽部メンバーが一つの目標に向かって努力し、成長していく物語。キャラクターたちの友情や努力する姿に、応援したくなる。


 三人称、織田望美視点、神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすい。


 前半は女性神話の、後半は絡め取り話法の中心軌道に沿って書かれている。

 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 毎年夏に開催される吹奏楽コンクールに向けて、田舎の弱小校である星降高校吹奏楽部の努力と挑戦の物語が始まる。

 新入生が増えたことで、音楽室が狭くなり、部員たちは戸惑いながらも喜んでいる。コンクールに向けて自由曲を決めるためのミーティングが行われることが告げられる。

 二場の目的の説明

 ミーティングで、指揮を振る天宮先輩から自由曲の変更が提案される。天宮先輩が提案した「七夕」という曲に、部員たちは感動し、自由曲を変更することに決定する。

 二幕三場の最初の課題

 自由曲の変更に反対する副部長の黒崎と、賛成する学生指揮者の彦坂叶人との間で対立が起こる。最終的に多数決で「七夕」に決定するが、黒崎は納得できずに泣き出してしまう。

 四場の重い課題

 コンクールに向けた本格的な練習が始まり、織田望美はアルトサックスのソロに挑戦することになる。天宮先輩から厳しい指摘を受け、望美は自分の未熟さを痛感する。

 五場の状況の再整備、転換点

 望美は一人で練習を続けるが、なかなか上達しない。幼馴染の叶人と一緒に練習することで、少しずつ自信を取り戻していく。叶人はコンクールが終わったら望美に伝えたいことがあると告げる。

 六場の最大の課題

 テスト期間が終わり、部活が再開。望美は数学の赤点を回避し、晴れやかな気持ちで楽器を取り出す。天宮先輩が指揮を取り、コンクールに向けての練習が始まる。天宮先輩からの具体的なアドバイスを受け、望美は自分の演奏が認められた喜びを感じる。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 コンクールまで約一か月。練習が過酷になり、皆が必死に食らいつく。望美と白鳥夢の間に緊張が生じ、二人の関係がぎくしゃくする。七夕祭りの日、望美は夢と和解し、二人の絆が深まる。

 八場の結末、エピローグ  

 コンクール本番の日。望美と夢は緊張しながらも、楽しむ気持ちを持って舞台に立つ。彼女のソロパートは観客を魅了し、会場に響き渡る。演奏が終わり、結果発表で星降高校が金賞を受賞し、県大会出場が決まる。望美と夢は喜びの涙を流し、部員たちと共に喜びを分かち合う。

 星降高校吹奏楽部の夏はまだ終わらず、吹奏楽部員たちは今日も練習を重ね、これからも続いていく。


 主要キャラクター

 織田望美 主人公。アルトサックス担当。

 白鳥夢  望美の友人。バリトンサックス担当。

 彦坂叶人 望美の幼馴染。ユーフォニアム担当。

 天宮先輩 星降高校OB、指揮を振る大学生。

 白石   吹奏楽部の部長。

 黒崎   吹奏楽部の副部長。


 吹奏楽コンクールの謎と、主人公たちに起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 プロローグからはじまる。きちんとエピローグもついているところがいい。

 遠景で「毎年夏に開催される吹奏楽コンクール」と示し、近景で具体的に説明し、心情で「これは、とある田舎の弱小校、星降ほしふり高校吹奏楽部の、努力と挑戦の物語――」と本編へと誘っていく。期待が高まってくる。

 本作は、コンクールで優勝、さらにその先へという目標があり、登場人物の努力する過程を描いている。読者にとってわかりやすい構図なので、感情移入しやすい。


 第一話では、台詞からの書き出し。

 遠景で「増えたよね、人」、近景で、誰がつぶやいたのかを説明し、心情で「高い位置のお団子結びは、バレエを習っていた頃の癖らしい」とある。

 本作は三人称で描かれているので、一人称視点の「~らしい」はどうなのかを考える。らしいを削って、「バレエを習っていた頃の癖だ」と言い切ってしまってもいいかもしれない。

 そのあと、主人公である織田望美が「そうだね」と答えて室内を見わたしている。おそらく、望美と夢は友達であり、バレエを習っていた頃からの親友の可能性がある。

 一般的にバレエを始めるには、幼い頃からでないと体の柔軟性が身につかない。そう考えると、二人は幼馴染かもしれないし、昔バレをやっていた話を、高校に入って聞いて知っている程度かも。

 だから「らしい」とついていると推測。

 だとすると、主人公の望美から始めたほうがいいかもしれない。

 音楽室を見渡す望美の視点があってから、夢が独り言のようにつぶやいて「そうだね」と返し、二人は帰っていく。

 そもそも、二人がいる状況がわかりにくい。夢は音楽室のどこでバリトンサックスをケースにしまっているのか。そのとなりに望美はいると思うが、彼女は音楽室のなにを見て、狭くなったと感じたのか。読み手にどんな映像を浮かべてほしいのだろう。


 明日のミーティングの話をしながら、二人が中学時代から咲くスパートを弾く友人だとわかる。

 仲の良い子と帰りながら、部活の相談をしあえるのは特別な感じがしていい。吹奏楽部経験がある人もない人も、共感できると思う。


 長い文。『七夕』の曲の描写や、叶人の台詞、自由曲の演奏では、十行ほどる。改行できるところはして読みやすくしたらいいのではと考える。

「荘厳なトランペットとトロンボーンのメロディー。緩急の激しいフレーズを、クラリネットの対旋律が変幻自在に歌う。シンバルやシロフォンといった打楽器の、煌びやかなサウンドが、そこに軽快さを創り出す。

 テンポが遅くなったところで聴こえてきたのは、この曲の見せ場、アルトサックスとユーフォニアムのソリだ。明るさの中にも繊細さのあるアルトサックスと、まろやかで上品なユーフォニアムが、語りかけるように音を紡ぐ。

 優美でロマンチックなその場面に、望美だけでなく、その場にいた全員が魅了されていた。

 ソリが終わると、オーケストレーションが増え、ソリのフレーズを皆で奏でる。先程までとはまた違った重厚感が生まれる。テンポが元に戻ると、フルートとピッコロの複雑な連符が、なめらかなメロディーとは対照的な鋭さを与える。力強いホルンのメロディーを、スパイシーなオーボエの対旋律と、重厚感のあるチューバのハーモニーが支える。

 曲はクライマックスにかけて、より厚みを増してゆく。金管楽器の華やかで綺羅びやかなメロディーの裏で、木管楽器の流麗なトリルが光る。ティンパニがさらに壮大な響きを創り、最後はその余韻をほんの僅かに残し、皆同じ一音で締めくくられた」

 改行すると読みやすくなるものの、主人公たちが曲を聞いたときの感情、どんな曲なのかを知ろうとする感じや、はじめて聞くため説明的な印象、重厚感などを作者は表現したいから、文章の塊のような書き方をしてたと思う。

 読みやすくすると、それだけ主人公がすんなりと曲を受け入れている感じが出る。聞いたあと、夢と望美は好印象だった。

 それを考慮にいれると、改行してもいいのではと、時計なことを考える。

 叶人の台詞には自信があるし、黒崎を説得させるためにも言い切るのがいいと思う。

「編成上、あの曲にすれば、全員がコンクールメンバーになれる! 部員が増えて、各パートのバランスも変わった。僕は、『七夕』の方が、みんなの音にも合ってると思う!」

「三ヶ月もやってんのに、一向に進歩が無い! 僕は、最大限のことはやってる。でも全然良くならない! なんでかって? みんな練習してないからだろ! 黒崎だって、この前のパート練習のとき、一年生達とダラダラ喋ってた」

「やる気無いまま適当にするより、短い時間で、追い込んでやった方が、みんなも練習するはずだ! あの曲を聴いたときのみんなのキラキラした顔を、黒崎も見ただろ?」

 台詞の間に地の文を挟んで、叶人の様子、表情や動き、それを聞いている黒崎の反応、聞いている望美の様子などを挟むと臨場感も出てくるのではと想像する。

 コンクールの演奏は、読者は観客の一人なので、魅せつける必要があるのでは、と考える。主人公に共感し、物語に感情移入してもらうためにも、表現に心を配ってもいいのではと邪推してみた。

「天宮先輩の指揮に合わせ、望美は大きく息を吸い込んだ。緊張はどこかへ飛んでいき、奏でることに夢中になる。

 さきほどまで嫌なくらい眩しかった照明は、まるで無数の星達が光る天の川。望美の、ベガの如く綺羅びやかで繊細な音色に、宇宙の彼方まで届きそうな、叶人の暖かいユーフォニアムの響きが重なる。さながら二人は、織姫と彦星。語りかけるような高らかに歌う音色に、この場にいる全ての人が魅了されていく。

 望美の、金色のアルトサックスが、何よりもまばゆく光り輝いていた」

 シンプルで読みやすい。登場人物の性格がわかる会話が多く、個性がよく表現されている。キャラクターの心情や関係性、感情や行動が丁寧に描かれている。

 吹奏楽部の活動やコンクールに向けた練習の様子が詳細に描かれており、音楽に対する情熱が伝わってくるのが特徴。

 望美や夢、叶人などのキャラクターが生き生きと描かれているところがよくて、感情移入しやすい。

 楽器の音色や演奏の様子が具体的に描かれていて、彼女彼らがどんな曲を演奏しているのか、音楽に対する情熱や努力がリアルに描かれており、読者が感じることができる。部活動らしさも感じつつ、部員たちが困難に立ち向かいながら、部員同士の関係性や成長が丁寧に描かれていて、物語に深みを与えている。実に感動的である。

 五感の描写として、視覚はキャラクターの外見や表情、風景の描写が豊富。聴覚は楽器の音色や演奏の様子が詳細に描かれている。触覚は楽器の感触や汗など。嗅覚は香水の匂いや新緑の薫りなど。

 味覚は、ベビーカステラを食べたときの香ばしさや甘さの描写がある。


 主人公の弱みとしては、緊張とプレッシャー。望美はソロパートを担当することになるが、緊張とプレッシャーに悩んでいる。

 幼馴染の叶人と音を合わせてみるも、「私、叶人みたいに堂々と吹けない……そんな、楽しそうに吹けないし、どうしても緊張しちゃう……ねぇ、どうしたら、叶人みたいに上手くなれるの……?」と泣きそうになってしまう。

 自分の演奏に自信が持てず、比較してしまうところも、弱さとして持っている。しかし、これらの弱みが彼女の成長や努力を際立たせる要素となっている。


「うん、確かにソロって緊張するよな。コンクールだったら尚更。でもさ、僕、コンクールって、結局楽しんだヤツが一番上手いと思うんだよ。だからほら、肩の力抜いて、自信持っていいと思うよ。僕、望美の音、好きだからさ」

 望美は「叶人っ」とまっすぐ見つめてから、「私、もっと上手くなりたい!だから、その……もう一回吹こうよ、あの場面!」と練習していく。こういうところに、主人公の可愛らしさがあるのではと思った。

「コンクールが終わったら、僕……望美に、伝えたいことがある……!」

 教えてよといっても今はだめという叶人。

 物語の中間で意味深なことをいう展開がくるのは、読んでいて楽しい。


 天宮先輩は高校のOBで大学生なのに、指揮をしては演奏を聞いてから的確に各パートの指摘をしている。主人公も「天宮先輩のアドバイスは、具体的でわかりやすい」といっている。

 音楽科で指揮を勉強しているのかもしれない。

「天宮先輩は、この星降高校のOBの大学生で、毎年指揮を振ってくれている。中学生からサックスをやっている、かなりの実力者だ」

 すごい人かもしれない。


 余裕がなくて、喧嘩してしまうも、夏祭りで夢から謝り、仲直りする。ベビーカステラを食べて、そのあと短冊に『県大会にいけますように!』と二人が同じことを書く展開は実にいい。

 曲を練習して上手くなっていくことで成長を感じられるけれども、数か月に渡る吹奏楽部の物語を二万文字以内で収めるには無理があるかもしれない。

 演奏には多くの人達が関わり、主人公と主な人物に絞っても、部員間の対立や和解の場面を深堀りするのはむずかしく、表面をなぞるようなダイジェストっぽくなってしまうのは否めない。

 それでも吹奏楽部に所属している望美たちの、コンクールまでの日々を感じられる空気感は描けていると思う。 


 次に、コンクール本番。どうなるのだろうという展開に、読者も期待と不安がこみ上げて興奮していく。

 夢に「緊張してんの?」といわれ、練習後、一年生のみのりに「先輩、ヤバいです。ウチ今めっちゃ心臓バクバク言うてます」といわれる望美。

 夢から「でも、おんなじくらい今日が楽しみ。いつも通りで行きましょ」といわれたのもそうだけれども、みのりに言われたのが良かったのかもしれない。

 望美は先輩であり、「みのりの音には、少し力が入りすぎている気がする。そんなみのりが可愛くて、望美は固まっていた表情をほころばせた」と、可愛くみえる余裕が生まれている。

 一年前の自分のことを思い出したのかもしれない。

「大丈夫だよみのりちゃん。肩の力抜いて、いつも通りでいこ!」

 困っているとき、助けを求めるのではなく、誰かを助けることで救われることがある。望美にとって、まさに救いになっただろう。

 ここでもう緊張が解けたと思う。

 そのあと叶人に「楽しもーな!」と突き出す拳に、「もちろんっ!」と笑顔で拳を返せるのだ。

 積み上げてからの本番に挑んでいく様子が、緊張を高めながらも楽しんでいく感じがよく現れていて、読んでいてワクワクする。

 

 結果は予想どおり、県大会へ出場できた。

 大事なのはその過程。コンクール本番や結果発表のシーンは緊張感があり、部活の雰囲気や練習の様子がリアルに描かれていた。読み手として引き込まれ、主人公たちが努力した姿を堪能できた。


 読後。タイトルは自由曲に選んだ『七夕』を差しているのだろう。この曲にして良かったと思える。演奏もそうだけれども、七夕にお願いするように主人公たち星降高校吹奏楽部が演奏し、願いが聞き届けられて県大会出場を勝ち取る。非常に素敵で、読後感は感動的でよかった。

 

 気になるのは、叶人の「コンクールが終わったら、僕……望美に、伝えたいことがある……!」である。

 予想はつくのだけれども、なんだったのかしらん。

 それに対して、望美はどう答えたのだろう。

 そこは、読者のご想像にまかされているに違いない。


 自由曲の『七夕』は、正式タイトルは英語表記の『The Seventh Night of July』

 酒井格氏が一九八八年、高校三年生のときに作曲した初の吹奏楽作品。デビュー作にして最高のヒット作である。

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