永遠を生きる君へ
永遠を生きる君へ
作者 凛月
https://kakuyomu.jp/works/16818093084230542577
高校生の少年と青年がカフェで出会い、友情を育む物語。青年は自分を超能力者と称し、少年に超能力の存在を信じさせようとする。二人の会話を通じて、少年は自分の趣味や感情を受け入れ、青年の持つ「永遠を生きる」という哲学に触れる。最後に、少年が実は少女であることが明かされ、二人の関係が新たな段階に進む話。
文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。
現代ドラマ。
やり取りが面白く、青年の明るい性格に魅力がある。
ラストに驚かされる。
三人称、高校生の少年(少女)視点、神視点で書かれた文体。現在、過去、未来の順に書かれている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
主人公、高校生の少年(実は少女)が通うカフェで始まる。ある日、青年が「僕さ、超能力者なんだよねぇ」と言い出す。少年はそれを信じないが、青年は超能力を見せようとする。二人のやり取りは、カフェの静かな空間で繰り広げられる。
七月初めに遡る。梅雨の時期に少年は行きつけのカフェに久しぶりに訪れると、新しく店員になった青年と出会う。青年は新作のケーキを作り、少年に試食させる。二人は次第に親しくなり、青年の陽気な性格に少年も少しずつ心を開いていく。
夏休みが始まり、少年はカフェに通う頻度が増える。青年は少年に「友達いないの?」と聞くが、少年は「人と一緒にいるのが好きじゃない」と答える。青年はそれを理解し、少年の趣味を尊重する。二人の関係は少しずつ深まり、互いに心を開いていく。
ある日、青年がカフェに来ないことに気づいた少年は、マスターから「彼は一時来れない」と聞かされる。少年は無意識に彼を探していたことに気づく。
再び青年がカフェに現れたとき、少年は彼に「貴方の一番は何なんですか」と尋ねる。青年は「永遠を生きること」と答え、自分が超能力者であることを再び語った。
青年は自分が作り出したキャラクターたちが永遠に生き続けることを語る。彼は自分の作品の中でキャラクターたちが生き続けることが、自分にとっての「永遠を生きること」だと説明する。少年はその話に感銘を受け、青年の言葉に耳を傾ける。最後に、少年は自分が実は少女であることを告白し、青年を驚かせる。青年はその告白に動揺しながらも、二人の関係はさらに深まる。これが、永遠を生きる二人の物語の始まりだった。
三幕八場の構成になっている。
一幕一場 状況の説明、はじまり
高校生の少年と青年がカフェで出会う。青年が自分を超能力者だと名乗り、少年に超能力を見せたいと提案する。
二場 ぼう目的の説明
青年が少年に超能力の存在を信じさせようとする。少年は超能力を信じないが、青年の話に興味を持ち始める。
二幕三場 最初の課題
少年がカフェで青年と再会し、青年の作ったケーキを食べる。青年が自分の本業ではないことを告白し、少年に自分の夢を語る。
四場重い課題
青年が少年に自分の好きなものを尋ねる。少年が二次元の世界が好きだと告白し、青年に理解される。
五場 状況の再整備、転換点
青年が一時的にカフェに来られなくなる。少年が青年の不在を気にし始める。
六場 最大の課題
青年がカフェに戻り、少年に自分の一番大切なものを尋ねられる。青年が「永遠を生きること」と答え、自分の作品に命を吹き込むことを語る。
三幕七場 最後の課題、ドンデン返し
少年が自分を「少年」と呼ばれることに違和感を感じ、実は自分が女性であることを告白する。青年が驚き、少年(少女)との関係が新たな段階に進む。
八場 結末、エピローグ
青年と少女がカフェでの時間を楽しみながら、互いの夢や目標について語り合う。これが二人の新たな物語の始まりであることが示唆される。
超能力者の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのような結末に至るのか気になる。
台詞、会話文からの書き出しは読みやすい。
しかも遠景「僕さ、超能力者なんだよねぇ」インパクトのある告白が目を引く。近景で状況の説明をし、心情では、主人公である高校生が呆けている。
対して、発表した側の青年は「意気揚々」と自信に満ちていて、それでいて「幼さを少し顔に残していた」とみえている。
いい年した大人がなにをいっているのやら、と呆れた心の内「──何を言い出すかと思えば、この人は」と書かれて、それぞれの性格の違いが明らかになっているところが良い。
ある意味、人間味を感じる。このあたりに少し共感を抱けるかもしれない。
主人公にとっては予期せぬ状況に陥るところから始まっている。
場所は喫茶店。相手は店員なので、いやなら店を出ればいいのだけれど、注文した飲み物を飲み終えていないのでそうもいかない。
嫌がっている様子でもない。
「あ、信じて無いでしょ!」
「そんな非科学的なもの、信じようがないでしょう」
「え〜そうかなぁ」
信じようがない、というところは共感する。
喫茶店と思しき場所で、現実的な考えをする高校生と、どこか子供っぽい青年とのやり取りが、これから繰り広げられていくことを伺わせる、導入部分。これは現在。
本編は過去回想、夏休み前の七月はじめから。
主人公の高校生は、久しぶりに行きつけのカフェに出向き、新しい店員となった青年と出会い、彼の作ったケーキを食べ「美味しい」といい、のちに夏休みになると足を運ぶようになっていく。きっとケーキが気に入ったに違いない。
高校生で、すでに行きつけの喫茶店があるとは。
子供の頃は、親と一緒に来ていたのかもしれない。
行きつけを持っている喫茶店がある高校生は、あまりいない。「田舎とは言い難いこの街で少年が利用するにはまだ大人びた雰囲気の店」チェーン店の可能性も捨てきれないが、個人営業の昔からあるカフェ店かもしれない。
そんなところ行きつけになんて、羨ましく思うかもしれない。そういうところに興味と共感を持っていくだろう。
青年は自分が作ったと言っては、明るい喜ぶ。
本業でもないのに、そんなにうれしいものなのかと口に出すと、
「あ、子供っぽいとか思ったでしょ? 全く〜! これだから最近の高校生は!」
少年はそう思っていない。少し羨ましく思い、アレコレ考える。それに対して青年は「……まだまだ頭が硬いねぇ、少年」とつぶやき、マスターが黙って聞いている。
ここの書き方は、カメラワークのズームアウト、引いていく感じ。
「ねぇ、少年って友達いないの?」
いまの子なら「うざっ」とか「キモっ」とかいって、相手しないのではと思ってしまう。
案の定、「ただし薄まって消えた瞬間、一気に踏み込んでくるが。大分慣れて来たそれに少年が動じることは既に無くなっていた。デリカシーのカケラもないものだとは常々思うが、それが青年に響く言葉ではないということも少年は知っていた」相手にしないことにしている。
七月の初めに青年が店員として入ってきてから、夏休みが始まって来店してくるまでの間も、少年は見せに来ていたのかしらん。
最初に会ったときすでに、相手にしないことを決めたのかもしれない。
長い文ではない。数行で改行。句読点を用いた一文は長くはない。でも、読点を使わない長い一文がたまにある。
「厨房にいたであろうその姿にカフェの制服にエプロンも板についてきただろう頃」
「心底嬉しいと告げられたお互いの眼にマスターはもう一度笑みを深めて手元へ視線を移す。そうすれば少年の視線も少年の手元に既に置かれているアイスミルクティーに移るわけで」
「瞳を捉えたまま言葉を告げると同時に目の前に現れるのは見慣れた薄茶色のものが入ったグラス」
「もう一度笑ってそのグラスに口をつければほんのりと甘いミルクとほろ苦い紅茶の味が入り混じる」
「青年はそれに気がついているのだろうが一切気に留めていないため特に問題もないといえるのだが」
説明的で落ち着き、重々しさなどを表していると考える。
落ち着いた語り口で、内面描写が豊富。会話を中心に進行し、キャラクターの心理描写が丁寧に描かれている。
少年と青年のキャラクターがしっかりと描かれており、読者が感情移入しやすいところがいい。とくに内面の葛藤や成長が丁寧に描かれている。
少年の行きつけである、カフェの静かな雰囲気がよく伝わる状況描写もいい。。
五感の描写として、視覚はカフェの内装や登場人物の表情が詳細に描かれている。
聴覚はカフェの音楽や会話の音など。
触覚は冷たい紅茶やアイスミルクティーの感触。
味覚はミルクティーやケーキの味。
嗅覚はカフェや紅茶の香りが描写されている。
主人公の弱みとしては、自己否定。自分の趣味や感情を否定しがちなところ。また、他人と深く関わることを避ける傾向がある。
だから、ケーキを褒められて青年に対し、「そこまで喜ぶ事ですか」といってしまうし、思ってしまう。
二次元が好きだと話して馬鹿にされなかったとき、「君はそれがバカにされる者だと思ってるの?」といわれ、自分が無意識に自分の好きを否定したことに気付く。
他人に否定されることを恐れるあまり、好きを隠し、好きであることを否定してきたという。
思い込みは我執を生み、偏見になる。
世界で一人しかいないに自分に嘘をついて生きるのは、自分の人生を生きていないこととおなじ。少年の人生は、少年のものではなく、他人の理想をなんとなく生きていたことになる。他人の理想なんてあやふやなものは、それこそ妄想や虚言と同じなので、自分の人生が希薄に感じてしまう。結果、自信が持てずなくしてしまう。
少年は小さな殻を破る瞬間を経て、来店。青年がいない。マスターからは「私だけではご不満ですかな?」といわれ、彼を探し求めている自分に気づきつつ、感情が表に出るタイプではなかったはずなのにと考える。
「そのマスターの声を頼りに少年は席を探す」
この一文で、マスターは少年の行動を察したと推測。
「いや人がいないのはいつものことなのだが」とあり、店内に来客がいないのがわかる。そんな状況で、席を探す必要はない。行きつけの店なので、いつもの席に座ればいいのだから。
少年は、青年に本気になれるものをきく。
彼は、「永遠を生きること」「僕さ、超能力者なんだよねぇ」とかたり、冒頭シーンへとつながる。
超能力とは、「世界の、この世の理に反する力」と少年が答える。
青年は模範解答としながら、「人知を超えた力じゃない」「誰かを笑わせること、感動させること、泣かせることだって超能力だ」といって、自身の書いた作品の原稿をみせる。
「主人公だけじゃない。自分の作品だけでもないよ。みんな、この中で生きてるんだ」「だから僕は読むたびに、見るたびに、全く違う世界を生きられる。そして、永遠の旅を、ずっと続けてるんだ」
作品の中で旅をし続ける。
創作者の醍醐味であろう。
意表を突かれたのは、
「ずっと自分のこと『少年』って呼んでますけど私、男の子名乗ってたことないんで」
三人称で描かれているのに、高校生ぐらいの少年の描写がない。
あっても「自らの耳を通りに受けた甘ったるい音に添えられた青灰色の瞳」これくらいかしらん。
高校生に少年というのもどうだったのかしらん。
おそらく、小柄だった少年と読んだのだろう。
また、青年の方はいくつなのだろう。年齢がわからないが、大学生になったばかりと仮定すると、少年とは二つか三つ? くらいしか年の差がない。青少年でもよかったのではと邪推したくなる。
見た目だけでなく、声とか肩幅とか、喉仏とか、好みとか、相手の性別を想像することを青年はしなかったのかしらん。
アイスミルクティーを飲んだり、ケーキを美味しいと褒めたり、女の子みたいだなと思った。
青年は小説を書いているわけで、人間観察を趣味としなければいけないのでは、と突っ込みたくなる。
そこは、面白かった。
主人公が、自分は女の子だといえるようになったのも、いままでは自分の好きを否定していたことが関係していると考える。
女の子であることを好きだけれども、それも否定する。青年がまちがえたように、男子っぽく見られることもあり、本人としては嫌だなと思っていてもいえなかった。
でも青年と話すようになって、自分の好きを肯定できるようになった。だから積極的に自分を出せるようになり、ラストで打ち明けることで主人公の成長、変化をみせたのだ。
会話中心のため物語の進行が遅く感じる。店で話をしているだけなので、とくに動きがない。それでも、飲んでいるときの仕草や表情、視線などからも、内面の変化が感じられてよかった。
カフェ以外の背景描写が少ないため、物語の世界観が限定的に感じる。季節は夏なので、来店したときは汗をかいているだろうし、店内の涼しさにホッとするなど、表情の変化も描ける気がする。
読後。ほほえましい読後感だった。
「だから僕は読むたびに、見るたびに、全く違う世界を生きられる。そして、永遠の旅を、ずっと続けてるんだ」
二次元の好きな主人公も、青年のように創作活動をしていくのかもしれない。また、十代の若者である読者層であるカクヨムユーザーにむけても語りかけている、そんな気がした。
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