魔女とドラゴン

魔女とドラゴン

作者 天井 萌花

https://kakuyomu.jp/works/16818093084504560569


 心優しき魔女が温かい小さな街で人々と共に暮らし、街を守るために山に住むドラゴンとの友情を育み祭りに誘うが、街の騎士たちがドラゴンを襲い重傷を負わせる。魔女は復讐を誓うも、ドラゴンは魔女の杖を壊し復讐を止め、息を引き取る話。


 ファンタジー。

 魔女とドラゴンの友情や街の温かさに心が温まる。

 ファンタジー要素が自然に描かれ、引き込まれる。

 魔女の孤独感や異種族間の壁といったテーマも共感を呼び、感動的な作品。


 主人公は心優しき魔女。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。涙を誘う型、苦しい状況→さらに苦しい状況→願望→少し明るくなる→駄目になるの流れに準じている。


 魔女と街の人々は絡め取り話法、ドラゴンは女性神話、魔女は男性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 夏の風が吹く小さな街で、主人公の魔女は街の人々から「心優しき魔女として親しまれている。彼は魔法を使って街の人々を助ける日々を送っている。

 ある日、風に飛ばされたスカーフを魔法で取り戻し、その持ち主である少女との会話から、山にある『とある問題』を解決するために彼は毎日登っている。

 山の頂上近くで、彼は青い鱗を持つドラゴンと会う。このドラゴンが問題の正体であり、彼の友人でもある。弱っているドラゴンは人間と仲良くすることを拒んでいるが、主人公は彼を説得しようとする。ドラゴンとの会話から、主人公は自分の話をする。長生きの魔女は生まれたときに親から杖を贈られ体の一部みたいなもので、魔法が使えるようになった翌日から一人で生きてきたこと、それがさびしかったこと、街を作ってみんなで暮らす人間の生活に憧れていたこと、現在の街での生活に満足していること、自分がどれだけ人間との交流を大切にしているかを語る。

 魔女は、山奥でドラゴンと話す日々を過ごしている。彼は少しずつ魔女に興味を持ち始め、色々と聞いてくるようになる。彼のことを知りたいが、彼は自分のことを話すのが苦手だった。

 ある日、彼がドラゴンの仲間と意見が合わず、人間の街を壊そうとする仲間を止めた結果、仲間割れになり、ここに来たことを話す。魔女は彼の優しさに触れ、彼ともっと仲良くなりたいと思う。

 街の祭りの準備が進む中、魔女はドラゴンのために花冠を作るために青い花を集める。しかし、街の騎士たちがドラゴンを襲い、重傷を負ってしまう。魔女は助けようとするが、ドラゴンはもう助からないという。怒りと悲しみでいっぱいになった魔女は、騎士たちに復讐しようとするが、ドラゴンは魔女の杖を折って止める。彼の最後の行動に戸惑いながらも、魔女は彼の優しさを感じ入る。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 主人公の魔女が街を出て、日常の風景や人々との交流。

 二場の目的の説明

 魔女が山に登り、ドラゴンと会話。

 二幕三場の最初の課題

 ドラゴンとの対話を通じて、魔女の過去や孤独感が明かされる。

 四場の重い課題

 魔女とドラゴンの友情が深まり、今後の展開を予感させる。

 五場の状況の再整備、転換点

 魔女とドラゴンの日常と友情の始まり。

 六場の最大の課題

 仲間が人間の街を壊しかけ、止めると仲間割れになり一人になったと語るドラゴンの過去と心の変化。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 騎士たちによるドラゴン襲撃と魔女の怒り。

 八場の結末、エピローグ 

 ドラゴンの死と魔女の悲しみ。


 生き方の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 客観的状況からの冒頭の書き出しがいい。

 遠景で古びた木製のドアが開き、近景で夏の匂いお入れ違いに外へ出る主人公。心情でもうすっかり夏と思いながら、風吹く街を見下ろす。

 主人公の動きを描きながら、聴覚や嗅覚、触覚に視覚、感覚描写を用いてはじまっている。臨場感を強く感じられ、読み手を物語の世界へと誘ってくれている。

 しかも、見えているのは夏の景色。

 暖かくも心地よく、穏やかな印象を与えながら街の様子を描き、杖を振っては魔法を使い、

「あ、魔女さん! ごめんなさいー!」

 少女かけてきて、主人公を呼ぶ。

 主人公は魔女だとわかる。

「魔女さん、今日もお山に行くの?」 

「ああ。それが仕事だから」

 魔法でみんなができないことを手伝っている主人公。

 町の人や騎士からの激励を受け、みんなから頼られ、愛されているのがわかる。心優しき魔女と呼ばれ、人間と比べればかなり長く「生きられるし、生まれた時に授かった杖さえあれば、魔法が使える」存在、それが魔女。

 そんな主人公が、騎士の手に負えなかった『とある問題』を肩代わりしている。

「――まあ、それは彼らの認識の話で。本当はちょっと、違うのだけれど」

 というところで、導入が終わる。

 ここまで自然と流れるように語られながら、主人公がどんな人か、どんな世界観か、どんな目的があるのか、どんな味方、敵、障害があるのか、今後の展開がどうなるのかがわかるように書かれている。

 面白そうだと読み手に思わせているため、冒頭の早いうちにこの五つが分かる作品は面白い。期待値が高い。


 長い文ではなく、こまめに改行。句読点を用いた一文は長すぎない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情をゆさぶるところがある。ところどおろ口語的。柔らかく、温かみのある文体で、親しみやすい。シンプルで読みやすい。会話が多く、それぞれのキャラクターの感情が伝わりやすい会話文。

  魔法やファンタジー要素が自然に描かれており、魔法やドラゴンが登場。友情と悲しみがテーマなのが特徴。

 魔女やドラゴン、街の人々のキャラクターが生き生きと描写され、魔女とドラゴンの関係が丁寧に描かれていて感情移入しやすいところがいい。

 五感を使った状況描写が豊かで、風景や季節感が伝わってくるし、魔女の喜び、悲しみ、怒りがリアルに描かれている。

 描かれている。

 孤独や友情、異種族間の理解、友情と犠牲がテーマとして描かれていて、感動的なストーリー。

 

 街の人々は、山にドラゴンがいることを恐れていたのだ。なにかするわけではないし、人間を嫌っているものの、むやみに襲った仲間を止めたことで仲間はずれとなり独りで生き、弱っている。

 知りもしない人間側が勝手に恐れ、騎士が襲ってしまった、

 現実でも似たようなことが起きているのではないだろうか。人とかかわらないようにしているのに、穏やかに過ごしているだけなのに、見た目の変や気持ち悪さ、よく知りもしないで勝手に決めつけては恐れ、相手を傷つける。今も昔も、大なり小なり、どこかで見聞きするようなことである。

 時代性があり、読者に興味を持つ内容だと考える。


 五感の描写として、視覚は街の風景やドラゴンの姿、魔法の光などが鮮明に描かれ、青い花の祭りやドラゴンの傷など、視覚的な描  聴覚は風の音や街の賑わい、ドラゴンの声、魔女とドラゴンの会話や、魔女の叫び声などが描写されている。

 触覚は風の強さやスカーフの感触、ドラゴンの鱗の硬さ、魔女がドラゴンの硬い青い鱗を撫でる描写などが感じられる。

 嗅覚は夏の匂いや街の香り、花の香りなどが描かれている。

 味覚はとくにないが、街の温かさが伝わる。

 嗅覚や味覚の描写をもう少し増やすと没入感が高まる気がする


 主人公の弱みは、孤独感。長寿であるがゆえに、周囲の人々が次々と亡くなっていく孤独感がある。そもそも主人公は魔女なので、異種族間の壁も弱みである。人間と異なる存在であることからくる疎外感を抱えている。

 ほかには、感情のコントロールがあると考えられる。

 魔女は感情的になりやすく、怒りや悲しみで行動を誤ることがある。それも、ドラゴンに対する依存が強く、彼の存在が魔女の心の支えとなっていたからだろう。

 人間は、魔女に比べて早く死ぬ。

 ドラゴンはおそらく、魔女のように長生きだろう。

 ひょっとすると、魔女よりも長生きかもしれない。

 長寿なものから短命の生物をみると感情的にみえるように、ドラゴンの前だから魔女は感情的に描かれているのかもしれない。

 ドラゴンは昔のことをなかなか語らなかったし、長い間独りだっただろう。魔女がやってきて対話するようになったのは半年前から。

 ドラゴンにとっての時間では数日くらいかもしれない。

 そう考えると、ポツポツと語り、祭りに花を用意するという話をするのは、ドラゴンとしてはおしゃべりの方だったと思う。

 物語としては、ドラゴンとの対話をもう少し深掘りし、彼の背景や感情を掘り下げてもよいのではと邪推する。


 前半に比べて後半、もう少し背景や環境の情景描写を増やすと、物語の世界観がより豊かになるのではと考える。山のてっぺんのドラゴンは草むらにいるのだが、二人はどういうふうに対峙して話しているのかしらん。祭りモードの街の様子とはどのような感じなのだろう。騎士や街の人々の描写を増やすことで、物語に深みが出る。

 

 復讐に行こうとする主人公の行動は、主人公の目標や性格、ッ変えている問題や葛藤を描かれてきたので読者もわかる。

 ドラゴンが最後の力で杖を壊す展開は予想外で、主人公と同じく興奮と驚きを感じさせる。何故と問いかけても、相手はもはや答えてくれないのだ。

 

 突き放したような終わりから、なぜなのだろうと考えさせられる。

 魔女とドラゴンは対になっている。

 人間を襲う仲間を止めたことで、仲間はずれになり、一人で生きてきたドラゴン。

 魔法が使えるようになって一人前となった魔女は、一人で生きてきて寂しいといい、道に迷って出会った小さな街の人達の優しさに出会って寂しくなくなった。

 街の騎士にドラゴンが襲われ、人間に復讐すれば魔女はまた一人になり、寂しくなってしまう。先の短いドラゴンは、魔女を自分と同じ思いにあわせたくないと思ったのだろう。

 復讐を止めるために、魔女の大事に杖を壊すことでやめさせ、人とともに生きる道を示し、寂しくないようにしたのだろう。

 ドラゴンは魔女を友達だと思っていたにちがいない。

 杖を壊されて魔法が使えないのなら、この先魔法は使えなくなってしまうのか。杖は直すことができないのかしらん。

 魔法の使えない主人公は、アイデンティティーを失って人の中で生きていけるのか。魔法の使えない魔女を、街の人は受け入れてくれるだろうか。

 いろいろ思いを巡らせるけれども、ドラゴンが魔女に復讐をして欲しくなかったのは間違いない。それが彼の、友としての優しさだったのだろう。

 

 読後。タイトルを見ながら、魔女とドラゴンの友情を感じ、しんみりした気持ちも抱く。それでも、魔女と友となれたドラゴンは寂しくなかっただろう。感動的で心温まる物語だった。




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