親愛なるサンタクロースへ

親愛なるサンタクロースへ

作者 卯月まるめろ

https://kakuyomu.jp/works/16818093083915071719


 中学二年生の美心は、クリスマスと誕生日が同じで、サンタクロースが来なくなったことに寂しさを感じている。クリスマスイブにサンタと出会い、プレゼント配りを手伝うことになる。サンタの使命感や喜びを知り、成長していく美心。サンタが実は亡くなった兄の弟であることが明かされ、兄サンタからのメッセージを受け取り、自分を信じることがサンタを信じることにつながると理解し、周りに流されず自分を変えていく話。


 現代ファンタジー。

 サンタクロースとトナカイのユーモラスな描写が温かみを感じ、サンタクロースの仕事の大変さと喜びもある感動的な作品。

 素敵な誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントだと思った。


 三人称、中学二年生の美心視点、神視点で書かれた文体。シンデレラプロットの、マイナスからのスタート→失敗の連続→出会いと学び→小さな成功→大きな成功の流れに準じている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 中学二年生の美心は、クリスマスと誕生日が同じ。小学六年生のクリスマスを最後に、サンタクロースが来なくなって寂しさを感じている。友人の麗奈との会話で「サンタは親だ」と言われ、心が揺れる。家に帰ると母親にクリスマスツリーを飾らなかったことを叱られ、さらに落ち込む。部屋でサンタからもらったおもちゃを見つけ、罪悪感に苛まれる。

 クリスマスを翌日に迎える夜、トナカイとともにサンタクロースが現れ、美心にプレゼント配りを手伝ってほしいと頼む。

 サンタとトナカイは、美心の住む町ではなく、隣町の子供のプレゼント配りを担当することになったのだが、年齢によるカスミ目で地図がまともに見られない挙句、プレゼントを渡す子供を間違えて、世界サンタクロース協会に苦情が入っているという。そこでサンタを信じる大人と子供の中間の人間を適当に選んで手伝ってもらい、今年こそ間違えないように配れと言われたという。

「美心ちゃんは、毎年わしに手紙を書いてくれていた。お菓子や飲み物も用意してくれたね。そんな美心ちゃんならば、手伝ってくれるやもしれぬと来た訳じゃ。やってくれるかのう?」

 美心は戸惑いながらも手伝うことを決意し、サンタと共にプレゼントを届ける旅に出る。カスミ目のサンタの代わりに美心が地図を見て、ベランダから家の中に入る。プレゼントを間違えそうになるサンタに、美心は声をかけて注意する。

 二軒目では、小さな皿にクッキーが数枚、ポットに入った飲み物、一枚の手紙が置いてあった。美心もやっていたことを思い出し、懐かしく感じる。

 仕事の大変さを知った美心は、どうしてしてサンタをしているのか尋ねると、うれしいからと応える。「ああ。毎年、毎年、わしらを待ってくれている子がいる。小さいときから届け続けて、文字を書けるようになって、わしらに手紙を書いてくれる子がいる。それが、とてもうれしいんじゃ。その子に会うことがなくても。ずっと見守っているんじゃ」サンタが届けることに喜びを感じていることを知る。

 サンタと共に訪れた家で、子供がサンタの存在を信じていないことにショックを受け、「サンタさん。次に行こう。こんな子に届けたところで、意味がないよ」美心というも、サンタもトナカイも「いいや。今年は、届ける」という。

 美心はサンタに、なぜ信じてもらえなくてもプレゼントを届けるのか尋ねる。サンタは、子供たちが成長し、サンタを信じなくなることが大人になる一歩であり、それでも子供たちの喜ぶ顔を見ることが自分たちの喜びだと答える。

 さらに、美心にプレゼントを届けていたサンタは実は亡くなっており、現在のサンタはその弟であることが明かされ、美心を弟サンタを手伝う「大人と子どもの中間の人間」に選んでくれていた。また、亡くなった兄サンタには、一つだけ心配があり、『サンタを大人になっても信じてくれる子へ。サンタにも限りがある。これから生まれてくる子たちに、サンタクロースを譲ってあげてほしい。最初で最後のお願いじゃ』と伝えられ、サンタクロースを忘れられない美心に感謝と別れを告げていった。

 翌朝、枕元にはなくなった兄サンタからの、美心が弟サンタを手伝ってくれることを信じて書いたメッセージカードが残されていた。

「美心ちゃんへ おおきくなったね。 まいとし ぷれぜんとをとどけるのがわしも たのしみだったよ あたたかいのみものやおかし ありがとう やさしいきもちをわすれずにげんきにそだっておくれ ずっとみまもっているよ メリークリスマス そしてハッピーバースデイ」

 美心は、自分がサンタを信じ続けることで、サンタの存在を否定しない決意しながら、自分を信じることがサンタを信じることにつながると理解し、周りに流されず自分を変えていくのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 美心のクリスマスと誕生日の背景、友人との会話、家での出来事。

 二場の目的の説明

 美心の葛藤、サンタクロースの登場。

 二幕三場の最初の課題

 プレゼント配りの手伝いをする決意。

 四場の重い課題

 美心がサンタの代わりに地図を見て、共に子供の家へ向かう。

 五場の状況の再整備、転換点

 美心がサンタと共にプレゼントを届けていく。美心もしていたテーブルにクッキー数枚と飲み物、手紙が置いてあるのを見て、懐かしさに目を細める。

 六場の最大の課題

 サンタを信じていない子供にも届けようとする姿に、サンタの仕事の大変さと、見返りなど一切求めずに子供たちにプレゼントを届けることだけに喜びを感じているのを知る。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 疑問を持つのは、大人になった証拠で、疑問を持つ子が多い年代になったらプレゼント配りをやめる。悲しいことではなく、成長の証。子供の喜ぶ顔は格別で一度知ったらやめられないと語ったサンタが実は、美心にプレゼントを届けていたサンタではないことが明かされる。

 八場の結末、エピローグ 

 生前のサンタからのメッセージカードを受け取り、これからは周りに流されることがないよう自分を変えていく決意をする。


 十二月二十五日が誕生日の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 モノローグの書き出し。

 遠景で美心にサンタが来たのは小学六年までだと語り、近景で学校帰りの様子を説明し、心情で「ううう。さぶい」とつぶやく。

 主人公は十二月二十五日の冬の学校帰り、寒さを感じているところに共感を抱く。

 心配する友人がいることに、微笑ましく感じる。

 その友人は、「校則ぎりぎりまで短くしたスカートからはすらりと長い脚が覗き、皆が同じ制服を着ているはずなのに麗奈だけなぜかあか抜けて見える」

 対して主人公は、

「ひざ下までのスカートからは太いふくらはぎが覗き、ジャンパーで着ぶくれしている上半身。髪型も長いストレートの黒髪をただ後ろで束ねただけで、前髪はぱっつん。教師から見たら中学生のお手本のような姿かもしれないが、地味すぎる」

 比較されることで、より強調される。

 

「酷いよねー。子どもじゃないとプレゼントもらえないなんて。どうせ親なんだから一緒でしょ。くれたっていいのに」

 現実では、麗奈のいうとおり、親がプレゼントを用意する。中学生になったからプレゼントはもういいでしょと、言われてもらえなくなったのだろう。

 でも美心の家は、「クリスマスの時期になると家に電話が来るのだ。決まって父が受話器を取り、あらかじめ決めておいた欲しいものをお願いする。そして、クリスマスツリーを飾り、手作りの簡単なお菓子を作り、温かい飲み物を用意し、お礼の手紙を書いて、机の上に置いておくのだ。すると、サンタは夜中に来て、お菓子と飲み物を味わってくれ、手紙の返事もくれた。朝目覚めると枕元に置いてあるプレゼント、完食のお菓子、サンタさんからの手紙。全てが美心の胸を弾ませた」とあり、サンタがきていたことを伺わせている。

 でも小学六年製を最後に来なくなり、明日は来なくなって二度目のクリスマス。

 主人公はサンタを信じている子だからこそ、実に悲しくも寂しく、可哀想な感じに共感する。

 主人公の気持ちや寂しさ、孤独を強調させるために、麗奈という友人の存在が生かされているところが、上手い書き方だと思う。

 それでいて、相手に話を合わせて、「う、うん。そうだね。サンタさんは、親だよね」といってしまい、帰宅すると、「あら、おかえり。美心、お母さんクリスマスツリー飾っといてって言ったよね? サンタさんが来てたときはちゃんと飾っていたのに。これじゃあ、サンタさん来てくれなくなったのも当然ね」と言われてしまう。

 このときの表現が、「母親の言葉が、ジクジクうずく心をえぐった」とある。

 傷口に塩を塗るどころではない。

 だから「お母さんには関係ないでしょっ」と叫んで自分の部屋にいく。サンタからもらったプレゼントが色褪せて見えて、「サンタさん……ごめんなさい……」とうずくまる。

 実に可愛そうで。共感してしまう。


 さらに、階下からは母と妹の楽しげな会話。

 ますます卑下していく。

 こうした比較を用いて主人公の気持ちを強調していく書き方が上手い。

 信じていたものに裏切られ、壊れ、感情があらわになっていく。この展開でサンタがやってくる。タイミングとしては実にいい。

 読み手としては、主人公の驚きと合わせてサンタが本当にやってきた、はしゃいでしまう。ここからは、非日常がはじまっていく。

 

 長い文で、基本はこまめに改行しつつ、数行から五行程度続くが、十行くらい連なるところもある。句読点を用いた一文は長すぎるということはない。シンプルで読みやすい。美心の内面描写が豊富。登場人物の性格がわかる会話文が多く、テンポが良い。

  ファンタジー要素と現実の葛藤が融合している。サンタクロースとトナカイのキャラクターがユーモラスで親しみやすい。舌打ちするトナカイも味がある。でもちょっと乱暴。でもプレゼントを届けるという仕事には誇りを持っているところがいい。

 サンタクロースの仕事の裏側、大変さと喜びを描き、感動的な要素が強い。

 美心の内面の葛藤や成長が丁寧で、自分を信じる力を得る過程、成長と自己受容がしっかりと描かれているところがいい。

 五感に訴える描写が豊富なのも特徴。

 視覚では、冬の風景やサンタクロースの姿、クリスマスツリーの描写が鮮明。空を駆けるトナカイのスピード「全速力で空を駆けるトナカイのスピードは、ジェットコースターと見まごうほど」、はためく地図「美心は強風でバタバタとはためく地図を手で押さえつけながら、声を出す」、家の外観「全体が薄い茶色の四角い家だよ! ベランダは南の方!」テーブルの上のクッキーと手紙「小さな皿にクッキーが数枚、ポットに入った飲み物、一枚の手紙が置いてあった」サンタの笑顔「サンタもうれしそうに目元のしわを深くし、手紙を手に取った」など、比喩や動作を添えて描いている。

 聴覚は鈴の音やサンタの声、トナカイの声、トナカイの叫び声「トナカイが叫んだ。『二軒目が近いぞ! 美心!』」、皿がぶつかる音「手がテーブルに当たる。同時に皿がぶつかるような音も」、子供と親の会話「『こら、もう寝なさい』『えー?やだ』『いい子にしないと、サンタさん来てくれないよ?』」などが効果的に使われている。

 触覚は、冷たい風やサンタの手の感触、風の感触「向かい風に息もできないでいると、トナカイが叫んだ。」、地図を押さえる手 「美心は強風でバタバタとはためく地図を手で押さえつけながら、声を出す」、クッキーの感触 「サンタから差し出されたクッキーを一口かじると、ホロホロと口の中で崩れ、甘い香りが広がった」などが描かれている。

 嗅覚と味覚は、クリスマスのお菓子や飲み物の香り「ホロホロと口の中で崩れ、甘い香りが広がった」や味「サンタは孫を見るかのような笑顔で、手紙をテーブルに置き、クッキーを口にする。『うん。美味い。美心ちゃんもどうだ?』」が描かれている。


 主人公の弱みは、自己主張の弱さ。美心は自分の意見を主張するのが苦手で、友人や家族に流されやすいところがある。

 原因は、サンタが大好きだったのに、もうやってこなくなったことにある。小学六年を最後に、サンタは来なくなるらしい。

 寂しさを打ち明けっれなかったのは、周りの子達はプレゼントを届けるのはサンタではなう親だと思っていたからだろう。

 美心は自分を信じることができず、友達に流されてサンタを否定してしまい、サンタクロースの存在を否定してしまったことや、プレゼントを大切にできなかったことに対する罪悪感を抱いてしまう。

 そんな美心はサンタの仕事の大変さを知り、感情が揺れ動いていく。サンタのことを信じていない子供にも、サンタはプレゼントを届けようとする。寒い中、目はかすみ、気づかれないにしながら働いて、感謝もされない現実を目の当たりにして、自分も大きくなっていくとサンタからのプレゼントを大切にできず、クリスマスツリーも飾らなくなり、適当になったことをサンタに謝る。

 ここは、主人公の性格や過去にどういう鼓動をしたか、直面している問題や葛藤を描いてきたので、主人公の行動はよくわかる。

 だから、「そんなことか」とサンタが返す展開は意外で、驚かさせる。

 

 サンタは、自分がプレゼントをもらえなくなった年頃のときは、サンタが嫌いだったという。

 サンタになる前の彼も自分と同じだったんだ、と思えるところはいい。

「いつかは否定されるかもしれない子どもたちに、プレゼントを届けるの?」の問いに、「否定したということは、大人に一歩近づいた」と子供の成長を喜んでいるのがわかる。

 それにサンタは、もっと幼いときにプレゼントを届けたときの喜ぶ顔をみて、楽しさをもらっている。その喜ぶ顔は格別だからやめられないという。


「美心ちゃん。本当にサンタを信じない子は、それほど悩まない。サンタを信じてくれているということだ。……兄さんが知ったら、喜ぶじゃろうなぁ」

 モヤッとする。

「本当にサンタを信じない子は、それほど悩まない」と、「美心ちゃんは、サンタを信じてくれているということだ。……兄さんが知ったら、喜ぶじゃろうなぁ」の二つが含まれていると思う。

 このあたりの、サンタとの会話はわかりやすくするといいのではと考える。


 兄サンタは死んでしまったという。「生き物は、いつかは死んでしまう。自然の摂理じゃ」サンタさんも、同じ人間ということかしらん。サンタクロースの世界観や背景をもう少し詳しく描くと、物語に深みが増すのではと考える。


 美心の内面の葛藤や成長を詳しく描くと、さらに盛り上がるのではと考える。美心がサンタの話を聞いたときのショックや悲しみを、もっと具体的に描写したり、美心がサンタの話を受け入れて、例えば「今度は自分が子供たちに夢を与える役割を引き継ぐ責任を感じた」みたいに役割を理解したり。

 美心とサンタの対話の中で、最初は混乱していたが次第に理解し、最後には感謝の気持ちを持つようになる流れや、美心がサンタの話を聞いた後、メッセージカードを大切に保管したりサンタの言葉を胸に刻んだりといった行動を描かれると、より共感しやすくなるかもしれない。


 結末が、朝という場面なのがいい。誕生日でもあるクリスマスの朝を迎え、新しく生まれ変わったようなそんな気分も主人公は感じているに違いない。そう思わせる状況描写「夜から降り続けていた雪はすっかり止んでいて、木々に降り積もるそれは、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた」は素敵。

 また、家族との挨拶もそうだし、友人との会話からも、新しい美心のいち日がはじまる期待と予感、希望が感じられるもので読後は、晴れやかである。

 主人公の名前も良かったのだろう。ラストの展開を迎えるに相応しい名前だった。

 

 サンタとプレゼント配りの手伝いを通して、美心は学んだことがある。

 一つは、サンタクロースを信じ続けることで、夢や希望を持ち続けることの大切さ。

 二つ目は、サンタクロースたちが自分に与えてくれた喜びや愛情に感謝し、その気持ちを忘れないこと。

 三つ目は、自分が成長し、他の子供たちに夢を与える役割を引き継ぐ責任。

 四つ目は、家族の愛情や支えを再確認し、成長にとって重要であること。

 五つ目は、サンタクロースからのメッセージを通じて、自分を信じることの大切さと、自分が他人に喜びを与える力を持っていることを学んだ。


 空からサンタの言葉が届いて、(あ、わしと一緒にプレゼント配りをしたことは、『シュー』だぞ)がよかった。美心が泣きそうになったときに、「サンタはお茶目に人差し指を立てて、『シュー』と言った」とあり、夜の出来事は夢ではなかったと感じ、オチとしても実にいい。

 しかも主人公も「麗奈がそう聞いてきて、美心は、『シュー。内緒』と人差し指を唇に当ててみせた」と、サンタクロースとのつながりを感じられて微笑ましい。


 読後。タイトルは、プレゼントを届けに来たサンタに宛てた手紙にかかれていた言葉であり、文字どおり、誕生日を迎えて成長した主人公がサンタクロースに感謝とお礼を届けている、そんなふうにも感じられた。

 読後感がよく、とても素敵な話だと思えた。


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