金の亡者

金の亡者

作者 猫魔怠

https://kakuyomu.jp/works/16818093083104806433


 旧体育館の器具庫に住み着く女性は、人に言えない悩みごとを解決してくれるという噂がある。安城麗那たちから金を脅し取られた鈴原桐子は女性に依頼。麗那は影に取り憑かれ、女性に助けを求め高額請求されるも血判を押す。実は取り付いていた影は女性が操っていたものだったという話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマス開けるは気にしない。

 現代ホラーファンタジー。

 この世はすべて、男も女も老いも若きも金、金、金。

 金の亡者であふれている。

 作りが上手い。


 三人称、安城麗那視点と神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすく、ミステリアスな雰囲気がうまく表現されている。

 涙を誘う型、苦しい状況→さらに苦しい状況→願望→少し明るくなる→駄目になるという順で書かれている。

 希望を見せ、持ち上げて落とす。その落差が実にいい。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 金銭のためだけに各地を転々とし、影を取り憑かせては他人を騙し、不幸にする生粋の詐欺師が、県立幡川高等学校の旧体育館に住んでいる。

 生徒でも教師でもない人物が旧体育館の器具庫には住み着いており、人には言えない悩み事を解決してくれるという噂になっていた。

 クラスメイトの安城麗那にお金を脅し取られた鈴原桐子は、お金があれば大概のことはできるので幸せな遺文になれるという考えを持っている。器具庫に住んでいる人に、安城麗那をひどい目に合わせるよう依頼する。

 安城麗那は、県立幡川高等学校の旧体育館に住むという噂の人物を訪ねる。彼女は体が重く、息苦しさを感じるようになり、黒い人影に取り憑かれていると感じていた。

 旧体育館で出会った女性は、麗那にお守りを提供し、体の重さの進行を遅らせるが、完全に祓うには二週間が必要だと言う。麗那はお守りの効果を感じるが、途中で一度訪問を怠り、体調が悪化。最終的に、日常生活に支障をきたすほどの体調不良に陥る。

 麗那は体調不良に苦しみながらも、旧体育館でお祓いを受けるために学校へ向かう。巫女服を着た女性に出迎えられ、三十万円のお祓い料を要求されるが、支払えない麗那は絶望する。

 女性は麗那に取り憑いている存在が金銭欲から生まれたものであることを明かし、過去に麗那が鈴原桐子から金を奪ったことを思い出させる。麗那は血判を押して助けを求め、女性は儀式を行い、麗那の体から取り憑いていた存在を祓う。麗那は解放され、感謝して帰るが、実は女性と鈴原桐子が共謀していたことが明らかになる。

 また女性は詐欺師であり、麗那に押させた血判は五十万円の請求書だった。また、麗那と一緒にいた二人も同じ目にあっていると鈴原桐子に嘘をついていた。女性は影とともに、次のターゲットを探しに県立幡川高等学校を後にする。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 旧体育館の噂を聞いた麗那が訪れる。

 二場の目的の説明

 女性との出会いとお守りの提供。

 二幕三場の最初の課題

 お守りを怠ったことで体調が悪化する。

 四場の重い課題

 日常生活に支障をきたすほどの体調不良に陥る。

 五場の状況の再整備、転換点

 麗那の体調不良と旧体育館へ入り、三十万請求される。他人からお金を奪われた人が持つお金に対する負の欲望が取り付いており、女性から「鈴原桐子」の名前が出る。

 六場の最大の課題

 恐喝した過去回想とお祓いの儀式が展開される。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 お祓いの成功と麗那の解放。女性と鈴原桐子の共謀が明らかになる。

 八場の結末、エピローグ 

 女性以外誰もいなくなった旧体育館で麗那に取り憑いていた人影との会話。安城麗那はこの先不幸になること、鈴原桐子も今日kつしていた一人が大人しくなっただけで他の二人は、同じ目に会っていないこと。女性を金の亡者だといい、女性は私にピッタリだと答えて次の場所へと移動していく。


 冒頭の導入は学校の噂であり、客観的状況が書かれている。

 本編は安城麗那視点の主観。

 結末は詐欺師の女性の客観的視点。

 カメラワークの外から内、内から外へと描いている。


 使われていない旧体育館の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どうか変わり、どんな結末に至るか気になる。 


 学校の噂からはじまる導入、客観的視点による書き出しがいい。

 遠景で場所の説明をし、近景でその学校に旧体育館があること、そこに近づく女子生徒の説明をしてから、心情で、県立幡川高等学校に流れる一つの噂のために少女は足を踏み入れていることが語られていく。

 やや怪談めいていて、興味がそそられる。

「旧体育館の器具庫には生徒でも教師でもない人物が住み着いており、人には言えない悩み事を解決してくれる」

 主人公も、悩み事を抱えているのだ。

 しかも一人きりで、普段であれば誰も近づかない場所。

 うら寂しさから、孤独感があり、かわいそうに思えて共感を抱く。

 

 若い女性がいて、「いらっしゃい。こんな古びたところになんのご用かな?」黒髪の女性。オーバーサイズのパーカーに紙パックのジュースを片手にもち、昔使われていたであろう古びたマットの上に腰掛けている。

 不審者に思える。

 それでも悩みを聞いているところに美徳を感じる。

「なるほどね。もしかして、麗那ちゃんの後ろに立ってる黒い人間のこと言ってる?」

 彼女には悪霊が見えるらしい。

 この女性は一体何者なのかしらんと、さらに興味をいだいていく。


 長い文、概ね数行で改行している。麗那が自分の身に起きたことを話すところだけ、若干長めの会話文がある。台詞を整理したら短くできると思う。

 他は、句読点を用いた一文は長いことはなく、短文と長文を組み合わせてテンポ良くして、感情を揺さぶっているところもある。

 シンプルで読みやすい文体。会話が多く、キャラクターの感情が伝わりやすい。

 ミステリアスな雰囲気を醸し出す描写が多いのが特徴。とくに旧体育館の描写が詳細で、不気味な印象を与えてくる。緊張感を持続させるための短い文や、対話の中での心理描写が上手い。キャラクターの内面を深く掘り下げることで、物語に深みを持たせている。

 主人公や他のキャラクターの内面を丁寧に描くことで、物語に深みを持たせている。

 緊張感を持続させるプロット展開に引き込まれるところが、実にいい。しかも読みやすい。

 描写が詳細で、情景や感情を丁寧に描き出している。とくに五感を使った描写が豊富で、読者に強い臨場感を与える。

 旧体育館の錆びついた扉、蜘蛛の巣、埃、 真っ暗な体育館、蜘蛛の巣のように張り巡らされた縄、火のついた蝋燭、巫女服の女性、黒い人影など、視覚的な描写が豊富で、読者に強い印象を与える。

 古びたマットの感触、女性に抱きしめられる感覚、体の重さ、冷たい床、ナイフの鋭い痛みなど、触覚的な描写が麗那の苦しみをリアルに伝える。

 聴覚は女性の声、麗那の叫び声、 荒い息遣い、蝋燭の火の音、女性の冷たい声、影の足音など、音の描写が緊張感を高める。

 嗅覚と味覚はとくになし。

 五感の描写をさらに増やすことで、没入感を高めることができるかもしれない。


 主人公の弱みは、体の重さと息苦しさに苦しむ。

 だからすがる思いで旧体育館まで足を運ぶ。黒い人影に取り憑かれているという恐怖を知り、助けを求める。

 毎日放課後に来ることを三日目で怠るところは、彼女の性格や人間味を感じてしまう。

 体長の不調が悪化し、お守りをつけることを怠ったことへの後悔する。そもそも麗那の弱みは、過去の行いに対する後悔と、それによって生まれた金銭欲に取り憑かれたこと。

 また、他人に対する依存心や、金銭に対する執着が彼女の弱点として描かれている。


「今更になって麗那の中に後悔の感情が溢れだす。何故、あんなことをしてしまったのか。あの時やめていれば、別の選択をしていれば、あんな奴に、鈴原桐子に関わらなければ。こんな目に、あうことはなかったのに」

 ひどい目にあっても、謝罪が出てこない。悪いことをしたとはおもっていないのかもしれない。

 そもそも麗那は、どうして鈴原桐子を脅したのかしらん。それなりに裕福そうなことがあとでわかるけれども、それだけだったのか。今ひとつわからない。

 他の友人も同じことをしていたらしく、リーダー的な存在でもないことが影によって語られている。他の子に言われて、脅したのかもしれない。しかも、見た目がいいらしい。いわゆるカースト上位にいる子なのかもしれない。


 女性の裏に鈴原桐子がいた展開は驚かされる。

 鈴原桐子も、「はい。安城さんの情けない姿を見れて、少しスッキリしました。あ、これお金です」と一人だけを見届けている。

 おそらく三人にひどい目にあっているのだから、麗那の情けない姿を見たように他の二人も、なぜ確認をしないのかしらん。

「お金をたくさん持っている、という事実はイコールで幸福につながるんです。そして、それは私にとっての当たり前であり、信念です」「外見やクラスの立ち位置、生来の性格なんかで私よりも上に立つ安城さんのような人を見下すため」というしっかりした性格をしているなら、他の二人も見届ける気がする。なぜなら、ひどい目にあわされ、幸せな気分にさせてくれるお金を脅し取っていった仲間なのだから。

 動機が不明確な部分があるため、もう少し背景や動機がはっきりするとで、物語の説得力が増してくるだろうと想像する。


 さらに、女性と影が結託していて詐欺師だった展開は、なるほどという説得力とともに、驚きを覚える。

 どんでん返しのくり返しは実にいい。

 そもそもこの女性は何者なのだろう。

 呪術師的な存在なのかしらん。


 読後。怖いものは苦手なので、はじめはどうかしらんと思っていたけれども、非常に読みやすく展開も良く、盛り上がっていて圧倒された。

 タイトルを見つつ、世の中の人はみんな金の亡者だという女性の台詞は、最近の世相を上手く取り入れていると考える。政治家の裏金にしろ、他国への資金供与、戦争や増税、物価高、世の中お金のことばかり。お金さえあれば大概のことができるのは、それだけみんな、お金にすがって生きているからだ。

 お金で幸せな気分になれるなら、荒んでいく人の心や地球の自然を救うために使ってほしいと願いたくなった。


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